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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
ラ=ヴァース編
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第279話 「歪んだ憎しみ」

 ユリアによる呪歌のせいで体が言うことを聞かないアギト達、そんな時サイロンの叫び声と共に床にうずくまっていたゲダックがいつもの「瞬間移動」する術でどこかへと消えてしまった。正直な所、今のアギトにとってゲダックがどこへ消えようとどうでもよかった。今はユリアの呪歌で苦しんでいるザナハを―――――――仲間達をどうにかする方が先だった。

 相変わらずアギト達の苦しんでいる姿を見て嬉しそうに笑い声を上げるジークの姿に、いい加減鬱陶しさを感じて来たアギトは彼を力の限り睨みつけながらどうにかしてこの呪歌から逃れる術がないかどうか模索する。


「中尉、フィアナを頼みます。」


 突然オルフェが抑揚のない声で隣で膝をついているミラに、抱き抱えていたフィアナを託した。ミラは怪訝な表情を浮かべながらフィアナを預かるとオルフェに声をかける間もなく彼は立ち上がり―――――――再びホーリーランスを右手に出現させる。


「大佐、一体何を―――――――!?」


 ミラが訊ねるもオルフェは振り向くこともなくジークを、立体映像として映し出されているユリアの方へと視線を向けたまま厳しい表情で立ち上がった。ユリアが今歌っている呪歌を聞いていると全身が重くなり、立っていることすら辛くなる。現にフロア内に居るジーク以外の人間は全てまともに立つことも出来ず膝を突くか、うずくまっているか―――――――立つことすら困難になっているこの状況でオルフェは少し苦渋を浮かべた顔で悠然と立ち上がっていた。


「敵が―――――――眷族がジーク一人ならばどうにかなると思っていましたが・・・。

 まさか師までもが眷族として立ちはだかる以上、全員無事に―――――――というわけにはいかなくなりました。

 せめて二人だけでも即刻、この先に進ませないと外の状況は悪化するばかりです。

 アビスグランドにはびこっている異形の眷族が負の感情を植えつけられた『アビス人』ということは、

 レムグランドや龍神族の里すらも、眷族の脅威に晒されるということになってしまいます。」

 

 オルフェの言葉が今一つ理解出来ないアギトは、後ろで立っているオルフェの方に疑問を浮かべた視線を投げかけた。


「つまり―――――――私達が目にした異形の眷族が、ディアヴォロにより一から生み出された魔物なら。

 発生源はここ、クジャナ宮を中心にして眷族が侵攻して行く形となります。

 しかし負の感情というものは必ずしも、ディアヴォロが眠るクジャナ宮を中心にばらまかれるというわけではありません。

 目に見えないウィルスのように、大気中に含まれるマナのように―――――――遥か遠くへ範囲を広げることが出来る。

 それがどういうことか、わかりますか?」


「それって・・・魔物が自分達の足で侵攻するより、負の感情の方がずっと早くに他国へ行っちまうってことか!?」


 アギトの顔に焦りが浮かぶ、オルフェがすぐにでもこの戦いを終わらせようとしている理由がわかった。負の感情に冒されている人間は以前にもレムグランドの首都で見かけたことがあった、ディアヴォロの本体があるのはアビスグランドなのにも関わらずディアヴォロの悪影響を真っ先に受けたのはレムグランド。

 先程オルフェが言ったように現在出現している化け物の姿をした眷族が、ディアヴォロ本体から生まれて来るものならばこの地で足止めさせて他の国に被害が及ばないようにすることが出来た。しかし負の感情に冒された動植物や人間だった場合、それらは必ずしもこの地で発生するものとは限らないのである。

 人間なら誰しも心の中に闇を持っている、その闇が強ければ強い程―――――――ディアヴォロの負の感情に冒されやすくなるのだ。そんな闇を持ってる人間が他国に居れば当然その人間は負の感情に冒されて、最悪異形の眷族へと変貌してしまう。

 そうなれば全世界がパニック状態となり、守りたいものが守れなくなる――――――。

 一刻も早くディアヴォロを完全に廃棄しなければいけない、そういう状態であることを突き付けられたアギトとザナハはこんな所で苦しんでいる場合ではないと自分に言い聞かせ、殆ど気力だけで起き上がろうとした。


「アギト、私が合図したらザナハ姫を連れて奥の通路へ走りなさい。

 恐らくルイドもリュートもその先に居る、このまま真っ直ぐ行けばここよりもっと広いフロアに出るはずです。

 そこは『アルトスク決闘場』と呼ばれる場所で、多分ルイドはそこで君のことを待っている。

 光の戦士と闇の戦士が雌雄を決する場所として創世時代から存在する場所―――――――、そこを目指しなさい。

 そしてディアヴォロに冒されたルイドを解放してやるのです、それが出来るのはアギト・・・君しかいません。」


「でもオルフェっ! ルイドは・・・ルイドは――――――っっ!」

 

 ザナハは必死に、すがるような口調でオルフェに訴えかけようとしていた。しかしもはやザナハの願いを叶えることは出来ないのだと、もう手遅れなのだと諭すように―――――――オルフェはただじっと、静かにザナハを見据えながら訊ねた。


「ルイドは姫に向かってたった一言でも―――――――、『生きたい』と口にしましたか?」


「―――――――っ!」


 ザナハは反論出来なかった、口を固く閉ざしオルフェの瞳を捉えていた大きな両目は、やがてゆっくりと床を見つめる。それから両の拳に力を込めて、小さく―――――――ゆっくりと首を横に振った。


「姫の辛さはわかります、だからこそ大切な者の願いを叶えてやる―――――――そう思えませんか。」


「願いを―――――――叶える、ルイドの望み・・・。」


 オルフェの言った言葉を、ザナハは小さく呟くように繰り返した。オルフェがザナハに向かって何の話をしているのかハッキリとわかっていないアギトは眉根を寄せながらも、決して口を挟まなかった。ザナハの辛そうな表情が、オルフェの諭すような口調がそれをさせなかったのだ。

 すると突然アギト達を苦しめていた呪歌が聞こえなくなり、フロア内に居た者全員の体が軽くなった。今まで重りを背負ったような感覚でいたのが突然それから解放され自由になったので、一体何が起こったのかとアギトはザナハやオルフェ達の方に視線を配る、しかしその答えをくれる間もなくオルフェが突然叫んだ。


「今です、ザナハ姫を連れて走りなさい!」


 わけがわからずアギトはザナハの手を引っ張ってジークが立っている方向へと走り出した。ジークからの妨害も想定し、アギトは剣を左手に握ったまま走って行く。その時ジークのすぐ隣に映し出されていたユリアの映像が目に入り、なぜ呪歌が突然中断したのか理解した。そこに映し出されていたのはユリアと―――――――先程、空間転移の術で行方をくらましたゲダックであった。

 ゲダックはユリアのいる場所へと瞬間移動し、呪歌を歌えない状態に持ち込んだ様子である。しかし彼はあくまでアギト達の敵、4軍団。元々アギト達をこの先に通さないように妨害していたはずが、なぜ自分達を助けるような真似をするのか疑問が残るが今は考えている暇すらないと判断した。

 そしてオルフェが言っていた『合図』というのも、恐らくゲダックがユリアの元に行って呪歌を歌えなくさせるということを想定してのことだったかもしれないと考えた。

 ユリアの呪歌が中断されてジークも少し驚いているのか、自分の方に向かって走って来るアギトを見るなり両手に脇差を構えると、腰を低くしていつでも攻撃に移れる体勢を取る。


「クリムゾンフレア!」


 オルフェの炎系魔術が炸裂する、螺旋を描くように放出された炎がジークを襲う―――――――しかし。


「フリーズランサー!!」


 ジークは早口で呪文の詠唱を終えるとすぐ目の前まで迫っていた炎の渦に向かって、氷の刃が無数に放たれる。炎と氷は相克属性、加えて互いの魔力や魔術の威力がほぼ同等だったせいか、オルフェが放った炎の魔術とジークが放った氷の魔術は衝突したと同時に相殺されてしまった。

 しかし魔術が相殺する程度のこと、オルフェは気にしていない。要はジークから注意を逸らすことが出来ればいいのだから。

 ジークが魔術の天才であるオルフェの放った「クリムゾンフレア」を相殺し、自分の力を誇示して悦に浸った瞬間―――――――アギトとザナハは素早くジークの横を通り過ぎて行ったのだ。

 全てはアギトとザナハをこのフロアから脱出させる為であり、最初からジークを倒す為に放ったわけではなかった。

 当然オルフェはジークがアギト達を追撃するだろうと先を読んで、体が自由になったミラに援護射撃をするよう目線で合図を送っていた―――――――が、彼は追撃するどころか余裕の笑みを浮かべたまま・・・走り去って行くアギト達の背中を見送るだけだった。

 勿論アギト自身も通り過ぎた後に何か攻撃を仕掛けられると思って、後方を仕切りに気にしていたのだがジークに何をされるでもなかったので多少拍子抜けしながら、ザナハの手を強く握ったまま走り去って行く。


 オルフェの側で銃を構えるミラ、そのすぐ隣で倒れているフィアナ―――――――そしてフロアの隅にはサイロン達と4軍団、全員の状態を目で確認してからオルフェは再び不可解な行動に出たジークへと視線を戻す。


「なぜ二人を行かせたのです?

 ディアヴォロにとって光の戦士とはこの世で唯一の破壊者、―――――――言うなれば天敵のはず。

 あなたの主を倒せる力を持つアギトを先に行かせて、一体何を考えているのです。」


 オルフェの質問にジークはただ面白おかしく笑みを浮かべるだけだ、彼のそんな嘲笑に見飽きたオルフェの瞳はより一層冷たさを増し、情けの欠片もない冷酷な顔へと変わっていく。ミラもまた照準をジークにしっかりと合わせたまま、次の動きを待っていた。


「くくく・・・っ、くははははは・・・っ!」


「何がおかしい。」


 いつもなら聞き流すか、全く相手にすらしないオルフェが―――――――苛立ちを露わにした口調で言い放った。そんな彼の異変にいち早く気付いているのは・・・やはりミラだけである。照準を合わせたままでも時折ミラの視線はオルフェの方へと移り、どこか不安を抱いているような表情で気にかけていた。


「確かに光の戦士がディアヴォロ様の元へ行くのは好ましくないなぁ・・・、全然良くないよ。

 この先へ進ませるということは、アルトスク決闘場で待ち構えているルイドと戦うことになる。

 ディアヴォロ様の核を宿したルイドは生かしておかなくちゃいけない、ご主人様の大切な命を宿してるんだからね。

 でも―――――――それとこれとは話が別さ、僕の願いを叶える為にはね。」


「お主の願いとは一体何なのじゃ、それもイフォンと関わりのあることだと言うのか!?」


 床に伏せっているヴァルバロッサとブレアが負に冒されてないように側につきながら、サイロンが厳しい口調で聞き返した。するとジークは待ってましたと言わんばかりの顔で、サイロンやオルフェ達を見据えながら言い放つ。


「イフォン―――――――、エヴァンの弟か。

 あいつにはもっとおいしい所をくれてやるようになってるんだから、そう焦るなよ。

 そんなことより僕の願いが何なのか聞きたいんだろう? ―――――――いいよ、教えてやるさ。」


 そう言葉を並べながらジークはちらりと管制室での様子がずっと映し出されている立体映像の方へと視線を移す、そこにはユリアとゲダックの攻防が途切れ途切れで窺うことが出来たが―――――――やがて二人の戦いの影響により、途中で映像が完全に途切れてしまった。どちらにしろこのフロアで起きている出来事は管制室のモニターに全て映し出されているので、今ジークがしている行為も全てユリアに悟られていると承知していた。

 それでもジークは構うことなく自分の思うがまま、―――――――したいままに振る舞う。


「僕の願いは―――――――、ルイドって名前のクソ野郎に早くくたばってもらうことさ。

 奴は僕から全てを奪った汚い男だ、闇の戦士としての使命も、アビスグランドの英雄という肩書きも、エヴァンの愛も!

 何もかもこの僕が得るはずだった名誉ものだ、それを奴は後から出て来て全てかっさらって行きやがった!

 どいつもこいつもルイドルイドって、あの野郎が何だって言うんだよ!

 本当ならこの僕が・・・っ、エヴァンと共に精霊契約の旅に出て・・・闇の戦士として活躍するはずだったんだっ!

 それを―――――――、奴はこの世界にやって来た瞬間から既に精霊との契約を交わした後だった!

 2体のアビス属性の精霊と契約済みで異世界から来たあの男を、前例にない戦士として丁重に迎えやがった!

 ミズキの里の連中も―――――――、元老院共も―――――――、挙げ句にはアビスグランドの王族でさえ!

 この僕をないがしろにして後からしゃしゃり出て来たあの男に、闇の戦士の資格を与えやがったんだ!

 何がアビスグランドの英雄だ―――――――、僕が手に入れるはずのものを後から横取りしただけじゃないかっ!

 あんな奴・・・この世に必要ないんだよ、死んじまえばいいんだっ!

 僕がエヴァンに想いを寄せていたことも知ってたくせに、あいつはエヴァンの愛を拒絶した!

 一体何様だ! エヴァンを拒絶し―――――――殺しやがった、見殺しにしやがったんだあいつはっ!

 そんな奴がなんで今の世でも英雄扱いされなきゃいけないんだ、あいつは何も救ってなんかいないのにっ!

 誰もがあいつを英雄と呼ぶ、最強の闇の戦士だと敬う、だがあいつは何ひとつとして成し遂げてなんかいないんだ!

 レムとアビスの戦争を終結させただけで根本的な問題は何も解決なんてしてない!

 ディアヴォロだって倒したわけじゃない、今だってこのクジャナ宮の奥で復活の日を待っている!

 どいつもこいつもバカさ、大馬鹿だよっ!」


 ジークは狂気に満ちたように激しい憤りをぶつけた、ルイドに対する恨み―――――――それが大きく膨れ上がり本人にも衝動を抑えることが出来ない様子である。自分の思いを吐き出し、その憎しみが当然のものだと訴えるように―――――――まるでオルフェ達に同意を求めるようにジークは声を荒らげながら、自分の思いを明かした。

 しかしオルフェもサイロンも―――――――誰一人としてジークの憎しみに同意する者はいない、冷ややかな眼差しで―――――――蔑むような瞳でジークのことをただ黙って見つめるだけであった。

 当の本人は彼等の視線に、考えていることに気付いていないのか―――――――なおもルイドに対する怒りや、ルイドと関わった多くの者達を卑下する言葉を続ける。


「ホント笑っちゃうよね・・・? 誰もがあいつを信じて、言う通りに動いて来た。

 本当のあいつの目的を何も知らずにさ、里の連中もルイドの名を聞いただけで・・・顔を見ただけで信頼してさ。

 愚の骨頂だよ、4軍団もミズキの里の連中も元老院もパイロンもベアトリーチェもみんなみんなみんなみんなっっ!!

 ルイドに手駒にされてることすら気付いてない!

 操られてるとも、利用されてるとも、都合よく動かされてるとも、どいつもこいつも誰一人として疑わなかった!

 あいつは信頼出来るような男じゃなけりゃ、頼りになる戦士でもない―――――――っ!

 誰よりも貪欲で、誰よりも自分の願いを優先し、そして誰よりも冷酷な男さ・・・。

 それに気付かない愚か者共・・・、哀れで空しい使い捨て共・・・。

 だから誰よりも優しくて慈悲深いこの僕が、気付かせてやるんだ。

 ルイドという名の独裁者からお前達を解放してやるよ、だから邪魔しないでくれるかな?

 あいつには光の戦士の刃でぶっ殺されるのが一番お似合いだろうからさ、そして自分が愛する神子の目の前で!

 無様にくたばっちまえばいい、それこそあいつの末路に相応しいんだ。」


 自分の胸の中でずっと抱えていた思いを、憎しみを、怒りを全て吐き出したジークはやっと冷静さを取り戻したのか、呼吸を整えてから再び冷酷な笑みを浮かべた。だがその笑みは今までのように他人を見下すような、侮蔑を込めたものではなく抱えていたものを全て吐き出したことで、心が晴れたような―――――――すっきりしたような笑みになっている。

 それからジークはオルフェ達の反応を窺うように見渡す、すると最初に沈黙を破ったのはオルフェであった。

 

「―――――――どんな立派な理由があるのかと思いきや、まさかただの愚痴を聞かされるとは思いませんでした。」


 オルフェの呆れた口調にジークは当然かちんときて、怒りの入り混じった瞳で睨みつけた。


「別に私はルイドのことを心から信用しているわけではありませんし、擁護するつもりもありません。

 ただ―――――――これだけ面倒なことをしておいて、最終的に何をするのかと思えば・・・。

 憎しみの対象であるルイドを手に掛けるのは自分ではなく、光の戦士に代行させるとはね。

 あなたが言ってることは全く筋が通っていない、むしろその程度のことかと呆れかえる程ですよ。

 これ以上面白くも何ともない御託を聞かされるつもりはありませんからね、さっさとケリを着けさせてもらいます。」


「僕の言ってることが―――――――、筋が通ってないだって!?

 はっ、そりゃそうだね。お前達は何も知らないんだから、僕の崇高な考えを理解出来るはずがない。」


 オルフェの言葉に屈することなく、なおも自分の考えを曲げようとしないジークにサイロンが静かな口調で訊ねた。


「ジークよ、仮にもお前は闇の戦士の資格を持った者じゃ―――――――出来れば無下にしたくない。

 ここにはお前を大切に思っておった父親、ヴァルバロッサもおる。

 それに―――――――ここにいる者、全員を相手にお前一人で戦うつもりかのう・・・。

 悪いことは言わん、ここはひとつ闇の戦士としての誇りを胸に道を開けてはくれんか?」


 サイロンはイフォンのことを忘れたわけではない、先程のジークの言葉にあった通り―――――――イフォンは確実にこのクジャナ宮にいることがわかった。そして姉の仇を討つ為だとイフォンをそそのかし、ここまで連れて来たこともわかった。

 ここでジークを宥めることが出来ればイフォンのいる場所へ案内してもらえるかもしれない、サイロンはそんな淡い期待を胸にジークに交渉を試みたのである。

 だがそれもすぐに、サイロンの考えが甘かったと立証されてしまう。ジークはサイロンに対して侮蔑を込めた眼差しを向けると吐き捨てるように荒い口調で断った。


「僕のことを最初に認めなかった奴が、今頃なんだっ!

 もう遅い、―――――――もう何もかも遅すぎるんだよ! 僕は闇に落ちた戦士、闇の眷族となった!

 その僕がお前達に敵わないとでも言うつもりか、この僕は! 死をも超越した存在になったんだぞ!

 当然お前の言い分なんて却下だ、思い通りにさせてたまるか! この世は全て僕の思い通りになればいいんだ!

 ルイドが死んで! あのクソ野郎に核を寄生させ! そしてディアヴォロ様を完全に復活させるんだ!

 クジャナ宮の機能が働いた今、ここはディアヴォロ様の要塞となり地上全てを支配するんだ!!」


 そう叫び、ジークは全身に宿る闇のマナを解放した。まるですぐ目の前に竜巻が起こっているようにドス黒い闇のマナが渦を巻いて激しく吹き荒んでいる。オルフェ達は武器を構え、ジーク一人に狙いを定めた。

 ユリアがいない今なら勝つ見込みはある、しかしここに再び現れないとも限らない。以前ゲダックにトドメを刺したと思って逃げられたことのあるオルフェは、少なからず彼の体の秘密に関する憶測をしていた。死なない体、というわけでもないのだろうがともかくゲダックの肉体はそう簡単に死なないように出来ている。

 そんなゲダックといえど、あのユリアを相手にいつまでも無事でいるとは思えなかった。オルフェは最悪のパターンすら想定して戦いに臨んだ。一刻も早くアギトの後を追わなければいけないからである。


(アギトに体得させた秘奥義―――――――、恐らくルイドとの戦いで使うはずです。

 しかしあの術はリスクが高過ぎる為、必ず私がすぐ側にいる状態で使用するように言ってありますが。

 アギトの性格のこともありますし―――――――、何よりルイド相手ともなれば使わないわけにはいかないでしょう。

 せめて私が追いつくまで、秘奥義を発動させていなければいいのですが―――――――。)

 

 

 


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