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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド〜光の精霊ルナ編〜
265/302

第263話 「ベディ・スィムグ~戦歌~」

『翼を広げて 飛び立とう


 まだ見ぬ地へ 旅立つ為に

 

 そこには荒れ果てた大地が広がって


 あたし達を迎えるだろうから


 だからあたしは歌う


 いたわりと友愛を込めて 心から歌う・・・』




 ザナハは歌を紡いだ―――――――――、瞳を閉じてより一層気持ちを乗せられるように。

これはアウラが神子として旅立ちを決意した詩、きっと不安以上に心細さや怖れがあったに違いない。戦う力を持たない普通の少女が世界を救う為に、恐ろしい魔道兵器であるディアヴォロを倒す為に選ばれたのだから・・・。

そこには自分の背中を押すように、勇気が持てるように感情を込めて作られた激励の歌―――――――――。




『熱き心と共に また皆で 生を繋ぎ止めよう


 やがて来る 明日という希望を胸に


 平和を歌い 皆の無事を祈ろう


 絶望から這い上がる力を 求めながら―――――――』




―――――――――その時だった。




 ザナハの全身から優しい光が放たれて、旋律に合わせるように光の粒が舞い踊る。やがて耳に届く。どこからかザナハの歌に合わせて音色が聞こえて来た。とても優しく繊細で、しかしそれでいて雄々しさを与えるような幻想的なメロディーが。




 その音楽が聞こえたのはザナハだけではない、ヴォルトにより見せられている錯覚の世界で強力なゴーレムを相手に戦い続けているアギト達の耳にもその曲が―――――――――歌が届く。

途端に全身から何か熱いものが込み上げて来た、それと同時にアギト達の動きに・・・体に変化が起きる。


「―――――――な、なんだ!?」


 不思議そうに自分の両手を見つめながら高鳴る鼓動に動揺するアギト、そしてふいに自分の戦闘テロップに視線をやると今までに受けたダメージや疲労によって徐々に減少していたHPがどんどん回復して行ってることに気付く。

それはミラやドルチェにも同様の現象が起きており、3人の動きにキレが戻っている。




『空を仰ぎ 星に祈ろう


 まだ見ぬ明日を たぐり寄せる為に


 あたしの中に宿る 想い


 優しい世界を願い 月に祈る


 氷のように 冷たい体を


 決して壊れないように そっと優しく抱きとめて


 その傷を癒してあげる』




 素早い動きでゴーレムの攻撃を回避しながら、今までの苦戦が嘘のようにアギトは剣をゴーレムめがけて斬り付けた。すると今まで全く効かなかったはずの攻撃がゴーレムに通じている。これまでどんなに武器にマナを込めてもたった1~5しかダメージを与えられなかったにも関わらず、ザナハの歌が耳に届いてからはその曲の旋律の流れに合わせるかのように攻撃力も大幅に上昇していたのだ。


「―――――――これならイケる!」


 勝機を見出すことが出来たアギト達の瞳に炎が宿る、呪歌の効果がアギト達のパラメーターに対してめざましい程の影響を与えたことによって不安や絶望が払拭された。

『勝てる』という言葉が3人の士気を更に高める、ザナハの歌で後押しされながら3人の連携攻撃に今度はゴーレムの方が苦戦を強いられていた。




『涙を拭って 運命を変えよう


 その先に 闇をも照らす光が きっと見えるから


 あなたを追いかけて 手を伸ばし

 

 掴みかけた未来を 笑顔で迎えられるように』




歌うことの心地よさ、そして安全に戦うことが出来ている仲間達の姿を見てザナハの中に安心感と余裕が芽生える。


これが『信じる』ということ。


 今この瞬間、ザナハはそれを強く実感した。

呪歌をうまく発動出来なかった時、自分が何とかしなければ仲間が倒されてしまうと―――――――殺されてしまうとずっと怯えていた。

しかしそれは同時に『仲間の強さを信じていなかった』という意味になる、心配なのは・・・不安でたまらないのは本当の意味で『仲間を信頼している』という自信がなかったから。

だから不安で一杯になり、目の前の出来事に心を乱され、歌うことへの気持ちを忘れてしまっていたのだ。

でも今は違う。




『時は満ち 雲間から光が差し


 やがて 朝を迎える


 そこには約束した「永遠」が待っている


 守ると誓った未来が あたし達を待っている・・・』




安心して歌えるということが、これ程心地よいものだとは思っていなかった。


彼らならきっと大丈夫という想いがザナハの心を落ち着かせ、歌を紡ぐことが出来、そしてその歌で仲間を救える。


 このバランスがきっと『アンフィニの強み』なんだと、ザナハは察した。どんな人間でも必ず抱く感情―――――――襲い来る不安や仲間を失う恐怖・・・そういった感情が欠落している者などいるはずがない、そんな人間がいるとしたらそれは感情のないただの人形か―――――――心を失ったただの殺戮者でしかないだろう。


 アウラだって普通の少女だったのだ、そんな彼女が何の迷いも不安も恐怖もなく平気で歌える強さが最初からあったわけではないはずだ。ザナハは自分なりに解釈する。この歌の意味を―――――――、アウラが抱いた感情・・・気持ちを。


(きっとアウラも不安だったはず、辛かったはず・・・。突然アンフィニだと告げられ、剣を持ったことのない普通の女の子が

 突然戦場の只中に放り込まれて怖くないはずがない!

 そこには必ず居てくれたんだ―――――――、自分のことを守ってくれる存在が。

 だから勇気が持てた、安心出来た、―――――――信じられた。

 その人の存在がアウラの心の支えとなって、そこから紡がれる歌が皆の心の支えになる。

 これが呪歌―――――――――、これがアンフィニの力!

 わかる・・・、わかるわ!)


 ザナハは微笑んでいた、そこにはついさっきまで感じていた孤独感はない。

自分は一人じゃない―――――――――。

こうやって自分の歌を届けることが出来たから・・・、自分の声はちゃんと仲間の耳に届いているから寂しさなんてなかった。

そしてザナハが呪歌を完璧に歌い上げた時―――――――――アギト達は大幅にパワーアップした状態でゴーレムを討ち倒すことに成功した。


―――――――――試練は終了した。


 この瞬間、ザナハのアンフィニとしての道が開かれた。

呪歌の本来の力を覚醒させ、ザナハは呪歌の歌い手としての一歩を確実に踏み出したのだ。




 この話の掲載と同時に「アンフィニの呪歌」という詩集にも「ベディ・スィムグ~戦歌~」の歌詞フルバージョンを掲載しました。

もし万が一よっぽど暇で暇で仕方がないぞオラーッ!って時には、どうぞ一読ください(笑)

勿論興味がなければ全然スルーしてくれて構いません、てゆうか自分的にものすごく恥ずかしいのでスルーしてくれた方がいいかも・・・(^^;)

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