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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 6
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第267話 「アビスグランドの事態」

 アギトの強い要望によりミラは現在のメンバーでこのままアビスグランドへ渡ることを決意した、双つ星という繋がりを持つアギトとリュート―――――――言い知れぬ不安を口にするアギトの言葉から、リュートの身に何が起きているのか確認することもひとつの理由であったが、どのみち互いの上位精霊からの協力を得た後には世界を繋ぐ作業に取り掛からなければならなかった。その為には一度リュート達と合流してその打ち合わせをする必要があったのだ。

 ルナの指示の元、アギト達は祭壇周辺に集まると頭上から神々しい光の柱が立ち上り、そのまま光の束の中を上昇して行った。まるで光り輝くエレベーターにでも乗っているような感覚である。その後に光が収束していったかと思うと全く違う景色に変わっていた。光の塔は象牙のように美しい素材で出来た塔であったが、ここは黒曜石で出来ているかのように真っ黒い素材で出来たフロアへとなっている。素材以外は光の塔と全く同じように作られているようで、一瞬自分達の目がおかしくなったのかと疑った。


「ここが―――――――アビスグランド、闇の塔の最上階・・・か?」


 アギトはあてずっぽうを口にした、自分達が先程までいた環境とは全く異なる感覚だったからである。見た目では塔の内部が薄暗いせいか陰湿な雰囲気があり、窓の外に目をやると暗雲が立ち込めていて明らかに闇の世界という感じだった。しかし異なっているのは見た目だけではないことに気が付く。


「何だかここ・・・、少し息苦しいっていうか――――――窮屈な感じがしない?」


 ザナハが眉根を寄せながら異質な空気を感じ取る、するとフロア内を見渡していたミラが推測した。


「恐らく―――――――アビスグランドではマナ濃度が非常に希薄になっているせいかもしれませんね。

 マナの濃さによって感じ方も異なるんでしょう、それだけこの世界に満ちるはずのマナが失われている証拠だと思います。」


 3人がフロアの中を見渡したり窓から外を見下ろしたりしている時、ドルチェが一人フロアにある唯一の出入り口の方へと進んで行って、祭壇の間の扉が開きっ放しになっていることを指摘した。


「多分ここも光の塔同様、神子の力で開くようになっているはずです。扉が開きっ放しになっているということは、すでに

 この祭壇の間に神子が―――――――リュート君達が訪れたことになりますが・・・。」


 ミラがそこまで言うと言葉を切った、まるでその先を口にしたくないと言わんばかりの不自然さに思わずザナハの胸に不安がよぎる。アギトも同じように感じたのか怪訝な表情を浮かべながら、もう一度フロア内を見渡してみる。


「―――――――誰もいねぇじゃん、リュートの奴は一体どこに行っちまったんだ!?」


 これ以上ここにいても拉致が明かないと判断したミラは、とりあえず闇の塔から出ることを提案した。もしリュート達がまだ来ていないとすれば塔を下りて行く間に鉢合わせる可能性もある・・・ミラ達の頭の中ではすでにこの可能性は削除されているが。

 そしてもしリュート達がすでに闇の精霊シャドウの協力を得た後だった場合、このままこの塔に居ても全く意味がなくなってしまうのでどのみちここから出ることを選択せざるを得なかった。

 ミラを先頭に全員が祭壇の間を出て行こうとした、その時だ―――――――アギトはなぜか胸の奥に引っ掛かるものを感じてもう一度だけフロア内を見渡してみる。眉根を寄せながらじっと観察するが、やはり誰もいない。


「―――――――やっぱ誰もいねぇよな、気のせいか・・・。」


 まるでずっと遠くから自分を呼ぶ声が聞こえたような、そんな気がしたが今はもう何も聞こえなかったのでアギトは気のせいだと思いそのまま塔を下りて行くミラ達の後を追って行った。

 闇の塔を下りて行く間、ここにも一応敵がいる為戦いながら下りて行くことになった。ザナハ自身は呪歌を歌いきった後だったので出来るだけ戦闘に参加しない形で、呪歌による回復をしていたアギト達が主に戦闘を行なう。出て来る敵は機械人形ではなく主にゴースト系だった。戦闘に突入する直前、ゴーストは普段アギト達の視界に映らないので突然目の前に現れて戦闘に入るという作業を最初の内は繰り返していたが、途中から所々に配置されている鏡に肉眼で確認出来ない状態のゴーストが映し出されていることに気が付く。

 それ以降アギト達は壁に配置されている鏡を勝手に取り出し、その鏡を頼りに不意打ちされないように注意して進んだ。ゴースト達には火属性の魔法や光属性の派生タイプでもある雷属性が良く効いたので、ザナハの戦力がなくても存外楽に敵を倒して進むことが出来たので、光の塔程の苦労をせずともすぐに最下層へと辿り着くことが出来た。


「何かこっちの試練の方が楽勝っぽかったよな。」


 アギトは物足りなさそうな口調で吐き捨てながら、懐に隠し持っている護剣のカガリを右手で触れてみた。カガリにはリュートのマナが込められている、もし近くにリュートの存在があったならこの護剣が振動してその位置を持ち主であるアギトに知らせることが出来るのだ。しかしカガリはうんともすんともいわないので、近くにリュートがいないことを再確認させられただけである。


(―――――――ったく、リュートの奴・・・一体どこに行っちまったんだよ!)


 上位精霊との契約・・・今では協力と言う形になっているが、ともかく全ての精霊の力を得ることが出来れば一旦合流する手筈になっていたはずだった。しかしリュートからは何の連絡もなく、しかも姿がどこにも見えない。疑いたくはなかったがもしリュートが自分に内緒で何かをしているのだとしたら、そう考えると胸の奥がもやもやしてくる。

 アギトが深刻な表情になっているとその隣でザナハも横目で様子を窺いながら、懸命に平然を装っていた。リュートのことが心配でたまらないのはアギトだけではなく、ザナハも全く同じであったのだ。

 二人が押し黙ったまま歩いていると闇の塔の出入り口を発見して、ミラが振り向き合図をする。そしてアギト達も頷きながら闇の塔の扉を開けた時―――――――。


「なっ―――――――なんだこれはぁっ!?」


 扉を開けた瞬間、塔の外には3メートル程の巨大な昆虫のような化け物がおびただしい群れを作りながら荒れ果てた大地を駆け回っていたのだ。しかしよく見るとその化け物は恐らくアビスグランドに元々生息していたであろう小型の魔物を襲っては食べたりしており、アギト達は魔物が魔物を食べる場面を初めて目撃した。

 6本足に巨大な鎌の形をした両腕、胴体はアリか蜂のように膨れている化け物が徘徊し―――――――塔の扉の前で呆気に取られているアギト達を発見するや否や甲高い奇声を発しながらものすごい勢いで襲いかかって来たので、アギト達は慌てて塔の扉を閉めた。

 すると昆虫型の化け物は扉を開けて入って来ることが出来ないのか、特に押し入ろうという物音は聞こえて来ず―――――――再び地面を掻く音と共に足音は遠くへと離れて行ってしまう。化け物を見た時の衝撃がまだ残っているせいか、息を切らしながらアギトが少し混乱気味に声を荒らげた。


「なんだよ、今のは!? あんな化け物見たことねぇぞ、つか魔物って魔物を襲って食うもんなのか?」


 いつも魔物に関しての知識に詳しいドルチェに向かって訊ねてみると、ドルチェは眉根を寄せながら不思議そうに声を漏らす。


「大佐の魔物図鑑にあんなもの・・・載ってなかった、アビスグランドに生息する魔物の一部も記載されているはずなのに。

 あれは完全に未知なる生物、名前どころか一切何もわからない―――――――詳細不明。

 でも・・・少なくともあたしが知る限りでは、魔物は魔物を襲って食べたりはしない。魔物に限っては食物連鎖のバランス

 が通常の生物とは異なるから・・・。」


 ドルチェが知る限りのことを言って聞かせるが、結局のところはさっきの化け物に関する一切のことはわからない。ザナハがフロアにある小窓から外を眺めて化け物を観察していたら突然大きな声を上げたので、アギトは化け物が襲いかかって来たのかと思い慌てて鞘に納めていた剣を抜いて構えていた。


「大変よみんな、あの化け物の戦闘テロップを見てちょうだい!」


 ザナハが青ざめながら全員に戦闘テロップを見るように促す、するとアギト達は別の小窓から外を徘徊している大量の昆虫の1匹に的を絞り、その横に表示されている戦闘テロップを眺めた。


「―――――――んなっ!? どうなってんだよ、あいつらの名前の所に『ディアヴォロの眷族』って書かれてっぞ!?」


「まさか・・・それじゃあの昆虫型の魔物は、ディアヴォロが生み出した魔生物だと言うんですか!?」


 小窓から自分達の存在が知れないようにすぐさま離れて、塔の中央近くにまで後退して事態の整理をし出した。アビスグランドで起こっている事態を把握出来ずに若干苛立ちを隠せないアギトに、重く不安がのしかかっているザナハ。そんな中―――――――アギトとザナハ以上に事の深刻さを痛感しているミラが顔色を蒼白にさせながら、腕を組んで焦りを見せている。いつも冷静沈着なミラにとっては非常に珍しいことであった。


(まさか―――――――大佐が懸念していたことが的中してしまった、ということじゃ・・・?)

 

 アギトやザナハに悟られないように出来るだけ平静を保った表情を作りながら、ミラは首都へ向かう前に言われたオルフェの言葉を今になって思い出していた。


(大佐は仕切りにリュート君のことを気に掛けていた、首都へ行く前にも直接あたしに注意を促して・・・。

 リュート君がすでにルイドの反逆に一枚噛んでると見て行動した方がいいと、そして出来る限りリュート君の素行に目を

 離さないように言われた・・・。

 でもまさかリュート君の行動の中に『ディアヴォロの眷族』の出現にまで関わって来るなんて、一体誰が予想出来ると!?

 現状あたし達に出来ることなんて、このまますぐにレムグランドへ帰る他ないに決まっている。

 あれだけの数の眷族を相手にこのメンバーでどうにかなるはずもない、―――――――ザナハ姫の呪歌の力があれば

 また結果が違ってくるかもしれないけど、それでもこれだけの人数であの数を相手にするのは無謀に等しいわ。)


 ミラは決断した。

このまま闇の塔に居残っても、リュートを探しに外に出て眷族と戦うにしても―――――――そのどちらも最良の選択には程遠いことは火を見るより明らかだった。意を決してアギト達に告げる。


 もう一度最上階まで戻って、再びレムグランドへ帰る。

自分達に残された選択は、もうそれしか残されていないのだと―――――――ミラは自分にそう言い聞かせた。



 


 ここしばらく更新が遅れて大変申し訳ありませんです。

現在、物語の方は最終決戦へと向かっているので話の内容もすごくデリケートに扱わないと大変なことになってしまいますので・・・(私自身が)

なので皆様には迷惑をかけてしまいますが、もうしばらくの間更新の方がかなり遅れた形になることをお許しください。

 更新した際には活動報告の方で連絡させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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