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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 4
213/302

第211話 「9ヶ月後」

 サイロンによって異世界間の道が閉ざされ、9ヵ月が過ぎた・・・。

アギトの暴走で洋館の約半分が破壊されていたが、その後すぐに建築業者が訪れて

今ではすっかり元通りとなっている。


 この9ヵ月もの間、皆それぞれ英気を養い・・・修行に取り組んでいた。

カトル、レイヴンの二人はマナコントロールの仕方などをミラから教わっていたが、

二人とも筋が良かったので現在ではミラの手から離れ、チェスの指示の元・・・戦闘

に関する訓練を軍人達と共に学んでいるところだ。


 ザナハの場合・・・初めの約2ヵ月の間は師であるミラがカトル達の修行を見て

いたので、単独でマナコントロールの修行や精霊との対話で精神を研ぎ澄ませていた。

魔術を扱う者や精霊を行使する者は、特に精神面を鍛えなければMPの消耗が激しく

なってしまうので、ザナハはそれらを中心に修行に取り組む。

ミラが戻ってからはアンフィニの力の解放に向けて、『呪歌じゅか』を学んだ。


 アンフィニの特徴として・・・無限に近いマナの絶対数などが挙げられるが、

それ以上の能力として特別視されているのが、無尽蔵なエネルギーを生み出すと

言われる『呪歌』である。

『呪歌』とはかつて創世時代に初代神子アウラが使用していたとされている、『音の

精霊ディーヴァ』を行使した・・・いわゆる精霊魔法のようなもの。

ディーヴァの存在自体、世間的にも確立されてはいないが・・・ユリアの研究では

その存在は確かなものだと信じられていた。

『呪歌』はアンフィニにしか発動させることは出来ない。

アンフィニ以外の者が『呪歌』を歌ったとしても、それはただの旋律でしかならず

何の効力も発揮しないのだ。

かつてユリアは、アンフィニだけが持つとされている『マナの宝珠』がディーヴァと

の間に干渉を生んでいると提唱していた。

今後・・・、『呪歌』は必要不可欠な能力となる。

そう判断したオルフェがミラに指示をし、アンフィニであるザナハに『呪歌』を

学ばせているのだ。


 一方アギトの方はグレイズ火山での修行が功をそうし、オルフェと共に

洋館へと戻って来たところだった。

トランスポーターで戻って来た二人は、久しぶりの爽やかな気温に安堵の息を漏らす。


「はぁ~・・・、涼し~・・・。

 やっぱここが一番過ごしやすいんだよなぁ~・・・。」


全身傷だらけ、青アザだらけのアギトが荷物を抱えて大きく深呼吸する。


「やはり相性の良い場所で修行すれば、結果も早く出ますね。

 おかげで1年以内にここへ戻って来ることが出来ました、いや~出来の悪い弟子を

 持つと色々と苦労が絶えなくて、実に楽しいですねぇ・・・。」


 トゲのある口調でそう告げると、カチンと来ているアギトの方には見向きもせずに

さっさと地下室から出て行くオルフェ。

ぶつぶつと文句を言いながら、アギトもその後について行き・・・とりあえず他の

仲間がどうしているのかが気になった。


「考えてみれば他の奴等とは殆ど会って喋ったりしてねぇんだよな~。

 マジで修行だけの毎日だったし・・・。

 まぁ、向こうにも村人とか・・・そういう奴等はいたから、オルフェと二人きりな

 状況にならなくて済んだし、それだけが不幸中の幸いってやつ?

 なんか・・・、オレって集中的に修行する時っていっつもオルフェと二人きりが

 多いような気がするんだけど、・・・気のせいだよな!?

 今回なんか半年以上は、火山地帯にいたし・・・。

 クリスマスも正月も誕生日も・・・、ぜ~~んぶ知らない間にとっくに過ぎてたし。

 オレの12才最後の思い出が、陰険メガネとの修行だなんて・・・不幸過ぎる。

 ・・・そういや、今年ってオレ達・・・めでたくも中学生になる予定なんだっけ?

 リアルタイム状態で異世界に滞在してっと、そういうのも他人事のように思えて

 くるよな・・・。

 オレは別に問題ないとして・・・、リュートのやつはもっと不幸じゃね?

 おじさんおばさん達とずっと会ってねぇし、小学校の卒業式とか中学校の入学式

 とか・・・ヴォルトの刷り込みで記念撮影とかは全部禁止させてたからな。

 思い出もクソもあったもんじゃねぇし、オレ達の十代ってマジ不幸過ぎ。

 ・・・異世界召喚モノってこんなんだったか!?

 こんなにまで現実世界を無下にしてたっけ、てゆうかなんでこんなにもリアルを

 気にして生活しなきゃいけねぇんだよ・・・こんなのファンタジーじゃねぇし。」


 アギトがそんな不満をぶつぶつと呟いていたら、洋館の外の方が何だか騒がしく

なっていることに気付き・・・ふと窓から外を眺めた。

洋館の玄関の前にはザナハが・・・、その他何人かの兵士が誰かを出迎えている様子

である。

彼等の視線の先に目をやると・・・、1台の馬車が洋館に向かって走って来てる。

アギトはもっと目を凝らし、それが何か気付いた途端・・・自分も玄関の方に

向かって大急ぎで駆けて行った。

途中、何人かのメイドや使用人に声をかけられたが適当に挨拶して・・・一目散に

外へ出て行く。

玄関をバァーンと思い切り開け放すと、ちょうど馬車が目の前で停まって・・・

手綱を握っているジャックが笑顔でみんなに挨拶していた。


「よう、みんな久しぶりだなぁ!」


 相変わらず野性味溢れる外見で、豪快なところは9ヵ月前とちっとも変わって

いなかった。

しかし気のせいか・・・、体の数ヵ所に以前よりも傷痕が増えているように見える。


「ジャック、すっげー久しぶりじゃん!」


 アギトが大声で声をかけると、勢いよく玄関の扉を開け放したにも関わらず誰一人

として気付かれていなかったのか・・・今になって全員振り向いた。


「アギト・・・、あんたこそいつの間に戻って来てたのよっ!?」


驚いた顔でザナハが声をかける。


「今さっきだよ、ンなことよりも・・・ジャック!

 リュートはどこにいんだよ、まさか食料調達に来ただけでリュートはまだ

 ジャックん家とか言わないよな!?」


 アギトが急かすように馬車の側まで歩み寄ると、客車の扉が開いて懐かしい声が

聞こえて来た。


「僕もちゃんと戻ってるよ、アギト!」


 全員が注目する。

9ヵ月・・・、口にすれば何でもない響きだが・・・それがどれだけ長かったか。

思い返せば光の塔へ行く前から、リュートは秘奥義伝授の為にパーティーから

ずっと抜けていた。

厳密にいえば9ヵ月なんてものじゃない・・・、リュートとはそれだけ長い間

会っていなかったのだ。

客車のステップから一歩・・・、また一歩。

リュートが降りて来て久しぶりにみんなと対面する。


「・・・・・・あ。」


 感動の再会にしては、静かなものであった。

声をかけるでもなく・・・ハイタッチするでもなく、全員リュートの変わりように

すっかり言葉を失っている様子だ。

少年らしいショートカットだった髪型は、すっかり肩の辺りまで伸びている。

身長も気のせいか少しだけ伸びたように見え、体つきも以前のような痩躯そうく

体格ではなく・・・多少筋肉がついて、たくましくなっていた。

ジャックと同様に生傷の絶えない修行だったせいか、全身にうっすらと傷の痕が

残っている。

リュートのお決まりの半ズボンルックも卒業したのか、今ではジャックのような

野性児ルック・・・何かの魔物の毛皮らしきジャケットに、丈夫な素材で出来た

少しサイズが大きく感じられるズボン、腰のベルトには短剣と中サイズの細身剣。

リュートが着こなせば野生児ルックと言うよりも、ハンタールックに近い。

そして顔つきも・・・、明らかに今までのリュートとは異なっていた。

典型的な草食系でどこかビクビクとしていた自信なさ気な雰囲気から一変。

優しげな表情は変わらないが、瞳に宿る自信が・・・リュートの雰囲気を一気に

変えていた。

唖然としている一同に、リュートは少し戸惑いながらも遠慮気味に声をかける。


「な・・・、なんだよみんなして!?

 僕どこか変だったかな、・・・そこまで絶句することもないんじゃない!?」


喋り方は相変わらずだったのでみんな少しだけほっとした・・・、無理もないが。


「お前・・・、全っ然別人じゃん!

 一瞬誰かと思ったぜ、まるで2年後のヘイみたいじゃねぇか・・・!」


「・・・アギトも相変わらずだね、意味がよくわからない例え話するの。」


 手痛いツッコミと思いきや、それが二人の会話なのか・・・お互いにっこりと

微笑んで、ハイタッチを交わす。

それから強く握手して・・・、互いの再会を心から喜んでいた。

二人の様子を馬車の御者台から眺めながら、ジャックは微笑ましい顔で見守る。

アギトとの再会の挨拶を終えると、ようやくリュートはザナハ達に向かって挨拶した。


「随分遅くなってしまって、すみませんでした。

 それから・・・ザナハ、久しぶりだね・・・。」


 リュートはにっこりと微笑み、アギトの時と同じ調子で再会を喜ぶ為にザナハに

向かって握手を求めた。

しかし・・・リュートの手は宙に浮いたまま、奇妙な沈黙が流れる。


「えっと・・・あの、・・・ザナハ?」


 リュートが再度ザナハに話しかけたら、まるで今気が付いたみたいにザナハは

ハッと我に返ると・・・差し出されているリュートの左手を見て、慌てて握手した。


「あ・・・、あぁ・・・ごめんリュート!」


 それだけ口にするとザナハは、すぐさま握手を終えようとするように手を離した。

随分と落ち着きのない態度に・・・、リュートは首を傾げていた。


「修行・・・、大変だったでしょ!?

 疲れも溜まってるだろうから、今日はもうゆっくり休んだら!?

 そうね・・・、そうした方がいいかも!

 あたしメイドにお風呂と食事の準備をしてくるように、言ってくるわね!」


 誤魔化すように変な笑い方をしながら、ザナハはそのまま慌てて洋館の中へと

入って行ってしまった。

後に残された者達は唖然としたまま・・・、呆然と立ち尽くしている。


「ま・・・、とりあえずザナハの言う通り今日はもうゆっくり休んで来たら

 どうだ?

 アギト、お前もその様子じゃ・・・修行から戻ったばかりなんだろ!?

 二人とも久々なんだ、積もる話もあるだろうし・・・遠慮すんな。」


 ジャックが優しくそう促すと、アギトとリュートはその言葉に甘えて二人一緒に

洋館の中へと入って行った。

そんな二人の背中を見送ると、ジャックは馬車を兵士に預けて・・・手荷物を持って

自分も洋館へ入ろうとした時に、オルフェとばったり遭遇する。


「よう、オルフェ! 修行から戻ったぜ。」


「そのようですね、間に合ってよかったです。」


一言だけそう交わして、ジャックはすぐさま・・・笑顔のまま本題に入った。


「・・・その様子だと、また良からぬことを企んでいるんじゃないか?」


「何の話です?」


まるで牽制けんせいし合うように・・・、二人はお互い作り笑いを保ちながら睨みあった。


「・・・ここでは何です、疲れが溜まっていないようなら・・・私の執務室に

 来てください。

 大事な話がありますので。」


「そうそう・・・、最初からそうやって素直に接してくれりゃオレも気を使わずに

 済むってモンだよ。」


乾いた笑いを漏らしながら、オルフェはジャックを執務室まで連れて行った。




 長く厳しい集中的な修行が一段落し・・・、皆それぞれの思いを胸に安息の日々を

過ごす。

誰もがこの一時ひとときを永遠のものだと思うだろう。

しかし世界のほころびは今もなお加速を増し、彼等のすぐ側まで手を伸ばして来ている。

残酷な運命は彼等の周囲を静かに、音もなく近付き・・・機を窺っている。


 アギト達は、まだ知らない。

深い悲しみがすぐそこまで来ていることを・・・。

思いもよらない裏切りが、待ち構えていることを・・・。


 今はただ静かに、何も知らずに・・・友との日々を過ごす。

この一時が・・・少しでも長く続きますように。



ただ、それだけを・・・強く願う。

  





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