第260話 「光の精霊ルナ、降臨」
< レムグランド アンデューロ 光の塔にて >
光の塔攻略も二度目ということもあり、アギト達は以前と同じ作戦で侵入者を排除する為に現れた機械人形をヴォルトの力で操ってそのまま最上階まで上って行くことが出来た。そして精霊の祭壇がある部屋へ続く扉を開けるのも以前と全く同じ方法、ザナハの呪歌によって簡単に開けられたのでアギトはあまりの楽勝ぶりに笑いが止まらない様子である。
「な~~んかこんな簡単に事が進んでさ、逆に拍子抜けだよな~! ま、オレ達が強くなり過ぎたっていうのもあるんだけど。」
「そんな風に油断してると後で痛い目を見ますよ!?」
アギトがあまりにも余裕のある態度で軽口を叩くので、ミラが気合を入れ直す為にも注意をした。しかしアギトは適当に返事をするだけで、一人でさっさと精霊の間へ入って行く。元々この光の塔は円筒状になっており、それが空高く聳え立っていた。その最上階ということもあって、この精霊の間はかなりの広さであった。ここが地上から遥か上空にある部屋だと想像するだけで足が竦みそうになるザナハであったが、早く精霊との契約を交わそうと自分達の現在地を深く考えないように努める。
「んで? ルナってどうやって姿を現すんだ?
イフリートん時は暴走してたから勝手に出て来たし、ヴォルトん時は・・・そういやよく覚えてねぇけど何とかなったし。」
「ルナは上位精霊、レム属性の下級精霊全てを召喚すればルナとの面会が可能になる。」
ドルチェが淡々と説明し、それを聞いたアギトが「そういえばそんなこと言ってた気がする」という顔になりながら、ザナハの方に視線を送った。ザナハもその意味を理解し、それから二人揃って大きく深呼吸すると一斉に精霊を召喚した。
「水の精霊、ウンディーネよ! 現れたまえ!」
「イフリートとヴォルト、出て来いっ!」
ザナハの言葉とマナに反応し、何もない場所に水が生成されてそれが美しい女性の姿を成す。半透明の姿をした水の精霊ウンディーネは片手に矛を持ってザナハの前に宙に浮いた状態で待機する。そしてアギトの方も目の前に炎が現れてそれが巨躯の男の姿となり、メラメラと全身の炎が揺らめきながら腕を組んでいる。その隣にはパチパチと小さな雷光を放ちながら黒い塊が姿を現す。
アギトとザナハの目の前に水、火、雷の精霊が姿を現し、彼等のマスターである二人を堂々とした姿で見据える光景ににさすがに圧倒された。
「そういや、考えてみれば精霊をまとめて召喚したのってこれが初めてだよな・・・。なんか圧倒される。」
イフリートやヴォルトと契約を交わしてから随分時間が経つが、今目の前に3体全ての精霊を目の当たりにすると更なる実感がわいてくるようだった。今までただの子供でしかなかった自分が、自然界を統べる精霊という存在と契約を交わし・・・なおかつマスターとしてこの場に立っている――――――そんな実感を。
そんな風にアギトが心の中で感動していると、ザナハはアギトの心情に構うことなく一歩前に出て精霊達に言葉を告げた。
「ウンディーネ、イフリート、それにヴォルト。
あたし達はこうしてレムグランドに存在するあなた達3体の精霊と契約を交わし、そして光の塔へやって来たわ。
この世界を再びマナの溢れる世界、ラ=ヴァースへと戻す為にどうしても光の精霊ルナの力が必要になって来る。
全ては世界を1つに統一してあなた達精霊と共に、世界の毒たる存在ディアヴォロを討ち滅ぼす為に協力して欲しいの!」
ザナハが真剣な面持ちで精霊達に懇願すると、まずはウンディーネが口を開いた。
『あなた達の望みは精神世界面から貴方達の心を通して、ずっと聞いていました。
ディアヴォロを倒す為には全属性の精霊の力が必要不可欠、しかし分かたれた世界ではそれは適わない・・・。
我々の力を有効に行使する為には世界が1つの存在として成立しなければいけません、そしてあなた達はそれに気付き
ようやくここまでやって来た。
全ては世界を混沌に陥れる存在でしかないディアヴォロを、滅ぼさんが為に・・・。』
穏やかな口調で、ウンディーネが優しげにザナハの望みを繰り返した。
そして次にイフリートが両腕を組んだまま、威厳のある低い声でザナハ達に問う。
『だがそもそもの発端はお前達人間にあることを忘れてはいまいな!?
我々精霊の忠告に耳を貸さず、魔法科学という技術の発展に目が眩み・・・結果ディアヴォロという史上最悪の存在を
世に生み出してしまった・・・。
お前達は自分達の過ちを我々、至高の存在である精霊に尻拭いさせようとしているのだぞ!?
何たる傲慢、何たる身勝手な生き物か・・・。
我々は世界を愛するが故に、この世界を少しでも長く持続させる為にアウラに力を貸した。だがお前達はアウラの意志を
無視して再び世界を元に戻そうとしている。
お前達人間が生きようが死のうが、繁栄しようが絶滅しようが・・・我々にとってはどうでもいいことだ。
それでもなお、お前達は我々の力を借りようと言うのか!? その先にも過酷な運命がお前達を待っていようともか!?』
イフリートの怒りにも近い言葉に、アギトはこれまでのイフリートとは接し方や態度が違うと感じた。しかしここでイフリートの威圧感に怯んでしまったらルナとの面会が敵わないと察し、力一杯大声を張り上げてイフリートの言葉に噛みついた。
「この世界の歴史とか一から順を追って聞いたわけじゃねぇからよくわかんねぇけど、どういう流れでお前がそういう話を
してんのか、大体の見当位はついてる!
人間のエゴで世界が滅亡の危機に瀕してるから、都合の良い時だけお前等の力を借りようとしてるオレ達人間は確かに
傲慢で身勝手かもしんねぇよ!
だけどそんなつまんねぇ意地張ってたって、ディアヴォロから世界を守れるわけじゃねぇんだろうが!!
この世界に生きてる人間全部が傲慢なわけじゃねぇ、身勝手なわけじゃねぇ!
ほんの一握りでも本当にちゃんと世界のことを考えて何とかしなきゃいけねぇって考えてる奴だって確かにいるんだよ!
そんな奴等がいるからオレ達は決意出来たんだ、もしこの世界に・・・救いようがない位どうしようもねぇ奴等しか
いねぇんだったら、オレ達は必死こいてこんな所まで来たりなんかしなかった!
一生懸命に生きて、真っ直ぐに生きようとしてる奴等がいたから・・・どんなに辛くっても仲間と一緒に頑張ろうって
思えたんだ! だから都合が良いって思われたっていい、お前等の力を借りたいってのは本当だからな!
本当にこの世界を愛してるってんなら、お前等が見下してる人間のことなんか二の次にしてこの世界の存続を考えろよ!
ディアヴォロがいたらこの世界のマナは食らい尽くされてなくなっちまうかもしれねぇんだろうが!?
そうならない為に、オレ達が協力してディアヴォロを倒そうじゃねぇか!」
アギトは懸命にイフリートに訴えかけた、殆ど心の叫びだったかもしれない。人間が悪いと言ってしまえばそれでおしまい・・・というわけにはいかなかった。だからといって正当化するつもりもない、確かに救いようがない位どうしようもない人間がいたのは間違いないからだ。アギト自身その目で、そんな人間を少なからず見て来た。しかしそんな人間のせいで精霊の力を借りることも出来ずこのままディアヴォロに世界を滅ぼされるのも間違っている。アギトなりに精一杯、人間の醜い部分を受け止めた上で、それでも精霊達に協力してもらえるように・・・アギトなりの言葉で説得した。
するとアギトの誠心誠意の言葉に満足しているのか、イフリートのいかつい顔が笑みを浮かべている。その笑顔を見たアギトは自分の言葉がイフリートに届いて喜ぶと思いきや、なぜだかアギトの本心がわかってるのにわざと試されたような気分になって一気に機嫌が悪くなってしまっていた。
アギトが恨めしそうにイフリートを睨みつけると、口笛を吹くフリをしてイフリートは明後日の方向を向いてしまう。そんな二人のやり取りを無視するかのように、最後にヴォルトが語りかけて来た。
『アギト、ソシテザナハ・・・。
オ前達ノ意志ノ強サ、確カニ受ケ取ッタ。デハ・・・今ココニ我等ノ上位精霊デアル光ノ精霊ルナトノ面会ヲ許可スル!』
ヴォルトの言葉にアギトとザナハは後方で控えているミラとドルチェの方を振り向いて笑顔を見せた。遂にレムグランドに存在する全ての精霊と契約を交わすことが出来る! しかしここで安心するわけにはいかなかった。
アギト達はルナとの面会が許可されただけであり、契約が成立したわけではない。本番はここからである。
3体の精霊が円を作るように互いに向かい合って天井の高いフロアの真ん中で、見上げる位の高さまで昇って行く。
それからそれぞれウンディーネは水色に、イフリートは赤に、ヴォルトは黄色に点滅して――――――マナが最高潮にまで高まったと同時にフロア全体が光に包まれたように閃光が走って全員が光を避けるように両手で顔を覆ったり、両目を閉じたりして光が治まるのを待った。
やがてゆっくりと全員が瞳を開けると、フロアの真ん中にあった祭壇の丁度真上に神々しい6枚の翼を持ち、流れるような金色の髪をした美しい女性が穏やかな表情で浮かんでいた。
全身が輝くように光を放ち、翼をはばたかせることもなく宙に浮かんで――――――まるで女神でも見つめているような光景だった。
あまりの神々しさに全員が息を飲んで動くことが出来なかったが、ザナハが誰よりも早く反応し・・・声をかける。
「あなたが・・・、光の精霊――――――ルナ!?」
ザナハの言葉にルナが閉じていた瞳を開けると、鮮やかな金色の瞳がザナハを見据え・・・柔らかく微笑む。
『左様、私がこの世界の光を統べる者・・・月と太陽を司る者、ルナ――――――。』
美しい鳥のさえずりのように、綺麗に透き通った声は聞く者の心を捉え魅了する。ザナハはようやく光の精霊を目の当たりにし、緊張気味になりながらも意を決してルナに懇願した。
「光の精霊ルナ、あたしはマナの宝珠を宿す光の神子・・・ジャザナハウル・ヴァルキリアス!
あなたとの契約を交わす為に、水の精霊ウンディーネ、火の精霊イフリート、そして雷の精霊ヴォルトとの試練に合格し、
彼等と契約を交わしてここまで来ました!
どうかあたし達にあなたの力を貸してください、この世界を安寧に導く為に――――――!」
ザナハが訴えかけるように必死で懇願するが、なぜかルナは穏やかな表情のまま首を左右に振るだけだった。
それは明らかな拒絶、ルナの思いがけない反応に全員が虚を突かれて言葉を失う。
しかしザナハだけは拒絶にショックを受けながらも、負けじと更に詰め寄った。
「どうしてですか!? まだ契約を交わす為の試練も受けていないのに、なんで―――――――――っ!?」
するとルナは物憂げな表情を浮かべながら、その理由を全員に話した。
『光の神子ザナハ、あなたは確かにアンフィニとしての力を持っています。
けれど試練を受けるまでもなく、私はあなたと契約を交わすことが出来ないんです。
―――――――――なぜなら。』
ルナがその真実を話そうとしている時、ルナの背後に跪くような形で3体の精霊が控えながら・・・どこか悲しそうな、それでいて何かを隠しているような・・・そんな複雑な表情を浮かべていることに、ミラが気付く。
アギトやザナハは試練すら受けられないという話に耳を傾けたまま、3体の精霊の微妙な変化に気付きもしない。
やがてルナが、衝撃的な言葉を口にした。
『なぜなら本来精霊と契約を交わすことが出来るのは、たった一人だけ・・・。
つまり私のマスターは今も健在なのです、現マスターがいる状態で更にもう一人と契約を交わすことは出来ません。
私のマスターは・・・、この世界を愛し慈しみその身を捧げた始まりの神子・・・。
今も昔も私のマスターはウィザアウラリース・ロディクラウド・・・、ただ一人。
アンフィニである初代神子アウラ――――――、彼女一人だけ。
私のマスターは、今もなお――――――この世界に生きているのです!』
遂に260話超え達成です、ここまで本当にありがとうございます。そしてお疲れ様です。
ここから先のお話は読んでくださる読者様にあっと驚いてもらえるような展開を提供出来るように一生懸命考えて行きますので、是非完結まで一緒に頑張っていただけたら光栄に思います。