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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 1
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第39話 「魔法薬フォルキス」

 なぜか少しだけ重苦しい空気になって、談話室の中がしぃんと静まった時だった。

足音が近づいて、扉が開き・・・オルフェが右手に怪しい瓶を持って入って来た。

「君達が帰るまでに間に合って良かったです。

 調合を手伝ってくれた中尉に感謝しなくてはいけませんね、ホント君達が引きとめてくれなかったお陰です。」

回りくどくグチるオルフェ。

「大佐、無駄なあがきはおやめください。

 どうせすぐにバレるんですから・・・、それに7人分のフォルキスの調合をたった2時間足らずで完成させようと思っていた

 んですか?

 ただでさえ使用する材料が、どれも希少なものばかりだというのに・・・。

 また研究室にあった在庫を使用した分だけ仕入れておかなければ・・・。」

中尉の言葉に耳が痛いのか、オルフェは聞こえないフリをして手に持っていた瓶をリュートに渡した。

「をい、なんで真っ直ぐにオレでなくリュートに渡すんだよ。」

納得いかない行動に、アギトが素直に文句を言った。

「それは勿論、君が信用できないからですよ。

 リュートなら使用方法をきちんと守ってくれるだろうし・・・。」

「お前・・・、仮にも自分の弟子位は信用しろよな・・・。」

「それでは使用方法などを今から説明しますので、ちゃんと原則として守ってください。」

「せめて聞け・・・、話だけでも・・・。」

それでもオルフェは時間が惜しいというフリをして、魔法薬の細かい説明に入った。

リュートは全部を覚えられる自信がなかったので、いつものメモ帳を取り出して書き込む準備をした。


「この魔法薬は強力な暗示薬となっています。

 使用する人間には1滴だけでも十分効果があります、ただし大さじ1杯以上を一度に服用させたら副作用が起きるので注意して

 ください。

 この瓶の縁に付いてる特殊な蓋は、薬が1滴ずつ出るようになっています。ですからいちいち計る面倒は省いてあります。

 使用する際、被験者の飲食物に1滴だけ混入させてください。

 被験者が食すと、30分以内に催眠状態に入ります。その催眠状態の間が命令を下せる唯一のタイミングとなります。

 あくまで暗示をかけるので、効果期間はその暗示の命令内容に左右されます。

 1滴で『3日間』でも『1年』でも、命令によって効果は持続されますので注意してください。

 命令内容で重要な部分は、『期間』と、『行動内容』、大きく分けてもこの2つです。

 例えば・・・、そうですね。

 君達二人がヴォルトデイから翌週のヴォルトデイの・・・、一週間分をこのレムグランドで過ごすことになったとします。

 その時にどんな命令にするかを、考えてください。

 私なら『明日のヴォルトデイから、次週のヴォルトデイまでの間、アギトとリュートの存在を完全に忘れること』と命令します。

 一番重要なのは必ず、期間をハッキリと明確に伝えること。

 これを『ヴォルトデイからヴォルトデイまで』と、曖昧に命令してしまった場合・・・その命令は半永久的に継続されて

 しまいます・・・、わかりますね?

 次に行動、これは命令期間の間・・・被験者にどういった行動を取らせるかを指示できます。

 この行動内容に、命令期間を織り交ぜることも可能です。

 『明日からアギトとリュートの存在を完全に忘れて、次に会った時に思い出すこと』という感じですね。

 用量、命令、これを正確に守って使用出来る・・・そう約束してくだされば、この魔法薬を毎回調合しましょう。」


 リュートはオルフェの説明を何とかメモに書いて、そして返事をした。

「どうせこの世界の人間に使っても、効果の程は期待できそうにねぇんだろ?

 だったら守る他ねぇじゃん、使い道も使用する人間も限られてんだもんなぁ・・・。」

アギトはつまらなさそうに、両手を頭の後ろに組んでケチをつけた。

「でもこれ・・・、本当に向こうの世界の人間にも効果があるのかなぁ・・・。」

少し不安そうに言うリュートだが、オルフェが悪魔の微笑みで保証した。

「それは私が開発して、人体実験も全てクリアした完璧な魔法薬です・・・異世界の人間であっても効果は期待できるでしょう。

 ただ・・・、君達の世界に魔法力の高い人間がいない・・・という保証はしかねます。

 あくまで魔法力や抵抗力の低い人間に限り有効な薬なので、それは個人差になりますね・・・。

 でもまぁ・・・、そんな人間がいたらレイラインに侵入した途端に、マナのコントロールが出来ず迷い込んでしまって・・・

 それこそ誘拐事件や失踪事件が多発していることでしょう。

 そういった事例が報告されていないのなら、多分大丈夫です。」

「・・・ホントかよ。」

オルフェの説明は、いまひとつ信頼性に欠ける・・・という風にアギトが疑いの眼差しになる。

「でも・・・、これを使用するしかないのは確かだよね。

 でないとこないだみたいに毎日毎日留守の言い訳を考えなきゃいけなくなるもん・・・。」

魔法薬をリュックの中に丁寧にしまって、リュートが信じるしかない・・・という口調で言った。

ミラが談話室にあった時計を見て、針がすでに7時を回っているのを確認した。

「さて・・・、そろそろ準備はいいですか?」

「あっ、ちょっと待った!!

 次に来る予定なんだけどよ、リュート・・・確かゴールデンウィークだったよな?」

「あ・・・、うん。

 合間に平日が入ってるけど、もしその平日もフォルキスで存在を消してしまえば・・・合計16日間は来れると思います。

 本当なら平日は学校に行かないといけないんだけど・・・、平日は6日もあるし・・・。

 でも合間に行ったり来たりして、その度にこの薬を浪費するよりは一回で済ませた方が・・・いいんだよね。」

気が進まないように、リュートが説明した。

アギトにとっては、その選択は大いに歓迎するものであったが・・・。

「上等上等!!

 さっきミラも言ってただろ、フォルキスに使う材料は貴重なモンばかりだって!

 そんな貴重なモンを無駄に何回も使用することはねぇし、それにいくらオルフェが大丈夫だって言っても、そう何度も何度も

 フォルキスを飲ませて体に何も影響がないとは思えねぇもんな・・・。」

「失礼ですね・・・、と言いたいところですが・・・その通りです。

 あまり短期間に何度も使用するのは好ましくありません、できるだけ服用後・・・3日以上は使用を避けた方が良いでしょう。

 さっき言った副作用ですが、記憶混乱や記憶障害などの・・・弊害が生じてしまう恐れがありますからね。」

それを聞いて、二人はぞっとした。

「リュート・・・、悪いがもし今回みたいに変則的な連休があった場合は・・・平日も学校休むこと勧めるかんな?

 登校拒否とか、ワザと学校サボってるヤツに比べたら・・・オレ達は十分立派な理由があるだろ・・・。」

「まぁ・・・、仕方無いよね・・・。」

青ざめながら、二人は意見が一致した。

「意見がまとまったようですし、次回もまたヴォルトデイにこちらへ来る・・・ということで、よろしいですか?」

オルフェの号令に、二人はまだテンションが低いまま返事をした。



 二人は専用に用意された寝室に置いてあった私物を、リュックの中に詰め込んで地下室の魔法陣へと向かった。

さすがに2回目で慣れたせいか、大した緊張もなく魔法陣の中央へと歩を進める。

なぜなら魔法陣でアギト達の世界『リ=ヴァース』へ移動した時、それは廃工場の最上階から飛び降りている最中から続きを

体験するものであったが、地面に激突する寸前に一瞬宙に浮いて、安全に着地出来ることがわかったおかげもあった。


「あ、そうだ・・・。

 確か向こうからこっちに移動する時のレイラインの場所を変えられそうなこと・・・何か言ってなかったっけ?」

アギトが思いだしてミラに聞く。

それを聞いて、ミラは思いだしたかのようにロングコートのポケットから何かを取り出した。

それは琥珀色をした丸い物体だった。

手の平サイズで、テニスボールを一回り小さくした感じの大きさで、それ程重くもなく、つるつるした手触りだった。

「・・・これは?」

「マナマテリアルといって、レイラインの強力な場所へ近付いたら熱を帯びるようになっています。

 それが熱くなればなる程・・・異世界間の移動が出来る程のマナが、凝縮された場所になっているということになります。

 今・・・温かくなっていませんか?」

そう言われて、両手で触れてみると・・・確かに少しあったかかった。

お風呂の湯船で、一番ちょうどいい位の温度に似ていた。

「・・・これ位の熱さがちょうどいいの?」

「そうですね、ここもレイラインですから。

 それ位の熱を帯びたらその場所がレイラインポイントだとわかるようになっています。」

「へぇ〜・・・、んで他のレイラインを見つけたらそこから移動してもいいわけ?」

アギトがそう聞くと、オルフェが前に出て補足した。

「移動する時はこのアイテムも一緒に持っていてください。」

そう言われて次に渡されたのが、指輪のようなものだった。

それを二人に1つずつ渡して、オルフェがもう1つを手に持った。

「これは指輪に付いたこの宝石が、互いに引き合うようになっています。

 本来なら別のレイラインで移動する場合は、この魔法陣につながるように向こうにも魔法陣を描くか、今ここにある魔法陣に

 向こうのレイラインを記憶させるか・・・、方法が限られてきます。

 君達は魔法陣を模写することができないでしょう?

 そこでこの指輪を利用するんです。

 この宝石は特殊な鉱石で出来ていて、細かい説明は省きますが・・・君達が持っている指輪と、今私が持っている指輪は互いに

 引き合って、レイラインが変わっても移動する場所が必ずここに辿り着けるように導いてくれる役割を果たしてくれます。

 この指輪を常に私が持っていれば・・・、君達はどこから移動しようとも・・・その指輪を持っている限り私の元へと導かれる

 ようになるんです。」

オルフェの説明に、アギトは少し膨れた。

「なんでそんな便利なモンがあるのに、最初ここに来た時にくれなかったんだよぉ!!」

それにはミラが答えた。

「この指輪は首都でしか取り扱われていないんですよ、このアイテムもそれだけ貴重な代物ですからね。

 君達が初めてここへ来た日から、首都に連絡を取って至急指輪の手配をして・・・この間入手したばかりなんです。」

「そうだったんですか・・・、何だか貴重な物ばかり渡してもらってますよね、僕達・・・。」

「まぁ気にすんな、それだけ戦士の役割が重要だし・・・君達の迷惑にならない程度に、出来るだけ長く滞在してもらいたい一心

 でしてることだ、なぁミラ、オルフェ?」

ジャックが腰に手を当てて気さくに笑った。

「ありがとうございます、ミラさん、大佐。」

「まぁ・・・、そういうことなら・・・大感謝だけどなオレ達は。」

照れくさそうにそう言うアギトに、ミラは柔らかく微笑んで・・・そしてそろそろ出発しなければと、二人を促した。

「それでは、次回も無事に到着できるように・・・何かあったらこちらも全力を尽くしますので安心してくださいね。」

「くれぐれも各アイテムの使用方法を忘れないように、お願いしますよ?」

「そんじゃ、次はヴォルトデイに会おうな!!」

ミラ、オルフェ、ジャックがそう言うと、二人は魔法陣の中心に立って片手で手を振って・・・、互いの利き腕を握り合った。

光が放たれ・・・、そして優しい風が回りを包み込む・・・。


その光と共に、二人は魔法陣の中から・・・姿を消した。


 その光景を見たジャックは、深い溜め息をついた。

「はぁ・・・、異世界間の移動なんて初めて見たなぁ・・・。」

そう言って、二人が消えた後の魔法陣の中心の方に駆け寄って・・・見回す。

「魔法陣の使用なんて・・・、滅多にしてはいけないものですからね・・・。」

オルフェがそう言うと、魔法陣の方に歩み寄ってロックをかけた。

「さて・・・、今日はこれで解散としましょうか。

 随分と疲れましたし・・・、ジャックの部屋もメイドに案内させますよ。」

「あぁ、すまんな。」

それから3人は魔法陣のある部屋を出て行ってカギを閉めた。

ジャックはノンキに両手を上げて伸びをしながら、あくびをして・・・真っ直ぐな一本道である石の通路を歩いて行った。

その時、ミラはジャックが少し離れて歩いて行ったのを確認して、小声でオルフェに囁いた。

「大佐・・・、後で少し話があるのですが・・・よろしいですか?」

ミラの真剣な厳しい表情に、オルフェは作り笑いを浮かべて頷いた。

多く言葉を交わすこともなく・・・、二人はジャックの後を追って・・・、そのまま地下を出て行った。


 

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