表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 3
228/302

第226話 「双つ星の真実」

 全身が重だるい・・・、ベッドの中で寝返りを打ちながらリュートはゆっくりと目を開けた。

室内は薄暗く、朝なのか夜なのか区別がつかない。

周囲を見渡してここがレムグランドの自室でないことをすぐさま理解した。

殺風景な室内、華やかな装飾などもなく・・・ただ必要最低限の家具しか置かれていない。

リュートはまだしばらくは横になっていたかったが、ここがアビスグランドの・・・ディアヴォロの真上にいると考えただけでゆっくり寝ていられなかった。

少し頭痛がして左手で頭を押さえようとした時に、ふと左手の甲に視線を走らせる。

そこには精霊の紋様が2つ・・・、シルフとノームの契約の証が刻まれていた。


「そうだ・・・、あまりにあっさり契約したから自分が土の精霊と契約出来たこと。

 すっかり忘れてたな、あの後どうなったか覚えてないけど・・・もしかしたらその時の

 反動で気を失ってたのかもしれない。」


ぼんやりと自分の身に起きたことを考えながら、ふと・・・ある疑問がリュートの中に浮かんで来る。


「・・・なんか変だよね。

 精霊との契約を交わす場面にそんなに出くわしたことはないけど・・・。

 ザナハもアギトも・・・、二人とも精霊と契約を交わすのに精霊が祀られている場所へ

 向かって契約を交わしたはず。

 どうして僕だけ祭壇とかそういった場所へ行かずに、こうやって契約を交わすことが

 出来たんだろ!?

 ザナハもアギトも、話を聞いた限りじゃそれなりに厳しい試練を与えられたって言ってた。

 僕の場合と明らかに・・・、全然違い過ぎる。

 ルイドは特別だって言うけど何がどう特別なのかわからない。

 それも本人に聞けば、ちゃんと話してくれるのかな・・・。」


 ベッドに腰掛けたまま独り言を呟き、リュートは気が進まないまま立ち上がって辺りを見渡す。

部屋の真ん中に丸テーブルが置いてありその上には着替えがあった。

見ると今自分が着ているものは簡素な布の服、まるで囚人のような・・・横縞よこじま模様こそないが白い布のチュニックとズボンをいつの間にか着せられている。

とりあえずこれからどうするかは、まず着替えてからにしようとリュートはテーブルの上に置いてあった自分の服に着替え出した。

動きやすさを重視した緑や黄緑色を基調としたハンター用の衣装、洋館のメイドが作ってくれたものである。

ミラの話によると鎧などを装着しないリュートの防御面を考慮して布地は特殊な繊維で加工されていると言う。

ファンタジーに関して殆ど知識がない為、説明されてもよく理解出来なかったがどうやらこの世界では薄着でも防御力を高められるように魔法、つまりマナを込めることで衣服にも多少なりとも防御力を強化することが出来るらしい。

機動力重視のリュートにとって、重量を増して動きを鈍らせてしまう装備品を身に付けることはあまり好ましくなかったので、それを考慮されたまさにうってつけの素材であった。

一応戦闘用の衣装であるにも関わらずリュートがはいたのは膝丈のズボン、メイド曰くリュートには半ズボンが似合うという・・・殆ど女性陣からの希望で決まってしまった。

特にこだわりがないリュートは気に留めなかったが、半ズボン=子供という印象だけは拭いきれない。

ウエストポーチのベルトを締めて、更にそのベルトにはショートソードとダガーを装着させる。

それから上着を着込んでしっかりと装備をチェックした。


「これでよし、と。

 まずはどうしようかな、とりあえず次は闇の精霊シャドウと契約を交わすとか言ってた

 と思うけど・・・このまま部屋を出て行っても大丈夫かな!?

 でも暗い部屋の中でじっとしてても気が滅入るだけだし・・・。

 あ、そういえばクジャナ宮の中に配置されてるエレベーターみたいな魔法陣。

 確かクジャナ宮の中にたくさんあるから、その魔法陣に向かって会いたい人とか行きたい場所を

 命令すれば自動で連れてってくれるってサイロンさんが言ってたっけ。

 それじゃまずはあのエレベーターを探すとするか・・・。」


 とりあえず目的を決めて、リュートは部屋を出た。

廊下に出るとそこは深夜のように暗く、まるでこの世界に自分一人しかいないような・・・そんな静寂が不気味さを増す。 

右と左、どちらへ行くか。

優柔不断なリュートがいつもなら散々悩む所であったが、すぐさま右の方へと歩き出す。


(サイロンさんはあちこちに設置されてるって言ってたし、多分どっちへ行ってもあるはずだよね。)


 と、半ば自信なさ気に・・・自分に言い聞かせるように歩いて行く。

ルイドの城は石造りで冷たい印象を持たせたが、ここも同じようなものだった。

太陽の光が差し込まない世界に住んでいると文化や建造物の傾向も、冷たく陰気なものを好むようになるのだろうか?

そう思いたくなるような雰囲気だったが、リュートはこういったものもそんなに嫌いではないことに気がつく。

住み慣れさえすれば・・・静かで、逆に落ち着くかもしれない。

足元の邪悪な存在さえなければ、ここに住んでみるのも悪くないかもしれないと思っていた。

勿論それは仮定の話であって実際にここに住むなんて考えられない。

ましてや自分一人なんてゴメンだった、その仮定の話の中には当然仲間達が揃っていることが前提だ。


(何アホなこと考えてんだろ、今はそんな想像をしてる場合じゃないのに・・・。)


 洋館での楽しい生活を思い出していた自分に肩を竦めて、視線を上げた時だった。

目の前の・・・ずっと先の方からルイドがこちらへ向かって歩いて来てるのが見えて一瞬ドキンとする。

なぜルイドに対して、拒絶感のような・・・そんな感情が現れるのだろう。

彼の姿を目にしただけで本能的に後ずさりしてしまうような、そんな・・・今までになかった奇妙な違和感を感じる。

リュートはそれを、別の意味で捉えていた。


ザナハの好きな人・・・。


 その嫉妬感から、ルイドのことを嫌悪しているのかと・・・そう思っていたのだ。

リュートの顔に緊張にも似た焦燥感が現れる。

眉根を寄せて肩に力が入る、徐々に距離が縮まり・・・やがてルイドの方から話しかけて来た。


「起きたか、それじゃオレについて来い。」


「・・・えっ!?」


 一言告げてすぐさま踵を返すルイドに、リュートは説明を求めた。

だがノームと契約を交わした時と同様ルイドは余程先を急いでいるのか、振り返った時の視線が冷たい。


「早く来るんだ、時間はそれ程残されていないんだからな。」


 それ以上は有無を言わさない、という態度で歩き出すルイドにリュートは仕方なく従った。

歩いて行くルイドの背中を見つめながら、リュートはこれまでに見て来たルイドとどこか違うと・・・再会した時と同じような違和感を改めて感じる。

外見上で見れば、以前のような覇気・・・威圧感が感じられなかった。

リュートの知るルイド、今まで見て来たルイドはどちらかと言えば穏やかで、他人とはどこか一線を置いたような・・・そんな孤独感を思わせるような、非常に静かでストイックな人物である。

27歳の割に気苦労のせいで老けこんだような、相応の年齢よりももう少し上に見えた。

疲労感や脱力感・・・マナを消耗しきった後のような、そんな感じも見て取れる。

何よりリュートに対する態度が以前にも増して冷たくなってるように思えた、軍団長を束ねる首領を務めるのだから威厳だけでなく・・・感情を殺すことも時には必要かもしれない。

しかし今までのルイドなら意味もなく、他人を冷たくあしらうという態度を取るような人物ではなかったような気がする。

長い付き合いをしてきたわけではないが、それでも多少なりともルイドの性質を少しはわかっているつもりだった。

それらを総合してみても、やはり『今のルイド』は『今までのルイド』と明らかに異なっている。


(何だろ・・・、何でか知らないけど・・・すごく嫌な感じがする。)


 急に不安に駆られた。

今、自分の目の前にいるルイドが・・・自分の知らないルイドだったら?

そんなわけのわからない考えが浮かぶ。

やがてルイドは魔法陣のエレベーターに乗ることもなく、ある部屋へと案内した。

ドアを開け、リュートが寝ていた部屋と同じ殺風景な部屋の中に入り、席に着くように促される。

不安が消えないまま椅子に座り、じっと様子を窺うリュート。

自分で用意したのか、それとも召使いの誰かがあらかじめ用意していたのか・・・ケトルに入ったお茶をカップに注ぐと、リュートの前に差し出してから自分も席に着いた。


(・・・冷麦。)


 日本にもある食材などの殆どはサイロンに頼んで、里から産地直送されていると以前に聞いたことがあった。

ルイドが初めてこの異世界に降り立ったのは龍神族の里、それ故アビスグランドに来てからも里の味が忘れられず今もサイロンに頼んで輸入してもらっていると言っていたが・・・。

しかし今更そんな小さなことに構っている場合じゃないと、リュートは一口だけ・・・冷麦を口の中に含んだ。

それから、ルイドが話し出すのを待つ。


「リュート、お前が望んだ通り・・・レムもアビスも互いに協力し合う道を選んだ。

 これで両国間の戦争は回避され、同時にディアヴォロ対策の話も進められることになる。

 全ての精霊が揃えばアンフィニの力も解放され、ラ=ヴァース復活が実現するだろう。」


 順風満帆、そう言いたいのだろうか? と、リュートは首を傾げたい思いを必死で堪えながら黙ってルイドの話を聞いた。


「だが・・・ラ=ヴァース復活は同時に、ディアヴォロ復活をも意味するんだ。」


「――――――えっ!?」


 心臓が跳ね上がった、淡々とした言葉の中にとんでもない内容が含まれていたからだ。

しかし当の本人・・・ルイドは表情を変えることもなく、動揺している様子さえない。

まるで自分とは全く関係のない世間話でもするかのように、顔色一つ変えることもなく穏やかなままだった。

そんなルイドの態度を見ていると、動揺して言葉すら失っているリュートの方が滑稽に思えてしまう。


「ど・・・、それはどういうことなんですか!?

 ディアヴォロが復活って、・・・だってサイロンさんは平和な世界を作り出す為にっ!

 その為に三国同盟を結んで、世界を元の1つの世界に戻して、ディアヴォロを完全に消滅

 させるって・・・っ!

 それがどうしてディアヴォロ復活に繋がるって言うんですか!?」


 身を乗り出す勢いで、急き込んで問い詰めるリュートに向かって・・・ルイドは視線だけ傾けた。

それはまるで「落ち付け」と暗黙に説き伏せられているように感じ、リュートは我に返って椅子に座る。


「元々・・・、なぜ初代神子アウラが不安定な世界を作り出したか・・・?

 それぞれの属性は世界にとって、なくてはならない大切な資源。

 そのどれも・・・、世界が成り立つには不可欠な属性ばかりだ。

 ではなぜアウラは不安定な世界になるとわかっていて、レムとアビス・・・2つの世界を

 作り出したのか・・・。


 それはディアヴォロの存在にあったからだ。

 ディアヴォロは力を行使する時、自らを存続させる時、世界を構成するマナを喰らう。

 次第にマナを喰らう量は増していき、やがて世界すら食い尽くす勢いだったと言う。

 マナの循環は長い時間をかけてゆっくりと行われる、しかしディアヴォロが喰らったマナを取り戻す

 ことだけは出来ず・・・急激にマナは消費されていった。

 このまま行けばマナの生成が消費に追いつかず、やがて枯渇する・・・。

 それを食い止める為には、当然ディアヴォロを完全に消滅するしかない。

 だが当時の魔法力や科学力を持ってしてもディアヴォロを消滅する手立てが見つからず、結局封印

 という形でしか対処出来なかった。

 世界の合意を求める間もなく、アウラは独断で・・・世界を分かつ行動に出た。

 ディアヴォロによって世界のマナが喰い尽くされないように、そして同時に濃いマナでディアヴォロの

 封印が解けないように・・・。

 

 そう・・・、世界を・・・属性を分けたのはただディアヴォロからマナを喰い尽くされないように

 する為だけじゃない。

 濃いマナはディアヴォロを惹き付ける、濃いマナに惹かれてディアヴォロの活動が活発になるんだ。

 今まではアビスグランドの王族がその身に宿す毒のマナによって、それを餌に活動を抑えていたが

 次第に毒に慣れ、効果が薄れて行った。

 そんな時にラ=ヴァースが復活して、世界にマナが満ちてみろ・・・。

 どうなるかは目に見えているはずだ。

 ラ=ヴァースが復活してすぐさまディアヴォロの封印が解けるとは限らんが、少なくとも復活する

 日は確実に近くなる。」


 ルイドの説明を聞いてリュートは勢いで立ち上がるどころか・・・、今度は立てずにいた。

腰が抜けたように下半身の力が抜けて、微かに震えてさえいる。


「それ・・・、サイロンさんは知らずに!?

 知らないでラ=ヴァースを復活させようと、してるんですか・・・?

 だったらすぐに教えてあげないと大変なことに・・・っ!」


「知っている。」


「・・・・・・っ!?」


 すぐさま返って来た返事に、リュートはうまく対応出来ずにいた。

驚きの連続で、うまく処理出来ない。


「当然サイロンも、ベアトリーチェも、・・・恐らくオルフェも知っていることだろう。

 例え知らずとも創世時代の文献が多数残されている里ならば、元老院の責任者が事実を

 告げているはずだ。

 彼等はその事実を知った上で、三国同盟に賛同しラ=ヴァース復活の道を選択した。

 その先にディアヴォロ復活の未来が用意されていてもだ。

 なぜなら彼らには最後の切り札であるアンフィニと、闇の戦士がいるのだからな。」


 再びリュートの心臓は大きく鼓動し、全身の血が固まったように凍りついた。

聞きたくなかった言葉、思い出したくなかった真実。

リュートは脳へ血が巡っていないように頭の中が真っ白になって、サァーッと血の気が失せて行った。


「ベアトリーチェが今もなお反論している内容だ。

 闇の戦士を犠牲にして、ディアヴォロを消滅させようという計画。」


 するとルイドは突然立ち上がり、黒装束の上着を脱いで・・・リュートに自分の体を見せつけた。

肌の色は普通の・・・日本人の肌色で、少し痩躯な体つきだったが筋肉は締まっている。

しかし一番リュートの目を引いたもの・・・。

それはルイドの心臓部分に、まるでエイリアンが寄生するように赤黒い臓器のような物体が

血管のような根を張ってドクンドクンと脈打っている、何とも不気味な姿だった。

あまりにグロテスクな光景に、リュートは思わず吐きそうになる。

左手で口元を押さえて、眉をしかめた。

リュートの素直な反応にルイドは自嘲気味に微笑みながら、上着を着てその物体を再び隠す。

一瞬ルイドの表情に陰りを見つけたリュートは、ハッとなって罪悪感に襲われた。


「あ・・・っ、ごめんなさ・・・っ。」


「構わん、それが普通の人間の反応だからな。」


ルイドは再び椅子に座ると、静かな口調で続きを話す。


「これが、闇の戦士の犠牲の表れだ。

 双つ星の戦士は、ディアヴォロを倒す為に作られた・・・いわば人間兵器なんだ。

 創世時代の人間が魔法科学の粋を結集して作った、対ディアヴォロ戦用の人工生命体。

 

 双つ星が伝説的な救世主などと、碑文では書かれているが・・・。

 その実は人間が犯した罪や過ちを更なる犠牲によって帳消ししてやろうと、そういった

 エゴから生まれた産物なんだよ。

 それを綺麗な言葉で飾り立てて、双つ星の伝説という希望の象徴として認識させようとした。

 

 ディアヴォロの本体は精霊の力でなければ傷付けることは出来ない。

 普通の魔法や物理攻撃では、マナを大量に吸収して急速再生させてしまうからな。

 しかしそれだけではなくこれまで喰らったマナで大きく成長したディアヴォロは、本体だけを

 傷付けても倒せないことが発覚した。

 確実にディアヴォロを倒すには、ディアヴォロの心臓部分・・・。

 つまり、核を破壊するしかない。

 そこで創世時代の学者たちは、双つ星という人間兵器を作り上げたんだ。

 ディアヴォロと同属性である闇の戦士に核を寄生させて・・・、光の戦士の力で殺す。

 当時はこの方法でディアヴォロを消滅させようとしていたようだが、問題が起こった。

 ディアヴォロの核は、1つだけではなかったんだ。

 1つ目は初代闇の戦士ロギの体に寄生して・・・、同じく初代光の戦士リューガの手によって

 破壊、・・・つまり殺された。

 

 そして2つ目は、このオレ・・・。

 オレは初めから闇の戦士の運命を知った上で、ディアヴォロの核を受け入れた。

 しかし核を受け入れる前にオレは、自分の片割れである光の戦士をこの手で殺めてしまったんだ。

 よって、核に寄生されたオレを殺すことが出来るのは・・・アギトのみ。

 最終決戦でオレは敵としてあいつの前に立ちはだかり、殺されることを望んでいる。」


「ちょっと待ってくださいっ! そんなの・・・、そんなのってない・・・っ。

 ・・・酷過ぎるっ!」


 リュートは怒りに震えて立ち上がっていた、椅子を倒していることにも気付かずに。

息を荒らげ、真っ直ぐにルイドを見据える。


なんで・・・? どうして・・・っ!?


ルイドの表情は至って穏やか、そこには後悔も恐怖も・・・絶望を感じる心も、何もない。


「こんなのって、ないよ・・・っ!

 なんでアギトがそんなことをさせられなきゃいけないんですか・・・っ!?

 どうして・・・っ、人一倍・・・人を傷付けることに、人間を殺すことなんてしたくない

 アギトがルイドを殺さないといけないなんて、・・・そんなの理不尽過ぎるっ!

 アギトは僕の親友なんだ、親友にそんなことさせられるはずがないっ!

 それにアギトだってそんなこと望まないはずだ、他に方法があるはずだって言うに決まってる。

 誰も犠牲にしない方法が必ずあるはずだって、アギトなら諦めたりしない・・・。 

 そうだよ、僕だってそう信じたいから。

 誰かを犠牲にして成り立つような世界なんて、間違ってる・・・。」


「他に方法はない、あったとしても・・・すぐに見つけられるはずがない。

 オレがディアヴォロの核に寄生されて10年程経つが、もう精神面に限界が来ている。

 お前も感じていたはずだ、今までのオレとどこかが違うと・・・。

 オレの体はもう殆どディアヴォロによって蝕まれて、時折意識が乗っ取られる。

 ディアヴォロの核の、新たな器として受け入れ始めようとしているんだ。

 一刻の猶予もならない、今のオレを救えるのは・・・死だけ。

 光の戦士の力で殺されることが、唯一この苦しみから解放される方法なんだ。

 オレはそれを、核を受け入れる瞬間からずっと待ち続けた、・・・望み続けた。

 そしてようやく・・・、その時が訪れようとしている。

 ベアトリーチェはオレが殺されるのを良しとせず、今も異論を唱えているがな。

 しかし他に方法がない以上、受け入れるしかない。

 それが世界からディアヴォロを失くす、一歩となるのだから・・・。」


 恍惚とも取れる表情で、ルイドは幸せそうに語った。

リュートには到底理解出来る感情ではない、いや・・・理解したくなかった。


 どうして・・・、なんでそんな簡単に自分の死を受け入れることが出来るんだろう?

自分の死が迫っていることが、怖くないのだろうか。

・・・恐怖感はないのだろうか。

なぜ、他に方法がないと・・・そう言い切れるのだろうか。


 リュートは黙ったまま、立ち尽くす。

他には何も思い浮かばず・・・、ただひたすらに。

何度も疑問だけを繰り返していた、理不尽さに・・・思い通りにならないもどかしさに。

そんなリュートに、真剣な面差しへと変わったルイドがもうひとつの事実を話して聞かせた。

ルイドの話す真実・・・、世界を救う方法を。

やがてサイロン達が下すことになる、苦渋の決断を。


「ディアヴォロの核は、全部で3つ・・・。

 最後の1つを・・・リュート、お前が受け入れることになるんだ。

 それがお前の定められた運命・・・。

 

 ディアヴォロの核を宿したお前は、アギトの手によって殺されなければならない。

 双つ星の、・・・決して逃れられぬ真実だ。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ