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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 4
206/302

第204話 「オルフェからの宿題」

 アギト達がヴォルトで操った機械人形で、長い螺旋階段を駆け降りている途中に

あることを思い出し・・・停止した。

オルフェから言われた言葉で、アギトはすっかり記憶の彼方に消え去っていた大司祭の

言葉を思い出す。


「あ~・・・、そういえば光の塔の出入り口は中から開けることが出来ないとか

 なんとか言ってたな・・・。

 すっかり忘れてたわ。」


 とりあえず途中に点々と存在する小窓を見つけ、そこから外で見張りをしている

僧侶に合図を送る。

上からその様子を窺っていたら、僧侶が手を振るアギト達を見つけ・・・それから

すぐさま扉の鍵を持っている大司祭を呼びに行っているように見えた。

それなりに高い場所から手を振っていたにも関わらず、ここの僧侶はよっぽど視力が

良いのか・・・双眼鏡もなしに塔の小窓から身を乗り出すアギトを見つけたのは

称賛に値する。

大司祭を連れて来た所を確認していないが、ともかく上から状況を見た限りでは

大丈夫そうだったのでアギト達は再び機械人形に乗り込んで螺旋階段を駆け降りた。


 徒歩で上っていた時は何時間もかかっていたのに、機械人形を使えばその半分以下の

時間で出入り口まで戻って来れた。

ヴォルトで機械人形を操れることをすぐさま実行しなかったアギトに対して、ミラや

ザナハが激怒した理由を・・・今頃痛感する。

がっしょんと音を立てて扉の前に到着すると、扉はまだ開いていなかった。

少しだけ嫌な予感がしつつ、アギトが扉の前に立って・・・開けるように大声を

張り上げると、中から声をかけるまで待っていたようですぐさま扉が開かれる。

にこにこと営業スマイルのような笑顔を浮かべて立っている大司祭を見つけ、少しだけ

鳥肌が立った。

何でそんなに嬉しそうなのか? こんなにまで喜んでいるのか・・・。

しかしその理由は、大司祭がザナハに対して恭しく崇めている場面を目撃してすぐに

わかることとなった。


「これはこれはザナハ姫様・・・、光の精霊ルナ様とのご契約・・・。

 成功されましたでしょうか!?

 ルナ様を信仰する我々は、契約された神子姫様に対し・・・並々ならぬ忠誠心を。」


「契約してないわ。」


 あっさりとザナハが否定する。

その言葉を聞いて、大司祭と背後にずらりと並んでいる僧侶達が一斉に目を点にさせた。


「・・・・・・はい?」


飲み込みの悪い大司祭に対して、ザナハが不服そうな面持ちで再度通告する。


「だから、ルナと契約は交わしていないの。

 そんなことよりもあなた達、この光の塔にあたし達以外の人物もあっさりと

 通したみたいだけど・・・一体どういうつもりで通したのかしら!?」


 どうやらザナハは、ルイドやサイロンがいとも簡単に光の塔の内部に侵入したことを

追及しているようだ。

この塔に入るには大司祭が持っている音叉の形をした鍵を使わなければ、入ることすら

敵わない。

それを龍神族ならともかく、その時点ではまだ敵と断定していたはずのルイド達まで

通したことは大きな問題である。

すると大司祭はバツの悪い顔色になり、弁解するように言い訳をした。

もはやそこには、威厳も何も感じられない。


「申し訳ありませんでした神子姫様・・・、我々も抵抗したのですが・・・なにぶん

 結界に守られしこの聖地では魔物に対抗できる屈強な戦士がおりませんので。

 大きな魔物で脅迫され・・・、為す術もなかったのです。

 しかしこの塔の内部には侵入者対策が施してあったので、・・・それに頼る他

 なかったと申しましょうか・・・。

 ・・・お許しください、神子姫様!!」


 そう弁明すると、大司祭は深々と謝罪の意を込めて辞儀をする。

だが本当の所・・・、別にザナハにとってそんなことはどうでもよかった。

実際には二人が乱入したことによって事態が大きく変わることになったのだから。

より平和を目指した形として・・・。


「わかったわ、そのことはもういいから・・・頭を上げなさい。

 そんなことより契約のことよね、それは今から説明するから・・・。」


「姫様、それは私がここに残ってご説明いたしましょう。

 それよりも若君の演説を聞いた陛下達のことが気になりますので・・・。

 大佐達は先に洋館へ戻っていてください。」


 ミラが先を見越してそう告げると、異論なくオルフェが頷き・・・ミラに後のことを

任せて、アギト達はトランスポーターが設置されている大聖堂の方へと急いで歩を進めた。

慌ただしい様子に、大司祭たちはぽかんとしたまま・・・何も追及することが

出来なかった。




何の問題もなく大聖堂から洋館のトランスポーターへと移動し、帰って来た。


「さて、皆さん疲れたでしょう。

 とりあえずアギトとザナハ姫はこのまま指示が出るまで休息を取っていてください。

 ドルチェ、君は現状をジャック達に報告して来てください。

 今頃修行の真っ最中と思われますが、ドルチェなら問題ないでしょう。

 私は首都の様子が気になりますのでこのままシャングリラへ向かいます。」


 オルフェの言葉に、アギトは大声を張り上げる。

その口調はワガママを言う子供のようだった。


「え~~~~っ!?

 オルフェが首都に行っちまったら、当分の間帰って来れねぇじゃんかっ!!

 その間オレはここで何をしてろって言うんだよ、約束が違うじゃんっ!!」


 いつもならオルフェ不在を手放しで喜ぶはずのアギトが、別れを惜しむ!?

その不可解な行動の裏に何かが隠されていると踏んだザナハが、疑念に満ちた

眼差しで口を挟んだ。


「オルフェと一緒にいたい、なんて・・・。

 あんたにしては随分な甘えっぷりじゃない!?

 一体どういう風の吹き回しなのかしら、もしかしてあの時の内緒話と何か

 関係があったりして・・・。」


図星を突かれた・・・という、そのまんまのリアクションでアギトがたじろぐ。


「な・・・っ、何の話だよ!?

 オレとオルフェは密接な師弟関係だぜ!? 

 一緒にいたいって言うのは・・・、当然の反応じゃね!?」


「・・・怪しい。」


 アギトの態度にますます怪しさを感じたザナハが詰め寄り、その後ろでオルフェが

頭を抱えながら溜め息交じりに答えた。


「アギト・・・、そんなあからさまな反応をしては自分からバラしているような

 ものですよ?

 それに、別に隠す必要なんてないですし・・・。

 言って差し上げたらいいじゃありませんか、リュートのマネをして自分も秘奥義を

 伝授してもらえるようになったんだと・・・。」


「あーーーーっ!! あーーーーーーっ!!」


 両手を大袈裟に振ってオルフェを制止しようとするが、後の祭りだった。

今の言葉をバッチリ聞いたザナハが、きょとんとした顔で納得する。


「あ、なんだ・・・そういうこと。

 そういえばあんた、ジャックから秘奥義を伝授してもらうリュートのことをすごく

 羨ましがってたもんね。

 ようするに・・・、空白の1年間を我慢する代わりにオルフェから秘奥義を伝授

 してもらう約束をこぎつけたと・・・、そういうわけ!?

 だったら別にオルフェの言う通り、隠す必要なんてないじゃない。」


「え・・・、何? ノーリアクション!?」


「なんで否定しなきゃなんないの、わけわかんない。」


「いやだから・・・、お前のことだから『リュートのマネなんかしてバッカじゃ

 な~~い!?』とか・・・、『あんたに秘奥義なんて10万年早いわよう!』とか。

 そんな感じでからかったりとか、してくるかと・・・。」


「あんた・・・、あたしのことをそういう目で見ていたわけね。

 戦士が強くなる分には全然何も問題ないじゃない、それにリュートのマネだなんて

 思わないわよ。

 結局いつかはそこに辿り着くわけなんだし・・・。」


 ザナハの肩すかしな反応に、必死で隠そうとした自分が馬鹿みたいに思えて・・・

アギトは一気に疲労が溜まった気がした。


「さて、もうよろしいですか?

 私は先を急いでいますので、ここで一旦解散としましょう。」


オルフェの言葉に、全員が頷く。


「わかったわ、それじゃあたしはミラが戻るまで自主トレでもしとく。

 1年後・・・どのみちルナとの契約は控えているんだし、試練に耐えられるだけの

 力を更に身につけておく必要があるもの。」


 ザナハはこれまでとは比べ物にならない位に前向きになり、張りのある声で

自分に目標を課した。

もしかしたらルナと契約を交わす日は、1年後じゃないかもしれない。

それまでに・・・、少しでも自分を磨けるようにと・・・ザナハは気合を入れ直す。

反対にアギトは自分自身が熱血になる分には問題ないが、自分以外の人間が妙に

熱のこもった台詞を放つと・・・どうにもやる気を殺がれるような気分になって

逆に熱が冷めてしまっていた。


「そんじゃま、オレはオルフェが戻るまでの間・・・ぼちぼちマナコンでも

 しとくかな。

 イフリートもあともう少しで精神世界面アストラル・サイドに追いやれそうな

 感じだし・・・。」


「マナコントロールも大切ですが、アギト・・・。

 一度うちの兵士とやらかしてみなさい。」


「・・・は? やらかすって・・・、何を!?」


 いつも放置プレイなオルフェから、意外なアドバイスが飛び出して来てアギトは

虚を突かれる。


「チェスに指示しておきますから、うちの兵士100人対アギトで・・・。

 見事100人斬りを達成してみなさい。」


ぼ~~~ん・・・と、アギトの脳裏にとあるRPGのシステムが浮かんできた。


「それはつまり・・・、オルフェの部下100人を相手にオレ一人で制限時間内に

 ばったばったと倒していくという・・・?」


「よく知ってましたね、まさにその通りです。

 まぁ制限時間というより・・・、何分かかるか・・・ですけど。

 そうですね、私が首都から戻るまでに・・・100人斬り30分以内を達成すれば

 すぐにでも秘奥義伝授に入って差し上げますよ。」


30分という言葉に、アギトはにんまりとしながら・・・突然やる気が出て来た。


「本っ当だな、約束だぞっ!?」


「えぇ、勿論。 達成出来れば・・・ですけど。」


 テンションの上がったアギトは・・・。

目の前に美味しそうな餌を吊るされた途端に、アギトはオルフェの言い回しに気付く

ことなくさっさと部屋から出て行くと・・・100人斬りに向けて準備をしに行った

様子だった。

そんなアギトの勇んだ後ろ姿を見送ったザナハとドルチェが、静かな口調で確認する。


「オルフェの部下・・・、ということはチェスやグスタフも入ってるわけ?」


「えぇ、勿論・・・当然です。」


ザナハの問いに、オルフェは悪意を含んだように・・・メガネが怪しく光った。


「大佐直属の部下の基本条件、レベル60以上・・・。

 皆それぞれ武器の扱いや魔法に特化した能力を有し、その連携プレイは首都の

 騎士団すら軽く圧倒する。」


ドルチェが無感情な口調で特徴を口にした。


「あいつ・・・、死んだわね。」


「では、私は今から首都へ行ってきます。

 ザナハ姫、アギトが死なない程度に軽く回復魔法やら蘇生魔法やらかけてあげて 

 ください。」


「あーーーっ、ちょっと待ってよ! あたしまで巻き込まないでくれるっ!?

 待ってって・・・!! もう、オルフェったらぁーーーっ!!」


 ザナハの叫びもむなしくフロア中に響くだけで・・・、オルフェは無責任な

高笑いを上げながらさっさと一人で出て行ってしまった。




 それから・・・、オルフェは数人の部下を連れて首都シャングリラへと向かった。

ドルチェはオルフェからの指示通り、一人でジャックの家へと・・・。

サイロンの策によってアビス軍が撤退するという事情を聞いた洋館の兵士達は、

オルフェからの命令により訓練場に集まっていよいよ100人斬りが行なわれ

ようとしていた!


 その数分後・・・、コモドドラゴンをくびり殺したような醜い悲鳴が洋館中に

こだましたのは言うまでもない。



 


 200話越えを達成しました。

ここまで読んでくださった読者様、ありがとうございます。

年内完結出来るように頑張りますのでよろしくお願いいたします。


感想や一言など、心待ちにしております。

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