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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランドレムグランド編 6
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第248話 「ディオルフェイサ・グリム博士」

 教授らしき年輩の男に案内してもらったリュートが辿り着いた場所は、若い生徒など一般人の立ち入りを禁じている区域となっており、そのフロアへと続いている出入り口には厳しい表情をした研究員の男性二人が、書類を見ながら会話をしている。

年輩の男が彼等に話しかけると書類を持っていた男がすぐさまオルフェのいる場所へ代わりに案内すると言い出したので、ようやくリュートはイヤミな男と別れることが出来た。


「君が闇の戦士?

 随分若い子なんだね、戦士って言う位だからてっきり成人してるのかと思ったよ。」


丸いメガネをかけた痩躯な男性がリュートに話しかけると、持っていた書類をもう一人の白衣を着た男に渡して歩き出した。


「ついておいで、グリム博士の元へ案内するから。」


(グリム―――――――博士!?)


リュートが目を丸くしたのを見て、丸メガネの男がのんびりとした表情のままで淡々と言い直す。


「あ~、そういえば博士は研究所の外では大佐って地位だったね―――――――ごめんごめん。

 ヴィオセラス研究所の人間は外部事情に疎くてね、研究所設立当初からここの研究員は全員グリム大佐のことを博士って

 呼んでるんだよ。

 あ、グリム大佐っていうの言い慣れてないし・・・博士のままでいいかな?」


なんだか随分と世間離れしたような態度、そして口調にリュートは調子が崩れそうになりながらも頷いた。


「あ・・・えぇ、僕は別にどっちでも構いませんけど・・・。」


 すると男は相変わらず淡々とした物腰のまま、リュートに向かってちょいちょいと手招きすると再び歩き出す。

リュートは丸メガネの男の後ろをついて行きながら初めて入るヴィオセラス研究所という所が一体どんな所なのか、色々と見学するように周囲をきょろきょろと見渡していた。

しかし中は思っていたより殺風景で天井も壁も床も全て白で統一されており、さっきまでの大学のような風景が嘘のような変わりようであった。

まるでテレビや映画で見たような最重要機密を扱う秘密研究所のようで、年代や性別は様々だがこのフロアで見かけた者の全てが白衣に身を包み、淡々と自分の研究に没頭している。

物珍しそうにリュートが色々と見て回っているので、2~3分程沈黙のまま歩き続けていた丸メガネの男性がようやくリュートの様子に気付いて研究所に関することをかいつまんで説明し出した。


「普通の人からしたらここって随分と珍しい場所かもしれないね、このフロアは白を基調としてるから。

 ここでは色んな学者や研究員たちが日夜、魔術や兵器の開発に没頭してるんだよ。

 ガルシア国王の時代―――――――って言ってもそんな昔の話じゃないけど、前国王が研究内容や課題なんかを直接指示して

 僕達は結果を出す為に、日々研究を続けていたんだ。

 今のアシュレイ国王になってからは兵器開発以前に、戦場になった土地や町の復興を優先させてたから・・・つい最近まで

 ここの学者達はみんな、それぞれ興味がある分野の研究を適当にしてたんだよね。

 それがつい先日グリム博士が新たな研究開発の発注をして来たもんだから、今ではここの連中はみんな大忙しさ。」


「一体何の開発をしているんですか?」


 リュートは試しに聞いてみた、どうせこういった研究所では研究内容を外部の人間に教えてはいけないような規則があることは十分承知していたが、聞けたら聞けたで幸運だ・・・という程度の気持ちだった。

しかしリュートがオルフェと密接な関係にある闇の戦士だから・・・という理由なのか、意外にも男はあっさりと教えてしまう。


「今大急ぎで研究してるのは『大規模シールド展開』っていうもので、まぁ言ってみれば結界の巨大版ってやつかな?

 それこそ首都全体を完璧な結界で覆ってしまう位の大規模な魔道兵器を作ってるのさ、・・・結界にも色々種類があってね。

 でもそれを完成させるにはここにいる学者連中だけじゃ不可能で、魔法科学に特化した者や結界師・・・それこそ色んな

 分野の学者や魔道士を結集させないといけないんだよね。

 もう随分昔に機械工学の天才として名を馳せていた伝説の科学者がいてくれたら、少しは違ったんだろうけど。

 いないものは仕方ないしね、今いる人材だけで何とかやってのける気満々さ・・・ここの連中は。

 ――――――――――――――っと、ここだここだ。

 グリム博士はここの研究室にいるよ、それじゃ僕は他に用事があるからもう行くね。」


「え・・・!? あぁ・・・、どうもありがとうございました。」


 最後まで淡々としていた丸メガネの男は、リュートの案内が済むとさっさと自分の用事へと足を運んで行ってしまった。

目の前に扉がある場所で置き去りにされたリュートはてっきりオルフェの元まで案内してくれるものとばかり思っていたのだが、その考えが甘かったと少しだけ反省してからこの部屋の中にオルフェがいるのだと、一応ノックをしてみる。

いつもなら洋館にあるオルフェの私室や執務室をノックした時にはオルフェが直接返事をするか、もしくは部下(洋館にいた頃はミラ)がオルフェの代わりにドアを開けるかしていた。

中から返事はなくそのままドアが開かれたので後者か・・・と思ったリュートは、出て来た人物に話しかけようとする。

ドアを開けて姿を現したのは初老の男で分厚いメガネをかけていた、頭はすっかり悲惨な状態になっておりかろうじて残っている頭髪は完全に真っ白になっている。

いかにもマッドサイエンティストのような風貌をしたその男は目の前にいるリュートを見るなり意味もなく頷きながら、いきなりリュートの頭を掴むと髪の毛を触ったり引っ張ったり・・・とにかく色々なことをしてきた。


「ほうほう・・・、こりゃまた見事な青髪だわい。」


「え・・・いや、あの・・・っ!」


 抵抗しようにもしっかりと頭を固定するように掴まれていたので身動きが取れずにいるリュート、何とかこちらの意思を伝えようと奮闘してみる。


「あのっ、すみません!

 僕・・・オルフェ・グリム大佐に用事があって―――――――って、あ・・・ここでは博士の方がいいのかな。

 グリム博士に用事があってここまで来たんですけど、あの・・・聞いてます!?」


「オルフェ君は今会議中だ、重要な会議だから邪魔せんように。

 それにしてもこの色素は一体どうなっているんじゃ、やはり遺伝子情報というよりもマナの質から・・・。」


「マクシミリアン教授、そろそろ解放して差し上げたらどうですか?

 いくら興味があるといってもそれじゃ可哀想ですよ、―――――――ねぇリュート。」


 リュートの青い髪に興味津々になっていた初老の男―――――――マクシミリアン教授と呼ばれた男の背後から、長身の男が声をかけて来た・・・当然リュートはこの男をよく知っている。

早く会いたかったようなそうでもないような、ともかく今の状態から解放してくれる人物が現れてくれたことにホッとしているリュートは、思わず声を荒らげていた。


「―――――――――大佐!」


リュートの存在を確認したオルフェが右手を上げて軽い挨拶をすると、そのままマクシミリアンの方に向き直り話しかける。


「教授、会議の方はあらかた済みましたのでこのまま設計に取り掛かっても問題ないと思いますよ。

 それと申し訳ありませんが私は彼と少しだけ話をしなければいけないようなので少しの間席を外します、何か問題や 

 不具合が発生した時にはすぐにでも駆けつけますから後のことを任せてもよろしいでしょうか。」


 オルフェの言葉に少し不服そうなマクシミリアンだったが、ふと彼の視線が室内の奥にある大きな黒板の方へと向けられた瞬間・・・一気に彼の瞳が輝きだして、すぐさまマクシミリアンの興味はリュートの青い髪から設計図の方へと移転したようだった。


「そうか、なら今から大忙しじゃ!

 設計図が完成したらすぐさま必要な材料を手配するから、それにも一応目を通しておいてくれのう。」


「はい、わかりました。 ではよろしくお願いします、教授。」


 両手を後ろに組みながらにっこりと微笑んでマクシミリアンの意気込みを窺うオルフェ、とても初老とは思えないはつらつとした動きにリュートは唖然としていた。


「―――――――――ところでリュート。

 君は行方不明になっていたと報告を受けていたのですが、・・・一体どうしたと言うんです?

 わざわざこんな所まで足を運ぶとは思ってもいませんでしたよ、何か急用が出来たんですか。」


 そう声を掛けられてリュートは慌てて本題に入ろうとした、しかしリュートの様子から話が長くなりそうだと察したオルフェがリュートが話しだそうとした瞬間に言葉を遮ると、場所を変えようと思い立って歩き出した。

リュートの方も立ち話でもするかのようにこんな所で大事な話をするわけにはいかないと、異論なく従う。

案内された場所はやはりオルフェ専用の研究室なのか、誰もいない部屋へと入って行った。

中はものの見事に殺風景であり必要最低限の物しか置かれていない、―――――――と言っても別に怪しいホルマリン漬けの瓶がびっしり並んでる棚とか、巨大な大窯でグロテスクな何かをぐつぐつと煮えたぎらせているような・・・そんな物が置いているわけでもなく、実に整然とした室内であった。


(―――――――僕の中の大佐のイメージって。)


 異世界ファンタジーと言っても、科学的な所はリュート達の世界と何ら変わらない技術力をを持っているような・・・そんな世界なのにも関わらず、リュートのオルフェに対するイメージがどうしてもマッドサイエンティストか、悪い魔法使いという想像力にリュートは自分で自分にがっかりしていた。

薄いベージュのソファーに座るように促され、リュートは黙って従う。

その向かいにオルフェが座るとまるで何もかも見透かすような視線でリュートを眇め、思わずうろたえてしまう。


「それで? 何か問題でも起きたんですか?」


 リュートがアビスグランドから戻った時にはすでにオルフェは首都へ向かっていたので詳しい説明はミラにしかしていないので、リュートはまずミラに話して聞かせた内容から順を追って説明した。

そこでもやはりルイドの精神世界面アストラル・サイドに関する内容は伏せておき、ルイドを結界内に閉じ込めたこと、そしてゲダックが一時的ではあるがリュートに手を貸すようになったことなど、あくまで表面的な内容を全て話した。

説明している間にもオルフェは途中で口を挟むことなくただ黙って真剣に聞いており、内心では何を考え何を思っているのか・・・オルフェの目を見ただけでも心臓の鼓動が高鳴るようであった。

勿論それは『畏怖』や『威圧感』によるものである、リュートはそんな恐怖感を抱きながら―――――――思わず左手で首筋をさすって、何とか緊張感を和らげようとした。

一通り話し終えると、やはりオルフェは何も言わず―――――――ただ黙って何かを考え込んでいる様子である。

その沈黙が更にリュートの恐怖感を与える。

オルフェがどれだけ察しがいいか・・・勘が鋭いか、今までずっと見て来たからわかる。

内心ハラハラしながらオルフェからの言葉を待っていると、意外にも返って来た言葉は予想だにしない内容だった。


「―――――――まぁ大体はわかりました、それで?

 君はその話を私に直接したいが為に、わざわざ一人で首都までやって来たということですか?

 ・・・君のことを心の底から心配していたザナハ姫を放っておいてまで?」


 思わず目が点になる、指摘される箇所って―――――――そこ!?

リュートはずっと今まで話した内容が虚構ではないかと、そう問われるものだと身構えていたのだが突然ザナハの名前が出て来たことに驚きを超えて唖然としてしまう。


「え・・・いや、ザナハやアギトにもちゃんと行き先を言っておきましたよ!?

 これからはもう一人で勝手にどこかへ消えたりなんかしないって約束したから・・・、ゲダックの術で首都までは一瞬で

 到着することが出来るから危険な旅でもなかったし・・・何も心配させるようなことはないから、別に問題ないですよ。」


 本当に何も問題はない、そんな眼差しで答えるリュートにオルフェは苦笑している。

何がそんなにおかしいのか・・・リュートにはわけがわからなかった。


「いやはや・・・君はもう少し勘の働く子かと思っていたんですが、自分のことになると途端に鈍くなるタイプですか。

 まぁいいでしょう、その話はとりあえず置いといて。

 ようするにルイドに関してはこれ以上横槍を入れて来るようなことはないと、そう言いたいんですね?」


「はい、一応4軍団であるブレアとヴァルバロッサもこれ以上ルイドの体に負担がかからないように結界の外で見張るという

 条件で、ルナやシャドウとの契約を妨害するようなことはしないそうです。

 例えルイドから契約妨害の命令が出たとしても、それはディアヴォロの核がそう命令しているだけだと・・・ルイド自身の命令

 ではないと―――――――彼等も理解しています。

 後は三国同盟で決定した内容に従って、上位精霊との契約を進めて行くつもりです。

 アギト達も中尉の指揮の元、今頃は光の精霊ルナとの契約に向けてアンデューロを目指してる頃合いだと思います。」


「では君もそれに従って、この話が終わった後にアビスグランドへと再び戻って闇の精霊シャドウと契約を交わすと、

 そう判断していいんですね?」


 まるで何かを確認するかのような言い回しに、リュートはもしやと思った。

オルフェがつっこんで来る前に、リュートは殆ど賭けであったが自分の方から切り出してみる。


「―――――――そうです、それが双つ星の・・・添え星の運命ですから。」


 リュートの言葉にオルフェの目の色が変わった、それまでは真剣ではあったがそれでも余裕のある仕草であった。

しかしこのたった一言によって、オルフェは獲物を狩るハンターのような鋭い視線になってリュートを瞠る。

話すなら、―――――――――今を置いて他にない。

リュートは本当にオルフェに伝えたいこと、首都に来てまで話そうと思っていた『本題』を話す心の準備が今・・・完了した。





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