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第201話 「サイロンの演説」

 いよいよ各国へ向けてサイロンが演説を始めようとしていた。

ザナハの歌で起動させたシグナルゲートの魔法陣の中にサイロンが入ると、ヴォルトは

その真上に浮き・・・電気を発する。

魔法陣の中にいるサイロンを避けるように、真上から外周に向けて電気が送られ・・・

魔法陣の輝きはより一層強さを増した。

全員が固唾を飲んで見守る中、ヴォルトが号令をかける。


『各国ニ設置サレタ異界ノ鏡ニ、シグナルゲートガ繋ガッタ・・・。

 既ニ姿ガ映シ出サレテイルカラ、始メルガイイ。』


「なんか、いまいち実感がわかんのだがのう・・・。」


 精霊相手に不満を漏らすサイロンだったが、親切にもヴォルトはその不満を解消

させる為にシグナルゲート専用の魔法陣以外に、もうひとつ魔法陣を作り上げた。

現在サイロンが使用している魔法陣へ送る電気の他に・・・、大きなツリ目からまるで

ビームのように電気を放つと、別のシグナルゲートを臨時で起動させ・・・両方同時に

電気を流しこむ。

しかし臨時で作り上げた魔法陣は、明らかにサイロンが中央に立っている魔法陣とは

役割が異なっていた。

もうひとつの小さな魔法陣が起動すると、まるで映写機のようにサイロンが映像として

映し出されたのだ。


「おお~~っ、余が映し出されておるではないか!

 これはどういうことじゃ!?」


『光ノ塔ニ設置サレテイタ魔法陣ヲ元ニ、再構成シタシグナルゲートダ。

 タダシコレハ再生専用・・・、回線ヲ繋ゲタダケニ過ギナイ。

 異界ノ鏡ニ映シ出サレテイル映像ト、全ク同ジ映像ヲ映シ出シテイル。

 コレデ実感ガワクハズダガ・・・、ドウダ?』


「うむうむ、これならばやりやすいのう!

 では早速演説開始としようか!」


 サイロンとヴォルトのやり取りを遠い目で眺めながら、アギトは身も蓋もないことを

口にする。


「つーか・・・、このやり取りすらすでに全国放送されてるんじゃねぇの!?」


「それは言わない約束ですよ、アギト。」


 サイロンのテンションとは裏腹に、その他のメンバーは半ばしらけたムードに

なりつつ・・・いよいよ待ちに待った演説が始まる。




  < レムグランド 首都シャングリラ 謁見の間にて >

   


 広々とした謁見の間で、数人の騎士が何やら騒がしくしていた。

現在は一般市民との謁見の時間外となっていた為、広間には数人の騎士しかいない。

玉座のある場所から少し離れた壁際に、数人の騎士がうろたえていた。

白い甲冑に身を包んだ一人の騎士が、部下であろうもう一人の騎士に命令する。

   

「急いで国王陛下と殿下をお呼びしろ!

 龍神族の使いから預かった鏡に、次期族長サイロンが映っていると・・・。

 それしか言いようがない・・・、とにかく早くお呼びするのだ!」

   

「はっ!」

   

 ガチャガチャと音を立てて一人は玉座の真後ろにある国王の私室へ、そしてもう一人は

アシュレイの私室へと向かった。

   

「それにしても・・・、こいつ一体誰と会話をしているんだ!?」

   

異界の鏡を目の前に、残った騎士は警戒しながらも全員同じ方向に首を傾げていた。

   

   

   

  < アビスグランド 首都クリムゾンパレス クジャナ宮・女王の間にて>



「ベアトリーチェ様・・・、お目覚めください。 ベアトリーチェ様・・・。」


 青白い皮膚に昆虫のような目をした女性が、ふかふかのソファで爆睡している

ベアトリーチェに声をかけていた。


「ううん・・・、なんじゃ・・・一体どうした!?」


 まだ眠そうに目をこすりながら、ベアトリーチェはソファに寝そべったまま

側で膝をついている女性に問いかける。

感情が読み取りづらい顔つきの女性、・・・召使いは慌てた風でもなく静かな

口調で部屋の隅に追いやられている鏡に向かって指をさす。


「ミズキの里の者が持ってきた鏡に、龍神族のサイロン殿が・・・。

 何かを伝えようとしている様子なので、ぜひご覧いただこうと・・・。」


「あの馬鹿のやることにいちいち構っていたら、身がもたんぞ・・・。

 妾は連日レムグランド攻略の指揮で疲れておるんじゃ・・・、代わりにお前が

 聞いておけ・・・。」


「・・・わかりました。」


 まるで機械的にベアトリーチェの命令に従うと、召使いはそのまま足音を立てずに

鏡の前まで歩いて行き・・・鏡に映し出されているサイロンの伝言を記憶する作業に

取り掛かった。




  < 龍神族の里 首都ヒルゼン 青龍廟せいりゅうびょうにて >



 龍神族の中でも更に身分の高い者だけが祀られているという青龍廟・・・。

毎日この青龍廟には龍神族の僧侶がおつとめとして、一日中絶えることなく

ろうそくに火をともし・・・、天に召された歴代の龍神族を鎮魂する。

いつものようにひとつひとつ納められている龍玉に手を合わせながらお務めを

していると、静けさを保つびょうの中から・・・不気味な声が聞こえて来た。

不思議に思った僧侶が首を傾げながら辺りを見回し、誰かのいたずらかと思いながらも

声がする方へと歩いて行く。


・・・と。


「ぎゃああーーーーーっっ!!」


 突然目の前に若君であるサイロンが視界に飛び込んで来て、僧侶は思わず腰を

抜かしてしまう。

その悲鳴に駆け付けた若い僧侶が数人程、廟の中に入り・・・腰を抜かした僧侶に

手を貸した。


「若様が・・・、若様の亡霊が・・・っ!」


 震える手で指を指すと、サイロンの姿を目にした若い僧侶が訝しげに近付き・・・

それが本物のサイロンではないことに気付く。


「これは異界の鏡・・・? なぜ古の魔道器がこんなところにあるのでしょうか。」


「知らぬが・・・、恐らく若様のいたずらに相違ない! 全く・・・! 

 族長様が亡くなられて、いよいよ若様にはしっかりしてもらわなければならない

 この時期に、いまだにこのようなわっぱのような真似を・・・。

 元老院の方々にもっと強く注意してもらわねば・・・、我等の身が持たぬ。

 私はこの鏡を持ってたすき殿に進言してくる。

 すまぬが続きはお主らがしておいてくれ、頼んだぞ。」


「わかりました、僧正そうじょう様。」


 まだ腹の虫が治まらないのか、僧侶は鏡を両手に抱えてぶつぶつと文句を言いながら

・・・ぷりぷりとした態度で青龍廟から出て行った。




  < 再びレムグランド アンデューロ 光の塔・最上階 >



アギト達が静かに見守る中・・・、遂にサイロンが各国へ向けて演説を始めた。


「里の者の協力により各国の代表達には今・・・、『異界の鏡』を通して余の姿を

 目にしていることと思う。

 この映像は、レムグランドにある光の塔から生中継で送っておる・・・。

 レムグランドのガルシア国王、そしてアビスグランドのベアトリーチェ女王よ・・・

 心して聞くがよい。

 度重なるマナ搾取さくしゅの為の戦争、そしてディアヴォロの存在に怯える日々・・・。

 ・・・誠に遺憾である。

 このまま幾世紀にも渡って同じことを繰り返していても、この世界に住む者達に

 安息の日々が訪れることなどありはしないだろう。

 『ラ=ヴァース』という一つの世界が三つに分割され、何千何億という

 年月が流れ・・・結局人間達は何の進展も・・・、何の変わりもなくマナを

 奪い合うことをやめようとはしなかった。

 そんな争いに胸を痛めて来た族長パイロンも亡くなり・・・、いよいよ世界は

 破滅へと向かい始めておる。

 このままでは封印という名の長い眠りについているディアヴォロが目覚めてしまい、

 再び世界が秩序なき破壊と混乱が支配する地獄へと化してしまうだろう。

 余はそれを食い止めるべく、今こうして各国の代表者達に言葉を送っておる。

 

 うわべだけの休戦条約を結んだところで何の役にも立たぬことは、今の有様を

 見れば十分理解出来るじゃろう。

 余はそんなうわべだけの・・・、張りぼてで作ったようなかりそめの平和なんぞに

 興味はないし、何の価値もないと思っておる!

 本当の平和を作る為には、1つの悪に対し皆が協力せねば成立することはない!

 

 積年の恨みを思えば、難しいことじゃろう・・・。

 だがこのままチャンスを逃していいものか!?

 敵の敵は味方じゃ・・・、今ここで手を取り合わないでどうしてディアヴォロに

 対抗出来よう!?

 やって来る明日の為に、今後の未来の為に・・・将来を担う子供達の為に。

 我等が協力し合い共通の敵に立ち向かうことで、掴める未来があるのではないか!?

 

 子供達の未来を自分達の手で作り上げる・・・、わくわくしてこぬか!?

 それを思えばこれまでの恨みつらみが取るに足らんことだと・・・、そう理解出来る

 日がきっと・・・必ず来る!

 だから・・・これを見て聞いておるお主等に、余から伝えたいことがある。


 余は国や種族など関係なく、全ての国・・・全ての民・・・全ての種族・・・。

 ・・・皆が心から笑い合える日を、この手で作れると信じておる。

 その夢を現実のものとする為・・・、お主等に協力を請いたい。


 余はここに・・・、『三国同盟』を提言する!


 三つの国、三つの種族が手を取り合えば・・・、きっとディアヴォロに対抗する

 だけの知恵と力が生まれると・・・余は信じておる!

 

 勿論今すぐに賛同しろとは言わん・・・、心の準備は勿論のこと・・・。

 今では特にレムとアビスの間には深い亀裂、深い溝があるのは重々承知しておる。

 そこで余は考えた・・・、お主等に時間を与えようとな。

 

 今から1年・・・、心の整理をつける時間をやろうぞ。

 戦争なんぞをしながら決断出来るはずもないからのう、龍神族の仲介により

 開け放たれた道を全て閉ざすことにする。

 アビスからの侵攻は、今日をもって打ち切りとするのじゃ。

 お互い・・・よく考えてほしい、何が自分達にとって利となるか。

 本当に国を憂う心があるのなら・・・、ぜひ余の考えに賛同してほしいのじゃよ。

 もし各国の代表全員が三国同盟に賛同してくれると言うのならば・・・、

 ディアヴォロ対策の第一歩として・・・。


 余はまず・・・、ラ=ヴァース復活を実現させようと思う!!


 元々はディアヴォロが全てのマナを喰らい尽くさぬように、世界を分割したのが

 世の始まりであったが・・・精霊の力すら分割されては、精霊達も本来の力を

 十分に発揮出来ないのが道理じゃ。

 ディアヴォロに対抗出来るのは、精霊の持つ力のみ・・・!

 そして今、この世界には光と闇・・・両方に戦士と神子が揃っておる。

 これこそディアヴォロを今こそ討てという、神からの啓示ではなかろうか!?

 このような巡り合わせ、恐らく二度はないじゃろう。


 我等は選択を迫られておる、再生か・・・破滅か。


 余なら迷わずに、再生の道を選択する。

 他の者はどうじゃ・・・!?

 自ら進んで破滅の道を行くか・・・、それとも煮えたぎる憎しみの感情を

 押し殺してでも仇と協力し、優しい世界を作る為に奔走するか・・・!?


 どちらからでも構わぬ・・・。

 もし賛同する・・・という答えを出したならば、余はそちらへ赴き友好の誓いとして

 レムとアビスの間に道を作ることを認めよう。

 しかしこれは、侵攻の為の一時的な開放ではない・・・。

 マナ天秤関係なしに、神子には上位精霊と契約を交わしてもらい・・・正式な

 道を作るというものじゃ。

 その際には、マナ濃度の高いレムグランドであろうと契約を交わすことを許可する。

 勿論アビス側も賛同してくれると言うならば、二人の神子にはルナとシャドウに

 契約を交わしてもらおうぞ。

 ラ=ヴァース復活には欠かせないことじゃからのう。


 これまでの歴史を振り返り、そして何が一番大切か・・・よく考えてくれ。

 一人でも多くの賛同者を・・・、余は待ち望んでおる。

 ではこれより48時間後、レムとアビスとの間に開かれた道を閉ざすこととする。

 それまでにレムグランドに侵攻しているアビス人は、兵の撤退をしておけ。

 戻り損ねてしまえば1年間は、アビスグランドに帰ることが出来なくなるからのう。


 しかし三国全員一致で賛同すれば、1年という期間は無効になる。

 その際はすぐにでも開放しようぞ。

 返答はそちらに送ってある『異界の鏡』にマナを注げば、余が応答する。

 

 では・・・、良い返事を期待して待っておるぞ。

 ガルシア国王・・・、ベアトリーチェ女王・・・。

 先程も言った言葉じゃが、自国を憂うならば・・・憎しみの連鎖を断ち切るのじゃ。

 互いに血を流したところで、結局のところ得られるものなど何もない。

 残るのは国民を失う悲しみと・・・、戦後の空しさだけじゃ。

 それを忘れるでないぞ・・・。」


 サイロンは深々とお辞儀をし・・・、そこで演説は幕を閉じた。

シグナルゲートから発信されている映像も途切れ・・・、静寂と沈黙だけが残る。


 

  


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