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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第51話 「明かされる真実」

 アギトの状態が、サイロンの協力のおかげで順調に回復していることがわかった。

そして、旅の行商人を名乗るだけに・・・アギトを治した報酬を要求してきたが、これはオルフェの機転により回避された。

これでもはやサイロン達に何の用もないはず・・・、なぜオルフェはまだサイロン達を追い出さないのか不思議で仕方がなかった。

本当に国王からの勅命にあった「ドラゴン対決」の内容を、彼らにも話してしまうのだろうか?

オルフェがこれから話そうとしている内容を知っているだけに、リュートは疑問に思えた。

サイロンがすっかり拗ねた状態で、それでもオルフェは構わず本題として・・・話を切り出した。


「若君、お忙しいところ申し訳ありませんが・・・もう少しだけ、お付き合いしていただいてもよろしいですか?」

にっこりと微笑みかけたオルフェだったが、その笑顔に信用性を感じなくなったサイロンは横目で疑わしそうに見つめる。

「・・・・・・どうせイヤだと言っても話すつもりであろう?

 良い、好きにせい!!」

ふん!っと、そっぽを向いたままサイロンは口を尖らせて・・・その姿勢は、とても話を聞く姿勢には見えなかった。

「ありがとうございます。

 ここから先の話は・・・、この部屋にいる全員に聞いていただきたいものです。」

そう言われて全員が、え・・・っ?となった。

ソファーから背を離して、前かがみになってオルフェが話しだした。

「実は先日、レムグランド国王陛下から親書が届きました。

 陛下は光の戦士の成長に、とても期待を抱いているようなご様子です。

 そこで・・・2度目のレムの日に、陛下はある余興をなさると・・・その親書には綴られていました。」

オルフェがそこまで言って、一旦区切った。

リュートもその方がいいだろう・・・と思った、ここから先は内容が厳しすぎる・・・。

一度、一呼吸置いてみんなに心の準備をさせた方が無難だろうと、そう考えた。

「2度目のレムの日・・・っていやぁ、もうすぐじゃねぇか?

 明日が1度目のレムの日だからな・・・。8日後に行なわれる余興とオレ達と、何の関係があるんだよ!?」

ジャックが両腕を組みながら、首を傾げる。

「それはこっちの台詞じゃ!

 レムが何をするかは知らんが、それこそ余達には関係のない話ではないか・・・。」

そうグチりながら、サイロンは興味深げに正面を見据えていた。

サイロンのグチを聞いて、オルフェは含み笑いを浮かべる。

「まぁ、全く関係ない・・・というワケではありませんよ、若君?

 陛下はその余興で光の戦士・・・つまりアギトのことですが、彼と・・・レッドドラゴンに決闘させることをご所望なのです。」


「んなっっ・・・!!!?」


 全員が固まった。

無理もないことだが・・・、ここにいるサイロン達以外の人間はアギトのことをよく知る人物ばかりだ。

勿論、アギトの能力も・・・、実力も・・・。

「どうしてお父様はそんなことをっ!?

 今はイフリートとの契約を控える重大な期間なのよ、そんな余興なんかしている場合じゃないでしょっ!?」

ザナハが立ちあがって反論した、ザナハはこの国の姫君・・・その国王は彼女の父親なのだから、異論はもっともだ。

光の神子としての使命を持ったザナハが、今の状況をよく把握しており・・・すべきことをきちんと理解している。

今のこの状態でそんな余興をしても・・・全く何の解決にもならない。

むしろ全く意味をなさないといってもいい位だった。

「姫・・・、陛下はこの余興を執り行うことを・・・至上命令とされている。

 我々は確実に8日後までには首都に到着して、そしてアギトにドラゴンと戦わせなければいけないのです。」

「そんな・・・っ!」

そう一言言って・・・、ザナハはがくんっとソファーに倒れこんだ。

「オルフェ・・・、お前その手紙・・・こないだのシルフデイの日に来たやつだろ?」

ジャックが問いただすと、オルフェはうつむいて・・・そして首を縦に振って返事した。

リュートはとっさにメモ帳を取り出して、シルフデイが木曜日のことであると・・・確認した。

「はぁ〜・・・っ、やっぱりな!

 面倒臭がりのお前が珍しく、アギトの為に必死んなって訓練メニュー考えてっから、何事かと思ったが・・・それが原因かよ!

 それでずっと機嫌が悪くてピリピリしてやがったな!?」

ジャックは足を大きく開いてイスに腰かけたまま、呆れたようにそう言った。

それを聞いて苦笑し、オルフェは心からかどうかはわからないが・・・とりあえず謝罪の言葉を口にした。

「すみません、なんとかなるかと思い・・・黙っていました。

 しかし状況は非常に切迫しているのです、アギトの状態が安定したとはいえ・・・いつ目を覚ますかわからない以上、それだけ

 訓練をする日数が削られいっています。

 このままでは・・・、アギトがレッドドラゴンに勝つ可能性など・・・ゼロに等しい。」

「むしろマイナスね。」

ザナハがソファーの肘掛に肘をついて、頬を乗せながら余計な一言を言い放つ。

「それから、更に状況は悪くなっています。

 もし万が一・・・まぁ、今の状態なら確実ですけど・・・・・・アギトがドラゴンに敗北した場合ですが。

 その時は、リュート・・・闇の戦士の公開処刑が決行されてしまいます。」


「はぁぁっ!!?」


 またもや全員が硬直した。

すると突然ジャックが、イスがひっくり返る程の勢いで立ちあがり、オルフェの胸倉をつかみ上げると大声で怒鳴った。

「なんでそんなことまで黙っていやがったっ!!?

 オレの弟子の命がかかってるようなら、なぜ真っ先にオレに相談しなかったんだっっ!!」

「ジャックさん落ち着いてください、大佐だって散々悩んで・・・っ!!」

「リュートは黙ってろ!!」

ジャックに初めて怒鳴られ、リュートはびくっと体が震えた。

「何とか言ってみろ!!?リュートは闇の戦士だから、生きようが死のうが関係ないって言うのか、あぁっ!?」

ジャックの怒号に、オルフェは顔色一つ変えることなく・・・胸倉を掴むジャックの手を押さえて、オルフェはいつもの落ち着いた

口調で話した。

「そんな風に思ってなんかいませんよ。

 それに・・・、アギトだって命の危険にさらされているのです。

 ドラゴンに敗北するということは・・・、それは完全なる敗北・・・・・・死を意味しているのですから。」

そう言われ・・・、ジャックの掴んだ手が緩んだ。

オルフェにとってアギトは自分の弟子だ・・・、つまりは・・・今ジャックが感じた怒りは、オルフェも同じように感じていると

いうことだった。

そう理解して、ジャックはぶつけようのない怒りのやり場に苛立ちを募らせたまま、転がったイスを直して・・・座った。

「・・・悪かったな、オルフェ。」

一言・・・そう謝った。

気を取り直して、オルフェは再び話の続きを語り出した。

「我々は窮地に立たされています。

 陛下の至上命令は絶対です、アギトとリュートが生き残る為には・・・アギトに何としてもドラゴンに勝利してもらわなければ

 いけません。

 しかし残りの期間で、生物史上最強と謳われるドラゴン相手に・・・にわか仕込みの戦闘技術で勝つ見込みはありません。」


 そこまで言って・・・、全員が押し黙る。

そんなことは不可能だ、勝てるはずがない・・・、そんなマイナスイメージだけがみんなの思考を支配していた。

沈黙の中、先に口を開いたのは・・・今までずっと珍しく黙っていたサイロンだった。

その顔には・・・不敵な笑みと、嘲笑と、怒りと、呆れたという感情が入り混じっていた。

「なるほどのう・・・、そこで余の出番・・・というわけじゃな!?」

ソファの背もたれに両手を乗せて、胸を張ったような偉そうな体勢でサイロンが言った。

その言葉を聞いて、オルフェは満面の笑みを浮かべた。

「ドラゴンといえば龍神族の眷属です、国王陛下に背く行為は大罪ですが・・・龍神族を敵に回すのもどうかと思いまして。」


 そうオルフェが話した時、応接室のドアが何者かによってノックされた。

そのノックを聞いてオルフェが「入れ」と言うと、一人のメイドと・・・ミラが入って来た。

「ちょうど良いタイミングですね、さぁ・・・こちらに来なさい。」

オルフェが立ちあがり、二人をサイロン達の目によく見えるように横に立たせた。

オルフェはメイドの隣に立ったまま、彼女を紹介した。

「このメイドは私の密偵でして、隠密活動を中心に働いてもらっています。

 彼女からとても重要な情報を入手したので、まずはその内容を今ここで報告してもらいます。」

メイドは軽く会釈して、とても真剣な面持ちで話しだした。

「私は元々アシュレイ殿下直属の密偵でした、数日前・・・国王直属の配下が慌ただしい行動を取っていましたので、

 私は殿下の命令により・・・陛下が何をされようとしているのかを調査していました。

 その調査で、陛下が龍神族の地を侵し・・・レッドドラゴンを生きたまま捕獲しているのを目撃したのです。

 私は即刻そのことを殿下に報告し、殿下も国の平安の為に・・・急ぎ陛下の元へ進言されました。

 しかし陛下はすでに光の戦士とドラゴンとの対決の余興を計画されておいでで・・・、それを覆すことは決して許さないと

 おっしゃられたようなのです。

 殿下はそれを阻止する為に、私にある任務を申しつけました。

 それは・・・そのレッドドラゴンの素性を洗うことと・・・、龍神族の若君をこの洋館に導くように・・・というものです。」


 一斉にして全員が、サイロン達の方を振り向いた。

サイロンは扇子で扇ぎながら、笑みのない表情で座っていた。

そして主の代わりにハルヒが小声で呟いた。

「・・・どうりでその女性には見覚えがあると思っていた。

 その女・・・、神子と戦士がいる洋館で・・・ある品物を購入したいと言っていたと・・・ここに連れてきた。」

「僕達はお客さんに望まれれば、例え魔界へだって出張サービスする営業方針だからね。」

ハルヒに続き、イフォンも糸目のまま・・・やれやれと肩を竦めて、やられた・・・という風に言った。

「そして洋館へ向かっている最中に、光の戦士のマナ放出を目撃して・・・呼ばれている理由がこれかと思っておったんじゃが。

 全てお主らの手の平でもてあそばれていた・・・ということかのう。」

面白くない・・・という口調でサイロンが続けた。

メイドの格好をした密偵は、サイロン達に向かってひざまずき、詫びをした。

「申し訳ございませんでした!!

 しかし・・・、若君にとっても重大なこと故・・・是非ともご理解していただきたいのですっ!!

 なぜなら・・・、その決闘の為に捕獲されたドラゴンは・・・っ、若君の・・・妹君なのですっ!!」


「えぇぇぇっっっ!!?」


 再び、全員がサイロンの方へ一斉に注目していたのは・・・、言うまでもなかった。



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