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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
龍神族の里編 1
225/302

第223話 「乙女モード」

 今回、変なタイトルですみません。

気持ち悪がらずに、どうぞ読んでください。

他にしっくり来るタイトルが思い付いたら変更します。

 三国同盟を成立させる為に自分の右腕を差し出したアシュレイは、ベアトリーチェの

回復魔法により傷口を完全に塞ぐことが出来た。

アシュレイがそのまま意識を失ってしまった為、同盟成立後の会議はひとまず

後回しとなる。

キャラハンがアシュレイを部屋まで運び、目覚めるのを待った。

2時間程してようやく意識を取り戻したアシュレイに、キャラハンは大袈裟に泣いて

喜んでいる。

少し寝ぼけたようにアシュレイが視線だけ動かして回りを確認した。

自分がなぜベッドに横になっているのか、少々記憶が混乱している様子である。

そしてすぐに違和感に気付いた。

眉根を寄せて、アシュレイは震えた声で呟く。


「・・・右腕の感覚が、ない!?」


 ゆっくりと左手で探るように、右肩に触れる。

痛みは全くないが、二の腕から下が・・・何もなかった。


「陛下が自ら差し出したんですよ、ベアトリーチェ女王に・・・。」


 静かにドアを閉めてオルフェが部屋に入って来た。

異変に戸惑うアシュレイを気遣ってか、オルフェにしては珍しく優しげな口調であった。

ベッドの横では会議室での出来事を思い出したのか、キャラハンが嗚咽おえつしながら

泣きじゃくっている。

そんな涙もろいキャラハンにオルフェがポケットからハンカチを差し出すと、キャラハンは

遠慮せずに受け取り・・・ちーんと鼻を噛んだ。

オルフェが苦笑いしている光景をうっすらとした眼差しで見つめながら、アシュレイは

だんだんと記憶を取り戻してく。


「そうだったな・・・、確かあのままじゃらちが明かなかったから・・・。

 オレの右腕をベアトリーチェ女王にくれてやったんだった。」


 囁くように呟くアシュレイの言葉に、ようやく号泣が治まって来たキャラハンが

アシュレイを称えるように賛美した。


「ご立派でしたぞ、アシュレイ陛下! このキャラハン・・・王国に仕えて来て

 これ程の感動を体験したことはありません!

 しかしまさか左腕ではなく、利き手である右腕の方を差し出すとは!

 ご自分の不便さを顧みずに国を憂いた決断と、その勇気・・・!

 私はとても鼻が高うございます!」


 感動の余り再び涙を流し出したキャラハンをよそに、アシュレイはピキッと硬直した。

先程の言葉を聞いて顔が引きつったアシュレイに、オルフェはいじわるそうな笑みを

浮かべながら・・・なぜ硬直しているのかを悟った様子である。


「キャラハン将軍はきちんと確認されていましたよ?」


 しれっとした口調で、オルフェが言い放った。

室内に奇妙な沈黙が流れる。


「・・・オルフェ、お前。

 知っててわざと黙っていたな!? しかも何の躊躇いもなく・・・っ!」


「いや~、あんまり焦らすと余計恐怖感が増すかと思いまして。

 ここはひと思いにやってしまった方がラクだと判断させていただきました。

 全く・・・、陛下のご覚悟にはいつも驚かされてしまいます。」

 

「・・・オレはお前の腹黒さにいつも驚かされているわ!

 くそっ、利き腕がないとなると不便この上ないな・・・。

 ・・・と、そんなことより三国同盟の方はどうなった!?

 ベアトリーチェ女王は納得していたか!?」


 一番大事なことを急に思い出したアシュレイは、さっきまでの気だるさを吹き飛ばして

すぐさま覇気のある口調で確認する。


「はっ、あの後ベアトリーチェ女王はアシュレイ陛下の覚悟を見届け・・・三国同盟に

 賛同するとハッキリと宣言しておられました。

 たすき殿を始め、あの場にいた者全員がそれを聞いております。

 おめでとうございます、陛下。

 これでアビスとの永久和平実現への第一歩となりましたぞ!」


 キャラハンの力強い言葉に、アシュレイはほっと胸を撫で下ろして全身の力が

抜けたようだった。


「そうか・・・、これでようやく先へ進むことが出来るな。」


 そう口にした途端、アシュレイは体を起してブーツを履き・・・上着を羽織りだした。

まだ少しふらついているアシュレイを気遣いながら、キャラハンが慌てて制止する。


「ど・・・、どちらへ行かれるのですか!?

 ベアトリーチェ女王に回復魔法をかけていただいたとはいえ、まだ安静にして

 いなければ・・・っ!」


「傷口は塞がったんだろう!? だったら問題ない。

 おかげで痛みもないからな・・・。

 そんなことより一刻も早く会談の続きを行なわねばならんだろうが。

 オレ達には時間がないんだ。

 今すぐに三国揃ってラ=ヴァース復活の計画を練る必要がある・・・。

 それにディアヴォロだって、そう長く待ってはくれんぞ!」


 アシュレイの怒声に近い言葉に、キャラハンは制止する手を引っ込める。

上着のボタンに手をかけようとするが左手だけではうまく留めることが出来ないようで、

眉間にしわを寄せながらアシュレイは唇を噛んだ。


「まぁ、そこまで急ぐ必要もないでしょう。

 ディアヴォロの封印が解けかかっているとはいえ、今すぐに解けるわけでもなし。

 慌てず、迅速に・・・。

 それが鉄則、でしょう!?」


 オルフェが柔らかく微笑みながら、アシュレイの上着のボタンを一つ一つ留めて行く。

自分より身長の高い大人にボタンを留めてもらい、アシュレイはバツの悪そうな顔になる。

右腕の袖だけがぶらりとしているのを目にし、自嘲気味に微笑んだ。


「全く・・・、事を急いていたのはオレだけか。

 とりあえずは落ち着いた、すまんな・・・オルフェ。」


「いいえ、陛下に諭すのが私の務めですから。」


 まるで召使いのようにオルフェがアシュレイの身なりを整えると、にっこりと微笑み

ドアを開けた。


「それでは私は会談を再開する旨を伝えに参りますので、陛下と将軍は準備が整い次第

 会議室へと向かってください。」


「グリム大佐、かたじけない!」


 ぱたんとドアが閉まり、室内に取り残された二人はとりあえず椅子に座って一息つく。

アシュレイの為にお茶を淹れるキャラハン。

その間アシュレイがラ=ヴァース復活とディアヴォロ対策に必要な資料をまとめていると、

お茶を差し出したキャラハンが、ふと余計なことを口にした。


「そういえば・・・、ベアトリーチェ女王が陛下に回復魔法を施してる際・・・。

 斬り落とした陛下の腕を再び戻すことも、可能だったのではないでしょうか!?」


「・・・・・・・・・・・・・・・言うな、キャラハン。」


「・・・失礼いたしました、陛下。」


 とことん間抜けで無様な自分に、アシュレイは頬を赤く染めながら煎茶を一気に

飲み干した。

アシュレイの向かいでは、鼻頭を押さえたキャラハンが必死で涙を堪えている。




 準備を整えこれから会議室へ向かおうとした時、オルフェが部屋へ戻って来た。

ドアが開き・・・アシュレイ達が振り向いたそこには、真っ赤な髪をした女性・・・

ベアトリーチェがオルフェと一緒に立っていた。

一体何事かと、アシュレイは眉根を寄せている。

するとオルフェが楽しそうに微笑みながら、少しだけ動揺しているアシュレイに説明

してやった。


「女性がわざわざお越しくださっているのに、そのような顔をするものではありませんよ?

 ベアトリーチェ女王はアシュレイ陛下の身を案じて、こうしてお見舞いに来て

 くださったんです。」


 そう言ってオルフェがベアトリーチェをエスコートしようとした手は、ものの見事に

拒絶される。


「妾に気安く触れるでないわ! 

 言っておくが、三国同盟に賛同したと言っても・・・獄炎のグリム。

 妾はお前のことを完全に許容したわけではないからのう、決して勘違いするでない。」


 ベアトリーチェの威嚇に、オルフェは微笑んだまま・・・両手を上げて「触れない」と

いうポーズをわざとして見せた。

あからさまなイヤミにベアトリーチェは「ふん!」と鼻を鳴らし、それからずかずかと

アシュレイの前まで歩いて行く。


「どうやら何事もないようじゃな、全く・・・レム人とは本当にしぶとい種族じゃ。

 まぁ、腕の1本や2本斬り落とした位で気を失うようではまだまだじゃがな!」


 つんとした態度に、高慢な物言い。

一体何しに来たのかと・・・、アシュレイは訝しげに見つめるだけだった。


「ベアトリーチェ女王、失礼ですがここまで一体何用で来られたのですかな!?

 グリム大佐からすでに聞いておられると思いますが、我々はこれより会談の続きを

 する為・・・女王陛下も会議室へすぐにでも向かっていただきたいのですが・・・。」


 キャラハンが2メートルはある図体で、ベアトリーチェの前に立ち塞がった。

カチンと来たベアトリーチェはキャラハンを睨みつけ、それから後ろに隠れてしまった

アシュレイの方へと身を乗り出して話しかける。


「アシュレイよ・・・、妾は・・・その。

 お前に確認したいことがあって、・・・ここまで来たんじゃが。

 今、少しだけ・・・良いか!?」


 急にしおらしい態度になったベアトリーチェに忙しさを覚えながらも、アシュレイは

普通に頷いた。


「構わん、二人には席を外させた方がいいか?」


そう聞かれ、ベアトリーチェは頬を赤く染めながらこくんと小さく頷く。


「そ・・・そうじゃな、出来ればそうしてくれ・・・。」


 ベアトリーチェからの要望に、アシュレイは口に出すこともなくオルフェとキャラハンに

視線を送って部屋を出て行くように命令した。

二人は会釈するとそのまま黙って部屋を出て行く。

ぱたんとドアが閉まり、部屋の中にはアシュレイとベアトリーチェの二人だけとなった。

少しの沈黙の後にベアトリーチェから先に口を開く。


「その・・・、なんだ。

 腕の方は痛みとか、貧血とか・・・そういう症状はないか!?」


「あぁ、確かお前が癒してくれたそうだな。 礼を言う。

 おかげで腕を失くしたことすら忘れそうな位だ、少々不便ではあるがな・・・。」


「そうか、・・・そうじゃろうな。」


 それからまた沈黙が流れた。

今すぐにでも会談の続きをする為に会議室へと急ぎたいアシュレイは、痺れを切らして

ベアトリーチェに用件を聞く。


「用件があったんじゃないのか?」


「ん・・・、あぁ・・・。

 腕を斬り落とした時、お前が・・・言ったことなんじゃが。」


もどかしそうに片言で話しかけて来るベアトリーチェに、アシュレイは首を傾げた。


「・・・オレがお前に言ったこと?」


「そうじゃ、お前はあの時・・・確かに妾のことを・・・その。

 あれは本心からかの!?

 べ・・・っ、別に嬉しいとか・・・そういう意味ではないんじゃ!

 あんな言葉のひとつやふたつ、妾に向かって言って来る男共なんぞ有象無象に

 おるんじゃからな!

 ただ・・・、お前はレム人で・・・妾はアビス人。

 勝手が違い過ぎるから、確認の為に・・・もう一度聞いておこうと思っての。」


 もじもじと視線を逸らしながら話すベアトリーチェの態度に、アシュレイはますます

首を傾げた。

一体何を言っているのか? 何のことなのか?

意識を失いかけていたあの時、アシュレイは殆ど記憶に残っておらず・・・自分が

ベアトリーチェに向かって一体何を言ったのか、全く思い出せずにいたのだ。

懸命に記憶を手繰らせて思い出そうとするが、まるで思い出せない。

仕方がないので、あの状況下で自分が何を口にしたのか・・・。

何と言えばベアトリーチェが三国同盟に賛同する気になるか、アシュレイはその言葉を

自分で予測することにした。

アシュレイの言葉を待つベアトリーチェに、アシュレイは自信満々の笑みを浮かべて

告げる。


「もしかして、人種など関係ない・・・と言ったことか!?

 世界がひとつとなる時に、レム人だとかアビス人だとか・・・そういうしがらみは

 一切必要のないことだと。

 だから国をまとめた時には、そういった人種差別をなくしていく方向で政治を

 進めて・・・・・・。」


「そ・・・、そうじゃなくてっ!

 確かにそれっぽいことも言っておったかもしれんが、そうじゃなくて・・・。

 それの後に・・・、言うたじゃろうが。

 妾の・・・ことを迎える、覚悟が出来てる・・・とかどうとか・・・。

 じゃからっ! 妾みたいな女なら、あ・・・あいっ!」


 顔を真っ赤にしながら、次第にベアトリーチェの表情は羞恥から怒りへと変貌していく。

ここまで言っても、依然アシュレイの表情は変わらぬままで・・・ベアトリーチェは自分が

空回りしていることに気が付き、わなわなと小刻みに震えだした。


「まさかとは思うがの・・・、もしかしてあの時言った言葉を覚えておらんとか。

 そう言うつもりじゃないだろうな・・・!?」


 一刻も早く会議室に行きたいアシュレイは、遂に降参することに決めた。

左手で頭を掻きながら、面倒臭そうに肩を竦めて・・・白状する。


「あぁ、すまん。

 あの時は意識が朦朧もうろうとしていたようでな、ハッキリとよく思い出せないんだ。

 お前に向かって何を言ったのかは知らんが、まぁ・・・大したことじゃないだろ。

 こうして三国同盟が成立した今となってはな、そうだろ?」


「意識が朦朧・・・、大したこと・・・ない!?」


 アシュレイの放った言葉を、低い声で繰り返すベアトリーチェ。

そして・・・・・・。


バシィッ!


 ベアトリーチェの尻尾が、部屋の床を叩きつけ・・・ひびが入った。

わなわなと肩を震わせながらベアトリーチェは、思い切りアシュレイの右頬に向かって

力の限り平手打ちした。





 再び会談が開かれ、全員が同じ席についていた。

右頬を赤く腫らしたアシュレイは自分が腕を切り落とした場所の床に視線をやるが、

そこには血の跡が全く残っていなかったので訝しげに見つめていた。

その視線に気付いたオルフェが耳打ちするように、理由を説明する。


「闇属性、特に回復系に関しては私もよく知っているわけではないのですが・・・。

 ベアトリーチェ女王が陛下に回復魔法を施した際、床一面に流れ落ちた血も陛下の

 体内へと戻って行くのをこの目で見ました。」


「・・・ということはオレの体内には床の埃も交じっている、ということなんだな!?」


「そういうことになるんでしょうねぇ、・・・きっと。」


 滅多に口にしない冗談をアシュレイが言ったにも関わらず、オルフェは余裕の笑みで

否定すらしなかった。

そんな懐刀にはらわたが煮えくり返りながらも、アシュレイは不機嫌そうな表情のまま

席に着く。


「アシュレイ国王よ、右腕の方はもうよろしいのか?」


「あぁ、心配かけてしまったようで申し訳ない。

 我が側近から聞いた話によりますと、ベアトリーチェ女王が三国同盟に賛同して

 いただけたそうで・・・。

 いてもたってもいられず、こうして再びお呼び立てしたことお許しください。」


 襷がアシュレイの状態を確認し、全く問題ないことを告げたアシュレイは早速

本題に入ろうとした。

だがしかし襷が本当に聞きたかったのは回復魔法を施した右腕の方ではなく、むしろ赤く

腫れ上がった右頬の方であったことは、・・・誰も口にしない。

ただ一人、それすら全く気付いていないサイロンが明るく会議を始める号令をかけた。


「気持ちはわからんでもないぞ、では・・・早速本題に入るとしようかのう!」


 いつもヘラヘラと能天気な笑顔をしているサイロンが、ここだけはいつになく真剣な

面差しだった。




 

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