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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
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第197話 「光に憧れる影」

 サイロンとの話を終えたルイドがフロアの中央に戻って来ると、アギト達も

歩み寄って・・・二人の様子を窺った。

今でこそ共同戦線を張っているが、仮にもルイドは敵・・・。

そのルイドとサイロンが和解したともなれば、もしかしたらサイロンすらも

敵に回る恐れがあったからだ。

アギトが疑わしそうな眼差しで二人を睨んでいると、ルイドは苦笑しながら

次の計画をミラに持ちかけた。


「紫電のミラよ・・・。

 このままここで、再び機械人形が現れるのを待っていても時間の無駄だろう。

 とりあえず最上階を目指していれば、機械人形が現れる可能性が高い。

 サイロンも一緒に行くことになったが、・・・問題あるか?」


その言葉を聞いたミラは、じっとサイロンを瞠って・・・眉根を寄せた。


「それは・・・最上階に到着した際に、私達の敵が増える・・・という意味ですか?」


「ルイドは元々お主達の敵だから仕方ないことじゃが、余はただの見届け人じゃ。

 というか、余も塔の最上階に用があるからのう。

 とりあえず共同戦線とやらの協定が終了しても、余はお前達には手を出さんと

 約束してやろうぞ。」


「それ、本当だろうな!? 嘘ついたら酷い目に遭わすぞ!?」


アギトは脅しをかけたつもりだったが、大人二人には大して効果がなかった。


「では、行こうか。」


「おいっ! 何でルイドが指揮してんだよっ!」


 だがしかし、誰一人としてアギトに賛同する者はおらず・・・全員ルイドについて

行ってしまった。

不服そうに舌を打ちながら、結局黙って従うことにするアギト。

ぞろぞろと有り得ないメンツで階段を上りながら、アギトはふとザナハの様子に

異変が起きていることに気がつく。

気のせいか・・・、満面に笑みを浮かべて非常に嬉しそうに見えた・・・。

何がそんなに嬉しいのか・・・?

アギトには理解出来なかった。


(現状では一応、敵のボスであるルイドに・・・。

 一緒にいたら安心出来ない、トラブルメーカーの馬鹿君・・・。

 こんなメンツのどこがそんなに面白おかしいっつーんだよ、気が抜けねぇっつーの!

 マジこいつ・・・、時々キモイんだよな。)


 疑念たっぷりの眼差しでザナハを見ていたら、その視線に気付いたザナハが

あからさまに嫌悪感を露わにして・・・ぷいっと視線を逸らす。

その態度がまた気に食わなくて、アギトは後方から静かに中指を突き立てて威嚇した。




 一方、奈落の底に落ちて行ったザナハを救出するべく階段を駆け下りて行った

アギト・ミラとは対照的に、オルフェとドルチェは階段を駆け上がっていた。

翼の生えたグリフィンにまたがり、塔の吹き抜けを優雅に飛んで最上階を目指す

フィアナを追う為である。

向こうの方が何の障害もなく上を目指すことが出来るが、オルフェ達は途中に

出現する機械人形を相手にしながら、階段を駆け上がらなければならなかった。

この調子でいけば、フィアナの方が先に祭壇の間へ到着するのは明白である。

下方から魔法を発動させて狙ったとしても、恐らく動きの素早いグリフィンでは

簡単に回避されてしまう。

その時、このままではフィアナに追いつくことが出来ないと判断したドルチェが

ぬいぐるみの中で唯一空を飛ぶことが出来る、とりのぬいぐるみ「チャッピー」を

取り出すと・・・指先から魔力の糸をはわせて、その背に乗った。

ばさりと音を立てて、ドルチェは単身フィアナを追う為に吹き抜けから上を目指す。

それを見たオルフェが声を荒らげた。


「一人で追ってはいけません、ドルチェ! 危険過ぎます!」


 しかしドルチェはちらりとオルフェを見据えただけで、命令に従わずにそのまま

フィアナを追いかけ・・・飛んで行ってしまった。

今までのドルチェからは、考えられないことだ。

上官であるオルフェの命令には絶対服従、「死ね」と命令されれば本当に従いかねない

程・・・、ドルチェがオルフェの命令に逆らったことはただの一度もない。

ドルチェの姿が小さくなっていくのを、オルフェは少し焦りの混じった瞳で見据え

それからすぐさま後を追うように階段を駆け上がった。


(まさかこれがフィアナの作戦か!?

 私とドルチェを引き離す為に、わざと飛行タイプの魔物で現れて・・・。

 てっきりフィアナの目的は私一人を殺すことだと思っていましたが、甘かった。)


 オルフェが上を気にしながら駆け上がっていると、案の定行く先々で機械人形が

行く手を遮ってくる。

しかしどれだけ機械人形が現れようとも、オルフェは眉ひとつ動かすことなく軽く

あしらうように次々と薙ぎ払って行った。

右手に携えたホーリーランスに水属性を付加させ、斬り付けた部分から水を侵入させる

ことで機械人形達を一撃で次々とショートさせていく。

機械人形にそれ程手こずることもなかったのだが、それでも飛んで行く魔物と人間の

足とでは・・・明確な差があり過ぎた。




 グリフィンにまたがったフィアナが下を見下ろすと、ドルチェが傀儡に乗って自分を

追いかけて来ているのが見えて・・・邪悪な笑みを浮かべる。

そのまま速度を上げて、ようやく最上階の広々としたフロアへと到着した。

グリフィンから降りて辺りを見回すと目の前には大きな扉・・・、恐らくこの扉の

向こうに光の精霊ルナの祭壇があるのだろうと推察する。

そのすぐ後にドルチェが追いつき・・・、チャッピーから降りてフィアナと対峙した。

フリルの付いた紺色のドレスに身を包んだフィアナは、ツインテールを揺らしながら

振り向き・・・ドルチェに向かって微笑んだ。


「本当に一人で追いかけて来るなんて、ホント・・・間抜けなお人形さんね。

 これが罠とか・・・、考えなかった? 

 それとも考える力自体、持ち合わせていないのかしら?」


 挑発するように侮辱する言葉を並べるが、ドルチェは全く動じず・・・いつもの

無表情な顔のままだった。


「フィアナ・・・、もう終わりにしましょう。

 あなたのいるべき場所は、そこじゃない・・・。」


「誰のせいでここにいると思ってるの・・・っ。

 あんたが・・・っ!

 あんたがあたしの居場所を奪っておいて、・・・よく言うわ。」


ドルチェの言葉にわずかに表情を歪めながら、フィアナは怒りを抑えたように返す。


「あなたが戻ってくればあたしは用済み・・・、すぐにでも消える。

 あくまであたしは、フィアナ・・・あなたの代わりでしかないもの。

 フィアナの代わりであっても、あなたに成り変わることは出来ない・・・有り得ない。

 大佐はそんなことの為にあたしを作ったわけではないのだから・・・。」


 そう告げたドルチェに対し、フィアナは右手で空を薙ぐと・・・鞭のように

操った魔力の糸がドルチェの右頬を切り裂いた!


「・・・・・・っ!」


 つつ・・・っと、右頬から真っ赤な鮮血が流れ・・・それを右手で拭う。

それでも、ドルチェの顔に感情が現れることはなかった。


「もう遅い・・・、もう遅いのよ。

 存在を食われたあたしにはもう、居場所なんかどこにもない・・・っ!

 帰る場所も、戻る場所も・・・何も残されていないわ。

 あるのはわき上がる憎しみの炎と、復讐にたぎる想い・・・、そして孤独っ!

 コピー実験に失敗した被験者は、・・・オリジナルのあたしは空虚な存在。

 まるで双つ星の戦士のようじゃない?

 光から生み出された闇は、永遠に日陰から出られない。

 眩しく輝く太陽に憧れて・・・、その輝きに嫉妬するだけの惨めな存在。

 少しでも近付こうと手を伸ばしても・・・、太陽の輝きによって自分の醜い

 部分がより一層、鮮明に照らし出されるだけ・・・。

 ・・・かつて、双つ星を人工的に生み出そうとしたコピー技術。

 それを応用することで世界に安寧をもたらそうとしたのが、ユリアとゲダックが

 編み出した『アンフィニ=クローン化計画』・・・。

 ただでさえコピー技術というものは、人工的に生み出されたコピーがオリジナルの

 成長を搾取し・・・、やがてコピーがオリジナルを食い殺すという結果を

 生み出しているというのに。

 それがわかっていて・・・、どうして戻ることが出来ると言うわけ!?

 今のあたしは『戻る』ことが目的じゃない・・・、こんな結果を招いたお兄様を

 この手で殺す為に・・・存在しているだけよ。」


 フィアナの憎しみが、怒りが・・・その言葉に全て込められていた。

ドルチェはただじっとフィアナの言葉に耳を傾け、そしてどこかフィアナを憐れむような

色を浮かべている。

これまで感情を表に出すことのなかったドルチェからは、それすら考えられないことだ。

そしてゆっくりと・・・、ドルチェはフィアナに問いただす。


「大佐を殺すことが目的だと言うのなら・・・、あなたは空虚なんかじゃないわ。

 憎しみという感情が存在している、そして・・・明確な目的がある。

 大佐を殺させやしないけれど、あなたが『戻る』手伝いならあたしにも出来る。

 ・・・コピーがオリジナルの存在を殺すというのなら、あたしが消えればその心配も

 なくなるのだから・・・。」


「だったら・・・、オリジナルの為に死んでちょうだいっ!」


 憎しみのこもった顔でフィアナは空を薙いで魔法陣を描き、そこから無数の魔物を

召喚した。

蛇のような皮膚をした鶏の姿のコカトリス、硬い鱗で覆われたバジリスク、植物に

目や鼻・・・手足が付いた醜い姿のマンドレイク・・・。

魔物を召喚したフィアナの号令で、魔物が一斉にドルチェに襲いかかる!

ドルチェは瞬時にチャッピーから近接戦闘を得意とするくまのぬいぐるみ、ベア・ブック

へと魔力の糸をはわし、迎撃した。


「魔神拳っ!」


バシュウッッ!!


 先制攻撃として、まずはベア・ブックの魔神拳がドルチェの掛け声と共に炸裂する!

地を這う衝撃波が先頭を走っていたマンドレイクに直撃し、3200もあるHPに

240程のダメージを与えた。

しかし動きの素早いコカトリスがベア・ブックの背後を取り、鋭いクチバシで

背中を食いちぎるが・・・すぐさま後ろ回し蹴りでコカトリスをダウンさせると、

バックステップで距離を離す。

見ると・・・、先程食いちぎられた背中から、白い綿が少しだけはみ出ていた。

マンドレイクとコカトリスに囲まれないように距離を保って戦うベア・ブックだったが

もう1匹の魔物・・・、バジリスクがドルチェの方に狙いを定めて向かって来る!

それに気付いたドルチェは不利になるとわかりつつ、ベア・ブックを操る魔力の糸を

右手だけにし・・・左手でチャッピーを操りながらその背に飛び乗る。

傀儡を操る間は集中力を高める為に、どうしても敵から狙われるわけにはいかなかった。

傀儡師の最大の弱点ともいえる。

魔力の糸で傀儡を操っている間は殆ど無防備状態となるので、そんな時に攻撃を

受けたらその衝撃で魔力の糸が断ち切られる恐れもあった。

ひとまずチャッピーで敵の攻撃範囲から逃れたドルチェだったが、同時に傀儡を2体

操るのはかなり厳しい状況にある。

片手でベア・ブックを操るには、敵の数が多過ぎるせいだ。

案の定・・・さっきより動きが鈍ったベア・ブックは、敵の攻撃を素早く回避することが

出来ずにじわじわとダメージを受けていた。


「・・・くっ!」


 魔力の糸で傀儡を操り続けるということは、常に体内のマナを放出し続けている

ということになる。

消耗の激しい戦いに、だんだんドルチェの顔に疲労が見えて来た。

そんな姿を遠くで見つめながら、フィアナは喜々とした表情になり・・・笑みを浮かべる。


「ほらほらどうしたの、あんたの実力はその程度なわけ!?

 それでもあたしのコピーなのかしら!?

 ・・・お兄様の側にいるべきは、劣化した肉人形なんかじゃない・・・っ!

 それを思い知るがいいわ!!」


「ハヴォックゲイル!!」


ゴォオオオオォオォォーーーッッッ!!


 突然大きな砂嵐が巻き起こり、ドルチェを襲っていた魔物が引き寄せられ・・・

空高く巻き上げられる。

激しく渦巻く砂嵐の中で、巻き込まれた魔物達のHPが急激に減少していく。

HPの最大値が低いマンドレイクやコカトリスは、砂嵐のきりもみ状態の中で昇天。

砂嵐がおさまって・・・天高く巻き上げられたバジリスクは、高い位置から落下して

床に叩きつけられた時、その衝撃で昇天した。

フィアナが階段の方に目をやった瞬間・・・、ひゅおっと何かが脇腹をかすめる。


「うぐぁっ・・・!!」


 突然脇腹に激痛が走り、崩れ落ちたフィアナは・・・自分の脇腹に手を触れると

べっとりと血が付いていた。

飛んできた何かを確認する為にフィアナが後ろを振り向くと、大理石の床に槍が

突き刺さっており・・・驚愕する。

その槍の持ち主を知っていたフィアナは、声を震わせながら階段の方に再び目をやった。


「お兄・・・、様っ!」


そこに現れたのは、長い階段を駆け上がって息を切らしたオルフェの姿だった。








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