表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 6
270/302

第268話 「真打ち登場!」

 アビスグランド、闇の塔の最下層にて―――――アギトはミラの下した決断に真っ向から反対の意を示していた。シャドウの協力を得た後に合流するはずだったリュートの姿が見えないこと、そして闇の塔を出た先にはディアヴォロの眷族が大量発生していることを問題視したミラが、このままリュートの探索をせずにレムグランドへ帰ることを決定したからである。


「外にディアヴォロの眷族が大量発生してるからこそ、リュートを探しに行かないでどうすんだよ! もしかしたらあいつ、

 どこかで襲われて怪我してたり―――――動けない状態でいるかもしれねぇじゃねぇか! 

 リュートがオレ達の助けを待ってたらどうすんだよ、このまま見捨てて自分達だけ安全な場所へ逃げるなんてオレは

 したくねぇからなっ!!」


 相当頭に血が上ってるのか、アギトはミラに向かって怒声を上げ――――制止しようとするザナハの言葉にも耳を貸そうとはしなかった。しかしミラもこのメンバーの命を預かる身、ここで退くわけにはいかない。


「アギト君、あなたは今―――――自分が何を言ってるのかわかっているんですか!?

 状況をよく見なさい、そして理解しなさい! 今ここにいるメンバーは私達しかいないんですよ、それもアビスグランドで

 何が起きているのかわかってもいないのに、感情的に行動しようとすれば必ず取り返しのつかないことになります。」


 いつになくミラが強く厳しい口調で、アギトに言い聞かせようとした。しかしよほどリュートのことが心配で仕方ないのか、それとも心のどこかでリュートの不審に気付いているのか――――――その可能性を否定したいが為に、アギトは必死で食い下がろうとしないのかもしれない。ミラの言葉の半分も心に届かない状態で、更に反論しようとした矢先だった。


「君は私達全員を殺すつもりなんですかっ!」


「―――――――っっ!」


 アギトは口をつぐんだ、心臓を抉られたような痛みが走る。激しく突き付けてしまった言葉にミラも一瞬だけ言い過ぎたと感じる、しかし今の言葉がアギトの耳にようやく届いてくれたので今度は口調を抑えながら、もう一度諭すように説得を試みた。


「君がリュート君を思い、助けに行きたいと願っているのはここにいる全員が同じように感じています。

 でもね、アギト君?

 リュート君を探しに闇の塔から出て行けば確実に外を徘徊しているディアヴォロの眷族に襲われ、戦闘を始めることに

 なるんですよ? ここにいるメンバーはルナに与えられた試練によって、全員疲労しています。

 ザナハ姫の呪歌でHPやMPが回復したといっても、疲労やスタミナだけは別です。

 そんな不完全な状態でどこにいるのかわからないリュート君を探しに行っても、まず間違いなく私達の方が持たないでしょう。

 アビスグランドへは9年前の戦時中に訪れたことがありますが、今手元にアビスグランドの地図を持っていないから私でさえ

 どこへ向かったらいいのかわからない状態なんです。

 その上戦闘能力が計り知れないディアヴォロの眷族と戦うことになって更に体力を削られる、気付いた時には引き返すことが

 出来ない状態にまでなって、そのまま無事にレムグランドへ帰れなくなっている可能性だって否定出来ないんですよ。

 君はリュート君一人を優先する余り、私達全員の命を危険に晒そうとしているんです。

 それを理解した上で、―――――――言葉を発していますか?」


「―――――――っ!」


 ミラに言われた言葉、それは以前にも全く同じことを言われた・・・それをアギトは唐突に思い出す。

昔オルフェと一緒に行動していた時、小さなウルフの子供と戦闘になり―――――――アギトは相手がまだ子供だからとそのまま見逃そうとしたのだ。しかし相手は子供でもれっきとした魔物、オルフェは容赦なくウルフの子供を火炎系の魔法で消し炭にしてしまった。

小さな命を無残に奪ったオルフェに対して強く非難したが、結局はアギトの方が間違いであったと厳しく指摘されたのだ。


『アギト・・・、君は自分が正しいと思いこんでいるに過ぎない。

 だから、君のさっきの判断は間違っている。

 もし・・・君の言葉に従い、あの場でウルフの子供を見逃したとしましょう。

 1時間後にはウルフの子供が呼び寄せた仲間によって、今度は私達の骨が道端に転がっていたことでしょうね。

 君はウルフの命を救おうとしたのではなく、仲間の命を危険に晒しただけなんですよ。』


 オルフェの―――――そしてミラの言葉が深くアギトの胸に突き刺さった、頭に上っていた血が一気に下がって冷静さを取り戻す。思えば今の自分の頭の中はリュートのことで一杯になり、確かに回りが見えていなかった。

ミラの言う通り、今ここで出て行ってもあの未知数の化け物相手に勝算があるのかどうかすら疑わしい。そしてリュートがどこへ向かったのかもわからないので、ただ当てもなく闇雲に探し回るだけなのは目に見えていた。

そんな簡単なことすら全く考えることが出来ず、アギトはリュートを探しに行こうとしていたことに酷い嫌悪感を感じる。

全身からじわりと嫌な汗をかきながら、床に視線を落としたままミラに謝罪した。


「――――――ごめん、オレが・・・悪かったよ。」


 アギトの言葉にミラは心の底からほっとした、しかしアギトの表情からリュートのことを完全に諦めたわけではなさそうだったのでアギトの気持ちが変わらない内に、ミラは全員を引きつれて再び塔の最上階を目指す。

闇の塔はレムグランドにあった光の塔と殆ど構造が同じだったので、外周に階段があり中央部分はやはり吹き抜け状態になっていた。階段を上りながら一定の間隔で作られている小窓から外の様子を窺いながら最上階を目指していた時、ふとザナハが疑問を突き付けた。


「ねぇ、そういえば外に居る眷族達はどうしてこの塔を襲わないのかしら? あたし達が塔に戻る時に追いかけて来たヤツが

 いたでしょ、あたし達が中に居ることはすでに向こうに知れてるはずだから、襲う為に追いかけて来ても不思議はないと

 思うんだけど・・・、それとも襲う気がないのかしら? ――――――そんなことないわよね、相手は眷族なんだし。」


 全員がザナハの問いの答えを考え込んでいる間にも倒し損ねていたゴーストが再び出現して、倒しながら進んで行った。足に装備しているホルスターに銃をしまいながらミラはザナハの問いに対する答え、推測をしてみる。


「あくまで推測の域を出ないんですが・・・。

 もしかしたら精霊の力――――――加護によって近寄ることが出来ないのかもしれませんね。

 ディアヴォロの弱点は精霊の力、その眷族もまた精霊の力に対する抵抗力がなくても不思議はないと思います。

 この塔には闇の精霊シャドウの加護が宿っているから、外に居るディアヴォロの眷族には手出しが出来ないという可能性が

 あります。」


「つまりこの塔の中に居れば安全――――――ってことか、どのみちレムグランドへとんぼ帰りなんだけど・・・。」


 アギトはそっぽを向きながら思わず本音が口を突いて出てしまった、しかしレムグランドへ帰ること自体アギトにとって不本意だということはすでにミラにはわかっていたことなので、あえて聞こえないフリをする。ミラに無視されたことでやはり今のは失言だったと内心反省しながら、アギトはそれ以上ミラに対して反抗することなく、大人しく従うことにした――――――アギトなりのせめてもの謝罪の形である。



 ようやく長い時間をかけて最上階に辿り着いたアギト達は、祭壇の間に到着したと同時にレムグランドへ帰る道を作ってもらう為にルナを呼び出すことにした。神々しい光が部屋全体を照らし出す、外も中も薄暗い場所にあるのでルナが降臨する際に発せられる光がより一層眩しく感じられた。ルナが姿を現し、道を作ってもらう為に声をかけようとした―――――すると怪訝な表情を浮かべたルナが閉じていた両目をゆっくりと開き、神子であるザナハに向かって話しかける。


『神子ザナハ、闇の精霊シャドウからの言葉で――――――今すぐ世界をひとつにする作業を始めると行ってますが、

 どうしますか?』


「―――――――えっ!? ち、ちょっと待って・・・それって一体どういうこと!? ちゃんと説明してちょうだい!」


 ルナの余りに突然な言葉に一同が絶句してしまった、そしてすぐにザナハが気を取り直してルナに説明を求める。まずはシャドウについて、シャドウは闇の神子に協力することを了承したということなのか――――――まずはその件に関して聞いてみた。


『闇の精霊シャドウは試練に合格した闇の神子に協力することを了承しました、私があなた達に対して了承した時期と

 ほぼ同時刻のことです。』


「つーか、なんでそれルナにわかるんだよ!? それに世界をくっつける作業を始めるって・・・シャドウがルナに直接

 そう言ったってことなのか!?」


『精霊は人間と異なり召喚される前の状態では、精神世界面アストラル・サイドという場所に存在する形となります。

 精神世界面アストラル・サイドにいる間に、私はシャドウと会話をしました。

 ディアヴォロ復活のきっかけを作る形になってしまいますが、同時に精霊の力も強力になる・・・。

 世界が一つになれば世界にマナが満ち溢れ、外を徘徊する眷族に対抗しうる力を得ることにもなります。

 そしてそれぞれの精霊を祀る祭壇近辺に精霊の加護が最大限に発揮され、魔物を退ける結界と同じ役割を果たすことが

 出来るので、これを利用すれば眷族への対抗手段が増えることにも繋がります。

 ――――――どうしますか、今すぐ世界を動かしますか?』


 突然のルナの言葉により、アギト達はどう返事をしたらいいのか途方に暮れていた。ミラにも言われたことだが世界の在り方が大きく変わる重大な内容を、自分達だけで決定していいものかどうか自信がなかったのだ。もしここにオルフェがいたならば簡単に実行していたことだろう、無責任かつポジティブな発想によって。

アギト達が言葉に詰まり、互いに顔を見合わせながら返事に戸惑っていると―――――――突然声がした。

アビスグランドにいる状態で到底聞くことなど有り得ない、あの人物の声が。


「ルナの言葉に応じなさい! もはやディアヴォロとの戦争は避けられないものとなっています!

 今すぐ世界を精霊のマナで満たす為に、ラ=ヴァースの復活を実現させるんです!」


 アギト達はすかさず声のした方向―――――――、最上階のフロアの全方位にある窓に向かって走って行った。するとこの塔はかなり高い位置にまで立っているはずなのに、空を見渡すとそこには無数のドラゴンが大空を舞い―――――――下方を見下ろしてみれば数頭のドラゴンが地上にうごめいている眷族に向かって炎や氷のブレスを吐き、一掃している光景が目に飛び込んできた。

それからもう一度声を張り上げている人物の方へと視線を戻し、一頭のドラゴンの背にまたがっている男に注目する。

強風にあおられ細くしなやかなブロンドの髪をなびかせながら、こちらに向かって呼びかけているメガネの男―――――――。


「な―――――――っ、なんでオルフェがこんな場所に来てんだよっ!?」


無数のドラゴンを引きつれ現れたオルフェに、アギト達は展開の流れに全くついて行くことが出来ていなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ