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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 1
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第37話 「若様の目的」

 龍神族を名乗る3人組が現われて、オルフェは彼らを応接間へと通してしまった。

アギト達も長い道中から帰って来たばかりだというのに、彼らの応対をしなければならなかった。

洋館に入って、オルフェは少し機嫌が悪そうに兵士の一人を呼びとめてミラ中尉はどうしたのか聞いていた。

ミラは今、ザナハ姫のみそぎに同行していてこの場にはいないと言われた。

禊というのだからてっきり洋館の中にある大浴場で済ませているのだとばかり、アギト達は思っていた。

しかし実際は数人のメイドも付けて、近くの滝まで行ってる最中だった。

オルフェは兵士にいつも通り行動するように伝えて、龍神族の代表であるサイロンの対応は自分がすると言った。

「はぁ、こういう手合いは中尉に任せるようにしているんですが・・・いないのならば仕方ありません。

 ドルチェは至急、クレハの滝まで行って中尉に現状を報告してきてください。

 アギト、リュート、ジャックには私と共に彼らの接待をしてもらいましょう。」

ドルチェは返事をすると、そのまますぐに洋館を出て行ってしまった。

「なぁ、なんでドルチェなんだ?・・・兵士とかのが早くね?」

「一応ザナハ姫は禊をしているんですよ?

 その間は男子禁制です、それにヘタな兵士よりもドルチェの能力をもってすればずっと早くに到着出来ます。」

そう言って、オルフェは『大佐』の顔に変わって・・・全員を引き連れて応接間へと向かった。


 サイロン達を通した応接間は、VIPクラスの来客専用らしく・・・中のゴージャスさは他の部屋の比ではなかった。

装飾品やら、その全てが・・・目を奪われるような高級な物ばかりだった。

ふかふかのソファーにどっしりと座って、満足そうに微笑むサイロンに殺意を抱くアギト。

しかしその殺意も、付き人の二人の視線によってすぐにかき消されてしまった。

メイドがお茶を入れて差し出す。

しかしその香りは独特のもので、いつもアギト達が出されていたものとは明らかに種類が違った。

「この匂いは・・・。」

アギト達も嗅いだ事がある匂い、プーアル茶だった。

「ん〜〜〜、やっぱり里のお茶が一番うまい!」

・・・ということは、自分で持参したお茶をメイドに入れさせたのか・・・とアギト達は勘繰った。

まずは客として招かれたサイロン達は当然ソファーに座っていた。真ん中にサイロン、そして両サイドに付き人が・・・。

向かいのソファーにはオルフェが座り、両サイドにアギトとリュートが座っていた。

ジャックは横に立って、いざという時などないが・・・一応念のために控えていた。

「ところで・・・、失礼ですが今日の晩には二人は元の世界に帰らなければならないということになっていましてね。

 あまり時間がないのですが・・・、どういったご用件でしょうか?」

オルフェが作り笑いでサイロンに聞いた。

「なんと!異界の戦士は毎回異世界間を行ったり来たりするのか!?

 そのような戦士、聞いたことないのぅ・・・。少なくとも・・・余が知る限りでは、じゃがな。」

見た目は随分若く見えるのに、言葉使いが老人のようにとても古臭いしゃべり方なのでアギトは少しだけイラッとした。

「ところで、お主らは年の頃はいくつになる?」

「・・・今年で12歳になりますけど。」

リュートが答える、さっきは喧嘩ごしに怒鳴りつけたが・・・今はオルフェやジャックの手前、大人しくした。

「ほう、まだ12か。

 余がルイドを見つけた時は、確か14、5位だったと思うが・・・?

 戦士というのは、こちらの世界に来る時の年齢に随分とバラつきがあるようじゃな。」

興味深い話題が飛びだした・・・、ルイドを見つけた?

突然の内容に、アギト達はごくんとツバを飲みながら聞き入っていた。

「なんじゃ・・・?ルイドのことが余程気になるようだが?

 余がルイドを見つけた時の話、聞きたいのかの?」

試すように、いたずらっぽく笑みを浮かべてサイロンは身を乗り出して興味深く二人を見据えた。

なんだかサイロンの思惑にハマるようで、面白くなかったが・・・それでも興味があるのは確かだった。

ルイドのことを少しでも、何かわかれば・・・。

「それはとても興味深いことですね。

 実は少し前にあなたと同じようにルイドが、わざわざ二人に会いに来ましてね?

 それ以来二人もルイドのことが気にかかって仕方ないようなんですよ・・・、良ければ私も聞きたいのですが。」

オルフェが口を出して、サイロンはオルフェの言葉に鼻で笑って・・・扇子を取り出して手の平でぱしぱしと叩いた。

「ふっ、ルイドのことならお主ならば・・・よく知っておるのではないか?

 獄炎のグリムといえば里でも随分と名を馳せておる、それに・・・同族殺しのジャックもいるようだしのぅ?」

そう言って、サイロンはびしっと扇子でジャックを指した。

ジャックはそれを聞いても微動だにしなかった、まるで侮辱されてもあえて受け止めるかのように・・・。

しかし、弟子はそうはいかなかった。

「ジャックさんは僕の師匠なんです、侮辱するような言葉は謹んでください!!」

リュートの強気な態度に、サイロンは興味深げに高笑いした。

「それはすまんかったのぅ、だが今のは侮辱したわけではない・・・、今のはただの通り名、二つ名じゃ。

 目くじら立てて怒るようなことではない、じゃがまぁ・・・異界の戦士ならば多少の常識が通じぬは道理、謝罪しよう。」

意外にも自分の非を認めた態度に、リュートは勢いがしぼんで「いえ・・・こちらこそ」と小さくなった。

「さて、さっきの話じゃが・・・ルイドのことだったかの。

 あれは・・・何年前になるかな?

 確か・・・今から11年位前のことじゃ、余の一族は代々・・・神子と戦士の『見届け人』という使命があって、

 余もその頃、戦士を探す旅に出たばかりじゃった。

 そしてその道中、道に倒れていた少年を介抱した・・・、それがルイドじゃった。」

「戦士を探す旅に出て10分後でしたよね、確か。」と、女性のような顔立ちをした美少年のイフォンが水を差す。

「そうそう・・・、あれはまさに運命の出会いじゃった。」

しみじみとしながら、サイロンは構わず話を続けていた。

「ひどく疲労しきっていて、余程ツライ体験をしたのだろう・・・しばらく口も利かず、食事もノドを通らなかったのか、

 どんどんやつれていってのぅ・・・。

 余達だけの介抱ではどうにもならんと、知り合いのいるミズキの里に連れて行き・・・そこで療養させたのじゃ。

 イフォンの姉のお陰でみるみる回復に向かってのぅ、自分の力で動けるようになったんじゃ。」

そこまで話して、オルフェが遠慮なく口を挟んだ。

「失礼ですが、ルイドを介抱した時・・・彼の左頬には、刃物で付けられたような傷跡はありましたか?」

変なこと聞くなぁ・・・と、アギトは訝しんでサイロンの返答を待った。

聞かれて・・・、サイロンは急に押し黙った。

三白眼でオルフェを見据えて、そして扇子で口元を隠しながら答えた。

「ふむ・・・、11年も昔の話だからのう・・・どうじゃったかなぁ?あったような、なかったような・・・?

 何しろ見つけた時には全身傷だらけじゃったから、頬だけに注目した覚えはないし・・・。」

曖昧な回答に、オルフェの視線が怪しむ。

アギトはイライラして口を挟んだ。

「だぁもう!!ハッキリしてくれよな!!あったのかよ、なかったのかよっ!?」

「・・・あったのう。」

すんなりと答えた。

その一言でとりあえずは納得したのか、オルフェはソファーにもたれかかって続きを促した。

「まぁ、他に特別話すことはあまりないがの。

 その後すぐに大戦が始まって、ルイドは闇の戦士として戦場に立ち・・・アビス人を指揮していた。

 あとはそなたら二人がよく知る通りじゃ。」

そう締めくくって、プーアル茶を美味しそうに飲んだ。

アギトとリュートは、ルイドについてなんだかわかったような、わからないような・・・複雑な心境だった。

とりあえずあのルイドも自分達と同じ、異世界から来た人間だということだけはハッキリと理解した。

「次は余が異界の戦士二人に聞きたいことがあるんじゃが、いいかの?」

突然、話題の中心にされそうになって二人は戸惑う。

一体自分達の何が知りたいのだろうか・・・、まさか?

「お前・・・、オレ達の情報をルイドに横流しする気じゃねぇだろうな?」

アギトが素直に疑った。

「安心せい、今日来たのは余が個人的にお主らに興味があっただけじゃ!」

けらけらと笑って、サイロンは扇子を扇いだ。

「・・・一体、僕達の何が知りたいんですか?」

リュートがそう聞いて、サイロンは口元に扇子を当てることで表情を覆い隠したが、しかし企み笑いを浮かべた瞳ですぐに

表情はバレていた。

「実は余達は、世界各地を旅する行商人みたいなこともしていての?

 扱う商品数知れず、中には気になるあの子のスリーサイズまで、情報として多数取り揃えておる!

 そこでじゃ!ハルヒ!」

そう命令して、戦士タイプのハルヒと呼ばれた青年は足元に置いてあった大きな風呂敷を取り出してテーブルに置いた。

その風呂敷を広げると、中から奇妙な模様をした大きな壺が目の前に現れた。

「この壺・・・、ただの壺と思うことなかれ・・・?

 なんとこの壺の中に向かって大声を出すと、あら不思議!その声・・・外に漏れることなくどんなに声を張り上げようとも

 他者に聞かれる恐れなし!

 歌の練習でも、あの子への告白でも、嫌いな上司の悪口でも!全てこの壺が・・・・っ!!」

「ただの押し売りじゃねぇかぁああっっ!!!」



 結局、サイロンはアギトやリュート達に特別何かを聞いてくることはなかった。

本当に興味本位で『見に来た』だけだったらしい。

1時間程で問答は終わり、サイロン達は『たまには自分達の取り扱う商品を買ってほしい』という契約だけをちゃっかり交わして

そのままどこぞへと消えて行ってしまった。

「なんだったんだ、結局!!」

本当にその通りだ、とでも言うように全員疲労は隠さなかった。

すると、遠くの方からミラ達が帰ってくるのが見えた。

「あ・・・しまった、確かミラ達にあいつらのこと報告してたんだよなぁ?」と、アギト。

オルフェは頭痛がするのか、メガネの位置を直すフリをして・・・大きな溜め息をついた。

「・・・とりあえず私は、アギト達が帰るまでにフォルキスを調合しないといけません。

 ですから中尉達にサイロン達が帰ったことを報告しておいてください・・・、では失礼します。」

すかさずオルフェは自分専用の実験室でもあるのか、すたすたと早歩きで洋館の中へと消えて行ってしまった。

「逃げたーっ!!」

アギトとリュートが「ずるい!!」と言わんばかりに、文句をたれていたが・・・いつも後始末をさせられていた経験でも

あるのか・・・、慣れたようにジャックが二人をなだめた。

「仕方ない、オレ達で説明しておこう。」



 森の中を歩いて、サイロンは機嫌良く鼻歌を歌いながら洋館から離れて行った。

そんなサイロンにハルヒが声をかける。

「よかったんですか、若?・・・闇の戦士を勧誘しに来たんでしょう?」

「まぁ、なるようになるじゃろ。

 あの二人を見てみぃ、仲の良い親友同士で何よりではないか。」

扇子で涼みながら、澄ました顔で歩みを止めない。

「・・・・・。」

ずっと押し黙ったイフォンは、杖を握り締めたまま・・・うつむいて歩いていた。

その様子を知って、サイロンが話しかけた。

「よく我慢したのぅイフォン、偉いぞ?」

サイロンの言葉に、えっ?と振り向いて・・・それから、にっこりと微笑む。

「何がですか?僕はいつもと変わりないですけど?」

しかしその手は、かすかに震えていた。

「・・・姉の仇が目の前にいて何も出来ないとあらば、誰だって悔しいものじゃ。

 その点お主は大人の対応をしてくれて、余は誇らしいぞ。」

そう言ってサイロンはよしよしと、イフォンの頭を優しくなでた。

「よしてください若、僕はもう子供じゃないんですから・・・!

 やめろよ馬鹿。」

瞬間、ハルヒのゲンコツがイフォンの後頭部を直撃した。

「いったぁ〜〜〜〜・・・・・っ。」

頭を押さえてハルヒに向かって舌を出したが、ハルヒは完全に無視をした。

「とにかく!

 この時代の戦士二人に対面しただけでも、大きな一歩じゃ。

 あとは互いの神子が上位精霊と契約を交わし、道が開かれた時・・・龍神族の使命を果たす時が訪れる。

 それまでは今まで通り・・・、余達は中立を保って見守ることしか出来んのじゃ。」

「それではこのこと、ルイドに報告しないんですか?」

「・・・ジャックが師についたことをか?

 報告する必要は皆無じゃろう、すでにあやつは知っておるよ・・・そのことを。」

サイロンのその言葉を聞いて、ハルヒはこれ以上何も聞かなかった。

そして彼らは、どこへともなく・・・目的があるのかないのか・・・、のらりくらりとどこかへ消えて行ってしまった。



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