第213話 「黒いローブの女」
レムグランド国、ガルシア国王からの親書が洋館に届く2日前・・・。
首都シャングリラでは・・・すでに『異界の鏡』で連絡を取り合ったサイロンを
呼び出し、三国同盟に関する会合が行なわれようとしていた。
謁見の間の玉座にはガルシア国王が・・・。
サイロンと・・・その付き人であるハルヒとイフォンが、ガルシア国王の御前に
控えている。
「ねぇ・・・、僕達って対等の立場としてここに来てるはずだよね・・・。
どうしてこうも差がつけられてるんだろうね?
あの裸の王様、まだ自分の立場ってやつがわかってないのかなぁ?」
イフォンがにこやかな表情になりながら、小声で毒づいた。
そんなイフォンの態度に、ハルヒが諫めるように睨みつける。
しかしそれでもイフォンはにやにやとした顔をやめることはなかったが・・・、
一応大人しくしていた。
「ところでガルシア国王よ。
アシュレイ殿下の姿が見えんようじゃが、今いずこかのう!?」
いつもなら向かって左側の椅子にアシュレイが座っているはずだ・・・。
しかしどこにもアシュレイの姿が見当たらなかったことに、怪訝に感じたサイロンが
国王に向かって尋ねた。
「アシュレイならば現在は、騎士団を統率する立場として出払っている所だ。
なに・・・任務が終わればすぐに駆けつけるだろう。
世界の在り方が変わる瞬間に立ち会うのだ、それまでには間に合うはずだ。
そんなことより・・・、ワシはそなたに聞きたいことがある。
まずはワシの質問に答えてみよ。」
表情の優れないガルシア国王であったが、それでも何とか威厳を保ちながら
サイロンに向かって尋ねた。
アシュレイがいないことに多少の不安を感じていたが、サイロンはガルシア国王の
質問に快く答える・・・という仕草をする。
その反応を見て、ガルシア国王は早速サイロンに向かって疑問を投げかけた。
「そなたは未だ、龍神族の族長という位を継いだわけではないと聞いたが・・・。
それは、まことか?
族長という立場でない者が、三国をまとめ上げ・・・なおかつ次元の歪みを
正すという手段を取ろうとは・・・正気の沙汰ではあるまいに。
龍神族の・・・、特に元老院の傲慢さはこのワシとてよく知っておる。
それでもそなたは、この話を進めると言うか!?」
サイロンは顔色を変えることもなく、国王の質問に答えた。
「確かに余は正式な形で、族長となったわけではない。
しかし前族長パイロンが亡くなったことにより・・・、更に世界の均衡が乱される
ことは明白じゃ。
最悪の事態になる前に・・・、皆で手を打つ必要があると考えた。
それは以前の演説でも言うたことじゃがの・・・。
だが勘違いしてもらっては困るが、一応元老院からの了解は得ておる。
レムグランド、そしてアビスグランドの両国からの賛同を得さえすれば、三国同盟は
成立したも同然じゃ。
あとはラ=ヴァース復活に備えて、実行あるのみ。
ガルシア国王の決意が本物なれば近い内にでも、ベアトリーチェを交えたサミットを
すぐにでも開こうと思っておる。」
淡々と説明するサイロンに、国王がわずかに邪悪な笑みを浮かべて話に割って入った。
「まぁ、そう慌てるな・・・そのことなのだが。
確かにワシは三国同盟に賛同すると・・・、例の鏡を通じてお前に宣言した。
だが・・・ワシは長年敵対してきたアビスと、狎れ合う為に賛同しようと
思ったわけではないぞ!?
世界の歪みを正すには、最も効率が良いと判断した為だ。
当然・・・世界が1つとなっても、我が国の領土を他国が侵すことは許されん。
協定は結ぶが、それはラ=ヴァース復活までの期間のみ。
最も・・・アビスが我が軍門に降る、というならば話は別だがな・・・。」
国王の顔から笑みが消えた。
まるで力で押し通そうとするような・・・、そんな圧迫感さえ感じられる。
明らかに威圧してきている国王の態度に、サイロンは予想通りの展開だと察した。
(やはりのう・・・、そう来るとは思っておったが。
アシュレイをこの場に置いておらんかったのも、横槍を入れさせん為か。
・・・つくづく救えん男よ。)
サイロンは細心の注意を払った。
いつ・・・何を仕掛けて来るのかわかったものではない、サイロンはガルシア国王に
気付かれない程度の仕草で・・・両脇に控えているハルヒとイフォンに警戒の
合図を送る。
謁見の間では一触即発とも言える緊張感が増していたが、城の外観からはそんな
空気を感じさせない程・・・実に穏やかなものであった。
王城の・・・最も見晴らしの良い場所で、アシュレイは特に謁見の間周辺に注意を払い
ながら警戒している。
全身黒ずくめの衣装に身を包み、顔には仮面を装着したその姿は・・・レムグランドの
王子ではなく、まるで行きずりの剣士を装っているようだった。
腰のベルトには2本のレイピアを携え、腕を組みながら王城を見下ろす。
(親父にどんな方法で、どんな命令を下したにせよ・・・。
眷族が今日、この機会を逃すとは思えん。
必ず何か仕掛けて来るはずだ・・・!)
そう察したアシュレイは、サイロン達が首都に来た時からずっと外で見張りをして
いたのだ。
あの国王が本心から同盟に賛同するとは思っていない、最初から疑っていた。
その為アシュレイが謁見の間に同席したとしても・・・、どうせ展開は解りきっている。
ならば最初から眷族に対して警戒していた方が、より効率的だと判断したのだ。
城内には多くの騎士達が警備している、その一人一人の様子も目に留めながら・・・
アシュレイは異常がないか、異変がないか常に気を配っていた・・・その時。
バシィッ!!
「・・・っ!!?」
突然どこからか攻撃を受け、アシュレイは反射的に身をよじって避けた。
見ると石の壁がえぐれており・・・、すぐさまどこから攻撃されたか視線を走らせる。
すると向かい側の塔から、何か黒い影のような物を捉えたアシュレイはすぐさま
建物の構造から向かい側の塔へ行く足場を探し、軽々とした身のこなしで跳んで行った。
怪しい影を捉えた場所に辿り着き、影が隠れて行った方向へ追いかけて行くと足元に
何かが当たり・・・視線を落とす。
そこにはこの塔の警備に当たっていた騎士が、血を流して倒れていた。
倒れている騎士の状態を確認しようと手を伸ばした瞬間、目の前に黒い影が突然
現れてアシュレイめがけて攻撃を仕掛けて来た!
ひゅっと鋭い何かが、アシュレイの仮面をかすめる。
そのまま流れるような動きで、黒いローブを来た謎の人物はナイフを手に・・・
アシュレイめがけて攻撃を繰り出した。
その攻撃には一切の迷いがなく、気を抜けば怪我では済まない・・・。
アシュレイはそんな攻撃をことごとく回避しながら、すかさず相手から間合いを空け
・・・その瞬間に、アシュレイは両手に剣を構えて攻撃態勢に入った。
黒いローブを頭からかぶった人物は、アシュレイが武器を構えたと同時に警戒
してか・・・同じように間合いを空ける。
足取り、身のこなし・・・そして身の丈からアシュレイは、その人物が女性のもの
だと推察した。
顔こそ見えないが、先程の動きからかなりの手練れと判断する。
アシュレイは剣を構えながら、黒いローブの女に向かって問いただした。
「貴様、何者だ・・・!?」
アシュレイの問いに、女は背筋を伸ばすと・・・そのまますっと武器を収めた。
まるでアシュレイのことなど相手にすらならないと・・・、そう馬鹿にするように。
背筋を伸ばした時、ローブの隙間から・・・わずかだが口元だけが見えた。
嘲笑を浮かべるその口元から、相手が女であると確信するアシュレイ。
恐らく以前・・・、ガルシア国王に謁見しに来た例の怪しい女、本人だろう。
「何が狙いだ・・・、サイロンか!?」
少しも油断せず、殺気を込めたままアシュレイが再び問う。
だが女は間合いを空けたまま、微動だにしない態度にアシュレイが不審に
思った時・・・。
「君にチャンスをあげるわ・・・、アシュレイ。」
氷のように冷たい声色で一言そう言い放つと・・・、女が突然アシュレイの目の前で
ジャンプし・・・塔の縁に立った。
まるでダンスでも踊るかのように、女の身のこなしはとても優雅で・・・そこだけ
時がゆっくりと進んでいるような錯覚さえしてくる。
しかしアシュレイはそんな動きに惑わされることなく、しっかりと女を見据えた。
そして何を思ったのか、女はそのまま背中から倒れるように塔から飛び下りてしまう。
アシュレイはすぐさま女を追うように塔の上から見下ろすが、・・・驚いたことに
かなりの高さから飛び降りたにも関わらず、女は無傷のまま隣の建物に着地していた。
そして女は素早い動きで、どこかへ向かって走って行く・・・。
女が向かう先は・・・。
「しまった・・・、謁見の間かっ!!」
アシュレイは一瞬隣の塔からこの塔へ来た時のように、狭い足がかりを伝って
下へ向かおうと考えたが・・・どう見てもそれらしい足場が見当たらなかった。
舌を打ちながらアシュレイは、急いで塔の螺旋階段を駆け下りて謁見の間へと向かう。
途中に見張りの兵士が何人かいたが、アシュレイは構うことなく通り過ぎた。
増援し城内が混乱したら、それに乗じて逃げられる可能性がある。
それ以前に・・・ディアヴォロの眷族に関しては、ごく一部の者しか知らされていない
ので説明をする時間もなかった。
アシュレイは緊急用の脱出口がある場所まで来ると、1つだけ装飾の異なった燭台を
掴んで下へ引く。
すると目の前の石壁が音を立てて開いていき、脱出口が現れた。
アシュレイは謁見の間への近道として、その通路を突き進んで行く。
本来ならば城内に敵が侵入して来た時に、国王の私室と繋がっている謁見の間から
外へと脱出する為に使われるものだ。
いくつか分岐があったが、アシュレイは脱出口の構造を把握していたので迷うことなく
先を急ぐ。
アシュレイの靴音しか聞こえない、静かで薄暗い通路を走っていると・・・すぐ近くで
ガラスの割れる音のようなものが聞こえてきた。
そしてその後に何者かの叫び声・・・。
速度を落とすことなく、アシュレイはそれらの物音から・・・先程の女が謁見の間に
侵入して来て国王の側近か、はたまたサイロンの付き人か・・・。
とにかく誰かを攻撃したのだと推察する。
ようやく最後の分岐点に辿り着き、謁見の間へと続く扉に手をかけ・・・アシュレイは
すぐさま飛び出して行った。
「・・・・・・っ!?」
アシュレイは謁見の間で何が起こったのか、すぐに視線を走らせ・・・把握する。
二人の付き人に守られる形でサイロンが身構えていた・・・。
国王の側には数人の騎士が、倒れている。
サイロン達と国王の間に・・・黒いローブの女が、静かに立ちすくんでいる光景。
「おお、アシュレイ! 遅いではないか!」
サイロンが呑気な声を上げる。
しかしそんな声に反応することもなく、アシュレイは女と・・・そして国王に注意を
払いながら、すっと剣を引き抜いた。
国王がアシュレイの姿を捉えると、ほくそ笑みながら声を上げる。
「アシュレイか、武器など構えて一体どうしたと言うのだ!?
あぁ・・・、もしかしてこの女を警戒しているのか。
この者が誰か・・・確かお前には、まだ一度も話していなかったな。
心配するな・・・、こやつはレムグランドの繁栄の為にワシに知恵を貸した賢人だ。
マナ天秤のことも・・・、アンフィニのことも・・・。
全てこやつの賢しい知恵により、我が国が栄える為・・・利用したまで。
そしてこれからも、理想の世界を現実のものとする為に・・・。」
「もういい・・・。」
アシュレイが、国王の言葉を遮る。
静かで・・・低い声が、一瞬にして広間に重たい沈黙を与えた。
それだけではない・・・。
アシュレイの言葉だけに、全員が沈黙したわけではなかった。
ガルシア国王の顔色が変わる・・・、喜々とした表情から一変。
苦悶の表情へと・・・、顔色が変わっていく・・・。
「貴様・・・っ、アシュ・・・っ!」
「・・・もういいと、そう言ったんだ。」
アシュレイは静かな口調で、もう一度告げた。
右手に力を込めた1本のレイピアが、国王の心臓を貫き・・・左手に握ったレイピアは
国王の脇腹を深く・・・突き刺している。
「がは・・・っ!」
ガルシア国王は口から血を吐き、苦しそうに浅く呼吸しながら・・・片手で自分の
心臓に突き刺さったレイピアを引き抜こうとするが、思うように力が入らない。
「親父・・・、いや・・・。
ガルシア国王よ、もはやお前の出る幕はない・・・。
もう舞台から降りてもらおうか・・・。」
そう宣言しアシュレイは、国王の体に突き刺さったレイピアに再度力を込めて・・・
更に深く突き刺した。
人間の肉に無理矢理・・・、ぐじゅっと刃を突き刺す鈍い音がする。
ずぶりと刺した感触がアシュレイの手に、鮮明に伝わった。
これは明確な謀反・・・。
仮面で素顔を覆ったアシュレイの表情は誰にも窺うことは出来ない。
しかし少しずつ国王との距離を詰め、にじり寄るその殺気は本物であった。
アシュレイに迷いなどない・・・。
例え相手が父親であろうと、アシュレイはすでに腹を決めていたのだ。
「これ以上この国が破滅の一途を辿らない為にも・・・、お前には消えてもらう。
オレはもう迷わない・・・、例え目の前にいる人物が実の父親であろうと・・・。
レムグランド国の国王であろうと・・・、眷族の手駒に成り下がった傀儡で
あろうと・・・!
レムグランドの平和の名の元に・・・、オレはお前を殺す!」
仮面越しにそう告げるアシュレイに、国王は苦痛に顔を歪めながら・・・片手で
空を薙いだ。
アシュレイの仮面を剥ぎ取りたかったのか、やがて力が抜けて・・・仮面に手が
届くことなく、ぱたりと下に落ちる。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ!
ア・・・シュレイ、お前・・・はこの父を・・・っ!
自ら血に・・・、染まるか。
そ・・・、それも・・・良いだろうっ! だが・・・忘れ、るな・・・っ。
お前の母は・・・っ、母・・・親も・・・望んだ、ことだ・・・っ!
本・・・当っ、・・・・・・ぐはっ!」
徐々に視界がぼやけ・・・、ガルシア国王の瞳に白い膜が張って行く・・・。
瞳孔が開いて、ひゅーひゅーとわずかに呼吸していた音も、やがて聞こえなくなる。
国王の呼吸が・・・、完全に止まるまで。
心臓が完全に停止するまで・・・。
アシュレイはわずかな隙も見逃さず、確実に息の根が止まるまで・・・剣に力を
込め続けた。
すぐ目の前に・・・、国王の顔がある。
うっすらと半分に開かれた瞳は、もう二度とアシュレイを捉えることはない。
ガルシア国王は・・・、死んだ。
そう確信して、アシュレイはようやく両手の力を抜く。
力を込め過ぎてじんじんと腕がしびれる、だがそのしびれすら・・・今はどうでも
よかった。
不思議と・・・、アシュレイの心は落ち着いている。
もっと動揺するかと、そう思っていた。
しかし何てことはない・・・、簡単に終わってしまった。
迷っていた時間の方が恐ろしく長く感じられる程に、あっけなく・・・。
パチパチパチパチパチ・・・ッ!
広間に響き渡る拍手・・・。
振り向くと、何をするでもなくただ傍観者を決め込んでいた黒いローブの女が
アシュレイに向けて拍手喝采を送っていた。
「貴様・・・っ、やめぬかっ!」
サイロンが非難するが、相手はディアヴォロの眷族。
そんな言葉を投げかけたところで、心を動かすようなことは有り得なかった。
「おめでとう、これで君は自由を手に入れたわ。
もう馬鹿な国王に振り回されることはない・・・、尻拭いすることもね。
ようやくこの国は、君のモノ・・・。
我が主もお喜びになるわ、ありがとう・・・新たなレムグランド国王。」
歓迎するような・・・、喜々とした声でそう告げる女にアシュレイは苛立ち
国王の心臓に突き刺さっていたレイピアを素早く抜き取ると、それを女めがけて
投げつけた!
しかし、当然ながらゆっくりとした動作でひらりとそれをかわし・・・女は笑みを
浮かべたままローブを翻すような仕草で、アシュレイをからかう。
「ふふっ・・・、短気なところは父親似のようね。
これであたしの仕事は完了したわ・・・、本当にありがとう。
それじゃ・・・またどこかで会いましょう、アシュレイ。」
「・・・待てっ! お前は一体何者だっ!?
どうして親父を操っていた、・・・何が目的なんだっ!! 答えろっ!!」
だが、アシュレイの叫びも空しく・・・女はローブをドレスのようにはためかせ、
一回転したと同時にローブだけが大理石の床に落ちて行った。
女の姿は、どこにもない。
まるでローブの中身だけ瞬間移動したかのように、女がいた場所にはローブだけが
残されていた。
サイロンが歩み寄って、ローブを拾う。
温もりも残り香も・・・まだ残っている、本人だけが煙のように消えていた。
「まだ温かいのう・・・、ということはあれは死体ではなかったと言うのか!?
顔色だけを見ればまるで死人のようであったが、・・・面妖な。」
そう呟きながら、サイロンは気遣うようにアシュレイの方を見据えた。
仮面姿のアシュレイが・・・、どんな気持ちで・・・どんな思いで立ち尽くしている
のか、サイロン達からはわからない。
ちらりと玉座に座ったまま、息絶えたガルシア国王を見て・・・サイロンはうなだれる。
「まさか・・・、最初から国王を討つつもりだったとは・・・。
やるせないのう・・・。
そうしなければ、先へ進むことが出来んかったのか・・・!?」
悩ましい表情を浮かべながら、サイロンはアシュレイに歩み寄って・・・ぽんと
優しく肩を叩く。
「じゃが、これで救われたものもある・・・。
ガルシア国王も・・・、眷族の傀儡のままではあまりに不憫じゃ・・・。
いつかは誰かが泥をかぶらねばならんかった・・・、それがアシュレイ。
お前だったとは・・・。
悲しいことじゃが・・・息子の手で逝けた方が、国王も浮かばれることじゃろう。
余から言えるのは、それだけじゃ・・・。
気の利いた言葉のひとつもかけてやれんで、・・・すまん。」
サイロンはアシュレイの肩に手を触れたまま、背中越しにそう語る。
すれ違った位置のまま、サイロンの言葉にようやくアシュレイが答えた。
「国王は・・・、不逞の輩に襲われたことにする。
この場にいた騎士は全員・・・あの女に殺されているから、目撃者はここにいる
オレ達だけだ。
王子であるオレが国王を殺したとあっては、王位を継ぐ権利を失ってしまう。
それでは三国同盟を成立させることが出来なくなってしまうからな・・・。
口止め料は・・・、ラ=ヴァース復活の成功報酬として納めよう。
・・・それでは不満か?」
「いや・・・、十分じゃ。」
サイロンが、何の迷いもなく・・・承諾した。
「前王ガルシアに代わり、正当なる王位継承者・・・アシュレイが。
三国同盟に賛同することを・・・、ここに表明する。」
仮面越しに、アシュレイが抑揚のない声で宣言した。
サイロンはそれを確かに聞き入れ、わずかに・・・悲しみを帯びた笑みをこぼす。
「まずはレムグランド・・・、三国同盟成立・・・じゃな。」
後にガルシア国王の崩御が首都全体を騒がせ・・・、
大きな話題となった。
そしてすぐさま王位継承の儀式がなされ、アシュレイはレムグランドを治める
若き国王として・・・君臨することとなる。
その報せは、遠く離れた洋館の方にも・・・遅れて報じられることとなった。