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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第52話 「日々是平穏」

 次々に驚く内容を聞かされて、全員がさすがに疲れてきていた。

しかし疲れて休むワケにはいかない・・・、ここからが一番重要な話になることだけは確かだった。

メイドの衣装を身に纏ったオルフェの密偵は、サイロンに向かって跪いたまま・・・なおも報告を続けた。

「如何に国王直属である将校クラスの精鋭といえども、ドラゴンを相手にすること自体が容易ではありません。 

 ましてや生きたまま捕獲するなど・・・。

 そこで陛下は成龍ではなく・・・まだ力の弱い幼龍に目を付けられたのです。

 配下の者が捕らえたレッドドラゴン・・・、赤き龍は龍神族の末裔の証・・・!!

 このままでは・・・っ、どちらが勝利したとしてもレムと龍神族の間に確執が生まれてしまいます。」

「それ以前に、龍神族の末裔という高貴な方を見せ物にするわけにもいかないでしょう。

 そこで・・・・・・、我々と若君との間に利害が一致するのですが・・・、どうでしょうか?

 ここはひとまず我々に、若君のお力を貸してはもらえませんか?」

オルフェは交渉に入った。

そう言われて・・・、サイロンは押し黙る。

まるでオルフェの策略を暴こうとするように・・・、扇子で口元を隠したまま・・・鋭い三白眼の瞳が、じっと見据えていた。

「余に何をさせるつもりなのじゃ。

 余の血縁がレムの首都に捕らわれているのなら、余は首都へ向かい、妹を奪い返すだけじゃ。

 余がお主らに力を貸す義理は、どこにもなかろう!?」

サイロンの言葉に、オルフェは笑みを絶やさず異論を唱えた。

「それでは私が困ってしまいます。

 陛下の至上命令は絶対なので、ドラゴンとの対決という余興だけは行わなければいけません。

 もし肝心のドラゴンがいなくなれば・・・、他のドラゴン捕獲を私が命じられてしまうかもしれませんからね。

 私としても・・・、これ以上龍神族に逆らうような暴虐は・・・したくありません。」

肩を竦めながら、ようするに「そんな面倒臭いことはしたくない」と・・・暗黙に言っているようだった。

「ではどうしろというのじゃ。

 余の妹が捕らわれているというのならば、ますますもって余はこんな所でちんたらしている場合ではないのだぞっ!?

 これは反逆じゃ!!龍神族に対するテロならば、余とて容赦はせぬぞっ!!」

立ちあがって扇子をびしぃっ・・・と、オルフェに突き付けた。

それをソファーに座ったままのオルフェが微動だにせず、黙っている。

これはマズイ展開だ・・・、とリュートは動揺した。

しかし・・・・・・。


「なぁ〜〜〜〜〜んての!!

 お主もつくづく性格の悪い人間のようじゃな、お主の企み位わからぬ余だと思うでないぞ。」

扇子から現われた笑顔で、全員が拍子抜けをした。

一体、この二人の会話からどんな展開がなされているのか・・・全くわからなかったからだ。

サイロンは再びソファーに座り、大きな態度のまま話し始めた。

「ようするに、光の戦士と余の妹との対決・・・、八百長試合にしろとでも言いたいのじゃろうが!?」

それを聞いたザナハが首を傾げて質問した。

「八百長・・・って?」

「つまり・・・、前もって打ち合わせをしておいて・・・うわべだけで勝敗を決めるってことだ。」

ジャックが説明した、そしてなるほど・・・とでも言うように溜め息をついて、肩の力を抜いていた。

「でも・・・、国王は完全なる勝敗を求めているって言ってたじゃないですか。

 どちらかが死ぬまで戦うってことなら、八百長は成立しないんじゃないんですか!?」

リュートが身を乗り出して、八百長が通用しないことを指摘した。

「そこで若君のご身分を利用させていただくのですよ。」と、人差し指を口の前に当ててオルフェが言った。

「なんか妙に引っかかる言い回しじゃのう!?」

ひく・・・っと、サイロンは笑顔がひきつっていた。

「失礼しました。

 若君にもその余興に、来賓として出席してもらいたい・・・ということなんですよ。

 国王陛下でもレッドドラゴンが・・・龍神族の末裔という高貴なドラゴンだと、承知しているはずです。

 そこでレッドドラゴンの捕獲を聞きつけた若君が、陛下に直訴するのです。

 ただし・・・、生死の決闘ではなく・・・どちらかが気絶するまで、という条件付きで許容していただきたい。

 陛下と言えど龍神族を完全に敵に回したくはないはず・・・、恐らくこの条件には乗っていただけるはずです。

 そうすれば・・・、アギトも妹君も・・・命の危険だけは回避できます。」

オルフェの提案に、サイロンは納得がいかないのか反論しだした。

「それには納得できかねるのう!!

 余の可愛い妹を何だと思っておる、怪我などさせるつもりは毛頭ないぞ。」

「・・・鋼よりも硬いドラゴンのウロコを傷つけることは、今のアギトには不可能なんですけどね。」

肩を竦めてオルフェは苦笑する、師であるオルフェが一番わかっていることだ。

「そんなことよりも・・・、余がもっと面白い余興を考えてある。

 ドラゴン対決の八百長は余に任せてもらおう、お主らはせいぜいレベルアップに励んでおれ。」

何かを企んだ微笑みで、サイロンが協力に応じた。

しかし、サイロンを無条件で信用できないオルフェは・・・サイロンが何をする気なのかを問いただした。

「一体どんな名案を思いついたのか・・・、ぜひ聞かせていただきたいのですが?」

「それは内緒じゃ。

 今話してしまってはつまらんだろうが?楽しみは後にまで取っておくのが、一番面白いではないか・・・お主らの反応が。

 そんなことよりも・・・、余は一刻も早く光の戦士の強くなった姿を見たいんじゃがのう。

 出来れば当初のような緊迫感の中で、あの小童には修行をつけてもらいたいものなんじゃが?

 安全圏を確保したからといって、ちんたらと生ぬるい修行をされては・・・逆にこちらが拍子抜けじゃ。

 それこそ・・・ドラゴンとマトモにぶつかりあえる位の目ざましい成長を期待したいのう。」


 サイロンは結局、何をするつもりなのかは話そうとしなかった。

しかし・・・彼の言うことも一理あった。

安全圏を確保したまま修行しても、いざ余興でドラゴンと対決して・・・勝利したとして、それが手抜き試合なんて誰が見ても

明白となってしまう。

八百長がバレてしまっては、ここにいる者全員・・・ザナハ姫以外が処刑されてしまう可能性だってないわけではなかった。

サイロンはそのことも見据えて、アギトの急成長を促したのだ。

「・・・一応、努力はしますが・・・それにしては時間があまりにも不足している事実は変わらないのですがね。」

溜め息交じりにそう言うオルフェに、サイロンが怪しい笑いを洩らした。

「ふっふっふっ・・・、何を悩む必要があるのじゃ。

 今お主らの前にいるこの余を・・・、一体誰だと思っておる!?」

うつむきながら笑うサイロンに、全員が反眼のまま呆れた表情になっていた。

「余達は旅の行商人とさっきから言っておるであろうがっ!!

 客のどんなニーズにも応えられるように、数々の珍品を取扱い、その願いを出来る限り叶えるのが余達の仕事じゃ!!」

そう叫んで、ばっと扇子を開き・・・ソファーの上に立って仁王立ちする。

いつの間にか付き人2人が両サイドから、どこから持って来たのか・・・ザル一杯の紙吹雪を片手でサイロンめがけて

巻き散らかしていた。

「あぁっ、掃除するの一体誰だと思っているんですかっ!?あんまり散らかさないでくださいっ!!」

ミラがそう叫ぶが・・・、勿論掃除するのはこの洋館のメイド達である。

その光景を遠い目で眺めながら・・・、ジャックが口を挟んだ。

「・・・それじゃ短期間で強くなるアイテムとか・・・、そんな都合の良いヤツも取り扱っているって言うのか?」

「勿論、余達に揃えられない商品など、無きに等しいわっ!!」

「・・・例えば、どんな物があるんですか?

 あ、以前大佐が言ってたみたいな薬物投与とか、禁術・禁書関係はナシでお願いします。」

リュートが少し興味あり気にサイロンに聞いた、もしかしたらアギトだけでなく自分もそれで強くなれるかもしれないと思った

からだった。

リュートの問いに、サイロンは得意満面になってハルヒに命令する。

「ハルヒ、我が一族のとっておきのものを・・・これに!」

「はい。」

そう言って、ハルヒと呼ばれた金髪の若者は風呂敷の中から・・・何か商品らしきものを取り出した。

「・・・まさか、これはっ!?」

オルフェが珍しく驚いた表情になって、そのアイテムを見つめていた。

驚かせることが出来たのがよっぽど嬉しかったのか、サイロンは再び貴族らしい誇らしげな笑みになって説明した。

「そうじゃ、まさかこれを知っておるとは・・・お主もなかなか博識じゃのう。

 これは龍玉と言ってな、ものすご〜〜〜く貴重な代物じゃ。」

風呂敷の中から取り出された物・・・、それは黄金で出来た塊のような・・・大きな宝石のように見えた。


「龍玉の製法は企業秘密じゃから教えられんが、これを持ってレイラインでの世界間移動を行なうと・・・ある場所に導かれる。

 そこは時間軸が静止した世界になっておる、その場所で何か月、何年過ごしても、再びレムに戻れば全く時間が進行しておらん

 のじゃよ。これさえあればいくら期間が一日しかなくても・・・思う存分修行して強くなることは容易いじゃろうのう。

 しかし・・・そんな便利なアイテムでも、恐ろしい副作用があるのじゃ。

 静止世界に長く滞在すると、精神と肉体の方がまず保たん!

 向こうでものすごい修行をして戻ってきたら、時が止まっていた分の付加が一気に押し戻って来て、激しい筋肉痛に襲われる

 のじゃよ。

 それからこれはさっきも言ったように、ものすごい希少アイテムじゃ。

 やれるのは1個だけ、これを2つに割って使用するが良い。ただし2つに割ってしまうと向こうでの滞在期間が限られる。

 効果が薄れるということじゃな。

 向こうで半年分の滞在期間、そしてこっちではちょうど3日分の滞在期間・・・といった計算になるかのう?」


 サイロンの説明はとても長く、複雑なものだった。

しかし・・・貴重というだけあって、これは非常に役に立つアイテムなのは確かだった。

それは今まさにアギトにとって最も必要とする条件を全てクリアする程の、もってこいのアイテムだ。

「こんな貴重なもの、本当にもらってもいいんですか!?」

喜びながらリュートがサイロンにお礼を言おうとした・・・が、勿論そうはいかないのがサイロンだった。

「誰がタダと言った、ちゃんと支払いしてもらうに決まっておろうが!!

 しかもこれは今、余の手持ちでラストの1個なのじゃぞ!?

 それ相応の対価を支払ってもらうのは当然じゃろうが。」

そう言われ・・・、やっぱりと・・・リュートは肩を竦めた。

「そんな・・・、あの・・・大佐?

 アギトの為にこれ・・・、買ってもらうことって・・・出来るんでしょうか?

 勿論僕達はここの通貨を持っていないし、ここは大佐に頼るしかないんですけど・・・。」

オルフェは黙っていた・・・、やっぱりアギトの為に自腹を切るのはイヤなんだろうか?・・・と、リュートは思った。

すると・・・オルフェの笑みが、いつもの不敵なものではなく・・・まるで惨敗した時の自嘲に似た笑みに変わっていた。

「なるほど・・・、もしかしたらドラゴンに関しても・・・勿論タダ、というわけではないようですね?」

サイロンは誇りに満ちた笑みを浮かべて、扇子を扇いだ。

ようやく気付いたか・・・、と言うようにサイロンはオルフェの問いに答えた。

「当たり前じゃろうが。

 余がドラゴンを連れ帰ることを良しとしなかった時点で、すでに交渉ではなく取引になっておったわ。

 値段としては、そうじゃのう。

 ドラゴン対決の八百長、そしてこの龍玉・・・。

 この2つの代金は、1つのもので支払ってもらうとしようかのう。」

全員の顔から、笑みが消えた。

一体どれだけのものを要求してくるのか、誰にも想像できなかったからだ。


そしてサイロンが、希望する代金を口にした。


「闇の戦士の身柄と引き換えに・・・、全て承諾しようではないか!」


 

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