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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 4
243/302

第241話 「アルトスク決闘場」

 龍神族の里からこのレムグランドまでオルフェ達を運んで来た銀竜にアシュレイを始め、ミラが連れて来たリヒター、カトル、レイヴンがそれぞれ背中に乗り込むと、オルフェは最後にミラに向かって今後の指示を出そうとしていた。

その時イゾラドの丘へ向かったザナハがなかなか戻って来ないのを心配して様子を見に行かせていたチェスが戻って来ると、そこにザナハどころかアギトやリュートまでがいないことに気付き、ミラが不審に思う。


「ヒューゴス少尉、ザナハ姫は?」


すぐさまミラに問いただされ、チェスは渋い顔になりながらもありのままを報告する。


「それが・・・、アギトと一緒にイゾラドの丘へ行ったらザナハ姫が大木の側で倒れてて・・・。

 ちなみにリュートの姿はどこにもありませんでした。

 アギトがすぐさまザナハ姫を起こしてやると・・・、姫様の状態から見てあれは『眠りの魔法』にかけられたような

 感じでした。

 姫様自身何があったのかハッキリと思い出せない様子でしたが、姫様の手に手紙らしきものが握られていたのでアギトが

 それを読み上げると・・・どうやらそれはリュートの置き手紙だったらしいです。

 その手紙には確か・・・、『するべきことをしに行くから、心配しなくても大丈夫だ』・・・みたいな内容でした。

 どこへ何しに行ったのかアギトの様子からいって、手紙には何も書かれていなかったみたいです。

 ザナハ姫がひどく落ち込んでいたので、今はアギトが姫様を介抱しています。

 オレ達は中尉へ報告する為に一足先に戻って来ました。」


 チェスの報告を一通り聞いたオルフェとミラは顔を見合わせ、何か心当たりでもあるような表情になっていたがそれ以上は口に出さずねぎらいの言葉だけかけると、チェスと一緒に行動していた兵士はそのまま持ち場へと戻って行った。

周囲に誰もいないことを確認してからミラが小声でオルフェに耳打ちするように話しかけた。


「まさかとは思いますが、ルイドの所でしょうか?

 ジャック先輩のことが相当ショックだったようですし・・・、仇討ちを考えたとしても不思議はありません。

 ―――――――どうしますか、大佐?」


 困惑した表情になりながらミラが問うが、しかしオルフェはしれっとした表情のまま・・・特に慌てる様子もなくさらりと言葉を返す。


「相手はあのルイドです、例えリュートが仇討ち覚悟で刃を向けたとしても返り討ちに遭うのは目に見えています。

 ・・・ジャックですら勝てなかったのですから、当然の結果ですよ。

 逆にルイドの方は闇の戦士であるリュートの存在価値を十分に把握していますから、多少痛めつけることはあっても

 殺すような真似はしないはずです。

 まぁこれは『ルイドの自我が残っていたら・・・』という、憶測の範囲での話ですけど。

 ―――――――私にはどうしても、あのルイドがディアヴォロの核に精神面を完全に支配されたようには思えないんです。

 確証のないことは口にしたくないのですが、ルイドの自我が残っているか否かで結果が大きく変わってしまいますから。

 どちらにせよリュートが本当にルイドのいるクジャナ宮に行ったのならば・・・、龍族の力を借りない限り私達だけでは

 どうしようもありません。 計画は現状通りに行きましょう。


 私達はレムグランド首都にあるヴィオセラス研究所で『大規模シールド展開』に関する研究開発を進めておきます。

 中尉達は当初の目的通り、ザナハ姫、アギト、ドルチェと共に光の精霊ルナとの契約を優先させてください。

 闇の精霊シャドウに関してはベアトリーチェ女王に一任してはいますが、精霊との契約に関しては全てルイドが仕切っていた

 らしいので・・・状況的にはあまり芳しくありません。


 一応ルイドが完全に眷族に成り果てたと想定した計画で行くなら、ルナとの契約後にはレムグランド側からアビスグランドへ

 の行き来が可能になるので、出来る限り少数精鋭の状態でアビスへ乗り込みシャドウとの契約に必要な闇の神子とリュートを

 こちらが手中に収める・・・という方向で動いて行くつもりです。


 ルイドが完全に闇に落ちたかどうかは、まぁ・・・恐らくリュートが一番最初に知ることになるでしょうね。

 そのままリュートがルイド側に落ちなければいいのですが・・・。」


オルフェの声のトーンが落ちて、少し考え込むような仕草をしたのでミラが言葉を投げかけた。


「・・・大佐、それは一体どういう意味ですか?」


「いえ・・・ただ、これまでのリュートの言動や行動から見て・・・すでに闇の戦士の末路を把握しているのではないかと

 思いましてね、少し気になっただけですよ。」


それを聞いたミラが不快そうな表情を浮かべ、少しオルフェを軽蔑するような視線になった。


「私が口出しするようなことではないのかもしれませんが・・・、本当にこのままリュート君を犠牲にするおつもりですか?

 アギト君だけではなく、きっとザナハ姫も反対するはずです。

 それを避ける為にあえて真実を告げていないことはわかっています、ですがどうせ遅かれ早かれ知ってしまうことなんですよ?

 いつもの大佐ならば、結果が見えていることをいつまでも先送りにはせず・・・ありのまま結論を口になさるのに、どうして

 今回だけは真実を告げないのですか。」


「―――――――言ってどうします?

 アギトならば『リュート一人を犠牲に出来るわけがないだろ』と言うに決まってますし・・・。

 ザナハ姫に至っても『全てを救いたい』と言うに決まっているでしょう。

 リュートに関しては問題外ですね、好き好んで『自らの死』を選べるはずがない、誰だって死にたくないものです。

 ですから私は、アギトの『トランス状態』を利用しようと決めたんですよ。

 あれならば自我を失うだけではなく完全な制御不能状態となる、誰の言葉も届くことなく闇の戦士を確実に殺せますから。

 結局のところ他に方法はないんですよ、彼等に真実を話して聞かせても駄々をこねるだけで何の進展もありません。

 ならば半強制的に事を済ませてやって、それからアギトが私を憎み殺意を抱いたとしても私はそれを受け入れますよ。

 それしきの覚悟もなくこんな計画を進めようとは思っていませんからね、私としても。

 まぁ・・・私の命を握ってもらっている中尉には申し訳ありませんが・・・、これも世界を救う為だと思って了承して

 ください。」


 残酷な言葉を並べながらも平然と微笑むオルフェの姿に、ミラは腹立たしく思えた。

これが本心ならば救いようのないクズだと思える、しかしこれが本当に唯一残された世界を救う方法であり、避けられない双つ星の運命だと知っているからこそ・・・ミラは反論することすら出来なかった。

今もなおオルフェに従い、自分の愛弟子であるザナハに真実を明かすことが出来ない自分も同罪だと言える。

それがわかっているミラは黙ってオルフェに従い続ける、せめて他に方法が見つからない限りは・・・ずっと従うことになるだろう。

最優先事項は『世界の安寧』、それを目指す為にミラは『自分』を押し殺した。

世界に安寧をもたらすことが亡き夫との約束であり、そしてユリアより託された使命だと・・・ミラはそう信じているからだ。

心の中で自分に何度も言い聞かせ、無理矢理にでも納得させる。

そして再び迷いのない凛とした眼差しを向け、オルフェに敬礼した。


自分は彼と共に地獄の果てまでついて行くと・・・、そう誓ったのだから。




   < アビスグランド 首都クリムゾンパレス クジャナ宮の地下にて >




 ゲダックの術により再びアビスグランドへと舞い戻って来たリュートの瞳には憎しみだけが込められていた、レムグランドからここクジャナ宮に辿り着くまでの間、殆ど・・・全くと言っていい程一言も言葉を交わすことなくリュートは黙ってゲダックについて行った。

てっきりルイドがいる場所はベアトリーチェのいる女王の間かと思っていたが、ゲダックは移動用魔法陣で遥か地下を目指す。

リュートにとってクジャナ宮の地下には良い思い出などない、先の大戦の傷痕が数多く残っている場所であり・・・ディアヴォロが封印されている場所でもあるからだ。

広々とした空間は壁や床一面が真っ黒い黒曜石で出来ているようでとても息苦しかった、闇に閉ざされた地下空間に光が差し込んで来ることはない、ゲダックは魔術か何かで手の平にランプ代わりのように明るい光の球を作り出して先へと進んで行く。

しばらく進んで行き、やがて幅が狭い橋を渡る。

以前にもこの橋を渡った時に下を覗きこんだが、やはり見渡す限り闇が続くばかりで真新しいものは見当たらなかった。

先頭を歩いて行くゲダックの様子を窺いながらリュートは静かに装備の確認をする、ルイドと対面してもすぐさま戦闘に持ち込めるように・・・出来る限り不意を付けるように準備を怠らない。

ベストの内ポケットには煙幕用のカプセルが3つ、腰のベルトには投てき用のナイフ2本と近距離戦用のマン・ゴーシュ、50メートルのワイヤー、右腕には隠しナイフ1本。

それら全てを頭の中で反芻はんすうしながら確認していると突然ゲダックが口を開いたので、思わず武器の確認をしていることがバレたのかと焦るリュート。


「前に一度ここへ来たことがあるのならば知っているはずじゃな、ルイドはこの先で待っておる。

 ワシが案内してやれるのはここまでじゃ。

 ここから先は自分の足で、ルイドの元へと向かうがいい・・・。」


 そう言うと右手に掲げていた光の球をリュートに渡す仕草をするゲダック、手の平の上わずか10センチ程で宙に浮いている光の球を見つめながらリュートはそっと自分の左手を掲げると、まるで意志を持っているかのように光の球はゲダックの手からリュートの手へと移動した。


「―――――――――健闘を祈る。」


 その言葉を投げかけた時のゲダックの意味深な表情を目にしたリュートは、一体どういう意味合いで言ったのか少しだけ気にはなったが、しかし今のリュートの頭の中は仇を討つことだけで一杯になっていたので、どういう意味であろうがこの先にルイドとの戦いが待ち受けていることだけは間違いなかった。

そのままゲダックは振り返ることなく橋を渡って戻って行く。

リュートは片手に掲げた光の球を頼りに、先へと真っ直ぐに続く通路をひたすら歩いて行った。


 静かで・・・、暗闇に閉ざされた空間は思いのほか『孤独』を感じさせる。

しばらく一人で進んで行くと、やがて別の世界へ迷い込んだかのようなだだっ広い空間へと出て来た。

相変わらず壁や床一面は黒一色であったが、気のせいかリュートが持っている光の球がなくてもこの空間内ではわずかな明るさを感じられる。

そのわずかな光が黒い鉱石に輝きを与えて、まるで闇の中で輝く星のようにキラキラと幻想的な雰囲気が目に入った。

少しの間だけ夜空を眺めるように見上げていたリュートであったが、この広い空間の中心とも言える場所・・・微かに光を放っている巨大なサークルの中心に人影を見つけて一瞬だけ驚く。

しかしそれがルイドだとわかった瞬間、静かに息づいていた殺意が目を覚ます。

体中が熱くなり、頭の芯が麻痺していくように・・・『怒り』と『殺意』がリュートを支配していた。

リュートの方に目をやったルイドは、微かに微笑むと静かな口調でリュートを迎える。


「ようこそ・・・、闇の戦士の終着点へ。

 このサークルこそ双つ星の雌雄しゆうを決する場所・・・、闇の戦士が光の戦士によって殺される為に作られた聖なる地。

 それがここ・・・、アルトスク決闘場だ。」



 

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