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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
序章~現代編 1~
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第1話−3 「青い髪と、瞳の少年」

 リュートとアギトの友達宣言から翌日……。

 アギトにとっては楽しい一日の始まりだったが、リュートにとっては複雑極まりなかった。


 確かに昨日はリュートにとって人生最良の日だったに違いない。

 しかし同時に、ガキ大将に初めて逆らった『人生下剋上の日』でもあったのだ。

 握り拳大位の大きさの石をマトモに後頭部に投げつけて、……大丈夫だっただろうか?

 大怪我して大騒ぎしていたら大変だ。

 昨日の帰り際にアギトが「しらばっくれてたらいいんだよ!!」と笑って言ってたが、リュートにそんな度胸は備わっていなかった。

 てゆうか、そんな度胸があれば約五年間もいじめられ続けたりはしなかっただろう。

 ……とにかく今日はアギトに会えるのは喜ばしいことだったが、その前にガキ大将に会ってしまわないかどうか、それだけが不安で仕方なかった。


「てめぇ……」


 ……最悪だ、なんてツイてないんだ。

 学校までまだ五十メートルはあるのに、角を曲がったら出会い頭にガキ大将とバッタリ、なんて……。

 リュートの表情がひきつる。

 一気に冷や汗が吹き出して、どこからどう見ても挙動不審であった。

 ガキ大将の頭には真っ白い包帯がぐるぐる巻きに巻かれていて、頭半分がミイラ男状態だった。

 (よくこんな頭で登校してきたなぁ……)と、心のどこかで感心していたリュートは、謝った方がいいのか、そのまま走って逃げた方がいいのか、本気で悩んだ。

 まさか「オハヨウ!!」なんて挨拶するわけにはいかないだろう。

 確実に自分がミイラ男になる出番がきてしまう。

 ――と。


「オハヨウ!!」


 元気一杯の挨拶が辺り一面にこだまする。

 右手をハイタッチ待ちするように、高々と挙げてガキ大将の真後ろからアギトが……。


 ひいいっ!!


 リュートの冷や汗が、まるで頭からバケツの水でもぶっかけられたようにドシャアーッと流れる。

 だって、だって……真っ正面にいるリュートからはガキ大将の血管が完全にブチ切れる真っ赤な形相が丸見えだったんだもの……!!


 リュートはすぐさまガキ大将の横を素早くすり抜け、アギトの高々と上げられた手をハイタッチするのではなく、とっ捕まえてそのまま「ダメーッ!!」と叫んで猛ダッシュした。

 後ろは振り向くな……、振り向いたが最後……もっと恐ろしいものを目にする羽目に……!!

 そう心の中で叫びながら、リュートは校舎の中に駆け込み、アギトに有無を言わさず上履きに履き替えさせて、再びガキ大将に追いつかれないように教室へと逃げ込んだ。


 昨日の今日、またもや息を切らしながら二人とも隣同士の席に着いた。


「なんだよリュート、せっかく挨拶してやってんのに急に走り出しやがって……!」


 なんでだか本当にわかんない……とでも言うように、アギトが聞く。

 本当にわかってないのかどうかはわからないが、本気の本気でわかってないって言うなら鈍いにも程がある、とリュートは心の中でアギトには悟られないように呟いた。


「ガキ大将がいたでしょ、すぐ目の前に……! ミイラ男として……」


「あぁ、やっぱりか!! おまえのクリティカルヒットで得た勲章……」


「やめてよホント、それ考えただけで吐き気がするんだからさ」


 でも……本気でアギトの暴言をやめてほしいと思っているわけではない。

 心の奥底では自分も同じように「ザマミロ!」と笑っている自分が確かに存在しているのは間違いない。

 それに、そんなやり取りをすることができる『友達』が同じ教室にいるってだけで、それだけで心は満たされた。


 アギトといると不思議な気持ちになる。

 気分が高揚する。


 今まで自分は『自分の存在』や『自分の気配』を消すことだけしかできなかったのに、たった一日でこれまで築き上げてきた『虚無』を無くすことができるなんて思っていなかった。

 何重にも何重にも冷たく重たい扉に、複雑な鍵をかけてまで閉ざした心を、アギトはいとも簡単にこじ開けてしまったのだ。

 閉ざし続けてきた扉をこじ開けられたことに、恨みなんてない。

 今までの自分は何だったんだ!! とも思わなかった。

 だってそれは、扉の奥底で……冷たく重い扉を開け放して光を差し込んでくれる『誰か』を本当はずっとずっと長い年月の間、待ち続けていた自分がいたから……。

 扉を開いて覗き込んだのは、自分と同じ姿をしたもう一人の自分……。

 まるで分身みたいに、自分にないものを持っているアギトはまるで自分の半身のように感じた。

 一卵性双生児もこんな風に相手のことを感じるのかな?


 リュートがそんな感傷に浸っている間に、アギトが声を何度もかけているのにようやく気付いた。


「リュートってばよ!!」

「えっ!? ……何っ!?」


 爆睡してるところを突然大きな物音で起こされたような、それ位のリアクションをしてアギトの方を振り向いた。


「お前ホントいっつも魂どっかに行ってるよなぁ~、まぁそこがまた面白いんだけど」


 面白いというのはどういう意味なんだろう? とリュートは思ったが、とりあえず黙っていた。


「今度の土曜だけどさ、昨日ずっと考えてたんだけど。お前は何して遊びたい? オレとしてはやっぱゲームかなって思うんだけど、お前ゲームとかすんの?」

「あ、僕んちテレビゲームとか持ってないんだよ……」


 苦笑いして答えるリュート、そういえばアギトは趣味がゲームだって言ってたような……と呟いた。


「んじゃ、しないのか。よっしゃ、そんじゃゲームはオレんちに遊びに来た時にしようぜ! リュートんちでは何して遊ぼうか? お前は何か考えたのか?」


 意気揚々と何して遊ぶか会話している時、ガキ大将達が教室に入ってくるのが見えた。

 もう長年の習慣というか条件反射というか、はたまたパブロフの犬というか……ガキ大将を見るとつい体が硬直してしまう。

 リュートの挙動不審な視線に気づいたのか、アギトはちらりとガキ大将の方を見た。

 ガキ大将もアギトの視線に気が付き、ガンを飛ばす。

 それに反応してアギトは更に表情を歪めると、下から上に突き上げるようにガンをたれる。


 やーめーてー、お願いだからやーめーてー。


 泣きそうになるリュートを見て、さすがに大人げなかった……とでも言うように(珍しく)アギトの方から身を引く。

 しかしガキ大将の方はこちらに向かって来る気配がなく、そのまま自分の席へと歩いて行った。


 リュートはふと、ある不安がよぎった。

 もしかしてこれ、まさかだけど毎日続くの……!?

 そう思うだけでみぞおちの辺りがキリキリと痛み出して、リュートは机の上にうずくまった……。


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