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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第47話 「こだわる理由」 

 するとオルフェがようやく重たい口を開いた。

顔は相変わらずうつむいたままで、まるで独り言のように小さな声で・・・呟くように話しだした。

「アギトのことなら心配はいりませんよ。

 今、中尉が回復魔法をかけているところでしょうから・・・一晩ぐっすり寝れば回復してるはずです。」

そう区切って、オルフェは少しだけ顔を上げて・・・じっと、真っ直ぐに一点を見つめていた。

「そうですか・・・、よかった。

 アギトのあんな姿見たの初めてで・・・、どうしたのかと思っちゃいました。

 でも大佐と一緒にいたんですから、アギトに何かあるなんてこと・・・あるわけないですよね!」

安堵に満ちた声で言うリュートに、オルフェは冷たい言葉で突き刺すように・・・さらりと言い放った。

「私はアギトを殺そうとしました。」


「・・・・・・え?」


 リュートの思考が一瞬にして、固まった。

頭の中が真っ白になり、小声で呟くオルフェの言葉は・・・きっと何かの聞き間違いだと思いたかった。

しかしそれが聞き間違いでないことを、繰り返されるオルフェの台詞で・・・無理矢理認識させられた。

「アギトは短期間で今以上にレベルアップをする必要がありました。

 そして彼も・・・、自分の能力の向上を望んだ。

 私は危険だとわかっていながら彼を殺すつもりで、無理矢理体内のマナの覚醒を促そうとしました。

 結果的にアギトはそれを成功させて、今でこそ命を取り留めてああやって眠りについていますが・・・。

 一歩でも間違えていれば・・・今頃、私がアギトの死体を担いで洋館に戻っていたことでしょう。」

淡々と語られるその言葉に、リュートはいきどおりを感じて我慢することが出来なかった。

「どうしてそんなことを・・・っ!

 安全な訓練ですぐに強くなれるなんて思いませんけど・・・、だからってどうしてそんな危険だとわかっていることを

 実行しようとしたんですか・・・!?」

リュートの怒りで震える声に、オルフェはそれといった反論もせずに・・・ただ淡々と語るだけだった。

「我々には時間がありません、それは君達が最初に訪れた時から何度も言ってきた言葉ですが。

 マナのコントロールというのは君が思っている以上に、とても難しいものなんです。

 アギトには元々、魔術をうまく発動出来るだけの集中力が備わっていなかった・・・。

 身体能力の上昇でも体内のマナは大きく関係します。

 それは後にジャックとの訓練で君も教わることでしょうが、マナとは何も・・・魔術を発動させる為だけに必要なわけでは

 ありません。

 ザナハ姫が以前に見せた怪力を、君も見たでしょう?

 あれも体内のマナをコントロールすることによって、拳にマナを凝縮させて爆発的に破壊力を増幅させる、

 魔術の一種でもあるのです。

 剣で戦うアギトにも、そのマナのコントロールは絶対不可欠となってきます。

 今後立ち向かう敵に、筋力だけで戦えるはずもありません。

 中には物理攻撃の効かない魔物、鋼の鎧のように・・・頑丈な皮膚や鱗を持ったドラゴンと戦うことだってあるでしょう。

 それを踏まえた上で、今のまま・・・ただダラダラと生易しい訓練をしたところで、ただの付け焼刃です。

 君達が短期間で急激に強くなるには、劇薬が必要になってくるんですよ。

 そうでもしなければ・・・、たった16日という期間で強くなろうなんて・・・、知れた程度でしかありません。」



 オルフェの言うことは、まさに正論だった。

まだマナに関しての知識や、戦闘技術といった知識は・・・今のリュートにとっては皆無に等しい。

しかし今のオルフェの言葉には説得力と、真実味があった。

全てにおいて納得出来るものではないが・・・、反論するスキがなかった。


「それじゃあ僕達は、ただひたすら死ぬ気で訓練するしかないって・・・、そういうことなんですか?

 毎回毎回・・・生死の境を彷徨う位の訓練をして・・・っ、そうやって強くなっていくしか方法はないんですかっ!?」

リュートの言葉に、多少ヤケの入った口調でオルフェは他の方法を教えてやる。

「他にも方法はいくつかありますよ、薬物投与や、禁術、禁書に手を出すという・・・非合法な手がね?

 ただしそれには自らの生命の危険以前に、代償があまりにも大き過ぎる・・・。

 どんな方法を取っても結局、短期間で急激に強くなるという都合の良い方法には、デメリットが付きものなんですよ。」


 オルフェの苦悩に、リュートは・・・少なからずの違和感を感じた。

どうしてそんなにも短期間で強くならなければいけないという、必要があるんだろう?

例え16日間の間に、オルフェが望むような強さを得られなかったとしても、訓練内容によっては向こうの世界に戻っても

自分達だけで行なえる訓練方法がないのだろうか?

地道にコツコツ強くなる・・・という方法ではいけないのだろうか・・・?

それ程までに、今の状況が切迫しているということなのか・・・?

そんな疑問や違和感が次々とわき出てくる。

そしてリュートは・・・、ある賭けに出た。


「あの・・・、どうして16日という期間に・・・そんなにこだわっているんですか?

 もしかして炎の精霊との契約には、16日の連休が終わった後に・・・行く予定が決まってるってことなんですか!?」

リュートの質問に、オルフェは・・・視線を一点にしたまま答えようとはしなかった。

しかしその横顔には少なからず、何かの反応があったのを・・・リュートは見逃さなかった。

この期間に何か裏がある・・・そう読み取ったリュートは、確信を持ったワケではないが・・・詰め寄って聞いてみる

価値はあると、そう判断した。

「大佐・・・、何かあるのなら話してください!!

 僕達は生半可な気持ちで戦士を引き受けたワケでも、ジャックさんにわざわざ師匠になってもらったわけでもないんです!

 僕もアギトも、少なからず覚悟を決めてここまで来ました。

 その覚悟は・・・そりゃ大佐達に比べたらまだまだ全然なのかもしれませんけどっ!

 それでも・・・、現にアギトは自分の命をかけてまで・・・大佐の訓練を見事にこなしたじゃないですか!!

 それなのに・・・何かを隠されたまま命がけの訓練を続けるなんて、僕達はそこまでお人好しなんかじゃありませんよ!?

 何を隠しているのかはわからないですけど、弟子が命をかけているのに・・・その師匠が命をかけなくて何が師弟ですか!!」


 リュートは思い切って、ぶちまけた。

おそらくこのオルフェの心を揺るがすには・・・、本当の本心をぶつけるしかないと・・・そう思ったからだ。

ヘタな嘘や、カッコをつけた言い回しなんて通用しない。

リュートは息を切らして、後はオルフェの反応を待った。

これだけ言ってもまだシラを切り通すつもりなら・・・、自分達はついて行く人間を間違えた・・・。

そう思うしかない。

再びオルフェは、頭を抱え込んでしまった。

これだけ悩む姿を見たことは・・・、本当に一度もなかった。

いつも余裕の笑顔を浮かべて、人を食ったような態度で他人をからかう・・・そんなオルフェしか見たことがなかった。

どれだけのものを背負っているのだろう・・・?

リュートは、ひたすら・・・何時間でも・・・オルフェが何かを言ってくれるまで待つ覚悟だった。


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