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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第46話 「図書室での対話」

 アギトを背中に背負ってオルフェが洋館に戻って来ていた。

リュート達は玄関まで急いで駆けつけて、二人の様子をうかがおうとした。

回りには数人の兵士とメイドが、アギトを抱えて安静にする為に至急運んで行き、そこにはミラが付き添っていた。

オルフェはそのまま外へ出て行くと、見張りの兵士たちに向かって怒号を浴びせていたのが聞こえた。

よく聞き取れなかったが、湖の異変に気付かなかったのか・・・とか、何の為の見張りだ・・・とか、そういったものだった。

しかし誰もあの湖の爆発に気が付かなかったわけではない。

間欠泉がものすごい勢いで吹き出したように、大きな水柱を上げて吹き上がっていたのは洋館の中にいたリュートでも

わかっていた。

しかし、オルフェとアギトがクレハの滝に向かって行ったのを目撃していた兵士が、恐らく訓練の為にオルフェ自身が魔術を

発動させたものだと判断して・・・行動が遅れたらしい。

肝心のミラも、どういった状況でそういう行動を取ったのか今のリュートには知る由もないが、恐ろしく厳しい訓練をしている

に違いないという判断をして、あえて様子を見に行かなかったようだった。

リュートはアギトの様子を見に行こうと、付き添おうとしたが・・・他のメイド達に引きとめられてしまった。

ミラがいるから大丈夫だと、そう言われて。

ザナハも、ジャックも、アギトのことを心配しているようだった。

全員アギトの部屋の前に立ち尽くすばかりで、何も出来なかった。

そんな中、ザナハが元気付けようと明るく言った。

「大丈夫よ、ミラはあたしの師匠で・・・回復魔法が使えるし。

 医学の知識を持っているオルフェが、ミラさえいればあとは安静にしておけば大丈夫だって言ってたんだから、きっと

 大丈夫よ!!

 明日にはノンキな顔で起き上がって、また食堂でがつがつ食事するまでに回復してるってば!」

無理矢理明るくしゃべっているようにも聞こえたが、これ以上ザナハの気持ちを無駄にすることもないと・・・リュートも

その意見に賛成した。

「そうだよね・・・、あのアギトが・・・何があったかわかんないけど、こんなことで死ぬようなヘタレじゃないよ。」

そう言って、これ以上ここに立っていても何の役にも立たないと思ったリュートは、オルフェの元へ行こうと決めた。

「僕、何があったのか大佐に聞いてくるよ。」

それだけ言い残して、まだいるかどうかわからないが・・・リュートは玄関先へ走って行った。



 玄関から外に出て見たら、兵士達はまた気を取り直して所定の位置についていた。

ざっと見回してみたが、オルフェの姿はどこにも見当たらなかった。

「よぉリュート、どした?」

そう呼ばれて振り向くと、そこにはがっちりとした体格の・・・、グスタフ曹長が片手にコーヒーカップを持ちながら立っていた。

「あ・・・、グスタフ曹長・・・でしたっけ?

 あの、オルフェ大佐がどこに行ったか知りませんか?」

リュートが少し焦った風に聞いてきたので、何事かと思いグスタフは眉をひそめて答える。

「あぁ、今日の大佐には関わらない方がいいと思うぜ?

 なーんかものすごいピリピリしていて、兵士はみんな目を合わせようとしてないからな。」

「それでも・・・、アギトに一体何をしたのか、何があったのか聞きたいんです!!どこに行ったか知りませんか?」

コーヒーを一口飲んで、少し間を置いてから・・・グスタフは仕方ないという風に、オルフェの居場所を教えた。

「・・・多分あそこじゃないかな?

 洋館の東側に古臭い扉があってな、そこも大佐の私室みたいなもんで・・・一言で言えば図書室だ。

 大佐は何かあるといつもその部屋に引きこもるクセがあるんだよ。

 もしかしたら今もそこに引きこもっているんじゃないか?・・・多分だぜ?」

「ありがとうございます!!」

グスタフの言葉を最後まで聞かず、言いきった時にはすでに走り去っていて・・・遠くからお礼を言った。

「・・・ったく、戦士ってやつはみんなせっかちなのかねぇ?」

そう言いながら、やれやれという風にグスタフは持ち場へとゆっくり歩いて行った。



 洋館の東側の扉を徹底的に探した。

5分程走り回って、ようやく条件に合いそうな古い扉を見つけた。

ここかな?と思いながら、リュートは遠慮気味にコンコンっとノックしてみた。

しかし返事はない。

ノブに手をかけると、扉はあっさりと開いた。

ごくんと息を飲みながら、リュートはゆっくりとドアを開け・・・顔をのぞかせる。

中は薄暗く、奥の方でロウソクの火が灯っているような明かりが見えた。

多分これはオルフェだ・・・、そう思いリュートは部屋に入って行った。

回りには全て本棚がきっちりと置かれており、その棚には数々の古い本がたくさん詰められていた。

棚に入り切らない本や冊子が床一杯に山積みされていて、丸い箱には丸めた羊皮紙が紐でくくられて何本も突き刺さっていた。

山積みにされた本を踏まないように、リュートは細心の注意を払いながらゆっくりと明かりのする方へ歩いて行く。

本の間から、見慣れた金髪がちらりと見えた。

なんだか声をかけづらい感じがして、リュートは怪訝な表情になりながら・・・このまま行こうかどうか躊躇った。

ゆっくりと足の踏み場を確保して移動していたら、オルフェの横顔が見える角度まで導かれるように進んでいた。

斜め後ろから見えたオルフェの顔は、苦痛をこらえているような・・・悲痛な面持ちだった。

悲しみに満ちた・・・、自分を蔑むような、心の痛みを抱えた・・・そんな顔をしたオルフェを見たのは初めてだった。

まるで吸い寄せられるようにその顔に見入っていたリュートは、足元に払うべき注意力が散漫になっていた。


ばさっ・・・。


 積んであった本の山に足をぶつけて、山が崩れる。

それを慌てて両手で防ごうとするが本の山は無残にも、ばさばさぁっという音を立てて崩れ去ってしまった。

「誰です?」

しんとした部屋に、オルフェの抑揚のない声は・・・思っていたよりも、よく響いていた。

「あ・・・あの、すみません・・・。」

両手に本を抱えたリュートが、困惑した顔で謝る。

「・・・君でしたか、こんな所で何をしているんです・・・道にでも迷ったのですか。」

張りのないその声に、いつものイヤミっぷりが微塵も感じられなかった。

それよりも・・・オルフェ程の実力者ならば、リュートが部屋に入って来た時点で気配に気づきそうなものだが、と思った。

(僕の気配に気付かない位・・・、大佐は何を悩んでいるんだろう?)

そんなオルフェの姿に、アギトに何があったのかをズバリ聞いていいものかどうか・・・迷った。

しかしここまで来て、「はい、迷っちゃいました」なんて言おうものなら・・・どう思われるか。

(そういえば僕って・・・大佐と面と向かって・・・しかも二人きりで会話したことって、全くないんじゃ・・・?)

リュートの側にはいつもアギトがいた。

いつもアギトと一緒だった。

そしていつも・・・、アギトが話題を切り出して・・・話を進めていた。

ここに来てようやく・・・、初めて自分はオルフェの扱い方がわからないことに、気が付いた。

しかもこれだけ弱った風に見えるオルフェに、何て話しかけたらいいのか・・・わからない、・・・知らない。

戸惑っていたら、オルフェの方から声をかけてきた。

「どうせアギトのことでしょう?

 ここにもうひとつイスがあるから、掛けなさい。」

そう言われてリュートは慌てた。

てっきり「出て行け」とか「放っといてくれ」とか、否定的な言葉をかけられると思っていたからだ。

「あ・・・っ、はいっ!!」

そう返事をして、リュートはオルフェの横にあった小さな背もたれのない丸いイスに、ちょこんと腰かけた。

座ったのに、オルフェは言葉を切り出さない。

むずむずとしたリュートが、たまらず先に声をかけた。

「あ・・・あの、アギトは一体・・・どうしたんですか?」

頭を抱えるようにテーブルに両肘をついて、はぁっ・・・という溜め息が聞こえた。

それ以上は聞けなかった、とりあえずオルフェが何か話してくれるのを待つしかないと思った。

燭台のない魔法で出来たランプの中で、小さな炎がゆらゆら揺れて、それに合わせて二人の影もゆらゆら揺れる。



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