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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 4
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第208話 「アギトの修行~隠された能力~」

 アギトは突然現れた『トルディス閣下』と呼ばれるよぼよぼの老人から、まずは

剣で自分に攻撃を仕掛けてみろと言われた。

ファーストコンタクトの時点ならば、そんなことをしてぽっくり逝かれたら困るので

断っていたところだが・・・トルディスの並外れた身体能力を目の当たりにした今と

なっては、そんな不安も消え失せる。

確かに多少の戸惑いはあった、アギトはチェス達に視線で訴えかけてみたが彼らは

バツの悪そうな表情を浮かべながら・・・ただ言われた通りにしろと、そう頷くだけだ。

仕方なしにアギトは片刃の剣を構え、再度確認する。


「あのさ・・・、本気で行くけど本当にいいんだな!?

 1撃目でいきなりぐっさり行って、大惨事! ってのだけはマジ勘弁だかんな!?」


トルディスは杖1本で絶妙なバランスを取って、全体的にふらふらしながら答える。


「ほっほっほっ・・・、まぁどうなるか試してみぃ・・・。」


(いやだから・・・、その『どうなるか』で最悪の事態になったらどうすんだって

 聞いてんじゃねぇかこのクソジジイ・・・っ!)


 しかし老人のこの余裕を見て、もしかしたら本当にアギトの全ての攻撃を紙一重で

全て避けるとか・・・そういった芸当を顔色一つ変えずにこなすかもしれない。

そんな風に予想し、アギトは剣の柄を強く握り締めるとゴーサインの合図も待たずに

勢いよく振りかぶった!


「でぇぇいやぁーーーっ!!」


 まずはトルディスの腹めがけて・・・、しかし避けられるという想定をしていたので

次なる攻撃を流れるような動きで繰り出せるように配慮していた。

きっとそのせいで、攻撃にそれ程威力が入ってなかったのだ・・・そうに違いない。


「・・・・・・げっ!?」


 トルディスは避けなかった。

剣の刃先は見事、トルディスの腹部分に直撃・・・しているはずだがアギトは奇妙な

感触に、完全に動きが止まってしまっている。

勢いよく繰り出した攻撃なら、・・・本当ならこのまま刃先が腹に突き刺さるはずだ。

今まで戦ってきた魔物ならば何の例外もなく、みんなそうなっている。

しかしぐいぐいと剣を押し込もうとしても剣の刃先は、まるで硬い鉄板に突き刺そうと

しているような感触で・・・逆に剣の方が刃こぼれしそうな感じだった。

どうなっているのかわからないアギトは一旦老人から引いて、剣の刃先を確認する。

刃こぼれこそしてないものの、指先でそっと触れると・・・特に切れ味が落ちている

わけでもなかった。

怪訝な顔でアギトが不思議に思っていると、老人がしょぼしょぼした口調で笑いだす。


「不思議かの? じゃがそれがお前さんの今の現実・・・。」


「は!? 言ってる意味がわかんねぇんだけど・・・。」


「ワシはお前さんの攻撃の流れを読み、どこを狙っているのか最初からわかっていた。

 じゃからワシはほぼ全てのマナをお前さんが攻撃しようとしている腹に集中的に

 マナを練り上げ、防御力を高めた・・・。

 お前さんはワシが練り上げた防御を超える程のマナを、剣に込めておらん。

 故に・・・、お前さんの攻撃はワシに何のダメージも与えられんかったという

 ことなのじゃよ・・・。」


 トルディスの説明に、アギトは以前オルフェやジャックから教わったことを

思い出す。

確かに今と同じような説明を、師匠達から聞いたことはあった・・・。

しかしあの時はマナコントロールの制御に精一杯で、自由自在に操ることが

出来なかった。

アギトの中では、あれからずっとマナコントロールの修行を欠かさなかったので

以前よりはマシになっている・・・そのつもりだ。


「でも・・・っ、それじゃ体内のマナを集中的に剣に込めれば・・・オレの

 攻撃は届いてたって言うのかよ!?

 今はジジイと1対1だったけど、本来は多数を相手にする修行なんだぜ!?

 オレが目標に向かって殆どのマナを剣に込めたら、それ以外は隙だらけに

 なっちまう。

 そんな時にもし後ろから攻撃を受けたら、マナがガラ空きで手痛いダメージを

 食らっちゃうじゃん!」


アギトの反論に、トルディスは首を振り・・・白い髭が左右に揺れた。


「マナコントロールの理屈で言えばそうなるが、今ワシが教えたいのはそこ

 じゃないのう・・・。

 問題はお前さんの攻撃が、一直線過ぎるところにあるのじゃ・・・。

 動きを先読みされれば当然・・・、相手はどこにマナを配分すれば良いのか。

 そういった判断材料を与えてしまうことになる・・・。

 敵が一人であっても、多数であっても同じことじゃ。

 自分の攻撃の流れを読まれてしもうたら、相手を優位にさせてしまうだけ。

 その逆も然りじゃ・・・。

 相手の動きを読み取り、何を考え・・・どう動こうとしておるのか。

 それを見るのじゃ・・・、感じるのじゃ・・・!

 戦いの流れを掴むことが出来て初めて、己の技量が活かされて来る!」


 指導に熱が入っているせいか・・・今にも入れ歯が飛び出しそうな危うい喋り方で

説明するトルディスに対し、アギトは笑いを必死で堪えながら懸命に言葉の意味を

理解しようとしていた。

しかし『流れを読む』という行為・・・。

ネットゲームなら特に苦もなく掴めるのだが・・・、レムグランドに来て実戦をして

来て・・・それが如何に自分に向いていない技術だったか十分に思い知っていた。

そんなアギトの考えすらも読んでいるのか、トルディスが再びふがふが言いながら

話し出す。


「戦いとはすなわち、心・技・体。

 マナコントロールを磨き、術技を繰り出す『技』・・・。

 体力作りをすることで、己の肉体を磨く『体』・・・。

 これらはグリオから教わることで、それなりの基礎は出来ておるようじゃがの。

 最も大切なものが、今のお前さんには欠けておる・・・。

 それは・・・、『心』を磨くことじゃ。

 『心』を磨くことで空気の流れを読み取り、相手の動きを読み取り、マナの流れすら

 読み取る高等技術・・・。

 それを極めることが出来れば、敵の数など問題ではない・・・。

 掴み取った流れに身を委ねることで、自然と己の動きさえ掴めて来るようになる。」


「難しい。」


即座に回答した。


「そういううんちくなら、すでに色んなマンガで読みまくった。

 どうやったらその流れを掴めんのか、『心』を磨けるのか・・・そのやり方を

 教えてくれよ!」


「あほーーーーーっっ!!」


ばっきぃーーっ!!


 チェスとグスタフの鉄拳が、アギトの後頭部を再び直撃。

その流れを読み取ることが出来なかったアギトは、そのまま前のめりに突っ伏した。

ぐしゃっと潰れるアギトの胸ぐらを掴み、普段は温厚なグスタフが少しキレ気味に

アギトに説教する。


「トルディス閣下に何て暴言をっ!

 あの方はなぁ、レムグランド軍を統括する総統閣下なんだぞっ!!」


「だったら何でそんなお偉いさんが、こんなトコにいんだよオカシイだろうがっ!」


たまらずアギトも反論した。


「ほっほっほっ・・・、まぁまぁお前達・・・。

 確かにワシは軍を統括する立場におったが、それも今や昔の話。

 今はとっくに軍を退役して、のらりくらりと隠居生活を送るただのジジイじゃ。

 そうかしこまる必要もないぞ・・・。」


「し・・・、しかし・・・っ!」


 ぐしゃ・・・。

口ごもるグスタフがアギトの胸ぐらを離すと、アギトは床に後頭部を打ちつけた。

引っくり返ったままの状態でアギトはトルディスを見上げながら、悪態をつく。


「隠居ジジイが何で軍服来て、こんな田舎に来てんだよ・・・。」


 げし・・・。

チェスがアギトの顔面を踏みつけ、今言った言葉を聞き逃すような素振りをして

誤魔化した。


「そ・・・それはそうと・・・オレ達は閣下が退役したなんて話、聞いていません。

 ご冗談はやめてくださいよ。」


「あ~・・・、ここはアギオが言ったように片田舎にあるからのう。

 ワシが退役した話が届いておらんだけじゃろう。

 ともかく、ワシは退役して自由の身になったということでの・・・。

 退役直前にグリオに手紙を送ってなぁ、退役後・・・ここでしばらく遊びたいと

 頼んだんじゃ。

 ちょうど光の戦士が滞在しているという話も聞いておって、見てみたくなっての。」


「は・・・はぁ、そうですか。」


 納得いったようないかないような、そんな曖昧な反応でチェスとグスタフが生返事

していると・・・アギトは起き上がって、もう一度トルディスに詰め寄った。


「元・総統閣下でもただの隠居生活満喫ライフじじいでも、何でもいいよ。

 とにかくその『流れ』ってやつの掴み方、早いとこ伝授してくれって!!

 オルフェが戻って来る前に100人斬り達成して、あいつの鼻っ柱をへし折って

 やりてぇんだよ!

 ぜってぇあの陰険メガネの思い通りになんてさせてやるかってんだっ!!」


ガッツポーズを取りながら、アギトは燃えたぎるような眼差しで懇願した。


「なかなか元気があっていいのう、じゃが・・・グリオからも聞いておるが。

 お前さん・・・、気の流れや精神集中といった繊細な技術に関しては全く

 センスがないという話じゃのう!?」


「ぐ・・・っ、あいつ・・・ンなことまで喋ってんのかよ・・・っ!」


恥をかかされたアギトは、顔を真っ赤にしながら屈辱に耐えていた。


(じゃが・・・、グリオはこうも言っておった・・・。

 火の精霊イフリートと戦っていた時、友の死を目の当たりにしたアギオに

 変化が起きた・・・とな。

 まるで今までとは全くの別人のように、体内に眠っていたマナを揺り起こし・・・

 それを爆発的に覚醒させてイフリートを圧倒させたと・・・。


 恐らくこやつはトランスタイプ・・・、変性意識状態となって無意識に悟りを開くと

 いった最も厄介なタイプのようじゃ。

 この手の奴は、自らが精神的・肉体的に極限状態まで追い込まれなければ、本来の

 自分の能力を最大限に引き出すことが出来ないという欠点がある。

 じゃが一度トランス状態に持ち込むことが出来れば・・・、それは宇宙との一体感とも

 言える究極の悟りを開くことが可能となる・・・。

 全知全能に近い程の鋭い感覚が身につき、常人では引き出すことが出来ない能力を

 ほぼ100%に近い状態で覚醒させてしまう。

 当然・・・、そのリスクは大きいがのう・・・。


 本来人間の体というものは肉体的・精神的な負荷を抑える為に、殆どの能力を

 眠らせた状態にしている。

 それらを修行やマナコントロールといったもので、自在に引き出せるようにし・・・

 初めて『心』をマスターすることになるのじゃが・・・。

 トランスタイプの場合、それらを全て覆してしまう。

 一度トランス状態に陥ってしまえば、本人の意志とは関係なく・・・持てる限りの

 能力を100%覚醒させてしまうという危険が伴う。

 己の限界を考慮せず、恍惚状態で力を解放してしまい・・・命の危険に繋がる

 可能性さえ出てしまうからのう・・・。


 まさにアギオは、典型的なトランスタイプ。

 ほっほっほっ・・・、あのグリオがワシの手を借りようとしたのも頷けるわい。

 ようするにグリオのやつ・・・、アギオに緻密なマナコントロールの仕方を教える

 のではなく・・・自在にトランス状態に持ち込む術を身に付けさせようと。

 そういった魂胆でワシを指名してきよったんじゃな・・・!?

 全く・・・、食えん性格をしているのは変わっておらんのう・・・。

 ワシの好奇心を刺激し、見事ワシすら利用するか・・・グリオのやつめ。)


 にやりと笑みを浮かべるトルディスの顔は、久々に眠っていた野心が目覚めたような

そんな小さな炎が瞳の奥に映っていた。


「アギオよ・・・、お前さんの場合は口で説明するより体で覚える。

 そういうタイプじゃと、グリオから聞いておるぞ!?

 ならば今ここで長々と説明したところで、お前さんに理解出来るはずもない。

 全員、武器を構えぃっ!!

 アギオには望み通り・・・、グリオが戻るまでみっちりと100人斬りの中で 

 『気の流れ』というものを教えてやるぞ・・・っ!」


「えっ、いやちょっとタンマっっ!?

 オレはやり方を教えてほしいだけであって、集団リンチの中で教えてほしいとは

 一言も・・・、って・・・おわぁっ!!」


 誤解を解こうと喋っている矢先に、後方から兵士が斧で攻撃を仕掛けてきたところを

寸での所で回避したアギト。

それから次々と兵士達は剣で、槍で、銃で・・・見事な連携の中でアギトを集中的に

攻撃してくる。


「ほれほれ喋っておる暇があるのか!? もっと全身を研ぎ澄ませぃっ!

 目で見るだけではなく、感じるのじゃ・・・さすれば自ずと流れが掴めて来る!」


「そんな台詞は耳タコだっつのっ!!

 感じるも何も・・・、うぉおっ!! 避けるので精一杯だって・・・のわぁっ!!

 ・・・いでっ、誰だ大事なアンテナ引っ張ったヤツっ!!」


「混乱するでないわっ、集中せんかっ!

 余計なことは考えるな、目の前のことで頭を一杯にするんじゃ!

 五感全てを研ぎ澄まし・・・、六感で流れを掴む!

 これこそが『心』の心得、入門編じゃぞ!?」



 こうして、トルディスによるスパルタ教育は幕を開けた。

殆ど休憩を取らせず、何時間にも渡って繰り広げられた集団戦闘の中・・・。

アギトが意識を失って倒れるまで、攻撃の手を緩めることを許さなかった。



数日後・・・、憂いを帯びた表情をしたオルフェが・・・首都から戻って来た。

 


 


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