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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
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第194話 「貫く想い」

 暗い奈落の底で・・・、ザナハの悲痛な叫びが響く。

肩を震わせながら必死にすがるザナハを・・・、ルイドは抱き締められずにいた。

抱き締めようとする手を理性で抑え、ルイドはそっとザナハの両肩に手を添えると

そのまま自分から距離を離す・・・。

平静を装った顔で・・・、ルイドは拒絶する言葉をザナハに突き付けた。


「お前が今言った想いは・・・、ただの錯覚だ。

 オレが思うに・・・お前は、恐らくアシュレイからオレのことを聞いたんだろう?

 そしてお前はオレに同情した・・・、それを愛だと錯覚したに過ぎない。」


そう突き付けられて・・・、ザナハは首を振って必死に否定する。


「違う・・・、違うっ!

 確かにお兄様からルイドの・・・、あなたの体のことは聞いたわ。

 でもそれとこれとは全く関係ない!」


「お前自身が気付いていないだけだ・・・。

 仮にオレがお前のことを受け入れたとして、・・・それで一体どうなる!?」


 苦痛を隠す眼差しから、ルイドは厳しい眼差しに変わると上半身の衣服を剥いで

自分の心臓をザナハに見せつけた。

ルイドの心臓にはまるで別の生物が寄生するように、しっかりとルイドの肉体に根を

張って息づいている。

赤黒い物体は完全にルイドの心臓と一体になっているようで、ルイドの心臓の鼓動に

合わせて同じように脈打っていた。


「これを見ろ・・・、ディアヴォロの核だ・・・。

 先の大戦で封印から覚醒めざめかけたディアヴォロが、闇の戦士だった

 オレの肉体を乗っ取ろうと寄生してきた・・・そのなれの果てだ。

 ディアヴォロの核は完全にオレの肉体と融合し、今もなおオレの肉体を蝕み、

 侵食し続けている・・・。

 故にオレの肉体は限界に達し、・・・もってあと1~2年といったところだ。

 そんなどうしようもないオレを愛したところで、お前に何が得られると言う?

 もしお前の気持ちが錯覚ではないと言い張るのなら・・・、今がいい機会だ。

 そんな思いは、今すぐ・・・ここで捨て去るがいい。

 ・・・それがお前の為だ。」


 ドクンドクンと大きく脈打つ核を見て・・・、ザナハは言葉を失っていた。

アシュレイから話を聞いてはいたが、実際にディアヴォロに寄生されたルイドの姿を

見たのは・・・これが初めてだったからだ。


 ショックが隠せなかった・・・。

自分の想いを拒絶されたことよりも・・・、ザナハはルイドの余命に大きな

ショックを受けていた。


「それ・・・っ、その核だけを取り除くことは・・・出来ないのっ!?」


そう問われ、ルイドは衣服を直すと平然とした顔で答える。


「不可能だ・・・。

 これはオレの心臓と完全に一体化している為、逆にこの核を取り除こうとすれば

 オレも命を落とすことになる。」


 それ以上、ザナハは何も言えなかった。

・・・聞けなかった。


 ずっと抱えて来た想いをようやくルイドに伝えたというのに、今のザナハは

その告白すら忘れてしまう程・・・ひどく混乱していた。


それ程、ショックが大きかった。


 立ち尽くしたままザナハが硬直していると、ルイドは踵を返すように洞窟の出口に

向き直って・・・冷たくあしらう。


「・・・これで話は終わりだ、そろそろここから出るぞ。」


 それだけ言い残すと、ルイドは振り向くことなく・・・そのまま光の塔へ戻る為の

抜け穴へと入って行ってしまった。

ザナハは躊躇いながらも、黙ってルイドの後ろを追いかけるように走って行く。

少し狭苦しい抜け穴をひたすら進んで行くが、お互い無言のまま歩くだけだった。

その間にもザナハは先程突き付けられた真実を思い返し、未だに混乱したままである。


(あたし・・・、ルイドのこと何もわかってなかった・・・。

 ディアヴォロの核に取り込まれたせいで、肉体を蝕まれていたなんて・・・!

 それなのにあたし・・・、一人ではしゃいで・・・浮かれて!

 ・・・馬鹿みたい。

 こんなんじゃルイドに嫌われて当然かも・・・。)


 ルイドの背中を見ることも出来ず、ザナハはうつむいたまま・・・考え事をしながら

ついて行った。

沈黙を保ったまま歩き続けて・・・、ようやくひとつの結論に達する。

ザナハの顔に、もはやさっきまでの迷いや動揺は消え去っていた。


「・・・決めた!」


 後ろからザナハが突然声を出し、ルイドは怪訝に思って振り向く。

見ると・・・、満面に笑みを浮かべたザナハがルイドを真っ直ぐと見つめていた。


「・・・・・・?」


 ルイドはザナハの告白を拒絶した、・・・にも関わらずルイドの目の前で

笑みを浮かべて立っているザナハの心理状態を、ルイドは理解出来ないでいる。

眉根を寄せて不思議そうな顔で立ち尽くすルイドに、ザナハが凛とした声で告げた。


「あたし、決めたの!

 ルイドにフラれたことも・・・、ディアヴォロの核のことも・・・。

 レムグランドのこともアビスグランドのことも、全部まとめて面倒みるって!」


人差し指を立てて、ルイドに宣言するように突き付ける。


「今はフラれたかもしれないけど・・・、あたしまだ諦めないから!

 好きなものは好きなんだもの!

 でもだからといって光の神子を放棄するわけでもないわ!

 ずっと自問自答して出した答えだから・・・。

 どう悩んだって・・・、どう考えたってこれがあたしなんだもの。

 ルナの試練は深層心理の奥の奥まで試されるって話だから、今更ヘタに隠したって

 どうしようもないわ・・・。

 だからあたしは自分に正直のまま、思ったままでいこうって決めたの。

 例え『レムグランドを救いたい』っていう気持ちが、『ルイドを救いたい』っていう

 気持ちの平行線上にあったとしても・・・、あたしは恥じることなくそれを貫くの!

 回りから蔑まされようと、あたしはもう回りに振り回されることはイヤだから。

 だから・・・、あたしはルイドが大好きっていう想いを抱いたままルナの試練を

 受けるつもりよ。

 もしそれで・・・運良く契約を交わすことが出来れば、ルイド・・・。

 ルナの加護があれば、あなたの体に取りついた核を何とか出来るかもしれない。

 あたしは絶対に諦めない・・・、諦めたくないから!」


 それがザナハの答えだった。

全てありのままを受け入れ、自分の醜い部分すらも受け入れた上でルナの試練に

挑もうと決意した・・・。

ルイドにフラれても平気・・・、と言えば嘘になる。

本当は大声で泣き出したい程、傷ついていた。

しかし泣いたところでどうしようもないのは、目に見えてわかっていることだし

いつまでもウジウジとする自分に嫌気がさしている・・・、というのも正直な所だ。

だからザナハは辛い気持ち、悲しい気持ちをかき消すように明るく振る舞うことにした。

虚勢かもしれないが、これこそ本当の自分の姿なんだと・・・。

今なら自信を持ってそう言える。


もう・・・、誰にも心配かけたくない。

自分が笑顔になることで、誰かを安心させることが出来ると・・・教えられたから。


 この気持ちだけは絶対に曲げない、そう強く訴えるように強気な笑顔で宣言する

ザナハを見て・・・ルイドはたまらなくなり、同じように笑みをこぼした。

肩を震わせるように、心からおかしくてたまらない・・・とでも言うように。

ルイドがこれ程までに笑った姿を、ザナハは今まで見たことがなかった。

あまりにウケている様子を見て・・・、思わず恥ずかしくなってくる。


「な・・・、なによ!

 何もそこまで・・・、お腹を抱えてまで笑うことないじゃない!」


 つい文句を言ってしまう。

相手は敵なのに・・・、まるで今の二人の間にはそんないさかいなど・・・

ほんの些細なことだとでも言うように、何のへだたりも感じられなかった。


「すまん・・・、ここまでハッキリ宣言されるとは思っていなかったから・・・。

 随分と前向きな考えをするようになったんだな、オレには到底マネ出来ん。」


「それ・・・、褒めてないでしょ!?」


ルイドの言葉に、ザナハが返した時・・・。



ドォォーーーーン!



 突然ルイドの後方、・・・光の塔へ向かう方向の壁が崩れて小型の機械人形が

姿を現した!

ルイドはすかさずザナハの盾になるように立ちはだかると、腰のベルトに装備

していたレイピアを抜き取り構える。

ギチギチと機械音を鳴らしながら、じわじわと二人に迫って行く機械人形。


・・・と、突然ルイドが膝をついて苦しそうに咳き込みながら倒れてしまった。


「・・・ルイドっ!?」


 ザナハが慌ててルイドに手を貸そうとしたら、ルイドは吐血しながらぜぇぜぇと

喘息のように荒い呼吸をしながら苦しんでいる。

咄嗟にザナハが回復魔法をかけようとした時、ルイドがそれを制止した。


「それはダメだ・・・っ、この発作はディアヴォロの核の浸食が活発になった時に

 起きるもの・・・!

 そんな状態で回復魔法をかけられたら、核の活動がより活発になって・・・更に

 浸食が進んでしまう・・・っ!

 放っておけば・・・、じきに治まる・・・っ!

 だからお前だけでも・・・、ここは逃げるんだ・・・!」


 苦しみを和らげる為に呼吸を浅くしながらザナハに告げるが、当然ザナハは

ルイドの言葉を無視して・・・逆に自分が前に進み出て、対峙しようとした。


「馬鹿言わないで、ルイドをこんな所に置いて行けるわけがないでしょ!?

 機械人形はこの一匹だけなんだから、あたし一人でも十分倒すことが出来るわ!

 こいつらは水属性が弱点だってミラから聞いたし、任せてちょうだい!

 あたしがルイドを守ってあげるから!」


 ザナハが機械人形に立ち向かう姿を、苦痛に耐えながら見届けることしか出来ない

自分に腹を立てるルイド。

こんな時に発作が起きるなんて・・・! と思いながら、何とか体を起こそうと

するがその度に、心臓に激痛が走って苦しみ悶える。

思うように体が動かないルイドは、早く発作が治まるように出来るだけ安静にした。


「アクアレイザー!」


 ザナハの詠唱と共に、機械人形の足元から水属性のフィールドが縦長に展開すると

その範囲から水が吹き出すようにして、水圧が標的を襲う。

大量の水に包み込まれた機械人形はそのまま動きが鈍くなり、制御不能になる。

すかさずザナハは掌底しょうていを機械人形に叩き込むと、流れるように

壁に向かって激しく蹴り上げた。

十分に練り上げられたマナを込めた蹴りは、凄まじい破壊力を持っており・・・

機械人形はその衝撃で粉々に砕け散ってしまう。

ふぅーっと息を吐いて、呼吸を整える。

そしてルイドの方に駆け寄ると、ザナハは自分の肩にルイドの腕を回して立たせた。


「ルイド、本当は安静にしてなきゃいけないんだろうけど・・・我慢して!?

 ここでモタモタしてたら、また次の機械人形が襲ってくるかもしれないし。

 ここを出るまでの辛抱よ!」


 ルイドの重みにも懸命に耐えながら、ザナハは決して・・・ルイドを見捨てようとは

しなかった。

ルイドは視界がかすみながらも、ザナハの瞳を見つめて呟く。


「本当に・・・、諦めが悪いんだな・・・。」


 そのまま・・・、ルイドは小さな肩に手を回して・・・自分の体を少女に預けたまま

意識が飛びそうになるのを必死で堪えて・・・、何とか一緒に歩いて行った。


 



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