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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランドレムグランド編 6
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第245話 「痛み続ける心」

 リュートとミラはアギト達と別れるとすぐさまオルフェの執務室へと向かった、到着するまでの間全く会話がなくただ黙って廊下を進んで行くだけ・・・しかし今のリュートにとって、沈黙というのがこれ程心地の良いものだとは思いもしなかった。

今までのリュートなら沈黙に気まずさを感じて無理矢理にでも話題を作ろうと必死になっていたものだ。

頭の中で話す内容を確認する為に何度も繰り返し練習を繰り返している時、ふとある人物の存在を思い出しミラに尋ねてみる。


「あの、大佐はどこにいるんですか?

 出来れば大佐も交えて話をしたいんですけど・・・。」


沈黙を破ったリュートの方を振り向きながら、ミラが答える。


「それが・・・大佐は今、レムグランドの首都へ向かわれているんです。

 ラ=ヴァースが復活した時の様々な影響に備えて、大規模な結界を張る為の研究開発の指揮を大佐が執ることに

 なったんですよ。

 少なくともルナとの契約を交わし終える頃まで大佐は戻って来れないと思います。」


「そう・・・ですか、だったらある程度中尉に報告したら・・・その後、首都にいる大佐に直接会いに行きますよ。」


「一人でですか!?」


 淡々と話を進めるリュートにミラは少し驚いた声を上げて、思わず足を止めた。

何をそんなに驚く必要があるのかよくわからないリュートはきょとんとした顔で、同じように立ち止まる。


「あ・・・はい、詳しくは執務室で話しますけど・・・最終的にはやっぱり大佐の許可とかが必要になってきそうなんで。

 別に大丈夫ですよ、実は僕・・・ゲダックと交信出来るアイテムをもらって来たから移動に関しては心配いらないんです。

 ゲダックの術って本当に便利ですよね、敵だと厄介な人ですけど。」


にこやかに話すリュートの顔色を窺うように、ミラは少し怪訝な表情になりながら曖昧に返事をして再び歩き始めた。


(・・・僕、何か余計なこと言ったかな?

 もしかしたら中尉に悟られちゃったかもしれない・・・、もう少し言動には気をつけるようにしないとダメだな。)


 リュートは自分の行動や言動にもう少し気を使うように心がけて、ミラの後をついて行く。

再び沈黙になって歩き続ける二人であったが、執務室へはすぐに辿り着いた。

ミラがドアを開けて中へ入るように促されるリュート、オルフェの執務室は整然としており壁にはレムグランドの地図や数々の表彰状、執務室なのになぜかワイングラス一式が並べられた棚が置いてあり、その上には多くのトロフィーやら何やらが置かれていた。

大きな執務用の机の後ろには本棚が並んで、ぎっしりと書類やら図書室から持って来たであろう分厚い本やらが詰め込まれている。

しかしやはりこの辺は性格が現れているのか・・・、どこも綺麗に整頓されていて気持ちがいい位だった。

執務室の真ん中には来客用なのか、少し背の低い長テーブルとゆったりくつろげるソファーが置いてあってミラはそこに座るようにリュートに指示する。


「こうして改めてリュート君に話を聞こうとしているのは他でもありません、もう気付いていると思いますけど

 三国同盟が成立してからアビスグランドでは異変が次々と起きています。

 それ以来・・・誰一人としてアビスグランドの様子を見聞きして来た者がおらず、一体クリムゾンパレスで何が

 起こっているのか。

 唯一異変が起きている首都へと出向いて、戻って来た人間はリュート君・・・君だけです。

 一部始終話してもらえませんか?

 リュート君の証言は一言一句漏らさず首都にいるアシュレイ陛下、並びに龍神族の元老院の方に全て報告します。

 何を見て来たのか、そして何が起こっているのか、現在のルイドの状況などを細かく教えて欲しいんです。」


 まるで頼み込むような口調でミラが質問をして来ると、リュートは予想通りの流れに頭の中で練習しておいて本当に良かったと安堵していた。

しかしここでぺらぺらと流暢りゅうちょうに説明するのは望ましくないと感じたリュートは、わざとらしくなり過ぎないように一生懸命思い出す仕草をしながら、たどたどしい口調で話し始めた。


 ミラに話した内容は当然、ルイドの過去の記憶に関することは全て伏せておいた。

それ以外は殆ど実際に起きた内容を話して聞かせた、ルイドを始め軍団長達とも口裏を合わせているのでつじつまが合うようにしているのだ。

ミラに話した内容は次の通りである。


 ディアヴォロの核によって自我を失いつつあるルイドがこれ以上暴挙に出ない為に、軍団長達で結界を施した場所にルイドを閉じ込めたという内容を、リュートがまずミラに説明した内容だった。

実際にはルイドの自我はまだ正常を保っている状態だが、クジャナ宮から無関係の者達を追い出す為に仕方なく自我を失っているということにしているのだ。

ルイドを閉じ込めたことにしている場所はクジャナ宮の女王の間、こうすることでルイドが危険だからという理由を付けてベアトリーチェの配下がクジャナ宮に戻れないようにする為でもあった。

ルイドを解放する時は、ザナハ達が光の精霊ルナと契約を交わした時・・・。

勿論それは『ルイドを解放する』というよりむしろ、『ルイドが結界を破った』という状態にしておく必要があった。

なぜならあくまでルイドは『完全悪』の存在としてアギト達の前に立ち塞がらなければならない為、そして『完全悪』となったルイドに何の躊躇いもなくアギトが止めを刺せるように・・・、その為の布石でもあるのだ。


(ルイドの最期は決定されてる・・・、選択肢は他に残されていないんだ。

 本人もそれを望んでいるし、それにルイドに寄生している核はどうしてもアギトの手で壊さなくちゃいけないから・・・。

 それがルイドなりの贖罪の形・・・、ルイドが自分で選んだ最期だから・・・。)


 心の中で別の感情が現れても、決して顔や声には出さずにリュートはミラへの報告を続けた。

他には4軍団の軍団長でもあるゲダックがリュートに加担するようになったこと、そしてブレアとヴァルバロッサだけはルイドへの忠誠心からクジャナ宮に残る道を選んだことなどを大まかに説明する。

ゲダック自身が元々誰かに忠誠を尽くすタイプではないので適当な説明でもそれなりに説得力を持たせることが出来るが、ブレアとヴァルバロッサだけは主に対する忠誠心が並ではないことが、オルフェやミラには十分に周知されていたので適当な説明では納得させることが困難だと考えた。

よってこの二人だけはどんなことがあろうともルイドに忠誠を尽くすという信念から、こちらの味方にさせるのは難しかったということにしておいたのだ。


 そして最も重要となるのが闇の神子ジョゼの存在であった、彼女には闇の精霊シャドウとの契約を交わすという大仕事がある。

最初の説明にもあったように『ルイドを結界内に閉じ込めた』という点から、ジョゼもこちら側に引き抜くことが可能という状況を作れるようになっていた。

あとはもう一度リュートがアビスグランドへと戻りジョゼと共にシャドウと契約を交わすことが出来れば、両国の上位精霊と契約を交わしたということでラ=ヴァース復活への第一歩が築ける。


あとは、リュートが誰にも悟られずに計画を進めて行くだけだった。


 当然その計画に関しては一切触れずに、以上の三点をミラに説明し終えたリュートは続けてオルフェと面会する為にはどうすれば良いのか聞くだけである。

リュートの報告からいけばルイドへの懸念がひとまず解消されたと判断しても良いことになるのだが、―――――――ミラは少し不信感の入り混じった表情を浮かべていたが、あえて口にはしなかった。

それがかえってリュートの不安を煽ったが、それでもあくまで『今まで通りの自分』を演じ続けるリュート。

レムグランドに戻って来てからリュートの胸の痛みは増すばかりであった。


騙し続ける罪悪感。

隠し続ける孤独感。

そして、自分で選んだ道への恐怖感。


 リュートはそれらの痛みを、『ルイドの過去』を見た後から―――――――ずっと抱えていた。

和らげる薬なんて存在しない・・・、自分の力で耐えて行くしか・・・乗り越えて行くしかないのだ。

リュートの心は悲鳴を上げていたが誰かに打ち明けることなんて出来るはずがない、打ち明ければきっと・・・自分を守る為に、助ける為に他の誰かが傷つくだけ・・・。


それだけはどうしてもイヤだった。


 これ以上、ジャックと同じ道を他の誰かに歩ませるわけにはいかない。

もう二度と―――――――――あの時の痛みをもう一度味わうことなんて、したくなかった。


 だから決意した。

一人で死んでいくと・・・、それで他の誰かを傷付けずに済むのなら・・・。


本当は怖い・・・。


ものすごく。


 だけど、『あれ』を知ってしまった今なら―――――――その怖さすら乗り越えられる。

『自分の死』以上に恐ろしいことがあるということを・・・、知ってしまったから。




―――――――――迷った時は、何が自分にとって最も大切なのか・・・それを思い出せ。




 ルイドから言われた言葉。

今ならその意味がよくわかる・・・。

ルイドの言葉通りにすれば・・・自分が今抱えている痛みや苦しみが、どれだけちっぽけなものだったかよく理解出来る。


僕の大切なもの・・・。


世界を壊してでも・・・、誰を敵に回そうとも・・・、―――――――それでも守りたい人。


僕の命以上に、優先出来る者。


 そう、その為なら僕は―――――――何だって出来る。

今まで味方だと信じて来た者にさえ、僕は笑って裏切ることだって出来るんだ・・・。




再びリュートの顔に落ち着きが戻り、ミラの瞳を真っ直ぐと見据えて―――――――そして尋ねた。


「中尉、大佐に大事な話があるんで・・・僕は今から首都へ行こうと思います。

 お城に入った後すぐにでも大佐に会えるように、手紙か何かを・・・書いてもらえませんか?」





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