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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
ラ=ヴァース編
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第276話 「カルマ」


 ドルチェの名前を叫んだのは、オルフェだった。


 誰もがドルチェの行動に絶句する中、オルフェは名前を叫んだと同時に駆けて行き―――――――ゆっくりと倒れて行くドルチェの体をしっかりと抱き留めていた。すぐにザナハも駆けつけて治癒術の上級魔法をドルチェに施そうと詠唱に入る。


 自害しようと倒れたドルチェを目の当たりにして―――――――、フィアナは命すら賭けた憎しみと怒りをぶつける行き場を失ってしまい立ちすくんでいた。フィアナ自身も目の前で何が起こったのかうまく飲み込めていない様子である。しかしひとつだけハッキリしていることがあった。

 生死の境をギリギリの線で保っているドルチェを床に寝かせ、必死になって治療を施そうとしている兄オルフェの姿。焦りすら混じった表情で、懸命にドルチェの名を叫び続ける――――――そんな姿をフィアナは初めて見た。



 ―――――――どうして?

 あたしが死にかけた時には、何もしてくれなかったくせに―――――――!



「なんで・・・っ、どうして!? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでっ!―――――――なんでよっ!」

 

 フィアナの心の奥底から再びドス黒い感情が湧き上がって来て憎々しいまでの怒りを吐き出す、取り巻く闇が更に濃さを増してフィアナを纏っているその光景は、まるで黒い炎に包まれているようであった。

 激しい憎しみをぶつけてくるフィアナにアギトは混乱しつつ、ドルチェの命を救おうと必死に対処しているオルフェやザナハが攻撃されないように盾となる。アギト自身も何がどうなっているのかわからない、傍から見た限りでは能力が劣化していたのはフィアナの方であり、むしろドルチェが優勢という立場であった―――――――にも関わらず、フィアナが全てのマナをあの不格好な人形に注ぎ込んだ途端に―――――――ドルチェは自ら命を断とうとしたのだ。

 アギトの後方ではドルチェが「ごほっ」と小さく咳き込みながら吐血している光景が横目で見えた、仲間が死にかけている。そんな考えが頭の中をよぎった瞬間、アギトは途端に怖くなった。

 しかしフィアナは闇に取り憑かれたまま更に表情を歪め、なおも生命を燃やし尽くす勢いで人形に全てのマナを注ぎ込もうとしている。怒りと苦しみと悲しみと憎しみでぐちゃぐちゃになったフィアナを止める為に、アギトが剣を構え直した時だった。


「―――――――もう、いいの・・・。」


 小さな声がした、微かに―――――――弱々しく―――――――今にも消え入りそうな声でドルチェが口にした。

 アギトが振り向くとドルチェは小さな手をフィアナの方にゆっくりと、まるで手を差し伸べるような仕草でかざしている。しかしアギトはドルチェが今にも死にそうになりながら、フィアナに呼びかけようとしている光景に驚いているわけではなかった。

 

「ドル・・・チェ? お前―――――――手が透けて・・・っ!」


 見るとフィアナの方に差し伸べている手の先がうっすらと、指の先から徐々に透明になって行くように透けて見えたのだ。オルフェも側でそれを確認しつつ―――――――何かを悟ったかのように黙って見つめながら、覚悟を決めた眼差しでザナハに合図を送る。

 オルフェのすぐ隣で光属性最上級の治癒魔法「エンジェルブレス」を詠唱していたザナハの肩に手を置き、静かに―――――――ゆっくりと首を横に振るオルフェに―――――――ザナハの瞳孔は開き、絶句したままドルチェを見据えた。

 ミラもドルチェの異変に気付き、すぐ隣にひざまずくと瞳に涙を浮かべながらドルチェの顔を覗き込んでいる。そしてゆっくりとオルフェの方にも視線を送り、彼の表情からある程度悟ると―――――――再びうつむいて、そっとドルチェの頭を撫でた。

 フィアナは消えかかっているドルチェの手に気付き、狂気に満ちた笑い声を上げる。


「あはははははははははっ! あたしの勝ち―――――――あたしが勝ったのねっ!?

 あたしの憎しみがっ! あたしの願いがっ! あたしの存在があんたの存在を上回ったっ!!

 これであたしは本当の意味で生まれ変われるのよ、完全な存在として復活出来る!

 今まで不安定だった2つの魂がようやく1つに・・・、正しい形に戻るのよっ!

 あたしは消えない―――――――、あたしは死なない―――――――、あたしが本当のフィアナなんだからっ!!」


「――――――――――――――違います。」


「―――――――え?」


 フィアナの笑いが止まった、オルフェは冗談も何もない真剣そのものの顔で真っ直ぐに笑い飛ばしていたフィアナを見据えながら、はっきりとした口調で否定する。歓喜に満ちていたフィアナの周囲には先程まで増幅していた闇のオーラが鎮静化していて、わずかに安定を保っているがそれでも黒い炎がフィアナの全身を包み込んだまま、―――――――闇のオーラを纏ったままであった。

 フィアナは怪訝な表情を浮かべながら、オルフェをじっと見つめ返す。


「本当の―――――――、オリジナルのフィアナはここに・・・。

 今まさに死に直面しているドルチェこそが―――――――私の妹の、オリジナルに最も近いコピーです。」


 それを聞いて絶句していたのはフィアナだけではなかった、アギトもザナハも―――――――石のように固まって突き付けられた事実に絶句するだけ、誰もがオルフェの言葉の意味を理解出来ず―――――――ただ驚いていた。


「私の本当の妹であるフィアナは―――――――双つ星の実験で命を落とし、いえ・・・私がこの手で殺しました。

 全身を巡るマナの乖離がどんどん進んで行って・・・実験は失敗したんだと誤認した私は、私の身代わりとして

 自らを実験台にしたフィアナを―――――――せめて楽に死なせてやろうと、この手で・・・絞殺したんです。」


 初めて聞いたオルフェとフィアナの過去に、アギトはショックを隠しきれなかった。ごくっと生唾を飲み込みながら両目を見開き、黙って―――――――ただ黙ってオルフェの話に耳を傾ける。


「だが実験は失敗していなかった。

 戦士の資格を持っていないフィアナを使った実験だった為、双つ星自体を生み出すことは出来ませんでしたが。

 夜空に浮かぶ青い星―――――――、一年に一度だけ『聖なるスピカ』が最高の輝きを放つとされる聖夜

 『エクラ・リュミエール』を迎えた時、―――――――奇跡が起きました。

 フィアナが死んでから数年経っていたにも関わらず、フィアナのマナの塊を魔道器が感知したんです。

 私は『死者の魂』などという不確かで曖昧な存在を信じていませんでしたが、その時はさすがに揺らぎました。

 龍神族の肉眼でしか目視することが出来ないマナを感知する為の魔道器、それが確かにフィアナのマナだと断定し、

 私はその時・・・不可能とされていた異端の技術―――――――『コピー技術』をほぼ完成に近い状態まで形に

 していたので、早急にフィアナの肉体情報を打ち込んで―――――――突如現れたマナの塊と融合させたんです。

 肉体情報とマナ情報が完全に一致しなければコピーを生み出すことは出来ない、そしてそれは完全に一致した。

 『コピー』という新たな肉体を得た彼女に、私は古代レヴァリアース言語で『再誕』という意味を持つ名前を与えました。

 『ニアドルチェスカ』と―――――――。」


「うそ・・・。」


 小刻みに震えながらフィアナが漏らす。


「嘘うそウソっ! 全部嘘よ・・・デタラメよっ!

 何の感情もない―――――――フィアナとしての記憶も持たないそのボロ人形が・・・っ!

 そんな出来損ないのガラクタが本物のフィアナだって言うなら、―――――――だったら今ここにいるあたしは

 一体何だって言うのよっ!

 全部嘘だわ・・・。そうよ、あたしに嘘をついて騙そうとしてるだけよっ!

 だってあたしには記憶がある! お兄様と一緒に過ごした思い出がっ! 確かにここにちゃんとあるもの!」


 そう叫びながらフィアナは片手を自分の胸に押し当て、必死になって否定した。すると息も絶え絶えになりながらオルフェの話を聞いていたドルチェもまた―――――――フィアナと同じように反論する、今にも深い眠りに落ちてしまいそうな虚ろな瞳で。


「大・・・佐、あたしは―――――――フィアナの・・・代わり。

 心も・・・記憶も・・・何もない、空っぽの存在―――――――それがオリジ・・・ナルの、はずが・・・げほっ!

 ―――――――はぁ、はぁ・・・っ! あたしが消えれば・・・っげほっ、うぅ・・・っ!」


「ドルチェ、それ以上喋ってはいけません。

 わずかに心臓を逸れていたとはいえ傷が深い上にマナの乖離が続いている、苦しみは尋常じゃないはずですから。」


 オルフェの言葉に従うようにドルチェは浅く早く呼吸をしながら必死に苦しみに耐える、それからゆっくりと消えかけていた片手を自分の目の前に持って行くと、すでに片腕は肘の部分まで消えかかっていた。

 ドルチェの苦しそうな姿を目に、アギトは遂に我慢しきれなくなってオルフェに詰め寄り叫んだ。


「だったら今すぐ何とかしろよ! こんな時に過去話をべらべら喋ってないでさぁ!

 もう見てらんねぇよ・・・っ、こんな姿これ以上見てられるわきゃねぇだろオルフェっ!!」


「アギト君―――――――。」


 アギトの泣き叫ぶような言葉を聞いたミラが悲しそうな表情でアギトの肩に触れると、首を振りながらオルフェの代わりに説明する。


「マナの乖離が始まってしまったら、もう手の施しようがないんです。」


「―――――――え!?」


「人体を巡るマナとは命を繋ぐ生命線、とでも言いましょうか。

 そしてマナの乖離とは体内を巡るマナが徐々に失われていく現象のことを言います、つまり・・・。

 マナの乖離が始まってしまった者を救う手立ては何ひとつありません、徐々に『個』を構成していたマナが

 世界に循環される為に光の粒子となって乖離していき―――――――やがて跡形もなく消失してしまいます。

 この現象は人工的に生み出された『コピー』と、コピー作成時の被験者にしか起こり得ないものなんです。

 回復魔法をかけようものならマナの乖離を早めてしまうだけで、何の解決にもなりません。」


 アギトはそのまま床に膝をついて力なく崩れ落ちた、―――――――また何も出来ない。

誰もがおのれの無力さに打ちひしがれている時、フィアナは苦し紛れに笑い声を上げた。


「ふふ・・・っ、あははは・・・っ! 消える! 消える! 消えてしまえばいい!

 オリジナルだろうが何だろうが関係ないわ!? 最後まで生き残った方がフィアナとして生き続けるだけだもの!

 あたしには全てがある、心も! 感情も! 記憶も! 何もかもが揃っている! それがフィアナとしての証よ!」

 

 そう言い放ちながらフィアナもまたうなだれるように崩れ落ちると、四つん這いになりながら―――――――震えながら自分に言い聞かせた、『これで邪魔者がいなくなる』と、『兄の愛を独占出来る』と・・・。

 するとドルチェは再び語りかけた、苦しそうに咳き込みながら再びフィアナの方へと腕半分が消えた状態で差し伸べる。


「あたしは―――――――あなたに還る、それが・・・あたしの望み・・・っ!」


「―――――――なんですって!?」


「はぁ・・・はぁ・・・っ、あたしはずっと・・・自分がフィアナの出来損ないのコピーだと、信じて・・・た。

 双つ星はいつかひとつに還る、―――――――コピーならなおさら・・・その命は、儚く短い。

 なぜなら・・・弱い方は、強い方へとマナを搾取され続けてしまうから・・・っ!

 マナを・・・、能力を・・・、成長を・・・っ!

 だからあたしはそれまでの間の、ただの『繋ぎ』でもいいと・・・思ってた。」


 フィアナは顔を上げて消えかかっているドルチェを見据え、憎しみを込めて吐き捨てるように言い放った。


「だったら消えてよ・・・、その言葉通りに『ただの繋ぎ』としてあたしの目の前から居なくなってよ!」


 少し間を置いてからドルチェは、半分に開かれた虚ろな瞳をアギト―――――――そしてザナハに向けながら話し続ける。


「でも―――――――、今は違う。

 今は死ぬのがすごく怖い、このまま消えてしまうのが・・・怖くてたまらない。

 『ただの繋ぎ』としての自分が、とても悲しい―――――。」


 『悲しい』――――――、その言葉にドルチェの周囲を囲んでいた仲間達の表情が変わった。

今までドルチェに人間らしい感情というものが感じられなかった、希薄といってもいい。ただ淡々と割り切れる機械のようだったドルチェの姿を今まで見て来た彼らだからこそ、今のドルチェの発した言葉がとても嬉しく―――――――とても悲しく感じられた。


 ドルチェに人間らしい感情が宿ったのかもしれない、しかしそれもほんの一瞬。

今にも消滅してしまうこの一瞬にだけ芽生えた心―――――――、そう思うと胸が苦しくなるばかりだった。


「アギトが・・・、リュートが・・・、ザナハ姫が・・・、みんなが教えてくれた心。

 今なら少しだけわかる気がする、今あたしが感じてる思いが―――――――悲しいという気持ちなんだって。

 悲しい―――――――、心が苦しい―――――――、とても寂しい―――――――。

 でも・・・あなたはずっと、あたしになかったそんな感情を胸に秘めていたのね・・・?」


「――――――――――――――っ!」


 フィアナの顔色が、表情が変わった。口元をきゅっと引き締め、眉根を寄せながらそれ以上ドルチェの口から放たれる言葉を聞きたくなかった。


「苦しくて悲しくて・・・それを理解してくれる人が側にいなくて、ずっと孤独で・・・。

 そんな感情を持ち合わせていなかったあたしのことが憎くて、・・・何の苦しみも持たないあたしのことが恨めしくて。」


「・・・黙れ。」


「でもあたしには仲間がいてくれた・・・、大佐が・・・中尉が側にいてくれた・・・。」


「・・・黙れっ。」


「いつの間にかあたしは『ただの繋ぎ』としてではなく・・・、『一人の人間』として生きられることを知った。

 気付くのにとても時間がかかってしまったけれど、―――――――でも今ならあなたの気持ちが痛い位によくわかるの。

 ―――――――フィアナ、あなたは・・・っ」


「黙れって言ってるでしょおおおおおおおおおおっっ!」


 激昂したフィアナはマナを注ぎ続けた人形を操り、ドルチェに向かって攻撃を仕掛けた。高く高く舞い上がった人形もまた黒いオーラを纏いながらドルチェめがけて急降下して行く。

 アギト達はそれを見てドルチェをかばおうと武器を手にしようとした瞬間、ドルチェのたった一言によって人形の動きを止めた。



「―――――――ただ認めてもらいたかっただけなのよね?」



 ドルチェに攻撃が当たる寸前、人形の動きが完全に止まっていた。人形を操る魔力の糸が完全に断ち切られて、そのままあっけなく人形は床に落ちてしまう。

 遠くで体を震わせながら、フィアナは大粒の涙をぽろぽろと流しながらドルチェを見つめていた。

 その瞳は闇に冒され黒く変色したものではなく、透き通るようなガラス玉のような輝きを放っている。


 ―――――――ディアヴォロの闇から、解放されたのだ。


「なん・・・でぇ? どうしてあんたなんかに・・・っ、なんであんたなんかにあたしの気持ちが・・・っ!

 わかってしまうはずなんてないのに―――――――、理解されるはずなんか・・・っ!

 ―――――――これっぽっちだってないはず・・・なのにっ!」


「あたしとあなたは二人で一人の存在―――――――、互いが互いを補うように存在してる。

 昔のあたしなら・・・あなたの思いを理解することすら、出来なかったかもしれない。

 こうしてマナが乖離しながら―――――――もう一人の自分へと還ることで、『フィアナ』の記憶が

 あたしの中にも、こうして流れて来る。

 『フィアナ』は―――――――、大佐に自分のことを認めて欲しかったのよね?

 自分を見て欲しかった、存在に気付いて欲しかった、愛されたいという気持ち以上に認めて欲しかった。

 いつも自分をすり抜けて遠くを見つめている兄、自分は此処に居るのにって思っても気付いてもらえない。

 兄のことを一番愛しているのは自分なんだって、わかって欲しかった。

 兄のことを一番理解しているのは自分なんだって、気付いて欲しかった。

 そうやって思い続けている自分のことを、見て欲しかった。

 でも―――――――もう大丈夫、これからは『フィアナ』として大佐の側にいられるから・・・。

 2つに分かれた魂が―――――――、再び1つになることで・・・あたし達はやっと『フィアナ』になれるから。」


 嗚咽しながらフィアナは顔を上げ、下半身まで乖離が進んでいるドルチェの方を見つめると無意識に駆け寄っていた。つまづいて転びそうになりながらもフィアナは急ぐようにドルチェの側へ走って行き、完全に消えてしまっている足元に座り込むとドルチェの顔を覗き込む。その表情には憎しみも、怒りもなく―――――――誰かを愛しく思いながら心配する幼い少女の顔が、そこにはあった。


「こんなあたしのことを、・・・受け入れるの?

 今まで散々酷いことをして来たのに、―――――――自分が生き続けようってどうして思わないの。」


「確かにあなたが今までしてきたことは決して許されるようなことじゃない、だからこそ・・・。

 だからあなたには―――――――、これからも生き続けて欲しいって思った。」


「―――――――罪滅ぼしをする為に?」


「ううん・・・違う、それもあるけど・・・でも―――――――少し違う。

 あなたはあたしのことを空っぽだと言った、でもあたしから見ればあなたにも足りないものがあった。」


「あたしに・・・足りないもの?」


「そう―――――――、あたしにはもう十分過ぎる位・・・。

 だから今度はあなたにも得て欲しい。

 そう思ったから―――――――だからこれからは、あなたが『フィアナ』として生きて?」


 お腹の部分まで消えて行くドルチェにすがりつくように、夢中になって話しかけるフィアナはまだ消えていない片方の手を強く、強く握り締めながらドルチェに話しかけた。


「あたしに足りないものって、なに!?

 教えて―――――――、答えて!? ねぇ・・・あたしには何が足りなかったの!?

 それを教えてくれるまであたしはあなたのこと―――――――っ、このまま消えるなんて許さないんだからっ!

 いや・・・っ、消えないでっ!

 あなたが手に入れたものって一体何なのよ、お願いっ! いやぁ・・・っ!

 消えちゃヤダああああああああああっっ!!」


 泣き叫びながらフィアナは消え行くドルチェを両手で抱き締めると、―――――――ドルチェは心の底から満足したように柔らかい笑みを浮かべて・・・消えて行った。

 アギト達ですら今まで見たことがない、ドルチェの―――――――心からの微笑。


 うっすらと光の粒子となって消えて行ったドルチェの体、しかし宙を彷徨うように漂っているドルチェのマナは・・・抱き締めた形のままで号泣しているフィアナの体を優しく包み込むように、まるで泣き叫ぶフィアナを抱き締めるように纏わると―――――――そのままフィアナの体へと浸透していった。


 肩を震わせ泣き続けるフィアナを、―――――――オルフェは初めて優しく抱き締める。

愛しそうに、壊してしまわないように、とてもとても大切そうに―――――――。 

 



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