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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 3
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第228話 「真の黒幕」

 洋館からだんだんと離れて行って、森の中を歩いて行くジャック。

そしてリュートを見つけた辺りで足を止めると笑みのない顔で一言、発した。


「・・・いるんだろ、ゲダック!?」


 ジャックの言葉と同時に木々の間からゲダックが姿を現した。

互いに睨み合うように、牽制し合うように間合いを取ったまま現れたゲダックに向かってわずかに殺気を放つジャック。


「随分手の込んだことをするじゃないか・・・。

 このオレを呼び出すのにわざわざリュートを使って、一体どういうつもりだ!?」


「ほう・・・、これも策の内と言うか!?」


「しらばっくれるな、あんたがまだここに残っていることが・・・何よりの証拠だろう。」


 背中に背負うような形で装備している巨大な斧の柄に、ジャックの手が触れる。

それを窺ったゲダックがにやりと不敵な笑みを作ると両手を広げて無抵抗を表現した。

しかしそれでもジャックから殺気は消えず、ゲダックを睨みつけたままだ。

決して油断はならない、なぜならゲダックは魔術のみならず錬金術による攻撃方法があり、更にはオルフェ同様・・・空間転移を利用して武器を自在に取り出すことが出来るからだ。


「どの道あやつは自分の運命を知ることになっていた、遅かれ早かれな。

 世界に残された時間は少ない、ルイドの時間もわずかとなった今こそ・・・真実を明かす時だったんじゃ。

 お前もグリムから聞いておったんじゃろ、闇の戦士が辿る凄惨な末路を。

 それを知っていながら今まで放置していたお前も、ワシはどうかと思うがのう。」


「・・・・・・・・・。」


 ゲダックに指摘され、ジャックは黙っていた。

しかし反論するでもなく動揺するでもないジャックの態度に、ゲダックは面白げに微笑んで声を荒らげる。


「ほっほっほっ! なんじゃ・・・、お前まさか!?

 リュートを弟子にして技を伝授して・・・、それは全てグリムらに抵抗させる為じゃったと言うのか!?

 犠牲にされる土壇場で反旗を翻すつもりでずっと機を窺っていたと見たが、図星かっ!?

 自分の大切な者の為なら誰を敵に回しても構わないと言うお前の考え、・・・今も健在とはのう。

 ユリアが気に入るわけじゃ、いやさすがはユリアの弟子・・・と言ったところか。」


「・・・御託はいい、さっさと用件を言え。」


揺るぎのないジャックの瞳に、ゲダックは肩を竦めながら本題に入った。


「ルイドがお前に話があるそうじゃ、ワシはお前をつれて来るように言われておる。」


 手短に説明したゲダックの言葉に、ジャックのこめかみの血管が浮き上がる。

歯を食いしばり・・・怒りを抑えている様子だった。


「そんなことの為にあの子を使ったと言うのか・・・!?

 話があるなら正々堂々、正面から来ればいいものをっ!」


「そういうわけにもいかんじゃろうが、今は龍神族の目もある。

 お前との対話はルイドの個人的な希望じゃからの、それにリュートに関してもたった今言ったはずじゃ。

 何もお前を呼び出す為だけに真実を明かしたわけではない、遅かれ早かれそうなる運命だったんじゃとな。」


 ルイドの個人的な希望と聞いてジャックは首を傾げた、そもそも先の大戦の頃からルイドは妙にジャックのことを気にかけていたように感じていたのだ。

対峙したことも言葉を交わしたこともない、戦場で・・・遠目に姿を見ただけの、それだけの接点しかないと言うのに。

なぜルイドはこうも自分にこだわるのか・・・、その意味がわからなかった。

しばらく沈黙していたジャックに、ゲダックはイライラし始める。

それからゲダックを見据えて、ようやくジャックが口を開いた。


「わかった、オレをルイドの元へ連れて行け。」


 今こそその真意を問いただす時ではないだろうか、もしかしたらそこから何かがわかるかもしれない。

思いがけない何かが・・・。

そう判断したジャックは、ゲダックに従ってアビスグランドへ・・・ルイドの元へ行く決意をした。




   < アビスグランド クジャナ宮にて >




「ルイド様、これは一体どういうことですか?」


 ベアトリーチェの召使いである女性が抑揚のない声でそう告げた、肌の色も着ているものも全てが透き通ったクリスタルのようになっており、冷たい印象を思わせる。

ルイドは軍団長を始めとする配下達を使って、クジャナ宮に滞在しているベアトリーチェの手の者を一掃させていた。

基本的には地下に暮らしていた国民達を余所へ誘導するのと同じように、ただクジャナ宮から追い出す程度にしていたが・・・抵抗を見せる者には制裁を加えるという、強硬な手段を取っている。

その行動は『制圧』という形にしか見えず、ベアトリーチェの配下達はこぞってルイド達に抵抗していたのだ。


「このクジャナ宮はオレ達が占拠する。

 地下深くで眠るディアヴォロの復活に備えて、な・・・。

 巻き込まれたくなければお前達も速やかにここから出て行くことだ、そうしなければ地獄を見るのはお前達だぞ。」


「ベアトリーチェ様は何と・・・?

 我々はそのようなこと、何も聞いておりませんが・・・。」


ザシュッ!


 左手に携えた細身の剣が、召使いの腹を切り裂いた。

短い悲鳴を上げながら血を流すこともなく、床に倒れた衝撃で召使いの体は粉々に砕け散ってしまう。


「・・・ぐっ、うぅっ!」


 ルイドは剣を持った左手を無理矢理押さえつけるように・・・、右手で力一杯掴んだ。

額から大量の汗を流し、顔は苦渋に満ちている。

やがて両膝を床について苦しみ悶え、それを見つけたブレアが慌ててルイドに駆け寄った。


「ルイド様っ!」


ルイドを介抱する為に手を差し伸べようとするが、ルイドはその手を払いのけるように右手を振って拒絶した。


「オレに近付くなっ!」


 怒声を浴びせられ、ブレアは怯えたように差し伸べようとした手をひっこめた。

それからルイドから距離を置くようにブレアは固唾を飲んで見守ることしか出来ずにいる、せめて発作が治まるまで・・・。

息を切らしながら苦しそうに苦痛に耐えるルイド・・・。

どうすることも出来ずに、ブレアは一刻も早く事を済ませようと他の配下達に檄を飛ばした。


「お前達っ! 見ている暇があったら早くクジャナ宮の者達をここから追い出せ!

 ルイド様はクジャナ宮に住む全ての者をお救いになる為に行動していらっしゃる、ここはいずれ大きな戦場と化すからだ!

 一人でも多く犠牲者を出さぬ為、ただちに非戦闘員の者を安全な場所へと誘導するのだ!」


 ブレアの命令に配下達の動きが機敏となって、ルイド達がいるフロアからは二人だけを残して誰もいなくなってしまう。

静かになったフロア内で、ブレアは腰に下げていた袋から薬を取り出してそれをルイドに手渡そうとした。


「ルイド様、ゲダックが処方した抑制剤です。」


 肩で息をしながらルイドは震える右手でその薬を受け取ると、すぐさま口の中に放り込む。

口の中で噛み砕くとしばらくは薬の効力が現れるまで、床の上でうつ伏せになって倒れたままの状態を保った。

ルイドが薬を投与してから約1時間、ようやく効力が現れてルイドの顔から苦渋が消えて行く。

それを見てほっとしたブレアがルイドに寄り添おうとしたその時だった、フロア内に突然人影が現れて警戒するブレア。

しかしよく見るとその人影はゲダックのものであり、取り出そうとした拳銃から手を放す。

ゲダックの隣には黒髪の男、ジャックもいた。

ルイドが弱っている姿を見せまいとブレアがすかさず視線を走らせるが、いつの間にかルイドは自分の力で立ち上がり・・・何事もないような平然とした態度を取っている。


「早かったな、ゲダック。」


「ジョゼがリュートを言い聞かせての、トントン拍子に事が進んで楽をさせてもらったわい。」


 ゲダックの言葉にルイドは首を傾げた、闇の戦士の運命に関しては当然の知識と言うことでジョゼが知っていてもおかしくはない。

しかしルイド自身の末路や、ゲダックと結託していた内容については何も話していないはず。

それがなぜ自分の計画に手を貸すような行動を取ったのか、その理由がわからなかったが今はそんなことを考えている余裕はない。

今目の前に、アビスを裏切った男・・・ジャックがいる。

ルイドはジャックの方へと視線を移し、不敵な笑みを浮かべて話しかけた。


「ジャック・・・、クジャナ宮へようこそ。」


 だがジャックの顔には全く笑みがなく、にわかに殺気が込み上がって来ていた。

それを感じ取っているブレアが戦闘態勢を取るように銃身に手を走らせるが、それをルイドが制止する。


「オレはジャックと話がある、お前達はこのフロアから出て行くんだ。」


「しかし・・・っ、ルイド様はたった今・・・っ!」


 言いかけたブレアの言葉を遮るように、ルイドが睨みつけた。

そしてルイドの意志を汲むようにゲダックが促して、二人は静かにフロアを出て行く。

彼等の背中を見送りながらジャックが初めて、ルイドに話しかけた。


「・・・いいのか?

 オレと一戦やらかそうってんだ、援護があった方がよかったんじゃないのか。」


 その言葉と同時にジャックは背中の大きな斧を取り出して、ブンッと肩慣らしとでも言うように空を薙いだ。

変わらず余裕の笑みを浮かべるルイドは武器に手を触れることもなく、ただ静かに立っている。


「・・・その必要はない。

 援護がなくても話が終わった後、倒れているのはお前の方だからな。」


「一体どういうつもりだ、オルフェ達が動いてレムもアビスも・・・龍神族と手を組んで三国同盟を成立させた。

 ディアヴォロに対する策も練っているところ、なぜ邪魔をするような行動を!?

 お前だって仮にも闇の戦士だろう、ディアヴォロを倒す為にこの世界に現れたはずだ。

 オレをこんな所まで呼び出して一体何をしようってんだ、・・・何が目的なんだ!?」


 ジャックが問い詰めると、ルイドの顔から笑みが消えて・・・腰に携えていた細身剣に手をやった。

鞘からスゥーッと刀身を引き抜いて、素早く振り払う。


「死にゆく者に、せめて自分がなぜ殺されるのか・・・その理由位は教えてやろう。」


徐々にルイドの周囲から異様な殺気が立ち込める、それを肌で感じ取ったジャックは斧を構えて生唾を飲み込んだ。


「リュートが闇の戦士の運命を受け入れる為には、・・・お前の死が必要となるからだ。

 今のリュートは心が弱い、弱過ぎると言ってもいい位にな。

 揺るぎない強靭なまでの精神力を得る為には、最も大切な者の死が・・・一番手っ取り早い方法だ。

 大切な者の死を乗り越えた時、リュートは自分の死すら恐れぬ強い精神力を得ることになるだろう。」


そこまで説明したルイドの言葉を、ジャックが引き継ぐように遮った。


「そして自分の意志で世界の犠牲になることを選択させて、同時にオレを殺したお前に敵意を向けさせるのが目的か!?

 オルフェから聞いた・・・、お前が闇の戦士の運命を全うする為に自分の意志でディアヴォロの核を受け入れたことを。

 そしてその核ごと命を奪うことが出来るのは、光の戦士であるアギトしかいないってことを。

 つまり・・・人を殺すことに抵抗を示しているアギトに、人殺しを正当化させる為の理由が欲しかったわけだ!?

 それでお前は自ら汚れ役を買って出た、・・・違うか?」


ふっと鼻で笑うルイドの態度に、それが図星であることをジャックは察した。


「少し買いかぶり過ぎだな、オレがそんな聖人君子みたいな立派な人間だと思うか!?

 確かに今お前が言ったように、『それら』もオレの計画の延長線上には置いてあるが・・・目的はもっと単純明快だ。


 ジャック、・・・お前の存在が邪魔なんだよ。


 リュートをオレの思い通りに操る為には、お前を導き手としてリュートの側に居続けさせるわけにはいかないんだ。

 オレが気付いていないとでも言うつもりか?

 ディアヴォロを倒す為にリュートが核を受け入れる寸前、お前はそれを阻止するつもりなんだろう。

 世界を敵に回してでもお前だけはリュートの味方であり続ける、・・・それじゃ困るんだ。

 リュートの肉体をディアヴォロに差し出すことを前提に、オレは眷族と取引をしたんだからな。

 ディアヴォロの為ならどんな人間とも取引をする眷族共・・・、オレにとっては都合がよかった。

 もうすぐ朽ちるこの体をディアヴォロの核から解放する為に、新たな闇の戦士をくれてやるといったら

 眷族共・・・どうしたと思う? 解放する方法をあっさりと教えてくれたよ。」


 次第にルイドの顔から、邪悪な表情が現れて行く・・・。

ルイドの言葉を一言一句漏らさず聞いているジャックの顔からは、だんだんと血の気が失せて行った。


「お前・・・っ!? 世界の為に使命を受け入れたんじゃ、ないのか!?」


 疑わしそうに、信じられないとでも言うように、ジャックは若干声を震わせながらルイドに問うた。

驚き戸惑うジャックの姿を滑稽そうに眺めながらルイドは、右手でさっと長い青髪を払い・・・そして首筋を撫でつけながらジャックの問いに答えた。

その表情からは、ルイドが今まで見せていた物憂げな雰囲気は微塵も感じられない・・・。 


「ふっ・・・、誰がそんな血迷ったことをするか!

 オレは元々この世界の住人なんかじゃない、余所の世界の行く末など知ったことか!

 闇の戦士として祀り上げられ、世界の犠牲にされ、オレの人生は悲惨そのものだった。

 だからオレは倒すべきディアヴォロと取引を交わした。


 オレには未来が見える、先が読める!


 近い未来に双つ星の戦士が必ず現れると言って、オレは眷族と接触した。

 ディアヴォロを唯一倒せる人間兵器を取り込むことが出来れば、ディアヴォロはまさに敵なしとなる。

 その繋ぎとしてオレは核を受け入れ哀れな闇の戦士を演じて来た、回りはそんなオレを信じて疑いもしなかったよ。

 だがオレの計画を完成させる為には、どうしてもお前の存在が立ちはだかった。


 ジャック・・・、お前の存在がオレの計画を狂わせる。

 せっかくここまで誰にも悟られることなく進めて来た計画を、お前一人のせいで台無しにさせるわけにはいかない。

 さっきも言ったことだが、オレには未来を見る能力がある。

 先の大戦の頃からずっと・・・お前の存在に気付き、いつお前を手にかけてやろうかずっと考えていた。

 ようやく・・・、正当な理由を持ってしてお前を消すことが出来るってわけだ。

 先程口にしていたお前の推測、その理由ならばオレは一人孤独に戦った哀れな英雄として評価される。

 ・・・皆が真実に気付いた頃には、この世界はディアヴォロが支配しているがな。

 ラ=ヴァースとなった世界をディアヴォロが支配し、オレは永遠を手に入れる!

 誰を敵に回しても、悪魔に魂を売ってでも、オレはオレの望みを叶えてみせる!」

 

 ジャックはルイドの言葉を聞いて愕然とした。  

全ての黒幕が彼自身・・・、今ジャックの目の前に立っている青い髪の男だったのだ。

始めから・・・ルイドは世界の敵であるディアヴォロ自身と取引を交わし、自分が黒幕であることを悟られないようにあえてディアヴォロの核を受け入れた。

そして友であるサイロンを始め、ベアトリーチェ、アシュレイをも騙し・・・、ディアヴォロ復活に必要な『ラ=ヴァース復活』を彼等の手によって実現させようとしている。



ルイド自身が・・・、ディアヴォロの手先であったのだ。



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