第202話 「各国の反応」
出せる力を全て出し切った・・・。
そんな達成感に満ちた表情でサイロンが、シグナルゲートの魔法陣からゆっくりと
歩いて出て行く。
ふっ・・・と、自分なりにさわやかな笑みを浮かべているような気分で、最前列の
立ち見客に向かってにっこりと微笑んで片手を振った直後・・・。
「やっぱお前はトンデモ野郎だ、このヤローーーッッ!!」
ばっきぃーーっ!!
突然アギトから意味不明な頭突きタックルを食らって、のけぞるサイロン。
いきなりな挨拶にサイロンは何が起こったのかいまいち理解出来ておらず、げほっと
咳き込みながら首を傾げる。
馬鹿なだけあって、体は随分と頑丈に出来ているようだ。
「なんじゃ突然!? 何をそんなに怒っておる!?
・・・と言うか、次期族長に向かって頭突きタックルとは何と無礼な奴じゃ!」
サイロンの言葉はあっさり無視し、アギトはわなわなと拳を握りしめながら
怒鳴り散らす。
「・・・何か最初らへんの台詞とかは、さり気にイイこと言ってっから不覚にも
感動しちゃったりなんかしちまってたけど、・・・何? 一年って何?
一年間放置プレイって一体何なんだよ?
そんなの、ただ単に問題を先送りしてるだけじゃね!?
一年間放ったらかしにしてる間、オレ達はどうしろっつーんだよ。
同盟に賛同しなきゃこのままルナとの契約も出来ないってことだろ!?
まぁ、マナ天秤を勝手に動かす必要とかがなくなった分・・・危険はだいぶ減ってる
かもしんねぇけど、これで一体何が解決するってんだよ!?」
がす・・・っ。
アギトの脳天に、オルフェのチョップが入る。
「はい、そこまで。」
軽く入れたように見えたが、実はかなりのマナを練っていたのか・・・アギトは
激痛で悶え苦しんでいる。
「君が介入すると話は脱線する一方です、詳しいことは私達で論議しますから・・・。
そこで大人しく話を聞いていなさい。」
侮蔑をこめたような眼差しで一喝すると、オルフェはそのままサイロンの方に
向き直って話をまとめようとした。
「・・・今の話が各国に渡った、というわけなんですよね?
『三国同盟』に『ラ=ヴァース復活』ですか、・・・よく龍神族の元老院が納得
しましたね・・・。」
溜め息交じりにそう呟くと、サイロンは痛む腹をさすりながら・・・けろっとした
顔で言葉を返す。
「ジジイ共の了承など得ておらん、全て余の独断じゃ。」
『・・・・・・・・・え!?』
オルフェとルイド以外が・・・、顔を引きつらせながら硬直した。
(・・・やっぱりですか。)
頭を片手で押さえながら、オルフェは頭痛がしそうなのを堪える。
ルイドすら半ば呆れた表情になり、左手で首筋をさすりながら尋ねた。
「それじゃ、まさか・・・とは思うが。
パイロンの喪中は今も真っ最中で行なわれている、ということか?
お前、喪主だろう・・・。
一体どうやって里を抜け出して来たんだ・・・。」
ルイドの問いに、サイロンは扇子を広げてびしぃっと突き出しながら威風堂々と
答える。
「うむ、本格的な葬儀は既に終わっておるからのう。
喪主&近しい親族は自室に籠もらなければならんのじゃが、そこが老人共の
盲点となるところじゃ!
最初にも言ったであろう、余の影武者にイフォンを置き・・・更にその護衛として
ハルヒをつけておると。
里の者はまさか余がレムグランドに行っておろうとは、夢にも思わんじゃろうて!」
サイロンが自信満々に明かすが、ミラはその言葉に疑問を感じて・・・怪訝な顔に
なりながら問う。
「あの・・・、今のスピーチは三国同時に流れたんですよね?
でしたら若君が今レムグランドに来ていることは、今頃里に知れ渡っているという
ことになりませんか?
・・・影武者となっている彼等は、大丈夫なんでしょうか。」
「元老院の中には強硬派もいるからな、袋叩きにされて牢獄に入れられている・・・
という可能性も、否定出来ないだろう。」
ミラの言葉に、ルイドが冷静な口調でイフォン達の行く末を推測した。
アギトの介入なしでも見事に話が脱線している状況を見て、オルフェは呆れた顔に
なりつつも・・・他の国の王達の反応が気になっているところである。
< 龍神族の里 首都ヒルゼン 元老院の間にて >
『異界の鏡』により映し出されたサイロンの姿、そして演説を聞き終わって・・・。
元老院の間に至急集められた里の権力者達は、当然動揺を隠せなかった。
「なんということじゃ・・・、あのような暴挙に出るなどっ!
里始まって以来の珍事じゃ!」
「パイロン様の喪中にあんな真似を・・・っ、これはただでは済みますまい。」
「馬鹿だ馬鹿だと思っておったが・・・、まさかここまで馬鹿だったとはっ!
嘆かわしいことじゃ・・・。」
「何を言っておる、面白いではないか!」
「いつかやらかすと思っておったわい、あっはっはっはっはっ!!」
「笑い事では済まされませんぞ、これをどう処理するおつもりじゃ!?
今の話から察するに、この映像は恐らくレムとアビス・・・同時に流れている
はずですぞ。
どう責任を取るつもりなのだ!?」
「そうじゃそうじゃ! ただでさえ大変なこの時期、誰が馬鹿の尻拭いをすると
お思いかっ!?」
「・・・お前さん達じゃないことだけは、わかっておるがのう。」
「何を言うか! 無礼極まりないぞっ!」
サイロンの暴挙に怒りを露わにする者、呆れ果てる者、拍手喝采を送る者・・・。
様々な反応が沸き起こる中、元老院最高権力者でもある襷はそれらの
反応に耳を傾けることもなく・・・ただ静かに肩を震わせていた。
隣で困り果てている一人の老人が、襷に指示を仰ぐ。
それをきっかけに、襷はカッと両目を見開き・・・こめかみにふつふつと血管を
浮き上がらせながら立ち上がると、老人とは思えない勢いで叫んだ。
「誰か・・・、早くあの馬鹿を連れ戻せぇーーっっっ!!!」
その怒号に、騒がしかった室内が一気に静まり返り・・・全員が石のように
硬直していた。
< レムグランド 首都シャングリラ 謁見の間にて >
玉座にガルシア国王、そして向かって左の椅子にはアシュレイが椅子に座り・・・
騎士が二人の目の前に『異界の鏡』を向けて、サイロンの演説を聞いていた。
演説が終わって映像が消えると、アシュレイはちらりと国王の方に視線を向ける。
ガルシア国王がディアヴォロの眷族と接触しているという可能性を否定出来ない今、
国王が今の演説を聞いてどんな反応を示すのかアシュレイにもわからないでいた。
(またこの間のような尻拭いだけは、勘弁してほしいものだな・・・。)
そんなことを考えながら、しばしの沈黙が流れる。
『異界の鏡』で流れた映像・・・そして演説の内容から、アシュレイの指示で騎士団の
中から騎士団長3人も呼び出され、全員でサイロンの話を聞いていた。
結局のところ最終的には国王の意見が尊重されるわけだが、一応アシュレイや
騎士団長達の・・・第三者の意見も取り入れるべきだと考えたのだ。
「三国同盟に、ラ=ヴァース・・・。
今の戦況や残りの物資を考慮しても、反対する利はないと思うが・・・。」
試しに利益面を口実にして、国王に進言してみるアシュレイ。
しかし・・・国王は黙ったままで、特に怒りを見せることも嘲笑することもなく・・・。
ただ黙って何かを考え込んでいる様子だった。
「これは・・・、何かの罠だと考えられませんか!?
若君はこの映像を『レムグランドの光の塔から発信している』と言ってました。
光の塔と言えば、今まさにザナハ姫達が光の精霊ルナと契約を交わす為に
訪れている場所・・・。
精霊契約の妨害行為だと考えれば・・・、ただでさえ龍神族とアビスは現在
協定している間柄。
我等を油断させ、手痛い攻撃を仕掛けてこないとも限らないのでは・・・!?」
騎士団長の一人強硬派のルミナス将軍は、先程の演説が罠だと国王に進言する。
「だがサイロンと言えば・・・、確か我が国と里との間に流通ラインを開いて
物資の交流を一手に引き受けている人物だと・・・商人からはそう聞いておる。
そのような人物が、そんな卑劣な手を使うとは考えられんが!?」
騎士団長の一人穏健派のキャラハン将軍は、サイロンが信用に足る人物だと進言。
国王が考えを巡らせている間、騎士団長や参謀などが口々に意見を言い合う中・・・
アシュレイはそれらの話に耳を傾けながらも、国王の動向を探っている状態だ。
そして遂に・・・、国王が口を開く。
しかしその言葉は今までの果敢で勇猛だったガルシア国王とは、似て非なるものだった。
「もう少し考えてから結論を出そう。
あの若者も・・・一年間の猶予をよこすと言ってきておるのだ、それまで様子見と
いこうではないか。
それに・・・、今ここで口々に論議していてもあの者の言葉が真実であったかどうか
確認することは出来ん。
真実かどうかは・・・、48時間後にわかることだ。
48時間後、本当にあのサイロンという龍神の言葉通りにアビス人が戦線から撤退
すれば・・・先程の演説が真実だったと容易にわかる。
その後どうするかは、じっくり考えるとしようではないか。
時間はたっぷりと与えられているのだからな。」
それだけ言い残すと、国王は疲れたように玉座から立ち上がると・・・そのまま私室
へと戻って行ってしまった。
国王の言葉に半ば呆気に取られていたが、それでも真っ向から強硬手段に出なかったのを
幸いに思いながら・・・アシュレイは少なからずほっとしている様子だ。
国王が不在となり、現在前線に立っている兵士達に指揮を執る為・・・アシュレイは
それぞれの騎士団長に命令を下す。
サイロンの言葉を真実だと理解しているアシュレイは、そのことを他の者に知られない
ように演じながら・・・前線にいる兵士達には防衛主体の陣を取るように指示した。
決してこちらから攻撃を仕掛けないように・・・、極力被害が出ない戦法を取ることを
第一とさせる。
アシュレイの指示に従い、騎士団長達は謁見の間から出て行った。
溜め息交じりに椅子に座ると、アシュレイは静かに考えを巡らせる。
国王が取った不審な態度、覇気のない命令・・・。
(いつもの・・・、今まで見て来た親父らしくない態度だったな。
もはや眷族の指示なしでは動けない程、何も考えられなくなっていると言うのか!?)
そんな不安を抱きつつ・・・、アシュレイは次なる行動を模索し始めた。
< アビスグランド 首都クリムゾンパレス クジャナ宮・女王の間にて >
わなわなと怒りに震えながら、ベアトリーチェは持っていたワイングラスを床に
叩きつけるように投げると・・・ガチャンッ! という音を立てながら・・・
ワイングラスは無残にも粉々に飛び散った。
慌てる様子もなく召使いが割れたグラスを片付けていると、ベアトリーチェは
イライラとヒステリックになりながらソファに戻り・・・そしてトカゲのような
尻尾をバシバシと床に叩きつける。
「あの馬鹿が・・・、ふざけたことをっ!」
バシッ!
一層強く尻尾を床にたたきつけ、床にヒビが入る。
親指の爪をかじりながらベアトリーチェは、胸の奥からわきあがる苛立ちを抑える
ことが出来ずにいた。
「三国同盟だと・・・!? ふざけるなっ!
この妾がレムのバカ共と肩を並べると・・・、本気でそう思っておるのかっ!?」
「しかしベアトリーチェ様、龍神族次期族長であらせられるサイロン殿がああ仰る
ということは・・・すでに里の元老院の方々も承認しておいででは?
このままサイロン殿の申し出を無下にしては、今度は我々が龍神族を敵に回して
しまうとも限りませんが・・・。」
昆虫のような目をした青白い召使いがもう一人、ベアトリーチェに進言する。
しかしベアトリーチェは鼻で笑うと、それすら一蹴した。
「はっ、元老院のクソジジイ共があの馬鹿の言葉をマトモに聞くと思うか!?
おおかた今の演説も、あの馬鹿が一人で勝手に進めているだけの話だ。
どうせすぐさま元老院の追手に捕まって、牢屋に放り込まれているのがオチだわ!
同盟なんぞに賛同することなど・・・、妾には有り得ん選択じゃ。」
「しかし・・・、サイロン殿の話では48時間後には完全に道を閉ざすと仰って
おります・・・。
あの方なら、本当にやりかねないことと思いますが・・・。」
召使いの言葉に、さすがに真実味を感じたベアトリーチェは苦虫を噛み潰したような
顔になりながら・・・言葉に詰まる。
「・・・あの馬鹿ならやりかねんな。
仕方ない、あの馬鹿への交渉はルイドに任せるとして・・・とりあえず今現在レムに
送り込んでいる兵は全て撤退させておけ!
今すぐじゃ、よいなっ!?」
「承知いたしました。」
恭しくお辞儀をすると、召使いは足音を立てることなく・・・まるで床すれすれに
浮いているような動きで女王の間から出て行った。
「全く・・・、ルイドは一体何をしておるのじゃ!?
妾を裏切ればどうなるか・・・、知らんわけでもあるまい!」
< 再びレムグランド アンデューロ 光の塔・最上階にて >
「つまり・・・、『和平条約』と『眷族おびき出し作戦』を同時に遂行する為に
今みたいな内容になったと!? そう言いたいわけだな?」
頭に大きなたんこぶを作りながら、ザナハから回復魔法すらかけてもらえない
アギトが真剣な面持ちでそう繰り返す。
「そのことを眷族に悟られないように動かなければいけませんからね。
表向きはあくまで三国同盟・・・、三国和平条約締結を目的に行動していると
見せかける。
そうなれば当然戦争は回避され、ディアヴォロが好物としている負の感情が
減少しますから・・・眷族にとっては面白くない展開です。」
オルフェが両手を組みながら説明する。
「眷族としては三国同盟に賛同させるわけにはいかなくなりますから、何かしらの
手段を用いて来ることは必至・・・。
その際、仲立ちをする若君が最も眷族に狙われやすくなりますが・・・。
自分の存在を隠すという明確な目的があるならば、ガルシア国王に接触してくる
可能性が出て来ます。
今まで裏で暗躍してきたのなら、後者の方法を使って来るでしょうね。」
「ただしガルシア国王とベアトリーチェが、同盟加入に即座に応じるはずもない。
各国への交通手段をなくし、なおかつ1年という期間を設けることで今まで抱いて
きた決心すら鈍らせる。
ガルシア国王が揺らげば当然、眷族がそれを見過ごすとは思えないからな・・・。
接触してきたところをアシュレイ達が押さえることが出来れば、あとは当人達の
意志次第・・・ということになるが。」
ルイドがそう呟くと、それについてはオルフェに考えがあるのか・・・問題解決と
言わんばかりの言葉を並べた。
「私達もただ何の考えもなくガルシア国王に従っていたわけではありません。
そのことに関してはご心配なく、ちゃんと我々なりの考えを巡らしていますから。
問題は憎悪の念が強いベアトリーチェ女王の方だと思いますが・・・。」
「ベアトリーチェの方から賛同する、というのは確かに難しいだろうな。
しかし・・・もし龍神族とレムグランドの方から要請があれば、会合には出席させる。
それは心配するな、オレが何とかしよう。」
各国の・・・王と近しい人物達の会話を他人事のように横で聞いていたアギトは、
大人達のやり取りをまるで背景や景色のように眺めて・・・完全にふてくされていた。
「なんか・・・、オレ達って全く必要とされてない気がしないでもないが・・・。
これは気のせいか? オレ、世界を救う勇者一味・・だよな?
異世界から召喚された正義の味方なんだよな?
なんで置いてけぼり? なんでカヤの外? マジむかつくんですけど?」
完全に仲間外れにされていると思いこんでいるアギトが落ち込んでいると、ドルチェが
アギトの頭を撫でながら慰める。
「所詮地位も権力もない人間は、回りに流されて生きて行くだけ・・・。」
「やかましいわ。」
かくしてサイロンの浅いのか深いのか・・・、そんな作戦が全世界に
知らしめられて・・・いよいよ後戻り出来なくなっている中。
相変わらずあっけらかんとしたサイロンから、更に衝撃的な事実を知らされる
ことになる。
そんなことは露とも知らず、アギトはただ自分の存在が希薄になりかけている
ことに、一方的に腹を立てることしか出来ずにいた・・・。