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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第43話 「不機嫌な師匠」

 第一声に「全くもって人騒がせな・・・!」と言いたいところだった。

てゆうか個室からあんななまめかしい声が聞こえてきたら、誰だって勘違いして当たり前だ・・・とアギトは思った。

あのミラでさえ誤解したのだから、自分の方が正しい!

しかし、この空気は恥ずかしすぎる・・・。

あの後・・・、アギトとミラが踏み込んで・・・事のあらましを一目で把握した。

指圧マッサージを受けていたメイドは気恥ずかしそうに、真っ赤になりながら・・・そのままお礼と謝罪を口にしてさっさと

オルフェの部屋から出て行ってしまった。

オルフェは・・・、両手をぷらぷら振りながら・・・真顔でこちらを見据えていた。

・・・笑顔がない、笑顔がっ!!

余計怖いっつーの、と思いながら・・・アギトは言い繕う言葉を必死で探していた。

ミラはというと・・・、両手に構えた二丁の拳銃を両モモに装着したホルスターにしまうと、やはり気恥ずかしそうに

こほん・・・と咳払いなんかをしていた。

二人の様子を察して、オルフェはいつもなら・・・からかうようないじわるな悪魔の微笑を浮かべているはずだが、そうはしな

かった・・・、代わりに小さく溜め息をついて・・・怪訝な表情で冷たく聞いてきただけだった。

「・・・一体何の騒ぎですか?」

オルフェが丸テーブルに置いていたマッサージ用のクリームや、タオルを黙々と片付け始めて・・・更に空気が不穏になる。

するとミラは、びしぃっと軍人らしい敬礼の姿勢を取って背筋を伸ばす。

「いえ、お騒がせして申し訳ありませんでした!・・・失礼いたします」

そう言って部屋から出て行こうとして・・・、ふと足を止める・・・オルフェに呼び止められたからだ。

「そのドア・・・、いつ頃までには直りますか?」

そう言われ、ミラは顔を真っ赤にしながら・・・そして背中を向けたまま凛としたよく通る声で返答した。

「す・・・すぐに修理の者を手配いたします!!」

それだけ言うと、ミラは急いでその修理屋さんでも呼びに行くのか・・・走って部屋から出て行ってしまった。


 部屋に二人っきりにされたアギトは、まだその不穏な空気に慣れずにいた。

もしかして今日はすこぶる機嫌が悪いのか?・・・と思いながら、体がぎくしゃくするのを隠せない。

しかしオルフェはまるでアギトの存在が見えていないようなフリをして、部屋を片付けていた。

その沈黙に耐えきれなくなって、アギトは遠慮気味に話しかける。

「え〜・・・っと、あの・・・。

 今日は都合が悪いようでしたら・・・、また明日にさせていただきますが?」

震える、ぎこちない声でアギトが恐る恐る声をかけた。

キレたオルフェを相手にする程、もうバカじゃない・・・。

アギトはオルフェの反応をうかがった、そして・・・このまま出て行った方がいいのかと、少しずつ後ろ向きにドアがあった

方へと忍び寄っていった。

「何か用があってここに来たのでしょう?

 いいから・・・、そこのイスに座りなさい。話位なら聞きましょう。」

そんな優しい声が・・・、いや・・・口調は相変わらず氷のような冷たい感情のままで・・・空気も変わらず冷たい。

でも・・・機嫌の悪いオルフェがそんな風にアギトの相手をしてくれる・・・という言葉をかけたのは非常に大きなことだった。

だからアギトは、そんなオルフェの台詞に優しさを感じただけだったかもしれない。

変わらず空気の冷たさには背筋の凍る思いをして、アギトは小さく「はい・・・。」と答えて、ちょこんとイスに座った。


 部屋をある程度まで綺麗に片づけ終えて、オルフェは奥から・・・冷蔵庫でもあるのだろうか?

隣の部屋に行って姿が見えなくなったので、そこがどんな部屋かはアギトからは確認出来なかったが・・・戻って来たオルフェの

手にはワイングラスと・・・、ラベルに何て書いてあるのか読めなかったからよくわからないが・・・恐らくあの瓶の形状からして

お酒だろう・・・と、アギトは推察したのだ。

それを黙って丸テーブルの上に置いて、ワイングラスに注いだ。

ちらりとアギトの方を見て、オルフェは明らかに建前口調で聞いてきた。

「何か飲みますか?」

ここで素直に「オレンジジュース」とか「コーラ」とか言っても・・・、そんなものがオルフェの部屋に常備されているとは

到底思えなかった。

「いや・・・、いらないっす。」

そう一言だけ返事をすると、オルフェは黙ってアギトの向かいのイスに座り・・ぐいっと一口、酒を飲んだ。

しばしの沈黙が流れる・・・。

そして一向にいつものオートスマイルが発動しないオルフェは、不機嫌そうな表情で・・・アギトに全く視線を移すことなく

口を開いた。

「いつまでそうやって黙っているつもりですか?」

そう言われて、びくっとする。

無意識だったのか・・・、自分でもなんでこんなにビビっているのかわからず・・・滑稽に思えてきた。

ただ、こんな笑顔がないオルフェは初めてだったから・・・、いつもどんな状況に置いても営業スマイルで本心を隠して

のらりくらりと・・・ひょうひょうとしてきたオルフェが・・・、ここまで不機嫌なのはどうしてか・・・。

それがわからない分、余計に怖かった。

アギトは冷や汗をかきながら、きっちりと足を閉めてその両膝に両手を添えて・・・縮こまって座っていた。

「いや・・・、さっきジャックから・・・リュート達は明日から修行するって聞いたし・・・。

 それじゃオレはいつからなのかなぁ〜って・・・、オレ今すぐにでも修行する覚悟できてっから・・・今からでも修行つけて

 もらえるのかなって・・・、オルフェに聞きに来た・・・来ましたっ!!」

後半しどろもどろになりながら、なんとか失礼のないように・・・敬語を使うように意識し過ぎてしまった。

それを聞いて、オルフェが大きな溜め息をついたのがわかった。

オルフェはよく溜め息をつく。

溜め息をつく時は決まって、困った時か、誤魔化す時か、馬鹿にした時か、迷惑な時か・・・。


今のは明らかに迷惑バージョンだっ!!


 そう瞬時に察して、アギトは慌てて言葉を訂正した。

「いや、あの・・・っ!

 オルフェが忙しいとか、疲れてるとかなら別に無理してくんなくてもいいんだぜっ!?

 ホラ・・・、まだ7時って言ってもさぁ・・・オルフェは大佐としての仕事があるわけだし!?

 だからオレは別に・・・あとまだ16日間もあるから、オルフェに合わせても全然構わねぇよ、いやホント!!?」

両手を振って、大丈夫を連発して、アギトはこれ以上オルフェの機嫌を損ねないように必死になって言い繕った。


 本当ならもう・・・あと16日間しか、残されていない。

一日一日全て修行に費やさなければ、いつ炎の精霊イフリートと契約しに行くと言われるかわからない。

その為には、少しだけでもアギトはレベルアップして戦闘能力を高めなければならなかった。

だが・・・、不機嫌なオルフェにかみついたって・・・いいことがないのも事実だった。


 しかしオルフェの返答は全くもって意外なものだった。

「いや、君がイケると言うのならいいでしょう。

 修行するのに早いなんてことはありません、君がその気ならば今すぐにでも始めるべきです。」


「え・・・、なんで?」


機嫌が悪いんじゃなかったの?

いつもならそんな他人や・・・、ましてやオルフェが大嫌いなガキにわざわざ自分から構うなんてこと・・・。

何に対してもノリ気じゃなくて、倦怠感の塊で・・・、面倒臭いことは一切やりたがらないオルフェがなんで・・・?


ハッ!!


「まさか・・・、オレでストレス発散する気じゃねぇだろうな・・・っ!?」


アギトは本気で、そう確信した。


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