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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 4
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第216話 「ミラの頼み」

 翌日、アギトはリュートのことが気になって仕方がなかった。

昨夜は先に寝ていたので、リュートがいつ戻って来たのか・・・何があったのか

アギトは何も知らない。

ただ今朝起きた時、リュートは部屋の隅でどんよりとしたオーラを放ちながら

落ち込んでいたので・・・、アギトはその姿を見てずっと声がかけづらかった。

名前を呼んでも、何があったのか聞いても、冗談を言っても、反応がない。

リュートがここまで落ち込んでいる姿を見るのは、殆ど初めてに近かった。

ただ、ザナハに何かイヤなことを言われたのか聞くと・・・リュートはその時だけ

わずかに反応して、ザナハは悪くないと・・・そう呟くだけである。


「なぁ、もういい加減にしろって・・・。

 何があったのか言わねぇんなら、励ましようがねぇじゃねぇか・・・。

 なんならいっそ、あのゴリラ姫を締め上げて何があったのかゲロさせて・・・っ!」


「それはやめてっ!!」


 なんとなくアギトの声色が本気っぽく聞こえたので、リュートは慌てて立ち上がり

いきがるアギトを制止した。


「僕が悪かったってば・・・、もう平気!

 この通り元気になったから・・・、だからこれ以上ややこしいことするのは

 やめてよ・・・。」


「よっし、そんじゃ腹も減ったし・・・食堂行こうぜ!」


 無理矢理復活したリュートの肩に手を回し、食堂へ連れて行くアギト。

リュートのことを心配して励ました結果なのか、それともただ単にお腹が空いた

から適当にカマかけただけなのか・・・。

それでもリュートをほったらかしにして、一人で食堂に行かなかったアギトに

・・・ほんの少しだけ感謝していた。

もし今アギトにまで放置されたら・・・、今度こそ自分が誰からも必要とされて

いない存在だと、そう思い込んでしまってただろうから。


(相変わらず人のことを励ますのが苦手なんだから・・・、アギトは。

 でもまぁ、そこがまたアギトらしいところなんだけどね。)


アギトの能天気な横顔を見て、リュートはようやく本当の意味で元気が出た。


(昨夜のことは、もう忘れよう・・・。

 どう考えても僕がルイドと張り合おうとしている時点で、おこがましいことだ。

 ザナハは僕の気持ちを知らない、ううん・・・これからも知る必要はない。

 この先どうなるかわからない僕のことなんて、きっと知る必要なんてないから。


 ううん。

 ・・・違うな、僕は・・・怖いんだ。


 自分の気持ちを打ち明けて・・・、ザナハにフラれることが怖いんだ。

 そして今まで通りの関係が壊れるかもしれないと思ったら、耐えられない。

 せっかくザナハとこんな風に、普通に楽しく喋れるようになったのに・・・。

 ザナハも僕のことを信用して・・・、ルイドのことが好きだって話を僕にだけ

 打ち明けてくれたんだ。

 それだけ僕のことを信じてくれてるってこと、・・・それを失いたくない。

 気兼ねなく接してくれる今の関係を、失くすほうが・・・僕は怖いんだ。


 僕はザナハにとって・・・どんな形であれ、近い存在でいたいから・・・。


 それなら別に付き合うとか、恋人同士になることがゴールじゃないじゃないか。

 恋とか愛とか・・・今の僕にはそれが本当はどういうものか、よくわからない。

 だけどきっと『恋人同士になることが目的』じゃない僕の気持ちは、恋とか愛とは

 少し違うのかもしれない・・・。

 いや・・・、付き合えるならそれに越したことはないけど・・・っ!

 ただ今の状況じゃ圧倒的に不可能に近いからであって・・・、それなら別に

 恋人同士になれなくてもいいって意味で・・・っ!

 ・・・こんな風に自分の気持ちに保険をかけてる時点で、きっと本気の恋じゃないって

 言いたいんだろうな、僕は・・・。

 ザナハみたいに・・・フラれてもフラれても、それでも自分の気持ちを貫くなんて 

 生き方・・・、僕には無理だ。

 傷つくのが怖い・・・、それが原因でぎくしゃくするのが嫌だ・・・。

 自分が傷つくことに憶病になっているようじゃ・・・、ザナハが僕のこと・・・。

 『ただ優しいだけ』って思っても、無理もないな。


 ・・・人に優しくするのは、自分が傷つきたくないから。


 明らかにルイドとは違う・・・。

 あの人は自分の目的の為なら・・・自分がどれだけ傷ついても、それを貫く人だ。

 僕に嫌悪されようと、憎まれようと、きちんと闇の戦士の運命を話して聞かせた。

 きっとザナハは・・・そんなルイドの強いところを、好きになったんだろうな。)


 ふ・・・っと、自嘲気味に笑みを浮かべるリュートに・・・アギトが若干引き気味で

声をかけた。


「おいリュート・・・、マジで大丈夫なのか!?

 もしかしてすでに闇の精霊と契約を交わした、とか言わねぇよな・・・!?」


「・・・えっ!? な・・・、なんで!?」


 もやもやと・・・心の中で自問自答していたことをアギトにバレたのかと思い、

リュートは慌てて我に返って聞き返した。


「いや・・・、お前の周囲・・・ものっそ凄まじい負のオーラが。

 別にディアヴォロん時みたいな、あからさまに禍々しいものってわけじゃねぇけど。

 雰囲気的にさ・・・どす黒~いマイナスオーラが、漂ってるっつーか。」


「あ・・・、あはは・・・っ! き・・・きっと、ホームシックのせいじゃないかな!?

 随分と長い間家に帰ってないからさ・・・、それで多分・・・暗くなってるように

 見えたんだよ。

 でももう大丈夫だから・・・、心配しないでっ!」


 明らかに適当に言い繕った説明だった。

しかも説得力がない、自分でも十分に怪しい返しだったとさすがに後悔する。

さすがのアギトですら・・・、今の言葉に全く納得いってないのか。

疑わしい表情でリュートのことを見据えていたが、あえて流すことにしているようだ。

アギトのそんな謙虚な態度に、リュートはある出来事を思い出す。


(あ・・・、もしかして前にケンカしたことを気にしてるのかな!?

 何でもかんでもアギトに全部話すわけじゃないってやつ・・・。

 それでこれ以上聞きづらいのかも。)


そんな風にリュートが思った時、たまたまミラが通りかかって二人とも挨拶をする。


「あら、アギト君にリュート君・・・おはよう。」


「はよっす!」


「おはようございます、中尉。

 ・・・あれ、大佐は一緒じゃないんですか!?」


 いつでもどこでも、というわけでもないが・・・大体ミラはオルフェの付き人の

ように二人一緒にいることが多い。


「あ、まだ言ってませんでしたか!?

 大佐はアシュレイ陛下に挨拶する為、今朝早く首都へ出発したんですよ。

 アビスとの会談にも参加するでしょうから、しばらくの間はここへ戻って

 来れないと思います。」


「はぁ~~~~~っっ、またかよ!? オレの修行はどうすんだって!!」


 アギトが大声を上げる。

オルフェはアギトの師匠なのだから無理もないが、すでに出発してしまっては

どうしようもない。

アギトが意気消沈した様子に、ミラは苦笑しながら何とかフォローする。


「ま・・・、まぁアギト君。

 大佐がいたところで、どうせマトモな修行をするわけではありませんし・・・。

 ここしばらくの間は共同訓練が続きますから、特に支障ないと思いますよ!?

 それに大佐からはアギト君の修行に関してきちんと、ジャック先輩と私とで

 見てあげるように言われてますから・・・心配しないでください。」


「マジでっ!? よっしゃ、それなら陰険メガネがいなくてもいいや!」


「・・・立ち直り、早っ。」


 リュートは小声でつっこんだ。

するとアギトは突然悪魔のような笑みを浮かべて、何かを企んでいる様子である。

聞きたくないが・・・、嫌な予感がするので一応聞いてみるリュート。


「・・・何するつもり!?」


「ふっふっふっ・・・、あの獄炎のイヤミがいなくなったのならばオレが

 今までずっと計画していた例の作戦が、行動に移せそうだなって思ってよ!」


「例の作戦・・・? 何だか面白そうですね、一体どんな作戦なんです!?」


「ち・・・、中尉!?」


 思いもよらない展開に、リュートはつい驚いてしまう。

まさかあの生真面目さがウリのミラが、アギトのろくでもない作戦に興味を示す

とは想像もしてなかったからだ。

そういえばミラはどこか、オルフェに対して非常に冷たい一面を持ち合わせていた

ことを思い出す。

もしかしてオルフェが嫌がることならば、進んでやるタイプなのだろうか?

・・・と、そんな風に思ってしまうリュート。


「今この洋館にオルフェがいないとなれば、やることはひとつに決まってんじゃん!

 オルフェの私室やら執務室に忍び込んで恥ずかしい私物を見つけてやんのさ!

 あのムッツリスケベのことだから、ぜってーどっかにエロ本とか面白い写真とか。

 普通なら絶対他人に見られたくないような物を隠し持ってるはずだ!

 それを見つけ出して、こっそり笑ってやるんだよ。」


「え~~・・・、悪い顔して悪だくみしてた割に・・・やることがちっさい。

 それに見つけても脅したりとかするんじゃなくて、こっそり笑うだけなんだ。」


リュートがケチをつけたことに、アギトはムキになって反論した。


「お前なぁ! 相手はあのオルフェだぞ、おるふぇ!!

 仮にものすごい恥ずかしい私物を見つけたとして、脅したりなんかしてみろ!?

 ・・・結局地獄を見んのは、こっちなんだぞ!?

 それならいっそ見つけたことは黙っておいてだな・・・、陰でこっそり笑う方が

 ずっと安全かつ有効なストレス発散法ぢゃねぇか・・・っ!」


「・・・それがちっさいって言ってんだけど。

 でも、あの大佐だよ!?

 そんな恥ずかしい私物を、いつまでも大事に取っておくタイプとは思えないけど。

 てゆうか、それ以前にそんな物・・・ないような気がする。」


 そう呟きながら、リュートはおもむろにミラの方へ同意を求めた。

自分達より付き合いの長いミラの方が、ずっとオルフェのことを知ってるはずだ。

ミラは特に興味津々という顔でもなく・・・、無表情のまま答える。


「そうですね・・・、そういった物はきっと『ない』と断言出来ますね。

 あの人は物欲が殆どありませんから、無用な物はさっさと捨てる性格ですし。

 それに・・・仮にプライベートな私物があったとしても、すぐに見つかるような

 場所には置いてないと思いますよ?

 そんな物があれば、きっと今頃部屋の掃除をしているメイドが大騒ぎしている

 はずですから・・・。」


「・・・なんでメイドが騒ぐんだよ!? 

 キャーキャー騒ぐ位、卑猥ひわいなモンとか?」


「いや、多分そういう意味じゃないと思うよ? アギト・・・。

 きっとメイド達の間で人気がある大佐のプライベートな私物なら、珍しがって

 騒ぎ出す・・・とか、そういう意味じゃないかな。」


「そういった騒ぎがないところを見ると・・・、見られて恥ずかしい物が一切

 置いてないか・・・。

 あるいは特別な魔法がかけられているかの、どちらかでしょうね。」


 すっかり話題に興味がなくなったのか、ミラは肩を竦めながら話の締めに

入ろうとしていた。

しかしアギトとリュートは、ミラの最後の言葉に興味を示す。


「特別な魔法?」


リュートがオウム返しのように、聞き返した。


「えぇ、自分以外の者に見られたり触れられたり出来ないようにする魔法のことです。

 封印魔法と言って、物などにプロテクトをかけておくことで本人以外に視覚出来ない

 ようにしたり・・・触れられないようにする特別な魔法ですよ。

 もし大佐が他の者に見られたら困るような物があった場合、確実に封印魔法が

 施されているでしょうね。」


「へぇ~、そんな魔法があるんですね。」


「まぁ・・・、この魔法はかなり高度な上級魔術の類ですから誰にでも使えるという

 わけではないんですよ。

 誰にでも使えてしまったら、犯罪が絶えなくなって・・・それこそ大変なことに

 なりますからね。

 そういえば・・・、確かザナハ姫がルイドから受け取った品にも・・・封印魔法が

 施されていましたね・・・、結局解除することが出来なかったようですけど。」


 ふと思い出したように、ミラがぽろりと漏らす。

ルイドがザナハに渡した品・・・、耳ざとく聞いたリュートは少しだけ胸が痛んだ。


「どんな物もらったんだ?」


「かなり昔のことなので私もよく覚えていませんが、もしかしたらザナハ姫は

 今も持っているかもしれませんよ。

 機会があったら見せてもらったらどうです?」


「ふ~ん、ま・・・あんま興味ねぇし別にいいや。

 な? リュート。」


「え・・・っ!? う・・・うん、そうだね。」


 実はものすごく興味があった。

あのルイドがザナハに贈り物を贈った・・・。

しかも誰にも見られないように、封印魔法まで施して・・・。

一体どんな物を贈ったんだろうと気になっていたが、アギトに一蹴されて聞くに

聞けなくなってしまった。

・・・と、突然ミラが思い出したかのように声を上げてアギト達に向き直る。


「いけない・・・、すっかり忘れていました!

 実はアギト君達に頼みたいことがあったんですよ・・・。」


「ビックリした~・・・、一体何なんだよ!?」


ミラが用件を忘れたところを初めて見た二人は、思わずミラの声に驚く。


「カトル達のことなんですけど・・・。」


「あ~、そういえば長いこと見てねぇな。」


頭をぼりぼりと掻きながら、アギトはつまらなさそうに聞く。


「今ちょうどグスタフ曹長の指揮の元、二人は現在クレハの滝で修行中なんです。

 水属性と雷属性は相性が良いので、カトルとレイヴンの修行にはうってつけ

 でして・・・。

 予定では今日、修行を終えて洋館に戻って来るんですけど・・・。」


「・・・迎えに行くんですか?」と、リュート。


「迎えに行くのもそうなんですけど、至急戻るように伝えてほしいんです。

 実はあれからずっと大佐と話していたことなんですが・・・、フィアナに

 襲われたリヒター君。

 彼はあれ以来ずっと伏せったままで、一向に回復する様子がないんですよ。

 さすがにこれ以上は生命に危険を感じますし、ヴォルトの口伝を継承している

 二人をもう一度交えて・・・リヒター君の回復を試みるつもりなんです。

 リヒター君はヴォルトの助けで、フィアナから逃れ・・・現在の状態にあります。

 今はヴォルトと契約を交わしたアギト君もいることですし、再度彼の復活を

 試す為に・・・協力して欲しいんです。

 ですから、まずはカトル達を急いで洋館に連れ戻すように・・・迎えに行って来て

 もらえませんか?」


 ミラの頼みに、リュートは断る理由もないので・・・快く承諾した。

すると隣でアギトが苦虫を噛み潰したような表情になり、うざったらしい声を漏らす。


「あ~~・・・、そういやいたな・・・そんなヤツ。」


 何がそんなにイヤなのか、リュートはリヒターという人物と直接対面したことがない

ので理由がわからなかった。

しかしアギトのこの顔を見れば・・・、きっと相性の悪い相手だったんだと想像出来る。

そもそもアギトとうまくやれる人物なんて、そうそういない。

それこそ仏のような・・・そんな広い心を持っている人物でなければ、アギトが

気に入るはずなかった。


「それじゃお願いしましたよ?

 私はこれからアギト君達が戻るまでに、色々と準備をしておきますから。」


 アギトのイヤそうな態度を素知らぬ態度でスルーすると、ミラはそのまま二人に

お使いを頼んで・・・仕事に戻ってしまった。

これじゃ行くしかない、リュートはイヤがるアギトを無理矢理連れて行くように

玄関へと向かった。


「なんだかカトル達に会うのも随分久しぶりだよね!

 二人とも中尉や軍人さん達に相当厳しい修行をさせられてたみたいだし、かなり

 強くなってるんじゃないかな!?」


「どうだろうな・・・、オレ達よりも短期間なわけだし・・・抜かれてたら

 シャレになんねぇだろ。

 でもま、参戦キャラクターが増えるに越したことはないんじゃね?」


「アギト・・・、まだゲームに沿って話をしてる!?」


 そんな何気ない会話をしながら、アギトとリュートは洋館を出て・・・真っ直ぐに

クレハの滝へと向かった。




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