第258話 「新たな主」
リュートはアギト達と一緒に地下にあるトランスポーターへと向かった、光の精霊ルナと契約を交わす為にアンデューロへ向かうアギト達を見送る為であった。リュートもアギト達とほぼ同時進行で闇の精霊シャドウと契約を交わしに行かないといけないのだが、リュートにはゲダックがいる。未だにどういう理屈で異次元間を移動出来るのかわかっていないが、トランスポーターを使って移動するより目的地へピンポイントで移動出来るゲダックの術の方が手っ取り早い。一応ミラにはそのことをすでに話してあるが、アギトやザナハに対しては余計な混乱を避ける為に、あえてそのことはハッキリと話していない。
これ以上むやみやたらに隠し事をする必要もないので、聞かれたら話すという程度にとどめておいた。
「それじゃアギト、ザナハ、中尉、ドルチェ、気をつけてね。」
「おう、そっちこそ頑張れよな! つかどっちが先に契約成功するか勝負だ!」
「もう! もっと真剣に取り組みなさいよ、これは遊びじゃないんだからね!」
アギトの軽口にザナハが諫めるが、アギトはザナハに見えないように舌を出して静かな反抗をしている。そんな二人の以前と変わらないやり取りに笑みをこぼしながらリュートは手を振る。
そしてトランスポーターが起動して、魔法陣の中に居た4人の姿は一瞬にして消え去った。
「・・・さて、僕もアビスグランドに戻らないと。ここでするべきことは一通り済ませたし、やり残したことは何もない。」
アギト達の前でずっと見せていた笑みが消え去り、孤独に満ちた表情がリュートを支配する。アギトからもらった護剣を忍ばせている内ポケットに触れながらリュートは地下室を――――――洋館を出て行き、教えられた通りにゲダックを呼び出して自分もアビスグランドへと旅立った。
もしかしたらもう二度と、レムグランドの地を踏む日はやって来ないかもしれない・・・そんな気持ちを抱きながら。
ゲダックの肩に掴まり現れた場所はルイドが居城としていたガレオン城であった。以前より人の出入りが激しくなってはいるが石で出来たうすら寒い雰囲気は相変わらずで背筋が凍る思いがする。
「ゲダック、どうしてここに?」
「シャドウがいる闇の塔はここからの方が近いんじゃ、レムとアビスの位置関係は表裏一体。つまり光の塔がある場所と闇の塔が
ある場所は全く同じ位置にある。互いの軍勢が進行する際、このガレオン城は常に前線基地としてレム軍を迎撃して来た。
ここが首都への通り道になるからのう。そんなことより早くジョゼ達を回収して闇の塔へ向かうぞ。」
「わかった、そういうことなら早くみんなと合流して闇の塔へ急ごう。」
ブレアやヴァルバロッサを見つけるのは簡単だった、しかし城内に居たブレア達の話によればジョゼは誰の断りもなく首都に幽閉しているルイドの元へ単身向かったという報せを聞いた、それを聞いてリュート達は少なからず焦りを見せる。
「バカモンがっ! ジョゼの監視役であるお前がジョゼを見失うとは何たる失態、恥を知れっ!」
ゲダックの叱責が飛ぶ、ブレアは苦渋に満ちた顔になりながら堪えている様子だった。それを制しながらヴァルバロッサが急いでジョゼを迎えに行くように準備をする。
「今から馬車に乗って首都まで向かうつもりか、それこそ何日かかると思っておるのじゃ!
もういい! ジョゼはワシが連れて帰るわい!」
「待って、それじゃ僕も行くよ!」
ゲダックが術を発動させようとした直前、リュートが慌てて歩み寄る。
「お前はここで待て、闇の戦士が二人もクジャナ宮に行けば闇の活動が活性化する恐れが十分に考えられるじゃろうからな。
ディアヴォロの眷族は闇に惹かれやすい、余計な混乱を招かない為にもお前はここで契約の準備でもしておれ。」
ゲダックにそう言われ、リュートは不意に思い出す。そういえば以前サイロンからディアヴォロの影響により、レムグランドの首都周辺でリュートの闇のマナに惹かれて本来その地域に出現しないはずの強力な魔物が出現したことがあった。闇の戦士の存在が魔物を引き寄せるという話を聞かされ、一時的にアビスグランドへ連れて行かれたのを思い出してリュートはそれ以上無理強いすることが出来なかった。
「―――――――わかった、そういうことなら仕方ないよね。
でも・・・ジョゼにだってルイドと話したいこととかあるはずだから、出来るだけ話をさせてあげて欲しいんだ。
この機を逃したらジョゼはもう・・・ルイドと言葉を交わすチャンスを永遠に失うことになるんだから。」
「わかっておる、ワシとてそこまで野暮ではないわい。じゃあな。」
以前に比べリュートの言葉を聞いてくれるようになったゲダックの心境の変化に、リュートは少しばかり複雑になりながらも後方で控えているブレア、そしてヴァルバロッサに向き直った。
すると振り返った先には二人がリュートに向かって跪き、忠誠を誓うような姿勢を取っているので驚く。
「あなた様はルイド様が唯一認めた『遺志を継ぐ者』、それはすなわちルイド様と同様に私達が忠誠を誓う主ということ。
私達はあなたの命令を至上のものとし、この命をあなたの為に捧げると誓います。」
「同じく、私の剣はルイド様と・・・遺志を継がれるリュート様と共にある! 我等の力を存分にお使いください!」
かつて・・・。
かつて自分とは敵同士として立ちはだかっていた屈強な戦士二人が、リュートに向かって膝をついている。
そしてあろうことか自分に向かって永遠の忠誠を誓い、命を捧げると宣言している。この光景にリュートは足が竦みそうになった。
しかし何とかそれを堪えて、二人の前で堂々と・・・主らしく振る舞おうと胸を張る。
恥ずかしくないように、ルイド以上の主として振る舞えるようにリュートは緊張気味な表情を引き締めてから、命令を下した。
「ゲダックとジョゼが戻り次第、すぐにでも闇の塔へ向かう! それまで各々準備を怠らないように!」
他人に命令を下す経験なんてない、どんな風にしたらいいのか正直わからなかった。しかしここで変にへりくだったり自信のない所を見せれば彼等に幻滅されることは十分にわかっている。そしてそんな情けない主について行こうなんて誰も思わないはずだ。
内心では「何を偉そうに」と思いながら、自分なりに精一杯『威風堂々な主』を演じて見せる。
命令を下した後、二人が覇気のある声で返事をしてくれたので―――――――リュートは心の底から安堵していた。
はぁ・・・、ドキドキしてます。
序盤を改めて読んでたら、引っ込み思案で消極的でネガティブだったリュートが今ではこんな・・・。
最初から決定していたことですが、他の方も同じように感じてくれているのでしょうか? 彼のこの変わりように・・・。
それがプラス方面で変わってくれているのなら親としてこれ程喜ばしいことはありませんけどね。
そういうわけで遂に最終決戦一歩手前、どうぞ今後も「ツインスピカ」をよろしくお願いいたしますです。