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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
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第196話 「ルイドとサイロン」

 光の塔の最下層でアギト達は、ルイド・・・そしてサイロンとまみえていた。

機械人形を操って最上階まで利用しようとしていた矢先に、何も知らないサイロンが

トドメをさしてしまったことで・・・あっという間に全員から反感を買っている。

相変わらず回りの空気を読まない性格のようで、アギト達の白い目つきを全く

気にすることなく・・・普段通りのマイペースさで、自分の用件を着々と

済ませようとしていた。


「レムも遂に光の塔まで来てしまったようだのう・・・。

 我等の忠告に耳を貸すこともなく、このままルナと契約し・・・マナ天秤へ向けて 

 神子まっしぐら・・・。

 実に面白くない展開じゃ、これじゃアビスだけでなく元老院のジジイ共まで敵に

 回しても当然の結果ではないか・・・。」


 眉根を寄せながら、サイロンは扇子をパタパタとあおぎながら階段を下りて来る。

怪訝な顔のままアギトは鬱陶しそうに、サイロンに向かってイヤミを言った。


「つーかお前、何しにこんな所まで来たんだよ!? 

 確かオルフェの話じゃ今、龍神族の里では族長の喪中で閉鎖状態・・・。

 レムとアビスの戦争に介入する気ゼロだって聞いたぜ!?

 それどころか自分の父親の葬儀中に次期族長のお前が、こんな他国までノコノコ

 フラフラ歩き回ってていいのかよ!?」


 右手に持っていた片手剣を鞘にしまい、ルイドに向かって真っ直ぐ歩いて行く

サイロンを問いただす。

すっかり戦闘の緊張状態がなくなって、全員武器をしまって注目していた。


「それは心配無用じゃ、余の影武者としてイフォンを置いてきたからのう。

 付き人のハルヒがうまいようにはからうじゃろうて!

 そんなことより・・・、ルイド。

 余はお前に聞きたいことが山のようにあるんじゃが、少々時間をもらうぞ。

 返答次第では・・・、余はお前を敵とみなす。」


 その言葉に全員が、今度はルイドに注目した。

サイロンの乱入によってすっかりアギト達はカヤの外になっているが、だからと

言ってこのまま無視するわけにもいかなかった。

今までも何度かサイロンと出くわしたことがあったが、そのどれも・・・彼の

登場にはいつも何かしら・・・深い意味を持っていたからである。

ルイドはちらりとアギト達の方に視線を移した。

今は共同戦線を張っている最中・・・、一応アギト達の了承を得ようと・・・

口には出さなかったが目線でその許しを得ようとしているようだった。

ミラはルイド・・・、そしてサイロンに目を配りながら小さく頷く。

そのままアギト、ザナハ、ミラは円筒のフロアの端の方まで移動して、二人の

話の邪魔にならないように計らった。

サイロンはルイドと対面すると、それまでの不敵な笑みから一変・・・。

わずかに怒りを込めた真剣な表情へと変わり、ルイドを見据える。


「・・・まずは親父殿に関する礼をしようかのう。

 ようもやってくれた・・・、まさかお前が親父殿にまでその手を伸ばしてくるとは

 思っておらんかったぞ。

 おかげで里は支えを失ったことで動揺しておる、元老院もその対応に追われ

 しばしの間ディアヴォロの監視がおろそかになっておった・・・。」


「その割にベアトリーチェの要望には、すんなりと応えた印象を持ったが。

 まぁ・・・、そうだな・・・。

 パイロンに関してはとりあえず謝罪しておこう、・・・亡くすには惜しい方だった。」


 ルイドを品定めするかのように・・・、器を図るようにサイロンはルイドを

見据えたまま・・・言葉のひとつひとつを漏らさず聞く。


「お前の目的がどうあれ・・・、親父殿に関しては正直な所・・・感謝しておる。

 全くどれだけ親不孝者かのう・・・、余は。

 親父殿は永く生き過ぎた、それ故・・・悠久の時の中で親父殿は殆ど抜け殻も

 同然じゃった・・・。

 7億年・・・、余りに永過ぎる・・・。

 親父殿は7億年もの間、たったひとつの望みを胸に・・・永続しておった。

 

 アウラに・・・、再び逢いたい・・・。


 たったそれだけの願いを抱き続け、親父殿はこの地獄のような時の流れに

 逆らい続けた・・・。

 そしてルイド、お前はその願いを叶えてくれた・・・。

 あのメモリーボックスにアウラの姿を保存させ、メッセージを親父殿に

 伝えてくれた。

 それを見て余はようやく気付いた・・・、お前の本当の目的を・・・。」


サイロンの顔から怒りが消え・・・、やがて憂いに満ちた悲しげな感情が現れる。


「余はお前のことを真の友と思っておる、・・・お前はどうか知らんがの。

 だからこそ・・・余はお前の目的にとてもじゃないが賛同出来ん!

 どこの世に友の死を望む人間がおろう!?

 それしか方法がないとはいえ・・・、それではあまりにお前が報われん!

 なぜそうまでして破滅の道を選ぼうとするのじゃ!?

 なぜお前はそうまでして・・・、死に急ぐ!?

 答えろっ、ルイドっ!」


 サイロンの必死の訴えに、ルイドは両目を閉じた・・・。

答えるべきかどうか・・・迷うように、それからゆっくりと両目を開き・・・

ふと、視線はアギト達の方へと向けられる。

その瞳の奥には孤独と・・・、悲しみしか込められていなかった。

サイロンはルイドの視線の先に映るものを横目で追い、それから再びルイドを瞠る。


「まだ悔やんでおるのか・・・。」


その言葉にルイドは自嘲気味に微笑むと、白状するように小さく囁いた。


「お前がオレをどう思おうと、それはお前の自由だ・・・。

 だが・・・オレはお前が思う程、出来た人間なんかじゃない。

 心の弱い・・・、ただの一人の人間だ。

 オレはこの世で最も大切な・・・、かけがえのない友をこの手で殺した。

 ・・・運命に逆らえなかったんだ。

 それがオレの全てを変えた、・・・今のオレを作り上げた。

 例えこの命尽きようとも、もう・・・大切な者を失うわけにはいかない。

 その為ならどんな地獄も受け入れる、・・・自らを犠牲にすることも厭わない。

 それこそが・・・オレの選んだ道、幾度となく繰り返されてきたオレの生き方だ。

 オレは止まらん、・・・何があっても。

 誰を敵に回しても、オレはオレの野望を果たしてみせる・・・必ず!」


 力強く・・・ルイドは左手を握り締め、その堅い決意をサイロンに知らしめた。

その意志を聞いたサイロンもまた、友を止めることが出来ない自分の無力さを

痛感し・・・ただ憂うことしか出来ずにいる。


「数年来の付き合いである余よりも・・・、たった数カ月の間柄だった

 友の方を選ぶ・・・か。

 お前にとってそれ程かけがえのない人物だったんじゃな・・・、あやつは。」


サイロンは笑みを浮かべながら、肩を竦めた。


「・・・すまん。

 傷つき・・・衰弱しきっていたオレを救い、今まで散々世話になって来たお前には

 心底感謝している。

 だからこそ・・・、これ以上お前に苦労をかけたくはなかった。

 オレの野望にお前を巻き込むわけにはいかない、お前は・・・龍神族の族長になる

 男だからな・・・。」


 申し訳なさそうに自重するルイドを見て、サイロンは扇子をたたむとびしぃっと

ルイドに向かって突き付けた。


「な~に遠慮なんぞしておる!

 お前に散々手を焼いて、散々苦労をかけたこの余に向かって水くさいではないか!

 今更苦労のひとつやふたつ増えたところで、屁でもないわ。

 余が怒っておるのは、お前のそういうところにもどかしさを感じておるからじゃぞ。

 多少友達ランクが下になろうと、余は痛くもかゆくもないわ。

 それどころかこのまま何も知らされず、ただ事の成り行きを傍観者の如く見届ける

 ことしか出来ない状態の方が・・・屈辱以外のなにものでもない。

 いっそお前のすぐ側で・・・お前の最期を見届ける役割を、させてもらえんか。」


 サイロンの意外な申し出に、ルイドは言葉を失くしていた。

誰にも心の内を明かさず・・・自分の目的の為には手段すら選ばず、近しい者全てを

裏切る覚悟で野望を果たそうとしてきた自分に向かって・・・こんな言葉をかけられる

とは夢にも思っていなかった。

屈託のない笑顔で、サイロンはルイドに・・・手を差し伸べる。

その手を見つめながら、ルイドの瞳がわずかに潤む。


「・・・オレは本当の愚か者だ、こんな近くに友がいたことにも気付かず・・・。

 一人で生きているつもりでいた・・・、オレは・・・孤独じゃなかったんだな。」


「出来ることならお前には生きていてほしい・・・、しかし『あれ』を見て知って

 しまったからには・・・よもやお前を止める言葉など、余は持ち合わせておらん。

 ならばせめてお前と共にあり、お前と共に残された時間を生きようではないか。

 お前の願いを叶える為に、余は・・・お前に付き従おうぞ。」


 そうして二人は固く・・・、強く・・・握手を交わした。

笑顔で握手を交わす二人の姿を遠目に見て、どうやら和解したみたいだなと・・・。

アギトは呑気に・・・、そう解釈していた。

  



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