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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
ラ=ヴァース編
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第273話 「闇の眷族・ジーク」

 ヴァルバロッサは全身を小刻みに震わせながら奥の通路から現れた眷族の青年を見つめ続けていた、「ジーク」と名を呼んだヴァルバロッサと青年の方を交互に見つめるブレア達。その顔にはわずかに焦りの色が混じっている。


「どういうことなの、ヴァルの息子なら―――――――先の大戦の時にルイド様が!」


 ブレアは目を凝らすようにジークを見つめながら声を漏らした、そんな時ゲダックはブレア達とは明らかに異なる反応で興味深げにジークのことを凝視している。


「まさかネクロマンサーの術が!? やはり死者の復活は可能じゃったのか!」


 口々に異なった反応を見せる4軍団。ジークと言う名の青年に関して全く話がついていけないアギトは、剣の柄を握る拳に力を込めながら声を荒らげようとした。しかしその寸前にジークの声が響き渡った。


「あーあー、うるっさいなぁ・・・そんなことはどうでもいいんだよ。

 そんなんより何、全然足止め出来てないじゃないか・・・本当に使えない奴等だね。」


 見下すような態度でそう言葉を発するジークに、ブレアの顔色が変わる。しかしヴァルバロッサに至ってはまだショックの色が隠せないのか跪いたままだ。


「黙っていろ眷族! お前がジークであろうとなかろうと、私達の死闘に対して侮辱の言葉を並べるのは許さない!」


「そういう言葉はあいつらをズタボロにしてから言うんだね、互角にすらなってないんだし。」


「―――――――くっ!」


 ジークの侮蔑のこもった言葉にブレアが口ごもっていると、肩を竦めながら隣に立っているもう一人の眷族に合図を送る。するともう一人の眷族は何も言わずその場を去ろうと踵を返し、奥の通路へ歩き出した。完全に姿が見えなくなるまで見送るとジークはすっとアギト達の方へと向き直り、両手を広げて楽しそうに喋り出す。


「お待たせ、光の神子御一行様。

 それではこれより闇の眷族によるショータイムの始まりだ、地獄を見たくない者は今すぐ自害するんだね。」


 そう言い放った途端、ジークの周囲から邪悪なマナが放出され―――――――まるで激しい突風が襲って来たのかと思うような衝撃波を受け、アギト達は懸命に踏ん張る。


「僕の仲間―――――――あぁ、さっきの女ね。

 彼女の準備が整うまで僕が余興がてら遊んであげるよ、眷族の力をまだ見たことないだろう?

 死ぬ前にサービスとして見せてやる。」


 そう言うとジークはアギト達の方からすかさずヴァルバロッサ達、4軍団の方へと振り返って左手を突き出すと手の平から紫色のマナが放出されて4人に直撃した。アギト達はそれを見て思わず声を上げてしまう、眷族二人が姿を現した時ブレアの口から彼等が味方であると告げられていた。しかしその味方に対してジークは攻撃したのだ。

 だがそれがただの攻撃ではないことをオルフェは察していたのか、禍々しいオーラに当てられ後ずさりする。


「あれは攻撃ではありません―――――――、恐らく負を植え付けられて・・・っ!」


「負・・・って、確か心の闇を増幅させて自我を失わせるっていうアレか!?」


 ブレア達は絶叫しながら全身を黒い炎で焼かれているように苦しみ、のたうち回っている。その光景を目にしたザナハが光属性の治癒魔法で彼等の苦しみを取り除こうと駆け寄った時だった。


「おっと・・・お前が光の神子、だな?

 ルナと契約を交わしていないお前にあいつらの闇を浄化することは出来ないよ、そんなことより見てみろよ。

 あいつらのドロドロとした負の感情を―――――! 憎しみ、嫉妬、絶望、殺意・・・!

 それらがどんどん膨らんで行って今にも爆発しそうじゃないか、心が完全に闇に支配されればこいつらも外の奴等と

 同じになれる・・・闇の眷族の出来上がりってわけさ!」


 喜々とした表情と口調でそう話すジークに対し、アギト達はもう一度聞き返そうとした。

 ―――――――今、何て言った?

 そんなアギト達の驚愕とした表情に気付いたジークはなおも嬉しそうに冷たい笑みを浮かべながら、疑問を解消してやる。


「なんだお前達・・・知らなかったのか?

 ディアヴォロ様の胎動が激しくなった時、アビスグランドの地上には闇の眷族で溢れかえっていただろう。

 いくらディアヴォロ様の復活が間近とあっても眷族を一から生み出すまでの力は、まだない。

 でもこの世界に生存する生物に負の感情を大量に与えてやれば、それと同じものを生み出すことが出来るんだ。」


 それを聞いたオルフェが瞳を大きく見開きながら、推察した。


「ま―――――――さか、外にいた大量の眷族は・・・っ!」


 はっきり言われないとまだわからないのか、それとも無意識に理解したくないのか―――――――アギトとザナハは眉根を寄せながら驚愕しているオルフェの方を見つめながら、続きの言葉を待った。

 そしてそれにはジークが答える、アギト達の苦しむ表情を見たいが為―――――――そう言わんばかりの笑顔で。


「そうさ―――――――、今アビスグランドに出現している眷族は・・・全てアビス人だよ!」


「―――――――っ!!」


 アギト達は愕然とした、そして今アビスグランドの地上で龍神族が眷族と戦っている最中だということを思い出す。アビスの女王ベアトリーチェも首都へ向かう途中に眷族と一戦交えているのかもしれない。自国の民を想いながら、自国の民をその手で殺めているのかもしれない! そう思うとアギトの心がふつふつと怒りに満ちて来た。

 自分のことを真っ直ぐに睨みつけて来るアギトを見て、ジークの顔から笑みが消える。その瞳は冷たく一切の感情を持たない氷のようで、蔑んだ眼差しがアギトを睨み返していた。


すると―――――――。


 がしっとジークが纏っている黒いローブの裾を掴みながらヴァルバロッサが苦しそうに息子を見上げ、慈しむような眼差しで声をかけた。その声は今までアギト達が聞いていた威厳ある屈強な戦士とは程遠い―――――――息子を愛しく思う父親のそれであった。


「ジーク・・・、ジーク・・・っ!

 お前が無事ならそれでいい、それでいいんだ・・・っ! 

 オレはずっとお前のことを忘れた日はない、毎日お前を想っていた。

 だから・・・もうやめよう、お前が手を汚す必要はどこにもないんだ・・・っ!

 頼むジーク、ブレア達を苦しめないでやってくれ・・・っ!」


 切に懇願して来るヴァルバロッサを目にしたジークは、表情を歪めながら見下した。


「―――――――はぁ? 何言ってんの?」


「うぐぅっ!」


 ジークは頼み込む父親の顔を足蹴にすると、拳に力を込めながら罵った。


「嘘をつくなっ! 僕のことなんか忘れてたくせに、今更父親ヅラしてんじゃねぇよこの下衆がっ!

 僕が苦しんでる時、あんた何してた! 戦争に明け暮れてこれっぽっちも僕のことなんか頭になかったクセにっ!

 挙げ句に僕を陥れたルイドなんぞを主にして・・・っ、従って・・・っ!

 あいつはなぁ、お前達のことなんか最初から捨て駒程度にしか見てねぇんだよ! それがわかんねぇのかっ!

 ルイドは最初から自分の願いを叶える為だけに眷族と闇の取引を交わした、お前達のことなんかお構いなしさ!

 はっ、笑えるだろう? 散々尽くして従って来て・・・最後には捨てられるんだぜ、滑稽だろう!?」


 ぐりぐりとヴァルバロッサを足蹴にしたまま狂気に満ちた高笑いを上げ―――――――ジークは父親を蔑んだ、ありったけの憎しみを込めて。ヴァルバロッサは敵だが、足蹴にされている姿を目にしたアギトはジークに対して怒りが爆発しそうになっていた。

 当然ザナハも同じ気持ちであった―――――――、そして果敢にもオルフェ達が止める間もなくザナハはジークめがけて駆けて行き、たっぷりと拳にマナを込めて殴り付けた! 

 俊敏な動きで接近されたということもあったがジークは這いつくばっている父親をなじるのに余程夢中になっていたのか、ザナハの接近に気付かずあっさりと殴りつけられて床に数回叩きつけられながら、10メートル程吹き飛んで行った。


「大丈夫っ!?」


 そう叫んでザナハが手を貸そうとするがヴァルバロッサは差し伸べられた手を振り払うと、苦しそうに拒絶した。


「近付くな神子―――――――、仮にもオレ達とお前達は敵同士・・・情けをかけるは侮辱も同然!」


「でもそんな体じゃ・・・っ!」


 拒絶されても弱った相手を放っておくことが出来ないザナハは、なおも手を差し伸べようとするがヴァルバロッサは先程より穏やかな口調でザナハのことをかたくなに拒絶し続ける。


「こんな体だからこそ・・・お前に側に寄られると―――――っ! 

 負の感情はお前達を殺すようにオレ達の精神を蝕んで・・・っ、だからまだ理性を保っている間にオレから離れるんだ!」


「―――――――っ!」


 顔を上げてザナハを見つめるヴァルバロッサの白目部分の眼球が黒く変色しており、苦しそうに呼吸しながら完全に闇に飲み込まれるのを食い止めようとしていた。

 彼の状態をハッキリと目にしたザナハはブレア、ゲダック、そしてフィアナと―――――――一人一人に視線を配る。うずくまるように悶えている彼等を見てザナハは決意した。

 攻撃対象となっているザナハの存在がこれ以上ヴァルバロッサを苦しめないように距離を取ってから、ザナハは大きく息を吸って呪歌を紡いだ。ザナハが歌った歌は「オーヌ」で、小規模なシグナルゲートなら自力で発生させることが出来るようになったのか―――――――ザナハはヴァルバロッサ達を囲む程度の大きさの魔法陣を描き出して、呪歌による治癒を始めたのだ。

 初めて見る現象にアギトは思わずミラの方へと視線を走らせる、それに応えるようにミラが説明した。


「呪歌には効果範囲というものが存在します。

 光の塔にあった大規模なシグナルゲートならば、全世界の特定の場所にシグナルゲートを発生させて歌を送ることが

 出来ますが、アンフィニ自らが作り出すシグナルゲートならば声の届く範囲に魔法陣を発生させることが出来るんです。

 魔法陣の中に反映させたい対象がいれば、その効果が補正されてより強力に呪歌の効力が発揮されるんですよ。 

 ザナハ姫は今、4軍団達を冒そうとしている負の感情を取り払う為に聖なる力を宿す「オーヌ」の効力が強く発揮

 されるように―――――――ああして魔法陣を発動させ、彼等を救おうとしています。」


 ザナハの歌で4軍団達が闇の眷族に成り果てないように見守っていると、ザナハの攻撃で吹き飛ばされていたジークが起き上がり呪歌を妨害しようと左手をかざして更に負のオーラを放って来た。魔法陣の範囲にはドーム型の光の壁が現れていたのだが、それが闇のオーラと接触し弾けるような衝撃が発生して、そのせいでザナハは呪歌を中断させられて後方へと吹き飛んでしまった。


「ザナハ―――――――っ!」


 アギトが駆け寄って床に叩きつけられるのを寸での所で守った、それから4軍団達の方へと視線を走らせると彼等を覆う闇のオーラが深みを増したように見える。

 ザナハの攻撃を受けてなお、ジークはまるで全くダメージを負っていないような状態でゆっくりと歩み寄った。


「余計なことをするなよ神子、ほら―――――――お前のせいでせっかく闇に取り込まれようとしていた精神がうまく

 溶け込めないで、余計に苦しみが続いてるじゃないか・・・。

 ったく・・・いい加減、闇に染まれって言ってんのにしぶといなぁ。だから人間ってのはうざいんだよ!

 お前等はなぁ! 地面に這いつくばって苦しみ悶えている姿が一番お似合いなんだよ!

 憎しみ合って、罵り合って、殺し合って! それが人間ってモンだろ、そうやって醜く生きてるのが人間だろ!」


 殆ど絶叫に近い怒声でなかなか闇に堕ちようとしないブレア達に罵声を浴びせるジーク、その表情には最初の頃の余裕の笑みはなく苛立ちを我慢出来ない、痺れを切らした怒りの顔だけがあった。


「テメーはさっきからやかましいんだよ、いきなり出て来てオレ達の決闘邪魔してんじゃねぇ!

 一体何なんだお前はっ!」


 遂にキレたアギトが大声を張り上げた、その声にジークは笑みもなく振り向くとアギトは剣を構えて戦闘態勢に入っている。


「お前達の話は全然内容が見えねぇけど、―――――――結局のところお前も人間なんだろ。

 そこのおっさんと親子ってんならお前だって元は人間じゃねぇか、醜く生きてるってテメーで言ってる人間だろうが!」


 アギトの言葉にジークの表情から完全に冷たさだけが残った、真っ直ぐにアギトに向けて指をさすと一瞥するようにジークが憎しみを込めた口調で言い放つ。


「うるさいよ、お前・・・!」


 途端、ジークの指先から細長い紫色のマナが放出されて―――――――それが真っ直ぐにアギトに向かっていった! あまりの早さにアギトは回避する間もなかったので反射的に右手に握っていた剣でガードしようとした、―――――――刹那。

 いつの間にか片手にホーリーランスを出現させていたオルフェがアギトの前に立ち塞がって、ジークから放たれた攻撃を聖なる槍で弾き返した。それを見たジークは大きく両目を見開いて、少しだけ驚いているように見える。


「これは精霊の加護を宿した聖なる槍、精霊による攻撃しか受け付けない眷族には有効となる唯一の武器ですからね。

 彼の攻撃もこの武器ならば弾き返せると思っていました。」


「オルフェっ!」


 オルフェはホーリーランスを出現させたまま、ジークを静かに睨みつける。


「ジーク―――――――、確かジャックが先の大戦中に師を引き受けた闇の戦士のこと・・・ですね。

 ジャックから聞いた話によるとジークという名の青年は、先の大戦で亡くなったと聞いています。

 本来ならディアヴォロを討つ為に存在するはずの闇の戦士がなぜ眷族と成り果てているのか、非常に興味がありますねぇ。」


 そう言い放ちながらオルフェはホーリーランスを手に構える、それが合図だった。ジークによって闇のオーラを施され苦しみ悶えている4軍団を放置し、今の内に眷族であるジークを狙い討つという作戦。

 

 ルイドが交わした闇の取引がどういった内容なのか、それはオルフェにもわからなかった。

アシュレイと密約していた内容とかけ離れた行動を起こしているルイドの真意を探る為、まずは眷族であるジークを押さえる必要があると踏んだのだ。


 多種多様な手段と連携プレイによって攻守を行なう4軍団と異なり、ジークは一人―――――――。

しかも精霊の力が確実に効くという点から、まずは一斉に「ジークを狙う」ということを・・・わざわざオルフェが口に出さなくても、その場にいた全員が瞬時に察して戦闘態勢に入った。




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