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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランドレムグランド編 6
253/302

第251話 「リヒターの疑念」

 

 リ=ヴァースへと異世界間移動した際、地面から3~4メートル程の距離で一瞬だけマナ抵抗が生じる。

地面に激突する心配がないことをリヒターは知らなかったので、目に見えないマシュマロのような――――――――――――――クッションに包まれたような奇妙な感覚に驚いている様子だった。

初めてアギトとリ=ヴァースへ帰った時もリュートは今のリヒターと同じ反応をしていた、その時どうしても不思議に思っていたリュートがオルフェに聞いてみたところ、異世界間移動をした時にトランスポーターから生じるマナが使用者の体全体を包み込んで衝撃から身を守る為のマナを発生させるらしい、それを一般的に『マナ抵抗』と呼ぶのだ。

リヒターにそのことを説明しようと思ったがとりあえずいきなり一睨みされたのでやめたリュート。

むすっとした不機嫌顔でリヒターが言う。


「オレはここで待ってるからさっさと用事を済ませて来い、言っておくがお前にやれる時間は3時間までだ。

 待ち時間を過ぎたらお前のマナを探知して連れ戻しに行くからな!

 ―――――――断っておくがオレはこんな所に長居するつもりもうろつくつもりもない、早い所レムグランドへ戻って用事を

 済ませたいんだ。」


両腕を組んで地面に置き去りにされている鉄筋の上に座ると、早速リュートの持ち時間が消費されているようだ。


「リヒターはここでずっと待ってるつもり?」


「そうだと言ってるだろう、オレは異世界なんぞに興味はないからな。」


 即答するリヒターにリュートは意外だと思った、そもそもリヒターがどんな人物なのか知ってるわけではないが知識の精霊ヴォルトの正当な口伝者というからには、色々なことに興味を示しそうなものだと勝手に思っていたのだ。

しかし本当に全く興味がないのか、リヒターは両腕を組んだまま両目を閉じて時間が過ぎて行くのをただ待っている。

これ以上声をかけても相手にされないと踏んだリュートは残された時間がどんどん少なくなっているので、急いで家に帰ろうとした。

―――――――矢先、突然リヒターが声をかけてきたので慌てて振り返るリュート。


「―――――――本当に戦士としての使命を果たすつもりか?」


「・・・え!?」


見るとリヒターは真剣な面差しでリュートを真っ直ぐ見据えていた。


「誰かに言われなくてもわかっている、双つ星のことも闇の戦士の存在理由も・・・何もかも。

 お前は本当に『自らの死』を、自ら選ぶつもりなのかと聞いてるんだ。

 このままディアヴォロを倒す為に闇の戦士としての使命を果たすということは、同時に己の死を意味することになる。

 ―――――――自らの死が怖くないのか?

 大体、あいつのことはどうするつもりだ!?

 光の戦士・・・、ヤツとお前は親友同士だと聞いた―――――――家族に等しい存在だと。

 短絡的で感情的なアイツのこと、お前が犠牲になることを良しとしないはずだぞ・・・わかってるのか?」


言われてリュートは下を向く、それからリュートもリヒターと同じように真っ直ぐと見据え―――――――答える。


「リヒターのこと、よく知ってるわけじゃないけど・・・あなたがそんなことを聞いて来るとは思わなかったよ。

 アギトとも何があったのか知らないけど仲が悪いみたいだったのに、リヒターがアギトの心配をしてるなんてね。」


「勘違いするな、オレはアイツのことなんかどうでもいい!

 ただオレはヴォルトの口伝者として光の戦士に仕える義務がある、ただそれだけのことだ。」


「だったらなおのこと、さっきの質問が愚問だってことも―――――――リヒターにならわかってるはずだ。

 世界を救うには双つ星の力に頼るしかない、その為には闇の戦士がディアヴォロの核を受け入れるしかない。

 ―――――僕に残された道はたったひとつしかないってこと、選択の余地なんて最初からないってこと。

 ヴォルトからどれだけの知識を継承したのかはわからないけど、リヒターだからこそ・・・僕の答えが十分にわかってるはず

 じゃないのかな?」


少し間を置くと、まるでリヒターは確認するように・・・問いただすように尋ねて来た。


「お前が本当に自分の意志で決めているのかと、聞いている。」


 遠回しのようで、どこか確信をついたような質問。

リュートを見るリヒターの眼差しは完全に疑念に満ちていた、まるでリュートが今こうして闇の戦士としての使命を果たそうとしている行動が自分の意志ではなく『誰かに言われて決めている』と言わんばかりの瞳であった。

そう問い詰め、そしてリュートがどんな反応を返して来るのか―――――――何て言い訳するのか、それを探るようにも見える。

リュートはあらかじめ『誰に疑われてもおかしくない』という考えを前提に置いて行動していたので、内心ではかなりハラハラしていたが顔には決して動揺していると思われないように努めていた。


「もしかして、ルイドのことを言ってるとか?

 僕がルイドのことを心の底から憎んでいるって・・・、洋館の誰かに聞いたりしなかった?

 あいつは僕の大切な師匠を、ジャックさんを殺した仇だ。

 どんな理由があったとしてもそれは決して許されることじゃないし、許すつもりもない。

 この手でルイドを殺してやりたい気持ちは今でも変わらないさ、でもそれじゃ世界は救われない。

 世界を救うという平行線上にルイドの死が確定されているなら・・・僕はそれに従うと決めただけ、この手で仇を討てないのは

 確かに心残りだけど・・・それでも地獄に落とすことが出来るなら本望だと思ってるよ。

 その後のことは―――――――確かに迷いはあった、恐怖もあった。

 でもそれ以上に大切なものを僕は知ってる。

 自分の命よりもっとずっとかけがえのないものが、僕にはある。

 その為に悩んで、苦しんで、決めた答えだよ。」


 自嘲気味に微笑みながらリュートが告げる、それをリヒターはただ黙って・・・品定めするような眼差しで見据えるだけだった。

やがて小さくため息を漏らすとリヒターがポケットから金細工で施された懐中時計を取り出すと、リュートに告げる。


「―――――――あと2時間43分。」


「あぁっ! リヒターの方から引き止めたクセにっ!」


 リュートはそれだけ叫ぶと、そのまま全速力で家へと帰って行った。

それを見送ったリヒターは懐中時計の蓋を開けたまま、ぼんやりと夜空を眺める。

空には三日月が見える、しかしそれ以外の星の輝きは殆どなく・・・まるで闇で出来たカーテンで夜空を覆っているようだった。


「この世界ではスピカの輝きが殆ど見られないな・・・、まるで儚い添え星のようだ。」





 今回は物語などの区切りを考えた結果、ものすごく短くなってしまいました。

まだしばらくリュートの一人歩きが続きますが、どうぞお付き合いください。

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