第234話 「ルフガメア~祝福を~」
ジャックの葬儀がしめやかに行なわれた。
即席に作られた葬儀場、といっても特に何かを建てたりしているわけではない。
どちらかといえば軍式で至ってシンプル、参列者の目の前には(恐らく中身は空の)白い棺が置かれ、その棺の傍らには参列者と向かい合わせる形でセレスティア教会の司祭が立っていた。
棺の両サイドにはレムグランドの国旗を掲げ、その横には8人の軍人が拳銃を片手に整列している。
一番前に整列しているのはジャックと最も親しかった者、家族や知人が並びアギトやザナハも一番前の列に並んでいた。
後方にはジャックを慕う者達、兵士やメイド、使用人達が自ら進んで参列している。
洋館に滞在している人間、その殆どがジャックとの別れを惜しんでここに集まった。
アギトはこれだけ多くの者が参列していることを改めて実感し、同時に胸が熱くなる。
かつてヴォルトの試練の中で過去のレムグランドをアギトは訪れたことがあった、そこではジャックのようなアビス人は蔑まれ酷い扱いを受けていた。
差別意識が強く、町の中を大手を振って歩くことすら出来ない・・・そんな暗黒の時代がかつてはあったのだ。
そんな出来事が実際にあったということが今では嘘のように感じられる、ジャックはこれだけ多くの者に愛されている。
葬儀は始まったばかりだというのに、すでに後方からはすすり泣く声が聞こえていた。
アギトは大切な仲間を失って悲しいはずなのに、今では彼等の思いを感じ取ることが出来て心から嬉しく思っている。
どれだけジャックが素晴らしい人物だったのか・・・、それを知ることが出来たから。
もう悲しみに囚われて自分を見失ったりはしない。
そう自分に言い聞かせて、アギトは真っ直ぐに正面を見据えた。
未だに現れないリュートの分も、自分がしっかりとジャックを送り出すんだと。
やがて司祭が口を開く、元々静かだったのが一層静かになり、まるで周囲の空気すら張り詰める程だった。
「それではこれより、ジャック・ガラルドの葬儀を執り行う。」
司祭は片手に持っていた羊皮紙を広げて、ジャックの歴史を語り聞かせた。
アギトが葬式に出たことがあるのは祖父母の葬儀のみ、しかもかなり幼かったので葬儀というものがどういった形式で行なわれるものなのか殆ど覚えておらず、知らないに等しい。
葬儀に本人の経歴を語り聞かせるのが、ここレムグランドでの葬儀の形なのだとアギトは初めて知った。
そして同時に出来ることなら、このようなことは二度と経験したくないと心の中で強く思った。
「新世歴3978年ノーム第2の月、第2週目ヴォルトデイ生まれ。
ジャック・ガラルドはアビスグランドのメリクリウスにて、ガラルド族部族長の長男としてこの世に生を受けました。
戦闘に特化した部族であるが彼は心根優しく他人を思う、非常に穏やかな心を持っておりました。
しかし時代の流れであったレム・アビス間の戦禍に巻き込まれ、ガラルド族は彼を残し滅びてしまいます。
だが神は彼を生かされました、その後レムグランドの有力貴族グリム家の使用人として、彼は健やかに成長していきました。
ジャック・ガラルドが13歳の時、レムグランド軍学校に入り異例のスピードで軍人となります。
やがて歴史上でも大きな戦となった先の大戦では23歳という若さで、彼は少佐という肩書と共に大きな戦果を上げました。
国を守った英雄として彼は表彰され、大戦の一時休戦を機に退役。
軍学校時代より愛を育んできた現妻であるミア・ガラルドと結婚し、二人の間にはメイサという名の女の子も儲け、
安息で幸せな日々を送っていました。
4009年このレムグランドに双つ星の戦士が現れ、ジャック・ガラルドは戦士と共に再び戦場に出る決意をします。
そして今年、新世歴4010年シルフ第3の月・・・第1週目イフリートデイ。
彼は祖国を、そして育った国を、愛する者を守る為、天に召されました。
誰よりも強く、誰よりも優しかったジャック・ガラルドは32年の歳月を以て、その天命を全うしたのです。
彼の生きる道は常に愛する者を守る為、・・・守る為に戦い続けました。
私達は彼を誇るべきなのです、彼は愛する者を守る為に神に命を救われ、今日まで至ったのです。
皆さんも祈りましょう、勇敢に戦ったジャック・ガラルドが安らかに眠れるように。
そして願いましょう、彼が神の元へと無事に辿りつけるように。
私達に出来ることは常に彼を思い、祈ることです。
さすれば彼も永遠の安らぎを得られることでしょう、苦しみのない平穏な神の元へと召され、やがて次の生命へと巡る為に。
ジャック・ガラルドよ、我等は神に祈ります。
神よ・・・、彼に永久不変の安らぎを与えたまえ。 ―――――――エトゥーム。」
「エトゥーム。」 「エトゥーム。」
司祭が締めくくった「エトゥーム」という言葉を、参列している全員が繰り返した。
それまで静かに聞いていたアギトは、突然回りの者達が謎の言葉を発して驚いている。
レムグランドでの葬儀の形式を知らないアギトが戸惑っていると、隣に立っているザナハが小声で教えてくれた。
「あんたも言うのよ、『エトゥーム』ってのは古代レヴァリアース言語で『祈ります』とか『お願いします』という意味。
神様に対して祈りの言葉を表わすの。」
ようするに英語で言う所の『アーメン』みたいなものかと、アギトはそう解釈した。
発音がよく聞き取れなかったので、アギトは緊張気味に口にする。
「そっか・・・、えと。 エ、エトーーム!」
だがやはり発音が少し違うせいか隣でザナハががっくりと肩を落としているのが目に入る、少しだけ恥をかいたアギトは耳を真っ赤にしながら口をへの字に曲げた。
全員が祈りの言葉を口にしている時、棺の両サイドに立っている兵士達が銃口を空に向けて次々と発砲する。
その音に驚いた洋館周辺の森に住んでいる鳥達が、慌ただしく飛び去って行った。
拳銃の火薬の臭いが風に漂って鼻を刺激する。
沈黙してから、再び司祭が口を開いた。
「ありがとうございます。
では、彼をずっと支えて来た妻・・・ミアよ。 こちらへ。」
司祭に促されミアが司祭の隣へ歩いて行った、残されたメイサにはミラが手をつないでいる。
頬を濡らしたミアは参列者に向かって深く頭を下げた。
「本日は夫の為に葬儀に参列していただき、誠にありがとうございます。
このような忙しく大変な時期に、皆様に送り出してもらえて・・・夫もさぞ喜んでいることと思いますわ。
夫は・・・、ジャックは。
とても誠実で面倒見が良く・・・、私などには勿体ない位にとても素晴らしい人でした。
彼自身がアビス人ということもあり時には差別的な扱いを受けていた時期もありました、でも彼はそんな環境に決してめげず
むしろ前向きに生きて来ましたわ。
痛みというものを自ら体験したことによって、彼は他人に対する痛みにも・・・とても敏感でした。
だから彼は、人に優しく出来たのだと思います。
私はそんな彼を心から尊敬し、心から深く愛していました。
今もその気持ちは決して変わりません、私は彼を永遠に愛し続けると神の前で誓いました。
そして、今も変わらず愛し続けると・・・誓います。
ジャック・・・、たくさんの愛をありがとう。
メイサのことは心配しなくても大丈夫ですわ・・・、私が立派に育ててみせるから。
だからあなたは安心して、空から見守っていてくださいね・・・?」
気丈に振る舞っていたミアであったが、遂には感情を抑えきれずに大量の涙を流して言葉を切った。
司祭がミアの背中をさすってやる、大丈夫だと言って礼を言うとミアはそのまま列に戻って行く。
そして次にオルフェが前に出て行った。
アギトはてっきり奥さんであるミアの挨拶だけで済むものだと思っていたが、オルフェが出て行ったのを目にしてもしかしてジャックと深い関わりを持った人間は全員前に出て何か一言話をしなくちゃいけないのか? と、急に不安に襲われる。
そんな言葉、何も用意していない。
緊張するがミアの言葉で回りから一層すすり泣く声が聞こえて来たので、余計なことを考えるのはやめようとアギトは思った。
オルフェが司祭の横に立ち、いつものように威風堂々と、両手を後ろに組んで胸を張っている。
その顔には悲しみどころか一切の感情が感じられなかった。
涙の跡すらない、今までとなんら変わりない様子である。
オルフェは少しだけ間を置いてから、完全に沈黙になってから口を開いた。
「ジャックは・・・、私のかけがえのない友でした。
彼と初めて出会ったのは私達がずっと幼い頃、・・・まだ5つの時です。
アビスから突然レムへと連れて来られても、彼はガラルド族という誇りだけは決して失いませんでした。
弱き者には無償で手を差し伸べる、そんな道徳心の固まりのような人物でした。
私は今まで彼のような男を見たことがありません、いくつもの経験をし・・・様々な人々と接してきましたが。
彼のような正義感に溢れる男を、私は他に知りません。
大切な者を守る為ならば、彼は例え敵が世界であろうと決して屈したりしませんでした。
とても勇ましく、豪快で、猛々しい。 しかしその反面、非常に涙もろく、情に弱い。
彼に出会って人生や価値観が変わった者は、私だけではないはずです。
ここにいる誰もが、いえ・・・彼と接した者の殆どが彼に感化されてきました。
私達は彼に教えられました、生きると言うことを、そして守る為に戦うということを。
その勇気を私達は決して忘れてはいけません。
彼は身を以て、それを私達に示してくれました。
私は一生忘れることはないことでしょう、彼の笑顔を。
彼が守りたかった大切な者達を、今度はここに残った者達が守り続けるのです。」
静かな口調で、表情ひとつ変えることなくオルフェが述べた。
しかしオルフェの言葉一つ一つに共感を抱き、一層すすり泣く声が増えて行く。
敬礼して列に戻って行くと、今度はアシュレイが向かう。
オルフェ同様に堂々とした態度であったが、顔は厳しい表情を浮かべて凛としていた。
その時アギトは初めて気付いた、アシュレイの右袖が風に吹かれて奇妙に揺れている光景を目にする。
何があったのかは知らない、それに今は追及する余裕もない。
なぜアシュレイの右腕が失くなっているのか、アギトはその疑問を胸の奥にしまい込んだ。
「皆の者、ここに一人の勇敢なる戦士が永遠の眠りにつくこととなった。
時代の流れに翻弄され、ただ愛する者を守るが為に散って行ったその命。
世界が変わらぬ限り彼と同じ道を辿る者は決して後を絶たないだろう、そしてそんな時代を許してはならない。
このルミアシュレイスト・ヴァルキリアスが、彼の墓前にて誓う。
彼が守ろうとした世界を、彼の代わりに守り抜くと・・・全ての者が平等に平穏に暮らせる世界を実現させると。
オレは王として彼の遺志を引き継ぎ・・・この命続く限り、このような悲しみを決して繰り返さぬとここに誓う!
彼は勇敢なアビス人であると共に、立派なレム人でもあった。
いや・・・、人種などと言う境界すら超えた誇り高き英雄だ!
勇敢に戦い散って行った英雄に、全員・・・敬礼!」
アシュレイの号令と共に、軍人全員が敬礼した。
そして銃を携えていた軍人達がいつの間にか、銃からトランペットへと持ちかえて吹き鳴らす。
何の曲なのかアギトは知らない。
国歌なのか、軍歌なのか・・・それとも鎮魂歌なのか。
ただ楽器から流れて来る切ないメロディーを聞いていると、目頭が熱くなって来る。
ついさっきまで我慢出来ていた悲しみが奏でられる曲と共に蘇って来るようだった、アギトはクラシックや管楽器による演奏を好んで聞く方ではなかったが・・・今だけは違った。
演奏と共にジャックとの思い出が蘇って来て、楽しかった日々がとても懐かしく感じられる。
そしてそんな日々が、ジャックとの思い出がこの先二度と作ることが出来ないんだと思うと涙が止まらなかった。
初めてジャックの死を聞かされた時、ショックは大きかったが実感はなかった。
でも今、初めて実感する。
ジャックに、もう会えないんだと。
演奏が終わり、泣き声だけが聞こえて来る。
その時ミアと手をつないでいたメイサが、不思議そうな顔をして母親に小さい声で尋ねて来た。
「お母さん・・・、どうしてみんな泣いてるの?
お父さんはどこ? あの白い箱の中にいるの?」
実際には白い棺の中には何も入っていないはずだ、ジャックの遺体は・・・帰って来たのは左腕だけなのだから。
もしかしたら左腕だけでも棺の中に入れられているのかもしれなかったが、今のアギトはそんな細かいことを考えたくはなかった。
ミアがハンカチで自分の涙を拭うと、メイサの視線にまで腰をおろして言い聞かせる。
その姿がとても痛々しくて見るに堪えなかった。
「パパはね、神様の所へ旅立ったのよ。
神様はお空のずっとずっと高い所にいて、パパもずっとずっとお空の向こうにいるの。
パパが神様の所へ行っちゃうと、もう・・・会うことが出来なくなるから、みんな泣いてるのよ?
寂しい寂しいって、みんなパパのことが大好きだったから。
だから・・・、メイサも泣いていいのよっ?」
声を震わせながら懸命に説明するミア。
しかしまだその言葉の意味がよくわかっていないのか、メイサは白い棺をじっと見つめたままきょとんとしている。
まだ幼い少女に、父親の死を理解させるなんてあまりに残酷過ぎた。
アギトは無意識にメイサから視線を逸らす、反対側を向いて・・・しかし耳だけはメイサの反応を窺っていた。
「ううん、あたし泣かない。」
その言葉がアギトの胸をえぐる。
涙をポロポロ流しながら、アギトは両手をぎゅっと握りしめて唇を強く噛みしめた。
「だって、あたしが泣いたらお父さん・・・心配するもん。
だから泣かない。」
「メイサ・・・っ!」
たまらずメイサを抱き締めるミア。
気付けば周囲にいる者達も、親子の姿を見て更にむせび泣いていた。
「お母さん、いつも言ってたよ。
離れ離れになってても、お父さんとお母さんはいつもメイサの側にいてくれるって。
だからお父さんに会えなくても、メイサ平気だもん・・・。
心は離れ離れにならないって・・・お母さんが教えてくれたから、だから・・・っ、うぇ・・・っ。
メイサ・・・っ、平気だから泣かないもん!」
懸命に、健気に涙を堪えるメイサの姿に・・・誰もが涙した。
ミアは強く娘を抱き締めながら、声を押し殺して泣いていると・・・ふとザナハを見上げて頼み言をする。
「姫様・・・、どうか私の頼みを聞いてくれますか・・・?」
必死で涙を堪えていたザナハが両手を胸の前に組みながら、ミアの頼みを聞いた。
「創世時代の・・・、歌を愛してやまなかった聖女アウラの歌を・・・。
アンフィニの歌をメイサに聞かせて欲しい、・・・夫に捧げて欲しいのです。
伝説ではアンフィニの鎮魂歌を捧げられた魂は、永遠の安らぎを得ると聞きました。
お願いします・・・、失礼な頼みだとわかっていますが・・・どうか夫の為に歌ってあげてください。
・・・お願いします。」
メイサを抱き締めたまま懇願するミアの姿に、ザナハは断れるはずもなかった。
少し動揺しながらもザナハはミアの頼みを聞いてやった、ちらりとミラの方に視線で訴える。
「ザナハ姫なら大丈夫です、私からもお願いします。
歌を捧げてやってください。」
ゆっくりと歩いて行きミラの前で足を止めると、それから小声でミラに助けを求めた。
「でもあたし・・・鎮魂歌のメロディーは覚えたけど、歌詞の象徴とか意味をまだ理解してないわ!?
それどころか『ルフガメア』の古代レヴァリアース言語はすごく難解で、歌詞を全然覚えてないっ!!」
「大丈夫・・・、姫様の言葉でいいんですよ。
呪歌は心で歌うもの、姫様の気持ちを旋律に乗せればいいんです。」
そう諭されて、ザナハは司祭が立っていた場所まで歩いて行った。
光の神子による鎮魂歌と聞いて、司祭は恭しく席を譲ると期待に満ちた眼差しで見守っている。
「あの・・・、古代レヴァリアース言語だと詩の意味がわかりにくいと思うから・・・。
現代語に訳した言葉で・・・、歌うわね?」
歌詞を覚えていないことを、遠回しに言い繕うザナハ。
しかし参列している殆どの者が歌詞にこだわっているわけではなく、アンフィニが呪歌を歌うという事実に期待していた。
「アンフィニの鎮魂歌・・・、『ルフガメア~祝福を~』・・・。」
すすり泣く声がやみ、緩やかな風が吹き付ける。
『 雨が降っても悲しくない、アナタのことをとても近くに感じるから・・・。
止まない雨はないと、教えてくれたのはアナタだから・・・。
きっとまた逢えると約束を交わしても、アナタの背中は時折永遠を感じさせる。
すぐにまた逢えるから、さよならは言わないと。
ここにいるよ、側にいる。
必ずまた逢えるから、・・・私達はそう約束したのだから。
アナタはずっと、私達の心の中で生き続けるの。
アナタは楽園へと導かれた天使、苦しみや痛みから解放された永遠の安らぎの中にいる。
忘れないよ、忘れない。
それはきっとアナタが永遠を手に入れたということだから。
アナタは約束してくれた、守ってくれると。
何の為に、誰の為に戦うの?
それはきっと約束を果たす為、大切なモノを守る為にアナタがずっと戦ってきたということ。
言葉にしなくても、態度に出さなくても、ずっとずっと信じていられる。
守ると誓ったアナタの言葉を信じているから。
だから、何も言わない・・・。
言葉にするのがもったいなくて、ずっと大切に心の中にしまっておくの。
ありがとうという言葉を。
愛してるという気持ちを。
届け、届け。
アナタが守ってくれた笑顔、こうしてアナタを想って微笑んでるから。
言葉も思いも、この笑顔も。
きっとアナタに届いてる。 』
奇跡が起こった。
それまで沈黙の中、ザナハは演奏も楽曲もなく・・・歌声だけで旋律を紡いでいた。
しかし呪歌の途中から・・・。
風の音と共に旋律が聞こえた、メロディーが。
勿論今この場にある楽器と言えばトランペットだけである、しかしアギト達の耳に聞こえたのはトランペットの音色だけではなかったのだ。
まるで大気が・・・、風が旋律を運んで来るように参列者全員の耳にメロディーが届く。
ザナハの歌に合わせて、やがて1つの音楽を聞いているようだった。
呪歌に気持ちを乗せて歌う内に、感極まったザナハのマナが奇跡を起こしたのだろうか?
誰もが最初は驚き戸惑い動揺する、やがて歌に魅せられ身を委ねる。
心地よい旋律と歌声に感情が入って大の男までも声を上げて泣き出した、切ない歌声が心を揺さぶる。
メロディーと共にこれまでの思い出や記憶が脳裏に蘇って、涙する者が後を絶たなかった。
これが、呪歌の力・・・。
アギトも同じように涙を流しながら、歌い続けるザナハを見つめた。
歌っている姿からはまるで後光が差しているように輝いて、とても美しいと・・・心から感動する。
壮大な音楽に魅せられた参列者たちが次々とその美しさに・・・歌声に惹きつけられていった。
そんな中ただ一人・・・、オルフェだけが感動とは程遠い驚愕とした表情で呟く。
「これがアンフィニの持つ力・・・、自らの『歌声』だけで小規模なシグナルゲートを発生させるなんて・・・っ!
なおかつ呪歌の本質、旋律に乗せられた思いやマナが呪歌を聞く者にも影響を与えるという能力。
そんなことを可能にしたのはこれまでにただ一人、初代神子アウラだけだったと言うのに。
まさにアウラの再来・・・、ザナハ姫は間違いなく正統なアンフィニとして覚醒した・・・っ!」
さっき見直して訂正しなければならないことがっ!
葬儀の場、しかも鎮魂歌に「祝福」という表現はおかしい気がしてきました。
ここで使われる「祝福」の意=他人の幸せを祈り、願うこと。
大切な者を亡くして残された人の幸せを願い祈る、という意味として捉えてください。