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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランドレムグランド編 6
246/302

第244話 「守れない約束」

 


   < レムグランド ゼグナ地方 洋館にて >



 洋館ではまるで通夜が今でも続いているかのように、重苦しい空気が流れていた。

ジャックの葬儀から三日―――――――、兵士や召使い達はすでに元の仕事に戻っており・・・洋館に滞在する殆どの者がいつもの日常に戻りつつある中、アギトだけはこの三日間・・・悶々としたままふてくされていた。

そして今日・・・ミラの指示でアギト、ザナハ、ドルチェは円卓会議室に呼ばれていた。

そこで光の精霊ルナとの契約に向けて計画を練る為に会議室に集まったわけだが、アギトとザナハは一刻も早く契約を交わしに行こうと焦りを見せて、ここぞとばかりに異常にテンションが上がっている。


「だからこんな所でウダウダと話し合いとかしてねぇで、さっさと光の塔へ行こうって言ってんだろ!?

 こうしてる間にもリュートがアビスで何をさせられようとしてんのかわかったもんじゃねぇだろうがっ!!」


 アギトが両手でテーブルをばんばんと叩きつけながら、ミラに向かって怒鳴り散らした。

続いて隣の席に着いていたザナハまでもがアギト同様の勢いで、テーブルこそ叩きつけはしなかったがそれでも勢い余って席から立ち上がり、ミラに意見する。


「今回ばかりはアギトに賛成だわ!

 光の塔へは前にも一度最上階まで行ったんだし、あとはルナの試練を受けるだけでしょ!?

 だったらやっぱりすぐにでも行動に移すべきだわ!」


 遂には二人ともが席に着こうともせずにテーブルをばんばん叩いて短気を起こしている様子に、ミラは頭痛でもしてきたのか・・・頭を押さえながら眉根を寄せて、何とか二人を落ち着かせようとする。


「二人とも・・・、気持ちはわからなくもないですが今回は以前と違ってメンバーが少なくなってるんですよ?

 大佐が抜けた穴も大きいですし、当然最上階へ行くまでには何機もの機械人形が私達の行く手を阻んで来るのは

 わかりきったことです。

 それをここにいるメンバーだけで相手をしなくてはならないんですよ、一人一人の負担が大きくなってます。

 最上階へ辿り着く前に力尽きては意味がないのですから、そうならないようにここでしっかりと作戦を練ってですね・・・。」


辛抱強く丁寧に説明するミラに、アギトは奇声を上げながら反論した。


「だぁ―――――――っっ!! そんなもん前みたいにオレがヴォルト使って操るからどうってことねぇって言ってんじゃん!!

 仮にオレがバテたとしても試練受けんのはザナハなんだろ!?

 だったら別にオレが全力でみんなを最上階まで連れて行くことが出来りゃ上等じゃんかよ、何か問題あっか!?

 ザナハさえピンピンしてりゃモーマンタイじゃんか!!」


 アギトの言葉にザナハは隣でうんうんと頷き、そして決断を下すミラに向かって必死の眼差しになりながら見据えた。 

そんな期待の眼差しに満ちた二人の状態に、ミラは溜め息を漏らしながらどうしたものかと更に頭を抱えていた時、突然外が騒がしくなったので何事かと思ったミラが(まるで逃げるかのように)、ドアを開けて外の様子を窺った。

どうやら騒がしいのは玄関先らしく、ちょうど会議室の真下が玄関になっていたので廊下の窓を開けて見下ろす。

ミラが戻るまでアギトとザナハは立ち上がったままで、少し怪訝な表情で顔を見合わせている。


「何だよ、このクソ忙しい時に・・・。」


 早く結論を聞きたいアギトは苛立ちを隠すことなく呟いた、外で一体何が起こっていようがまるで興味がないという様子だ。

しかしザナハは少しだけ外の騒がしさが気になっている。


「おかしいわね・・・、この洋館周辺にはミアさんが結界を張ってるから魔物は入って来れないはずなんだけど。

 魔物以外で兵士が騒がしくなるなんて・・・、一体何があったのかしら?」


「そんなんどうでもいいよ、どうせ首都から誰か来たとか・・・そういうのだろ?」


 つまらなさそうにアギトが言い放つと、突然ミラが慌てて会議室に戻って来た。

何があったのかザナハが聞こうとした矢先、ミラの方から先に声を荒らげる。


「アギト君、ザナハ姫!

 リュート君が帰って来ました!!」


「―――――――リュートがっ!?」

「本当にっ!?」


 ミラからそう聞いた途端だった、二人はすぐさま会議室を出て行って玄関先を目指す。

そんな二人の後ろ姿を見送るミラが少し寂しげな表情になり、そして呟く。


「―――――――よっぽど心配だったんですね、リュート君のことが。

 全く・・・ルナとの契約に向けて作戦を立てないといけないっていうのに。」


 肩を竦めながら文句を言うが、しかしその表情はすぐに笑顔になって嬉しそうに溜め息をついた。

その横でドルチェがくまのぬいぐるみを抱き抱えたまま、ぼそりと小さく告げる。


「無理もない、二人ともリュートがいなくなってから食事も睡眠もロクに取ってない。

 むしろリュートが戻ったことで、少しはマシになるかもしれない。」


「・・・そうね、少なくとも雑念に囚われたまま光の塔を目指すよりかは、―――――――ずっとマシかもね。」


 しかしミラは知っていた、二人がリュートと絆を深めれば深める程・・・待ち受ける結末が更に二人を苦しめるという事実に。

ディアヴォロの核を宿したルイドを殺した後、最後の核を宿して犠牲になるのは他の誰でもない・・・リュートである。


―――――――ザナハは核がもうひとつあることを知らない。


 だからこそ、ルイドが核を宿したまま殺されなければならない運命なんだと知っていても・・・、その後にリュートまでもが同じ最期を遂げるという事実を、ザナハは知らないままだった。

そしてそれをまだザナハに告げてはならないとオルフェから命令が出ている、例えその命令がなかったとしても・・・ミラは真実を告げる勇気が持てずにいる。

たった一言で世界を救う手立てを永遠に失うかもしれないからだ・・・。

時折罪悪感から迷いが生じるも、ミラは心を強く保とうとする。

恨まれるというのなら・・・それはオルフェだけではない、自分も恨まれることを覚悟しなければならない。

再び紫色の瞳に強さが増して、迷いを捨てたミラはドルチェに向かって笑顔を向けると自分達もリュートの元へ行くよう促した。


「ともかくアギト君やザナハ姫がいないことには作戦会議になりません、ここはひとまず私達も行きましょう。」


ミラの言葉にドルチェが静かにこくんと頷き、それからリュートがいる玄関先へと急いだ。






「ごめんね、二人とも。」


 一人で勝手に行方をくらましたリュートを責め立てる為に捕獲しようとしたアギトとザナハであったが、玄関先で顔を見合わせた瞬間にリュートの方からいともあっさりと笑顔の謝罪をされて調子を崩してしまっていた。

しかしすぐさま勢いを取り戻したアギトはすかさず怒鳴り散らす。


「ごめんね、ぢゃねぇよテメーっ!!

 突然置き手紙だけ残して姿消しやがって、オレ達がどんだけ心配したかわかってんのかっ!?

 謝罪はいいからとにかく殴らせろ! 2~3発位オレの右ストレート叩きこませろ!!」


 そう怒鳴りながらアギトはリュートの了解も得ずに右ストレートを連続で繰り出すが、どれも簡単に回避されてしまう。

リュートは変わらず笑顔のままでアギトの攻撃を避けながら殴られることを断固拒否した。


「いやだよ、アギトのパンチ結構ダメージ大きいしさ。」


するとアギトの理不尽攻撃に便乗したザナハまでもが、リュートに向かってパンチや蹴りを繰り出して来た。


「安心しなさいよ、あたし達の怒りの鉄拳を食らって万が一戦闘不能に陥っても、ちゃ~んと蘇生魔法かけてあげるから!

 だから大人しく殴られなさい! でないとあたし達の気が済まないじゃないのよっっ!!」


「だから謝ってるじゃないか。

 ほら、手紙に書いた通りすぐに戻って来たわけなんだし。」


「うるさ―――――――いっ!

 もうこれ以上勝手な行動しないように、ここでしっかりと教育し直してやるんだから!

 どれだけ心配したと思ってんのよ!

 あたしがどれだけ不安で・・・怖くてたまらなかったか、どうせあんたにはわかんないんだから!」


 泣き叫ぶように声を張り上げながら責め立てるザナハに、リュートは胸が痛んだ。

そしてザナハが殴りつけようとした右手を捉えて優しく引き寄せる。

今までの攻撃を全て回避されて油断していたのか、急に腕を引っ張られたザナハは抵抗すら出来ずに簡単に体勢を崩した。

リュートは本当に申し訳ないという表情を浮かべるとザナハに面と向かって、心から謝罪する。


「―――――――本当にごめん、ザナハがこんなに僕のことを心配してくれてるなんて・・・思ってなくて。

 でも安心して、もう二度とこんなことしないって約束するから。」


 リュートの優しい声に、ザナハは一瞬心が揺らいだ。

高鳴る鼓動に頬を染め・・・思わずリュートから視線を逸らしてしまうザナハ、するとリュートは捉えていたザナハの手を離して自由にしてやる。

ザナハは捉えられていた腕を抱き締めるように胸の前で組んで、少し拗ねた表情でリュートに確認した。


「・・・本当に?」


「僕が約束を破ったことなんて、あったっけ?」


 にっこりと微笑みながらリュートが余裕のある口調で返答する、そんな無垢な微笑みを見せつけられてザナハはリュートのことを卑怯だと思いながら再び視線を逸らした。

しかしリュートが『約束』だと言った今の言葉、これは決して守ることの出来ない約束だと・・・リュート自身はよくわかっていた。

自分はルイドの遺志を引き継ぐ者、やがてアギトやザナハを深く傷付けることになるとよくわかっていた・・・。

わかっていても今は二人を安心させる為に・・・落ち着かせる為に、こう言うしかなかったのだ。


―――――――――心が痛む。


 しかしその痛みは決して悟られてはいけない、全て自分一人で背負わなければならないことなのだから。

これが自分に課せられた使命。

決して逃れることの出来ない、リュート自身が背負うと決めた運命なのだから。


 意気消沈したザナハに、とうとうリュートに対してまだ怒りが収まっていない人物はアギト一人だけとなってしまう。

それを十分に把握しているリュートは、同じように屈託のない笑みをアギトに向けて・・・約束した。


「アギトも、わかってくれるよね。

 もう勝手な真似はしないって二人に誓うよ、アギトやザナハにこれ以上心配をかけさせるようなことはしないから。

 だから僕の言葉を信じてくれるかな・・・?」


 そうハッキリと『約束』を口にするリュートに対し、ついにアギトまでもがリュートの笑顔に根負けしてしまった。

しかしふてくされた表情は相変わらずのアギトはリュートに向かってびしぃっと人差し指を突き付けると、今の言葉に嘘偽りがないかをもう一度確認させる。


「ぜ―――――――――ったいだな!?

 今の言葉忘れんなよ、絶対に約束を守れよ、破ったら針千本飲ますからな、ミラの手料理食わせるからなっっ!?」


「あら、約束を破った罰則は随分と重いみたいですね。」


―――――――――ぞくっ。


 静かな口調に背筋が凍る、アギトは顔面を蒼白にさせながらゆっくりと背後に視線を移した。

当然そこには冷たい笑みを浮かべたミラが立っており、その後ろではドルチェが親指を下に向ける仕草をしている。

口をパクパクさせながら震えるアギトの前を通り過ぎると、ミラはリュートに話しかけた。


「リュート君、少しだけいいかしら?」


 ミラの表情は真剣そのものであり、そこから話の内容がアビスグランドやルイドに関することなんだとリュートは瞬時に察した。

再びにっこりと笑みを浮かべるとリュートは静かに頷く。


「おっ、リュートが戻って来て早速ルナ攻略の為の作戦会議だなっ!」


先程とは違う意味で乗り気になったアギトであったが、ミラが厳しい口調で否定した。


「いえ、私はリュート君と二人で話があるんです。

 すみませんが二人は話が終わるまで、会議室で待っていてくれますか?」


「・・・え!?」


 当然事態がよく飲み込めていないアギトは、思わず声が引っくり返っていた。

しかしザナハはミラの話の内容を少なからず察していたのか、少し表情が曇るとミラの指示に従うようにアギトを促す。


「わかったわ、行きましょアギト。」


「え・・・でも!」


「いいから、リュートだって戻って来たばかりだもの。

 少し位ゆっくりする時間をあげてもいいでしょ、ルナ攻略の作戦会議はきっと時間がかかると思うから。」


 まだ納得のいかない顔つきだったが、ミラやザナハの怖い表情を見てそれ以上反論することに抵抗を感じたアギトは渋々とザナハやドルチェと共に円卓会議室へと歩いて行った。




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