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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 1
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第38話 「英雄と、二つ名」

 ザナハ姫とミラ中尉は、ドルチェからの報告を受けて急ぎ・・・クレハの滝から戻って来た。

しかしそこには肝心の龍神族はおらず、そのまますれ違っていた。

「それで・・・、大佐は?」

ミラの不信な視線に、リュートが恐る恐る答えた。

「えっと・・・、大佐は僕達が帰るまでにフォルキスって魔法薬を調合しないといけないからって、洋館の方へ戻っていきました

 けど・・・。」

それを聞いてミラは大きく溜め息をついて、頭を抱えた。

「全く・・・、逃げましたね?

 それにフォルキスは許可申請を求めなければ、調合するのは認められないというのに・・・。」

「でもザナハの許可があれば作ってもいいって、オルフェのやつ言ってたぜ?」

「あたし!?・・・なんで?」

突然自分が指名されて、どうしてという風に聞き返した。

「知らねぇよ!!・・・えっと、何て言ってたっけ?」と、リュートに聞き返す。

「確か・・・、神子という立場と姫っていう特権で許可出来るかも・・・って、言ってたような??」

「・・・なぜ今になってフォルキスが必要になるんですか・・・。

 あれは強力な暗示薬です、その危険性が考慮されて使用禁止になっているんですよ?」

「だからさぁ、オレ達がこっちに長期間滞在するにはどうしてもその薬がいるんだってば!!」

このままではラチが明かないと思ったのか、ミラはとりあえず洋館に入るように促した。

そして、ジャックと挨拶を交わす。

「お久しぶりです、ジャック先輩。

 せっかくミアと家庭に入ったのに、お呼びたてして申し訳ありませんでした。」

そう言って、会釈する。

「いいって!どのみち今更・・・オレだけカヤの外にいるわけにはいかなかっただろうさ。

 それよりも早く中に入ろう、そっちのお嬢さんが風邪でも引いたら大変だ。」

そう言ってジャックはザナハ姫に視線をやった。

メイドにタオルやら何やらを肩からかけられて、ザナハ姫はメイドと共に洋館の中へ入って行った。

ザナハ、ミラ、そしてジャックが入って行って・・・、アギトはリュートに話しかけた。

「そういやオレ達、この先どうするんだっけ?」

「あ・・・、そういえば大佐からフォルキスを使う人物を特定しておけって言われてなかったっけ?」

口に手を当てて、忘れてた・・・という風にリュートは言った。

「あ〜〜、そうだっけか?

 まぁ適当でいいじゃん、もしリュートの家族と先生以外に問題あったら量を増やしてもらえばいいだけだろ?」

そう簡単に言って、アギト達も洋館の中へと入って行った。



 ザナハ姫はとりあえず休息を取るために、部屋に閉じこもってしまった。

結局こちらに来てからザナハ姫とはあまり言葉を交わすことがなかったと、リュートはふと思った。

ミラはオルフェの調合の手伝いをするということで、席を外した。

「逃げても無駄だったな・・・。」と、アギトが笑いながら言った。

「ミラさんにはとりあえず7人分の薬をお願いしておいたから・・・、あとは帰る時間までに薬が出来るのを待つだけ

 だね。」

しかし・・・、せっかく異世界に来たのにただ待つだけというのは、非常に時間がもったいないことだと二人は思った。

回りの人間が随分と時間にシビアなのに気が付いて、ジャックが質問した。

「なぁ、さっきから時間にうるさそうだが・・・、何かあるのか?」

3人は談話室で薬が出来上がるのを待っていたので、適当にイスに座ってダベっていた。

「あ〜、そういやジャックは状況とかあんまし聞かされてない方だったよな。

 なんかオレ達の世界とこっちの世界の、時間軸だっけ?

 それが全く同じでさぁ、オレ達は向こうでの生活もあるから毎週、週末にしかこっちに来れないようになってんの。

 だから、ヴォルトデイだっけ?その日の夕方から、レムデイの夕方しか・・・こっちの世界に滞在出来ないんだよ。」

アギトから滞在期間を聞かされて、ジャックは愕然とした。

「おいおい・・・、いくらなんでもそれはないだろ!?

 週末だけでどうやって修行するんだ、そんなんじゃいつまでたっても役目を果たせないだろう!!」

ジャックの言葉に、全く同意見だという風にアギトは立ちあがって更に同意を求めた。

「だろぉっ!?

 ただでさえこっちは戦争でヤバイってのに、オレ達が向こうでノンキに学校行ってる場合じゃないだろ!?」

アギトが何を言いたいのかわかった。

「アギト・・・、それはダメだって言ったはずでしょ!」

横目でアギトを睨む・・・、がアギトは屈しなかった。

「お前は何とも思わねぇのか!?

 ジャックに5日も会えないんだぞ、修行してもらえないんだぞ!?

 そんなんじゃいくらなんでも、戦争終わんねぇだろ!!おあつらえむきの魔法薬だってあるんだから、これは神からの

 思し召しだってば!!」

「いや・・・、神というより・・・悪魔だな。」

ジャックが魔法薬の開発者の顔を思い出して、訂正した。

「5日分の修行のメニューを作ってもらえばいいだけの話でしょ。

 向こうでも簡単に出来そうな内容で、・・・出来るでしょジャックさん?」

「う〜〜ん、向こうの世界がどんなものかわからない以上何とも言えないなぁ。

 肉体改造的なメニューなら作れんこともないが、マナに関する内容となると・・・マナ濃度にも多少は影響があるし。」

「オレ達、ジャック先生に修行をつけてもらいたいんだよぉ〜〜!!」

アギトが猫なで声で、ジャックに甘えた。

「あのなぁ、アギトの師匠はオルフェだろうが。」

頭をぼりぼりかきながら訂正するが、アギトは大きく首を横に振って否定した。

「だってオルフェのやつ理屈っぽいことばっかで、全然それらしいこと教えてくんなかったじゃんか!!

 現にジャックん家からここまで帰る道のりだって、オレのことまるで無視で全然アドバイスしてくんなかったもん!! 」

「あいつにはあいつのやり方ってもんがあるんだよ。

 確かにあいつは昔から回りくどいことばかりだったがな、結局はその人物に一番良い最適な方法を選択して実行に移す・・・

 完璧主義者なんだよ。

 だから・・・そう言わずにもう一度、素直にお願いしてみたらどうだ?」

「ぶぅーーーーっ!!」

アギトが顔を膨らませて、拗ねてしまった。

「それじゃドルチェに修行をつけてもらったら?」

リュートが冗談のつもりで言ってみた。

「えぇ・・・!?」

そう言われて、部屋の暖炉の側で一人・・・ぬいぐるみを繕っていたドルチェが名前を呼ばれてこちらを振り向く。

「ほら、ドルチェはぬいぐるみによって色んな戦法が取れるから、色んな修行方法が可能だよ?」

アギトはドルチェの修行方法を想像した。


くまのぬいぐるみにサンドバックな目に遭う自分・・・。

かえるのぬいぐるみに・・・、以下略。

ねこのぬいぐるみに・・・、以下略。


「だぁぁ−−っ!!どれもこれもぬいぐるみ遊びしてるのしか思い浮かばねぇーー!!

 てゆうかそんなの向こうでしてたら、ただの変態じゃねぇかぁっ!!」

「・・・冗談なのに。」

「あたしの魔力がないと、ぬいぐるみは動かせない。

 ぬいぐるみだけ連れて行っても、ただのぬいぐるみ・・・。」

そうぼそりと呟いて、ドルチェはまたぬいぐるみのほつれた部分を縫い直していた。

「じゃあ結局、学校には普通に行って・・・自宅ではジャックの言うようなただの筋トレメニューこなすしかねぇのか。

 それってただのダイエットじゃん、スポーツマンじゃん!」

すっかりいじけて、アギトはテーブルにあったクッキーをぼりぼりかじっていた。

「まぁまぁ、オレはマナに関しては素人だって言っただけで・・・。

 魔術のスペシャリストであるオルフェなら、向こうの世界でもマナに関する修行方法が何かあるかもしれないって

 言いたかったから、もう一度お願いしてみたらって・・・。」

「・・・そういえば、さっきサイロンって龍神族も言っていたけど。

 獄炎のグリムとか・・・、大佐ってそんなにすごい人なんですか?確かに強そうではあるけど・・・、僕達大佐が戦った

 ところってあんまりじっくりと見たことなかったから・・・。」

「そういやそうだ、偉そうなこと言って・・・もしすんげぇ弱かったら師弟関係撤回してやる!!」

リュートの質問に、ジャックは腕を組んであまり気乗りしない感じで話しだした。

「あまり話したがらないだろうが・・・、出来るならそういうことは本人から聞いた方がいいかもしれんぞ?

 まぁ・・・少しだけなら、話してやらんでもないが・・・。」

「もったいぶってないで話してくれって!!」

「う〜ん・・・、僕もちょっと興味あるかな・・・。」

不精ひげのはえたアゴをぼりぼりとかきながら、バツの悪そうな表情でジャックは話しだした。


「あいつは元々天才肌でな、幼少の頃から魔術の天才と称される程の実力の持ち主だった。

 オレの家でオルフェが話した内容から大体想像はついていると思うが、とにかく子供の頃から色んな魔術の開発やら実験やら

 そういう・・・普通の子供がしないようなことを、あいつは子供の頃からやっていた。

 本来ならその時分の子供なら、外で遊んだり、学校で勉強したり・・・、とにかく子供ならバカみたいに外で遊ぶのが基本

 だって時に・・・、あいつは大人に交じって魔術の研究をしたりしていたんだよ。

 マナのコントロールも、本当はものすごい神経を使うし集中力もハンパない。

 それをあいつは、まるで呼吸するように簡単に魔術を発動させる。

 やがてその才能は首都にまで届いて、・・・軍に入隊する気はないか・・・っていう誘いはすぐに来たよ。

 確かお前達と同じ位の年の頃には、すでに入隊していて・・・有事の際には戦場に駆り出されることもあった。

 そうだな・・・、その頃にはすでに魔術で活躍していたな。」


 ジャックの言葉が次第に曇って行く・・・、しかしその様子に全く気付かずアギトは勢い良くイスから立ち上がった。

「すげぇ!!オレ達と同じ位にはもうそんなに魔法を操っていたのか!!大活躍って・・・っ!!」

そう興奮するアギトに、リュートは重たい口調で補足した。


「つまり・・・、たくさん人を殺したってことだよね・・・?」

「え・・・・・・。」

 

 アギトの笑顔が硬直した、聞き間違いかと思った。

リュートを見て、そしてジャックの方を見た。

ジャックは両目を閉じて、その言葉に間違いはない・・・とでも言うように暗黙に認めた。

「剣や槍などの武器を使って戦う方法とは全く違う。

 魔術は、その威力、その範囲・・・それが大きくなればなる程に・・・大勢の人間を巻き込むことが可能だ。

 広範囲、高威力の魔法を使える人間は数が知れている・・・。

 オルフェは確かまだ14歳という年齢で・・・、レムグランドで最も多くのアビス人、または魔物を倒したということで

 数々の勲章を授与された。」


 しぃーーんと、静かになる。

なんて言ったらいいのかわからなかった、凄いとも・・・ヒドイとも・・・。

しかし・・・その沈黙を破ったのは、意外な人物だった。

「大佐はその魔術で、最も自国の犠牲者を減らしたという意味での栄誉も、もらっている。」

「ドルチェ・・・。」

いつの間にかドルチェがくまのぬいぐるみを抱き抱えながら、アギト達の目の前に立っていた。

「以来、大佐の隊に入れば生存率が最も高まるというジンクスが生まれ、今でも軍人達の人徳を集めている。

 大佐は闇雲に殺戮を繰り返しているわけじゃない・・・!

 自分が率いる部下達を死なせまいと、常に自らが戦場の先頭を切って・・・隊の被害を最小限に食い止めている。」

「わかった、悪かったなドルチェ・・・お前の言う通りだ。」

ジャックはいたたまれないというような表情で、いつになくムキになったドルチェの言葉に同意した。

しかしその同意の言葉には、それ以上興奮させないように言葉をさえぎったようにも聞こえた。


「だから・・・、英雄か。」

ふと、アギトがぼそりと呟いた。

そういえばオルフェも、サイロンも言っていた。

戦場で活躍した英雄・・・、獄炎のグリムに・・・同族殺しのジャック・・・。

そんな異名が他国に轟く程・・・、二人はそれだけの命を摘み取って・・・背負ってきたんだと・・・。

この二人の武器は・・・、どれだけ重いんだろう・・・。

それを想像しただけでアギトは胸が痛くなってきた、オルフェの言葉で抉られた胸の傷口が・・・また痛み出す。


 

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