第195話 「帰って来たバカ」
必死でルイドを支えながら長い抜け穴を歩いて行くザナハ。
殆ど意識を失いかけているルイドを横目で見つめ、発作を和らげることすら出来ない
自分に・・・もどかしさを感じる。
ザナハ自身も疲労してきているが、それでも懸命に声をかけ続けた。
「もうすぐ・・・、もうすぐだから・・・!
あともう少しで塔の内部に戻ることが出来るから、もう少しだけ我慢して!」
その言葉を言い続けて・・・、もう何度同じ言葉をかけ続けたのだろうと思った時。
抜け穴のずっと先に、小さな光が差し込んでいるのが目に飛び込んできた。
瞬間的にザナハは抜け穴の出口が見えて来たのだと判断して、疲れ切った顔に再び
笑顔が現れる。
「ほら・・・出口よ! ルイド、出口が見えたわ!」
元気づけるようにそう叫ぶと、突然周囲から異様な音が聞こえて来て背筋が凍った。
ギチギチギチギチギチ・・・。
ザナハは足を止めると、ルイドを支えたまま周囲を見渡す。
何も見えない・・・、抜け穴の薄暗さにはすでに目が慣れているから見逃すはずもない。
しかし不気味な機械音がザナハ達を取り囲むように、だんだんと音が大きくなって
近付いてきていた。
音から察するに恐らく、何百という数の機械人形がザナハ達を取り囲んでると推測し、
ザナハの顔に焦りの色が見える。
2~3匹ならまだしも、数が多くては・・・ルイドを守りながら戦うのはあまりにも
不利だった。
まるで抜け穴の壁の向こうには、おびただしい数の機械人形がうごめいているように
感じられて鳥肌が立って来る。
ザナハは正面を見据えると、機械音がしていても出口に向かう道には機械人形の姿すら
ない・・・。
ごくんっと生唾を飲み込みながら、ザナハは賭けに出た。
ルイドを支える手に力を込めて・・・声をかける。
「ルイド・・・、ごめんね。
辛いかもしれないけど・・・、出口まで一気に走るから我慢して!」
ルイドが小さく頷いたのを確認した瞬間、ザナハは一気に光の差す方向へと駆け出した。
前方に敵の姿が見えない内に、塔の中へ抜け出す。
狭い抜け穴の中で戦闘になれば圧倒的に不利な上、逃げ道すら確保出来ない。
しかし塔の中・・・広い場所に出ることが出来れば、何とかなるかもしれないと判断した。
もしかしたらオルフェ達がここまで迎えに戻って来ているかもしれない。
そんな期待も心のどこかで抱いていた。
二人とも息を切らしながら、必死に出口へ向かって走り抜ける。
あまりに夢中に走っていたから気付かなかったが、耳を澄ませると後方から奇妙な機械音が
大量に追いかけて来るような・・・そんな気配がしてザナハは後ろを振り向く余裕が持て
なかった。
ギチギチギチ・・・と、後ろから機械人形が追いかけて来ている。
ここで足を止めれば一巻の終わりだ・・・、ザナハは恐ろしさで涙が滲んで来そうだった。
機械人形が怖いから恐れているのではない。
このままルイドを守ることが出来ないかもしれないと思うと、恐ろしくてたまらなかった。
あと10メートル・・・。
あと5メートル・・・。
光がだんだん近づいて来る度に、ルイドを支える手に力が入る。
そしてようやく光の塔の内部だと思われる、大理石で出来た円筒のフロアが目に入った時。
ドォォーーンと目の前に巨大な機械人形が姿を現し、ザナハ達の行く手を遮った。
それはザナハ達が光の塔に入ってすぐに襲ってきた機械人形と酷似している。
右手には刃物、左手にはドリルを装備した機械人形が立ち塞がり・・・ザナハはどうする
ことも出来ず・・・無意識に叫んでいた。
「いやぁぁーーーっ! アギト、リュート・・・っ、助けてぇーーっ!!」
ルイドをかばうように抱きしめながら・・・、ザナハは救いを求めた。
もう駄目だと悟った瞬間、突然周囲が燃え盛る炎に包まれたように熱気がザナハ達を
襲った。
じりじりと肌が焼けるような熱波に、思わず後ずさりしてしまう。
何が起こったのかと・・・、ザナハが両目を開けて確認すると・・・。
ゴォォォーーッと激しい炎に包まれた機械人形が、鈍い音を発しながら・・・業火に
飲まれたまま床に崩れ去ってしまった。
「あ・・・・・・。」
呆然としていると、今度は崩れ去った機械人形の後方から火炎球が飛んで来て
ザナハ達の後方にいた小型の機械人形もまとめて焼き尽くす。
後ろを振り返ると何百何千といった小型の機械人形に、次々と炎が燃え移って
抜け穴のずっと奥の方まで炎が走って行くのが見えた。
「ザナハーーーーーーっ!!」
名前を呼ぶ声に、ザナハが振り返る。
安心しきったザナハはそのまま床に座り込んで、声の主の顔を見て安堵した。
「アギ・・・・・・ト。」
「ミラーーっ、ザナハがいたぞーーっ! ・・・つかお前、怪我とかしてんのか!?
何だよ・・・土まみれの埃だらけじゃねぇか、これで姫とか・・・よく言えんな。」
アギトがいつもの憎まれ口を叩く。
しかし不思議と嫌な感じは全くしなかった、むしろ・・・いつも通りの態度がかえって
ザナハを安心させるようで・・・なぜか心地よかった。
ふと、アギトはザナハの横で倒れている人物にやっと気がつく。
一気に顔がひきつり、汚物を見るような嫌悪感たっぷりの表情を作りながら
絶句していた。
「おい・・・、こいつ・・・っ!」
アギトの敵意剥き出しの態度に、ザナハが慌てて制止しようとする。
「違うの・・・っ、ルイドはあたしのことを・・・っ!」
『助けてくれた』と、そう言いかけた。
しかしアギトはルイドに人差し指を突き付けて、驚愕した面持ちで叫ぶ。
「お前・・・っ!
アビスグランドの首領であるルイドを、・・・お前一人で殺ったのか!?」
「ちがぁーーーーーーうっ! なんでそうなるのよっ!!
んなわけないでしょ、このバカーーーっ!!」
大声で否定する。
アギトが不可解な表情で立ちすくんでいると、ようやくミラがやって来てアギトと
同じ反応になり・・・ザナハが再び否定した。
「ミラ・・・、とにかく今は何も言わないで・・・聞かないで!
とりあえずルイドを安静に出来る場所で休ませたいから、運ぶのを手伝って
ちょうだい!
それからアギト、・・・ありがと。」
小さく漏らすと、ザナハは頬を赤らめながらミラと一緒にルイドを抱えて
風通しの良い場所へと移動させた。
何となく手伝うタイミングを逃したアギトは、首を傾げながら他に機械人形が
残っていないか・・・右手に剣を持ったまま残骸の中を物色する。
「私は医師ではないので簡単な応急処置しか施せませんが・・・。
回復魔法をかけるわけにはいかないのですか?」
「それはダメ・・・、今のルイドに回復魔法をかけると余計悪化するだけだから。
とにかく今はそっとしておくしかないわ。
こんな時、医学の知識を持っているオルフェがいてくれたら助かるんだけど。」
「それこそ逆効果ですね、かえって彼を殺しかねません。
一応ルイドは・・・名目上、私達の敵・・・ですからね。」
ミラがきっぱりと、何の迷いもなく断言した。
そのあまりにハッキリとした口調に、変な説得力があって納得してしまう。
「そっか・・・、オルフェの性格までは読んでなかった。」
心配そうにルイドを見つめるザナハの様子を窺いながら、ミラが尋ねる。
「それで? ルイドと一体何があったのですか!?」
ミラがザナハに尋ねた時、ちょうどアギトも他に敵が残っていないのを確認し
終えて戻って来る。
深刻な表情のミラ、少し表情に陰りのあるザナハ・・・。
そして苦しそうに横たわるルイドの姿、それらを目にしながらアギトは3人から
放たれている重たい空気に圧倒されていた。
ひくひくと顔面をひきつらせながら、とにかく今ザナハが何かを説明しようと
していることだけ把握して・・・、一応話を聞く姿勢だけは取る。
「あたしが奈落に落ちて行った時、ルイドがあたしをかばって助けてくれたの。
奈落から塔へ続く抜け穴を発見したまでは良かったんだけど、そこに機械人形が
現れて・・・その1匹を倒すことは出来たわ。
途中でルイドが発作を起こして倒れて、一応あたしのことを助けてくれた恩人だし
見捨てるわけにもいかなかったから・・・ルイドを連れて、ここまで来たのよ。
あとはアギトやミラが見た通り。」
ザナハは自分がルイドに告白したことや、ディアヴォロの核に関する内容だけは
伏せておいた。
核に関しては元々アシュレイやオルフェから伏せておくように言われていたからだ。
もしかしたらミラはすでに知っているかもしれないが、ここにはアギトがいる。
ザナハは念の為、慎重に言葉を選んだつもりだった。
何か腑に落ちない・・・という顔で、アギトは品定めするような眼差しでザナハを
見据える。
それでもザナハは全てを言うつもりはなかった。
(言えるわけないじゃない・・・。
他の人間ならともかく、なんであたしがルイドに片思いしてることをこいつに
言わなきゃなんないのよ。)
つーんとあからさまにそっぽを向いて、ザナハはこの場を乗り切るつもりでいた。
当然アギトは完全にシカトされたことに気付き、わなわなと握り拳に力を込める。
「んなことより、これから一体どうすんだよ!?
オルフェ達はフィアナを追って最上階まで上って行ってるし・・・。
大体こいつの体調がいつ回復するかもわかんねぇんだろ?
このまま時間を無駄にしてもいいのかよ、オレ・・・オルフェにイヤミ言われるの
お断りだぜ!?」
唇を尖らせながら文句を言うアギト。
しかしそれも最もだとミラは頷きながら、ザナハの方に目線で訴える。
ザナハもルイドの発作がどれ位で治まるのか見当もつかないので、返事のしようがない。
3人が困り果てていると、突然囁くような・・・弱々しい声がした。
「これはこれで・・・、契約の旅の妨害が出来て・・・不幸中の幸いというわけだ。」
そう呟きながら、ルイドが上半身を起こす。
アギトはルイドの言った言葉を真に受けて、怒り狂った。
「なにおーーっ!? やっぱな! そんなこったろうと思ったぜ!
お前みたいな憎まれっ子はなぁ、しつこく世にはばかるもんなんだよ!
こんなんでオレ達の足止めが出来たと思うなよ!?
オレがその気になればなぁ、ヴォルトを使ってさっきの機械人形を操って
塔の最上階まで乗り物代わりにしてやること位、お茶の子さいさいなんだからな!」
・・・え? という空気が流れる。
突然全員がフリーズしてしまったので、アギトは怪訝な顔になって言葉を付け足した。
「いやだから・・・、ヴォルトで機械人形の制御盤に細工してだな・・・。
そんで機械人形に乗って塔の最上階まで・・・。」
砕いて説明し出すアギトに、ザナハが怒りを抑えながら聞き返す。
「そうじゃなくて・・・、え・・・何?
それじゃ最初からヴォルトを召喚していれば、これまで襲ってきた機械人形を
片っ端から手駒にすることが可能だったって・・・、そう言いたいわけ?」
しばしの沈黙の後、確認するように今度はアギトの方から尋ねる。
「だって・・・、え・・・?
自立性の機械だったら、コントロールする為の制御盤みたいなのがあるんだろ?
水の魔法で制御不能になったのだって、その制御盤があったから・・・。」
「確かに・・・。
機械系を操作するには、雷属性でエネルギーを与えながら操作するか。
あるいは制御盤を取りつけて、自立性を持たせる方法がありますけど・・・。
うっかりしていた私も悪いですが・・・、アギト君?
機械人形の制御盤に関しては、いつ頃気付いたんですか・・・!?」
呆れたようにミラが呟く。
だんだん空気が怪しい方向に向かっていってるのを肌で感じながら、アギトは
恐る恐る正直に答えた。
「えと・・・、いっちゃん最初の機械人形を水の魔法で制御不能にした辺り?」
「初めからわかってたってことじゃない!
なんでそれを早く言わないのよ、今まで散々機械人形をなぎ倒していったのは
何だったのよ!」
なぜか責められて、アギトもキレる。
「何だよ! 大体ヴォルトで本当に操れるかどうかの保証もねぇじゃん!
オレばっかり責めんじゃねぇっつーの!」
「あんたが言ったことでしょおっ!?
ヴォルトで操るのはお茶の子さいさいだって!」
「あれは半分ハッタリに決まってんだろうが、ルイドの目の前でバラすんじゃねぇよ!
オレ一人だけがカッコ悪いじゃねぇか!
つーーか、今はこんなことでモメてる場合じゃねぇだろうが!」
ぜぇぜぇと息を切らしながら、完全に脱線してしまったので軌道修正をする。
ハッとしてルイドの方に目をやると案の定、黙ったまま呆れた顔で見つめていた。
醜態を晒してしまったアギトは、ルイドから視線を逸らしてやり過ごす。
ルイドは発作が治まってすっかり体調が回復したのか、すっと立ち上がると
アギト達から距離を離して向かい合う。
「オレがザナハ姫を気まぐれで助けたのも・・・、さっきの介抱で貸し借りが
なくなったことになるな。
これで元通り・・・、オレ達は敵同士に戻ったというわけだ。」
ルイドの言葉に、ザナハが声を荒らげる。
「どうしてっ!?
あたし達・・・、協力し合えるかもしれないのに・・・っ!
どうして敵同士として戦わなくちゃいけないのっ!?」
「それは・・・、オレがアビス側の人間で・・・お前が光の神子だからだ。」
淡々と告げる言葉に、ザナハはもどかしさで言葉を返せなかった。
種族の違い・・・、国の違い・・・。
たかがそんなことの為に争わなければいけないなんて・・・。
ついさっきまでの・・・、あのへだたりのなかった距離は一体何だったと
言うのだろう・・・。
誰に聞いても、問いただしても・・・。
誰しもが『アビス人は敵だ』と、口を揃えて答える・・・そんな世の中。
そんな間違った常識が人々を洗脳し・・・、争いの絶えない世界にしている。
ルイドも同じなんだと・・・、思っていなかった。
・・・そう思いたくなかった。
アギト・・・、そしてミラがザナハの前に立ちはだかって武器を構える。
フロア内に緊張が走った。
スゥーッと細長いレイピアを抜き取り、ルイドが構えた時・・・。
ドゴォォーーーン!
突然奈落の抜け穴から巨大な機械人形が姿を現し、残骸になった小型の
機械人形を踏みつけながらアギト達の方へと迫って来た。
「くそ・・・っ、まだいたのかよっ!」
下を打ちながらアギトがルイドと機械人形、両方に注意を走らせながら戸惑う。
ルイドと一戦交えようとしていた矢先なのに・・・、横槍を入れるように機械人形が
乱入してきたせいでどっちに剣を向けたらいいのかわからない。
するとミラが冷静な表情で、機械人形に銃口を向けながらルイドに交渉した。
「ルイド、ここは共同戦線と行きませんか!?」
「・・・何?」
ルイドが左手でレイピアを構えたまま、視線だけミラの方に移して聞き返す。
「あの機械人形・・・、光の塔に侵入する者全てを敵と認識するように
プログラムを組まれているはず。
もし光の神子の試練として立ちはだかるプログラムを組まれているのなら、
ザナハ姫とはぐれた時点で私達はターゲットから外れることになります。
しかしザナハ姫とルイドが奈落の底に落ちた後も、私とアギト君は階下に
下りて行く途中で機械人形に襲われ続けた・・・。
つまり今目の前に立ちはだかる機械人形も、『目前に存在している侵入者を
消す』・・・という単調なプログラムが組まれてると言えるでしょう。
それならばここは三つ巴になった際の基本として、共通の敵を迎え撃つのが
得策になりませんか?」
機械人形の胴体部分からガトリングガンのような連射型の銃口が姿を現し、
アギト達めがけて射撃してきた。
全員素早く散開して回避し、ザナハが機械人形との間にウンディーネの水の結界を
張ってミラの交渉の時間稼ぎをする。
「オレがこのまま一人で逃げ出し、あの機械人形にお前達を始末させる。
・・・という方法もあると思うが?」
試すような眼差しで、ルイドが笑みを浮かべながら不吉なことを口走る。
しかしミラは余裕の笑みで返した。
「以前大佐から言われた言葉をそのままあなたに返しますよ。
ルイド・・・、あなたはそんなことをしません。
もしそのつもりがあるのなら・・・、あなたは数年前にザナハ姫を誘拐した時
すでに手を下していたはず。
それに・・・、奈落の底に落ちて行ったザナハ姫をあなたは救ってくれた。
私はあなたの中にある慈悲に、・・・賭けてみようと思っているんです。
・・・どうですか?
もしここで私達が手を組めば、さっきアギト君が言った方法を試すことが
出来るかもしれませんよ。」
「あの機械人形を操って、最上階まで上りきる・・・か。
確かにフィアナを回収する為に、ここから最上階まで自力で上って行くには
厳しいものがあるな・・・。
いいだろう、しかし手を組むのはあの機械人形で最上階に上りきる所までだ。
その後は手の平を返したように、お前達に刃を向けるから・・・恨むなよ?」
「交渉成立、ですね?」
水の結界で連続射撃を防ぎきると、ようやく弾切れになった機械人形が今度は
両手に装備した巨大なハサミとドリルを振りかざして襲いかかって来る。
ミラとルイドの交渉が成立したことを確認して、ザナハはこちらから迎撃する為に
水の結界を解く。
4人が・・・、横一列に並んで機械人形に対抗する。
約1名だけ腑に落ちない顔だが、誰もそんな些細なことは気にしていなかった。
「いいですか?
自立型の機械人形に設置された制御盤は、本体の中で最も防御力の高い部分に
隠されているはずです。
しかし操った後もあの機械人形を使って最上階まで上らせるのですから、出来るだけ
車体にダメージを与えないようにお願いします。
変形させて走行に支障をきたしては、元も子もありませんからね。」
「わかってるわ! そんなヘマはしないわよ!」
「それから・・・、当然水属性の魔法も禁止です。
制御盤がショートしたら、操る以前の問題になりますからね!?」
すかさずミラが注意した。
アギト、ザナハ、ルイドが頷き・・・それぞれ武器を構えて機械人形に
立ち向かおうとした瞬間・・・。
まさにその瞬間だった・・・。
「ほわちゃあーーーーーっ!!」
がっしゃあぁあーーーん!!
突然・・・奇声と共に、機械人形が吹き飛び・・・円筒のフロアの壁に
叩きつけられた。
ガラガラと瓦礫の下敷きになりながら、見ると機械人形の車体は極端なまでに
変形しており・・・鈍い音を立ててピクピクとドリルを動かしていたが・・・、
やがて完全に動きが止まってしまう。
全員呆気にとられて・・・アゴが外れたように口を大きく開けっ放しにしながら
硬直していた。
「・・・・・・えっ!?」
一体何が起きたのか・・・。
4人が呆然としていた時、上の階へ続く階段の方から高笑いがこだましてきた。
「あーーっはっはっはっはっ! 皆の者、怪我はないかのう!?」
聞き覚えのある・・・、このどこか癇に障る高笑い。
そして・・・人の神経を逆撫でする、上から口調。
アギトは小刻みに震えながら、懐かしい空気ブチ壊しの張本人を睨みつけた。
黒地に赤と金色の刺繍を施したゴージャスなチャイナ服、金屏風をイメージした
ような扇子・・・。
燃えるような赤い髪に、左右のこめかみ部分から生えている鹿のような角・・・。
そして・・・思わず殴りたくなるような、自信に満ちた三白眼。
「長い間随分と待たせてしまったのう!
龍神族の次期族長・・・、炎の龍神・サイロン様・・・華麗に登場じゃ!」
あらかじめ自分で用意していたのか、チャイナ服のポケットから紙吹雪を鷲掴みに
して・・・掛け声と共に自分で紙吹雪をまき散らかすサイロン。
しかし拍手も歓声もなく・・・ただ、うすら寒い風だけが吹きすさぶ。
わなわなと震えていたアギトが、遂に我慢出来なくなりサイロンに向かって怒声を
浴びせた。
「ぬぁーーーにが華麗に登場だっ!
お前がいきなり再登場したのなんかどうでもいいんだよ!
そんなことより、この始末・・・どう落とし前付ける気だコラァー!」
ダンッと力一杯片足を床に蹴りつけて、思い切り怒鳴った。
しかし全く言ってる意味がわかってないのか・・・、サイロンは扇子で口元を
隠す仕草をしながら小首を傾げる。
「なんじゃ・・・、せっかく余がお主らのピンチに駆け付けたというのに。
何がそんなに不満なんじゃ!?」
「だぁーかぁーらぁーっ!
せっかくオレ達があの機械人形を無傷で捕獲しようとしてたのに、お前っ!
何勝手に計画をメチャクチャにした挙げ句、思い切りダメージ与えてくれてんだよ!
おもっきりヘコんでんじゃねぇかっ! 再起不能になってんじゃねぇかっ!
あれじゃ使い物にならねぇじゃんかぁーーーっ!!」
フロア中に・・・、アギトの悔しさ全開の絶叫が空しくこだました・・・。