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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランドレムグランド編 6
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第256話 「友情と絆の証」

 夜の11時過ぎ、リュートはゲダックの術で一旦レムグランドの首都から洋館へと戻って来ていた。また移動する際には連絡するからそれまで待機しておくようにゲダックに告げると目の前から一瞬にして消え去り、それから洋館の方へと歩いて行く。

洋館の周囲では相変わらずオルフェの部下達が警備をしており、リュートが姿を見せると一瞬だけ武器を構えるもすぐさまそれが闇の戦士であるリュートだと察すると敬礼して挨拶をしてきた。

リュートは恭しく挨拶されることに慣れていないせいか苦笑いを浮かべながら兵士達に挨拶して、洋館の玄関を開けた。扉を開けると出入り口には常にメイドが最低でも二人が出迎えの為に立っている。リュートが中へ入ると笑顔で迎え入れてくれた。


「お帰りなさいませリュート様。」


「あの、アギト達はもう契約の旅に行きました?」


 念の為に聞いておく、そもそもこの洋館に一度立ち寄ったのはアギトやザナハにもう一度会う為でもあったからだ。するとメイドは笑顔で返事をした。


「ミラ様のお達しで契約の旅に出発するのは明朝となりましたので、今頃ザナハ姫様やアギト様は自室にてお休みになられてる

 と思います。お二人に何か急ぎの用事がおありですか?」


まるで必要なら今すぐ呼びに行く、とでも言うようにメイドが訊ねて来たのでリュートは慌てて断った。


「ううん! 二人共もう休んでるならいいんだ、ちょっと聞いてみただけだから! 

 それじゃ僕も部屋に戻るから、―――――――――遅くまでお疲れ様です。」


 それだけ言うとリュートは慌てて部屋へと向かった。

小走りに階段を駆け上がり、懐かしいアギトとの相部屋へと歩を進めながらベストの内ポケットに忍ばせている小瓶に触れる。ルイドから受け取ったもの―――――――――これを使うタイミングを心の中で模索していた時、突然後方から声を掛けられて心臓が跳ね上がった。


「―――――――――リュートっ!? いつ戻ったんだよっ!」


「アギト!」


 それは間違いなくアギトの声であった、後ろを振り向くと何かを手に持って目を丸くしている。確かに洋館を出て行く時には首都シャングリラへ向かうとだけ言っていたがいつ戻るのかまでは話していなかった。

アギトは嬉しそうに、そしてどこか照れ臭そうにリュートの方へ駆け寄るとハイタッチの仕草をする。リュートはそれを見てにっこり微笑むと久々に軽快な音を立てながら互いの手を叩きつけた。


「こんな時間まで一体どうしたのさ、さっきメイドさんから聞いたんだけど明日の朝早くに契約の旅に出発するんでしょ?

 早く寝なくて大丈夫なの?」


「オレだって早い所部屋に戻って休みたかったよ、あのじじいに捕まったりしなければ・・・っと、そうだ!」


 愚痴っぽく話していたかと思うとアギトは突然何かを思い出したかのように「あっ!」と声を上げると、廊下の真ん中で急に立ち止まって手に持っていた短剣をリュートに差し出した。

綺麗な装飾が施された2本の短剣を見て、リュートは首を傾げる。するとアギトはまるで得意満面という顔で嬉しそうに話し出す。


「この短剣、お前にやるよ!」


「―――――――――え、いきなりどうしたの!?」


突然アギトが短剣を渡して来るのでリュートは戸惑いながらも差し出された短剣を受け取った。


「あのさ、この世界では対となる短剣をお互いに交換すると兄弟の契りを交わしたことになるんだってさ!

 ほら・・・この赤い宝石みたいなの、これに自分のマナを与えるとお互いに共鳴し合って・・・短剣同士が近付くと振動して

 お互いの居場所を教えてくれるんだと! だからホラ、今からマナを込めようぜ!」


 子供のようにはしゃぎながらアギトが急かす、リュートはそんな嬉しそうなアギトの顔を見るのは本当に久しぶりでいつの間にか自分も嬉しくなっていることに気が付く。


「うん、わかった。」


二人は精神を集中させて互いの短剣に自分のマナを込める、それから持っていた短剣をお互いに交換した。


「これはオレとお前との絆の証だ、これを持ってる限りオレ達は絶対に離れ離れにはならない!

 どんなに離れていてもお互い繋がっているんだ! ―――――――――って、メイサの受け売りだけどな。」


 ――――――メイサの。

それを聞いてリュートはジャックとの秘奥義習得の為に洋館を出発した日のことを思い出した、あの時父親であるジャックと離れ離れにしてしまうことをメイサに謝ったことがあった。その時、メイサは明るい顔で・・・精一杯の笑顔でリュートに向かってこう言ったのだ。


『どんなに離れていても、心は繋がってるから平気だもん!』


 その言葉がリュートの心を締めつけた、悲しそうに微笑むリュートの心情を察してか・・・アギトは明るい声を務めて言葉を続けようとする。


「お前のマナが込もったオレの短剣の名は、――――――カガリだ!」


「―――――――――え? 何、それ。」


きょとんとした顔でアギトを見つめるリュート、アギトの顔は少し照れ臭そうに・・・嬉しそうに微笑んでいる。


「トルディスのじいちゃんから聞いたんだ、自分の護剣に一番大切な人の名前を名付けるとその剣に魂が宿るんだってさ!

 あ、護剣ってのは敵を倒す為に使う武器のことじゃなくて―――――――――あくまで自分の身を守る為のお守り的な

 役割をする短剣のことらしい!

 この短剣は護剣として肌身離さず持つやつでさ、更に兄弟石が嵌めこまれた・・・魂の宿った短剣だ!

 だからカガリはオレの一番の宝物だ、お前との友情の――――――絆の証になるんだよ。」


「―――――――――アギト。」


 リュートはアギトのマナが込められた短剣を両手に持って、抱き締めるように強く握った。嬉しそうに語るアギトの顔を見て、頬だけでなく耳まで真っ赤にしながら言い切ったその姿に――――――きっと照れ臭いのを一生懸命我慢しながら、リュートに面と向かって本当の気持ちを話したんだなと、察する。

そんなアギトの気持ちに応える為に、リュートは大切そうに短剣を握り締めながら小さく呟いた。


「それじゃ、僕のこの短剣の名前は―――――――――六郷りくごうかな。」


「なんか・・・締まらねぇネーミングだな。自分の名字ながら・・・。」


「じゃ、アギト。」


「やめれ、それはそれで恥ずかしい。」


「――――――六号?」


「一号から五号までが謎に包まれてる!」


「いいよ、別にそれで。僕はこの短剣の名前・・・六郷にしたから。名付けるのは僕の自由なんでしょ?」


不満そうな表情を浮かべながらアギトは肩を竦める。


「―――――――――ま、まぁ確かにそうだけど。じゃいいよそれで。オレは知らねぇからな!? 後で後悔しても!」


 ふてくされながらアギトはそっぽを向き、部屋へ向かう為に再び歩いて行った。リュートはからかうように笑いながらアギトの後をついて行く。




 アギトは、リュートとの絆を形として残したかった。

トルディスから言われた『レムグランドでの風習』というものを聞いて、すぐにそれを思いついたのである。もしかしたらトルディス自身も二人の友情の証を形として現す為に『兄弟石』や『護剣』の話を教えてくれたのかもしれないが本人に問いただしたわけではないので、本当の所はアギトにもわかっていなかった。


―――――――――それでも。


 リュートと自分との関係を明確なものにする手助けのようなものが欲しかった、これまで色々な出来事が立て続けに起こり・・・アギト自身もどこか――――――リュートと心がどんどん離れて行ってるような、そんな不安に駆られる思いをずっと感じていた。


 その不安を拭い去る為の道具が欲しかった。

口実が欲しかった。

安心する為の『何か』が必要だった。


 アギトはカガリを得たことで、ほんの少しだけ――――――自信が持てたような気がする。

きっと大丈夫、まだ大丈夫。

リュートはこんな近くにいるんだから、こうして自分の隣で笑顔を見せてくれるんだから。


 二人の友情はこんな所で壊れたりなんかしない、お互い夜空の星に誓い合った親友同士なのだから。

アギトはそう自分の心に言い聞かせて――――――久しぶりにリュートと同じ部屋で語り合いながら、眠りに就いた。



 明日は上位精霊との契約が待っている、必ず成功させて―――――――――この世界を平和にして、そしてリュートと・・・。






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