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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 5
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第237話 「さいごの涙」

 ミラの言葉通りイゾラドの丘でリュートを見つけたザナハは心の底から安堵した、リュートの表情から見てまだジャックの死を受け入れられていない様子であったが、それでも大事に至らなくて良かったと思いザナハは歩み寄って行く。


「来ないで、・・・お願いだから一人にしてよ。」


「―――――――――っ!」


 明らかな拒絶、リュートはザナハの姿を見つけるなり顔色が曇っていた。

眉根を寄せてすぐさま背を向けザナハから視線を逸らす態度に、ザナハはさすがに挫けそうになる。

それでも懸命に笑顔を作ってリュートの方へと歩いて行った、リュートは丘の上で膝を抱えるように座り込んで遠くに見える地平線を見つめている様子だった。


「全くもう・・・、こんな所にいたなんて!

 あたしもアギトも、みんなしてリュートのこと心配してたんだから!」


「・・・聞こえなかったの!? 

 一人にしてって言ってるじゃないか・・・、今は誰とも話をしたくないんだよ。」


 低い声で、隣に立つザナハの方へは一切顔を向けずにリュートが冷たく言い放った。

完全にリュートが自分の殻に閉じこもろうとしていると感じたザナハは、困惑した顔になりながらもリュートを説得するように必死に明るい声を出すように努める。 


「今のリュートを一人になんて出来るはずないでしょ!?

 あたしはアギトに頼まれたの、リュートに元気を取り戻してあげるって! だからあたし一人では帰らないんだから!

 ジャックを失ってツライのはみんな一緒なの、リュートにとって大切な師匠だったからその悲しみはあたし達なんかに

 比べたらものすごく大きいものかもしれないけど・・・それでもジャックはあたし達の大切な仲間だったのよ!?

 悲しくないはずないじゃない、リュートが未だにこうやって悲しんでいたら・・・きっとジャックは浮かばれないわ。

 すぐに立ち直れだなんて残酷なことは言わない、でも・・・せめて少しだけでもいつものリュートに戻って欲しいの。

 リュートがこんな風にツラそうにしてる姿を見てるのは、あたし・・・すごくツライから。」


リュートの隣に膝をついてそっと肩に触れようとした時、ザナハの差し出した手が止まる。


「僕のことなんか・・・っ、本当はどうでもいいんだろ。

 同情なんかいらない、だから放っといて・・・今はザナハに気を使ってる余裕なんて・・・ないんだよ。」


 リュートは地面を見つめてうつむいたまま・・・決してザナハの方を見ようとせず、言葉を吐き捨てるようにしてザナハに苛立ちをぶつけるも、その声は少しだけ震えていた。


「な・・・、なんで・・・どうしてそんなこと言うのっ!?」


「だってそうじゃないか!?

 どうせザナハの頭の中はルイドのことで一杯なんだ、僕のことなんかこれっぽっちも心配なんてしてないんだろっ!?

 わかったらもう僕のことなんか・・・っ!」


 本当はこんなこと言いたくなかった、ザナハのことを傷付けたくなかった。

だがリュートは気持ちの整理がつかずに今まで押し込めていた感情を爆発させて、決して言ってはならないことを叫んでしまったのだ。

それでも止まらない。

このどうしようもない、もやもやとした不快感は決してリュートの心から出て行ってくれなかった。


もう、僕のことは放っておいて・・・っ!


これ以上ザナハのことを傷付けてしまう前に・・・、お願いだからっ!


 後悔に打ちのめされるも・・・、リュートは暴走する心を抑えようとはしなかった。

いっそこのまま完全に嫌われてしまった方がラクなのかもしれないと、そんな風に思っていた矢先・・・ザナハは腹の底から思い切りリュートを怒鳴りつける。


「ルイドのことなんて今は関係ないでしょっ!!」


 真っ直ぐとリュートの瞳を捉えて、ザナハが声を荒らげる。

その瞳はとても必死で・・・どこか悲しみすら帯びている、リュートは数日ぶりに・・・マトモにザナハの顔を見た気がした。


「ルイドなんてどうでもいいの・・・、あたしはリュートのことが心配なんじゃない!

 どうしてそれがわからないの!?」


ザナハが必死で訴える言葉に、リュートは驚き戸惑った。


「だ・・・って、ザナハはルイドのことが・・・。」


「今はリュートの心配をしてるって言ったでしょ?」


迷いなく反論するザナハ、だんだん頭の中が混乱して来るリュートはまるで拗ねた子供のようになって色々と言葉を付け加える。


「でも、ルイドが・・・ジャックさんを殺したんだ。

 僕は絶対許せない、でもザナハはルイドのことが好きなんだから・・・僕はどうしたらいいのか・・・。」


「好きでも・・・誰かを傷付けることはいけないことよ、そんなの小さな子供でも知ってるわ。

 確かにルイドがジャックのことを、・・・殺したのかもしれない。

 でも、その事実にあたしの気持ちなんて関係ないじゃない。 好きでも・・・悪いことは悪いことよ。

 あたしだって、大切な仲間を傷付けたルイドのことが・・・許せないわ。

 ・・・リュートと同じようにね。」


 ザナハの表情が曇る、精一杯苦しみに堪えているのだとリュートは悟った。

―――――――――今になって気付く、ザナハが深く傷ついていることを。


(そう・・・だ、ザナハはルイドのことが本当に好きだから・・・。

 なのにその相手が自分の仲間を殺した、同盟に反することを・・・裏切り行為をしたんだ。

 本当はザナハだってどうしたらいいのかわからない、・・・わからないんだ。

 僕には想像すら出来ない。

 自分の好きになった相手が、自分の大切な仲間を殺したなんて・・・そんな残酷な現実。

 僕ならきっと耐えられない!

 でもザナハは今まで笑顔を作ってた、懸命に苦しみに耐えてた。

 そうやって僕を闇の中から救い出そうとしてた、・・・でも僕はただ悲しみに暮れてただけ。

 ルイドが傷付けたのはジャックさんだけじゃない。

 ザナハの純粋な気持ちすら傷付けたんだ!)




―――――――――悔しい!




 リュートにとって最も大切な人を奪われ、そして大切に想っているザナハまで傷付けられて!

自分はただ、泣き崩れていただけ。

今でもその悲しみが消えてくれない、胸が苦しくてたまらない!


 本当に情けない、・・・何て情けないんだろう!

いつまでも悲劇的な自分に酔いしれるように、落ち込んで落ち込んで・・・自分のことが可哀想だと思うことしか出来ないなんて。



 このままじゃダメだってわかっているけど、どうしたらいいのかわからない。

ずっと誰かに心臓を鷲掴みにされたような感じがして・・・、呼吸することすらままならない。

胸の奥が、喉の奥が苦しくてたまらない。 

このどうしようもない感情をどんな風に吐き出せば楽になれるか、わからない!




その時・・・。




 ザナハがそっとリュートを抱き締め、背中を優しくさすった。

一瞬何が起こったのかわからず呆けていたが次第に胸の痛みが和らいで、リュートは自分の身に起こっていることをようやく把握する。


「ザナ・・・、ハ!?」


「大丈夫・・・、そんなに悲しそうな顔をしなくても大丈夫。

 あたしはどこにも行かないから。

 リュートを一人になんかさせないからね? だから心配しなくてもいいの。」


 まるで赤ん坊をあやすように、ザナハが柔らかい口調で囁いた。

その声が、言葉がとても心地よくてリュートは身も心も全てザナハに委ねるように、そっと両目を閉じる。

とても落ち着く。

不安に思っていたことや、失った悲しみや痛みがこの一時だけでも和らぐように感じられた。


「前にリュートが教えてくれた・・・。

 泣きたい時は思い切り泣けばいいって、泣くことは・・・恥ずかしいことじゃないの。

 あの時リュートが背中を貸してくれたように、今度はあたしが胸を貸してあげる。

 だから・・・悲しい思いを自分の中に閉じ込めないで、思い切り吐き出して?

 あたしが全部・・・、リュートの不安も、悲しみも、辛さも、悔しさも、全部全部受け止めてあげるから。」



―――――――――大切だから。



だから、リュートにこれ以上悲しんで欲しくないの。



あたしに笑顔をくれた大切な人だから・・・、あなたの笑顔も守ってあげたい。




 まるでザナハの思いが伝わるように、リュートは確かに触れた。

ザナハの体温、心のぬくもり、優しさに。



思い切り泣いた。



 情けない位、今までにない位・・・強く、激しく、思い切り泣き叫んだ。

ジャックもザナハと同じことを言ってくれた、ずっとずっと・・・自分の味方でいてくれると。

自分のことが大切だと、守ってくれると。


 今なら、とても近くに感じられる気がする。

ずっと遠いと思っていた、届かないと。


ザナハのことが、とても近くに感じられる。


 そう思うと、また涙が溢れた。

悲しい涙なのか、嬉しい涙なのか・・・自分ではわからない。

また別の苦しみが生まれた、切ない痛みが込み上げて来た。




 ―――――――――大声で泣いてもザナハは決して嫌がらず、ずっとリュートのことを抱き締めていてくれた。

ただずっと優しく抱擁し、その温もりとほのかな香りがリュートに強さをくれた気がする。




―――――――――ザナハ、ありがとう。


 僕はもう、弱音を吐かない。

約束するよ。

僕が誰かに助けを求めることで、もっと大切な誰かを傷付けてしまう位なら・・・失う位なら・・・。

僕はもう誰にも助けを求めない。

この手で守るから。

誰かに助けを求めるわけじゃなく、僕がこの手で大切な人達を守る為に、今よりもっと強くなるから。


 僕は君と・・・、ジャックさんが愛してやまなかった・・・このイゾラドの丘に誓う。

この涙は、僕の弱さと悔しさの証・・・。

これから先、二度と僕は涙を流さない。

決して泣かない、何があっても・・・自分の弱さと、この悔しさを忘れない為に、二度と泣かないって決めた。



これは僕が流す、さいごの涙だ・・・!



 リュートは強く決心した、口に出さずとも・・・それはリュートの永遠の誓いになる。

そして決意した。

これ以上大切なものを傷付けない為に、例え自分が憎まれることになろうとも・・・リュートにはどうしても成し遂げなければいけないことがある。




(ジャックさんを殺して、・・・そしてザナハの気持ちを裏切ったルイド。

 ―――――――――絶対に許さないっ!

 誰が何と言おうと、僕が仇を取ってやるんだ。

 

 この手で・・・、僕の手で・・・ルイドを殺してやる!)




 何とも今回のは私自身悩み抜いて一生懸命執筆したつもりなんですが、どうにも納得がいきません(笑)

とりあえずこのまま投稿させていただきますが、だんだん話を進めて行く内にいいのが思い浮かぶかもしれませんのでその時にでも改稿しようと思います。

(読者様には大変申し訳ありませんけど・・・)

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