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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
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第193話 「青い鳥の主は・・・」

 奈落の底へと落ちて行ったザナハとルイド・・・、アギトは動揺を隠せずに

慌てふためいていた。

目を凝らしても奈落の底は真っ暗で、何ひとつ見えない。

するとアギトは何を思ったのか・・・上階からこちらを見下ろしているグリフィンに

向かって叫んだ。


「あいつに乗って底の方まで行けば、助けに行けるんじゃねぇのかっ!?」


しかし、そううまくはいかなかった。


「そんなことの為に、この子を貸すわけがないでしょう?」


 甘く・・・、どこか媚びた声が聞こえてくる。

アギト達は今の声が、確かにグリフィンの方から聞こえてきたことに怪訝に思いながら

目を眇めた。

グリフィンが突然目の前に現れた時は、背にまたがっていたルイドしか目に入らなかった

のだが・・・よく見るともう一人・・・。

金髪の少女が、グリフィンの背に乗っているのが目に映る。


・・・フィアナだ。


 フィアナは相変わらず不敵な笑みを浮かべて、こちらを見下していた。

自分の主君であるルイドまで奈落の底へと消えて行ったにも関わらず、フィアナは動揺

すらしていない。

フィアナの姿を確認すると、オルフェは冷たい表情を浮かべて前に進み出た。


「フィアナ、やはりお前が結界内で魔物を召喚したんだな?」


「・・・え!?」


アギトがオルフェの顔を見上げて、声を漏らす。


「この土地に張られた結界は、外部から侵入しようとする『魔物』を退ける為のもの。

 しかし『アビス人』を退ける力までは持っていないのですよ。

 恐らく二人は結界内に侵入してから、フィアナの召喚術で魔物を召喚し塔まで来た。

 ・・・といったところでしょう。」


オルフェの憶測に、フィアナはたじろぐこともなく普通に相槌を打っている。


「正解よ、さすがお兄様。

 ご褒美に今ここで全員殺すのだけは勘弁してあげる。

 あたしはこの子と一緒に最上階にあるルナの祭壇の間で待っててあげるから、

 あなた達はそのままあたしを追って最上階を目指すか・・・。

 それとも奈落の底へ落ちて行った馬鹿な神子を追いかけて、もう一度この長い階段を

 下りて行くか・・・好きな方を選ぶといいわ。」


 邪悪な笑みを浮かべながら、グリフィンが翼を羽ばたかせた時・・・アギトが

フィアナに向かって声を荒らげた。


「おい待てよ!

 仮にも自分の親玉が奈落の底に落ちて行ったってのに・・・、助けに行く気は

 ないのかよっ!?

 この高さから落ちたんじゃ、二人とも無事じゃ済まないかもしんねぇんだぞ!?」


 アギトの訴えも空しく、フィアナの顔から突然笑みが消えて・・・侮蔑を含んだ

眼差しでアギトを見下した。

オルフェに対する態度と比べて明らかな差があることに、アギトは不快に感じる。


「勘違いしないで。

 別にあたしはルイドに対して忠誠心があるわけでも、深い思い入れがあるわけでも

 ないわ。

 むしろこのまま死んでくれた方が、あたしにとっては都合がいいのよ。

 あなた達だってそうでしょう!?」


 それだけ言うと、フィアナは何の未練もなくそのままグリフィンと共に階段を

駆け上がって行ってしまった。

これ以上フィアナ相手に何を言っても無駄だと判断してか、オルフェはメガネの

ブリッジに指を当てながら全員に指示を出す。


「・・・ここは二手に分かれましょう、戦力を分散するのは好ましくありませんが。

 あのまま最上階へ向かったフィアナを放っておいたら、祭壇の間に何か良からぬ

 ことをするかもしれませんからね・・・。

 仮に全員で最上階へ向かったとしても・・・、光の神子である肝心のザナハ姫が

 いなければ元も子もありません。

 私とドルチェで最上階へ向かったフィアナを追いかけますから、アギトと中尉は

 ザナハ姫の捜索をお願いします。

 大司祭の話では、奈落と光の塔をつなぐ秘密の通路があるらしいですからね。

 それに賭けるしかないでしょう。」


「ま・・・、それしかねぇわな。」


 誰一人として異論なく、オルフェとドルチェは階段を駆け上がり・・・アギトと

ミラは階段を駆け下りた。 





 かなりの高さから落ちたザナハが気を失いかけていた時、誰かが自分の腕を掴んだ

ことに気付き・・・懸命に瞳を開ける。

するとそこにはザナハと同じように塔から落ちて行くルイドの姿があり、目を疑った。


「ど・・・、どうしてっ!?」


 精一杯声を張り上げるザナハだが、思うように声が出ない。

ルイドはそのままザナハの腕を引っ張ると、まるで包み込むようにザナハを抱き締めた。


「大丈夫だ・・・、心配するな。」


 そっと囁くように・・・、ルイドの声がザナハの全身をくすぐる。

強く抱き締められ、ザナハは少し息苦しくなりながらも・・・どこか安心していた。


ドクン・・・、ドクン・・・。


 ルイドの鼓動が聞こえる・・・、耳元で脈打つ・・・。

そういえばいつも基本的に軽装なのだが、今日はプレートメイルを装備していない。

だから余計にルイドの心臓の音がハッキリと聞こえる・・・。


 強く抱き締める腕と、ルイドの温もりと・・・、鼓動の音に・・・、ザナハは

心地よさを感じていた。

こんな時に・・・、と思いながらもこの胸の高鳴りだけはどうしようもない。


ドクン・・・、ドクン・・・。


 自分の鼓動の音も・・・、だんだん激しくなっていく・・・。

ルイドに聞こえていなかったらいいのだけれど、と心の中で呟いた。





 ザナハを抱き締め、ルイドはマナを集中させた。

しかし・・・慌てていたせいか、今更重大なことを思い出す。


(そうだ・・・、しまった!

 風の精霊シルフはすでに、マスター権をリュートに譲ったんだったな・・・。

 これじゃ飛ぶことも出来ない・・・、どうする!?)


 奥歯を噛みしめながら、ルイドは自分のミスに苛立った。

しかし自分が動揺すればザナハを不安にさせると思ったルイドは、ザナハを強く

抱き締めることで不安や恐怖感を払拭させようとする。

そして塔の入り口を通り過ぎ・・・、更に下へと落ちて行くルイド達。

辺りが完全に闇に閉ざされ、視界が悪くなって・・・ルイドは一か八かの賭けに出た。


(うまくいくかどうかわからんが・・・、このまま二人揃って死ぬよりはマシか!)


 そう心の中で呟くと、ルイドは左手にマナを集中させて進行方向・・・奈落の底に

向かって左手をかざした。


「堅き守りを司りし、大地の精霊よ・・・!

 我が声に応え・・・、汝の偉大な力を我に与えたまえ!

 現れ出でよ、ノーーム!!」


 ルイドの左手から大地のマナが溢れだし・・・、闇に閉ざされた空間を照らし出す。

その瞬間回りの光景が目に映った。

深い洞窟の中のようで、回りは切り立った崖のようになっており・・・下を見下ろすと

ようやく穴の底が見えていた。

ルイドは一気にマナを放出してノームの出現場所を特定させる。

ちょうどルイド達の落下地点の地面が、空気を含んだようにふっくらと盛り上がった。

それを目で確認すると、ルイドは腕の中にいるザナハが地面に激突しないように。

自分の体が下に来るように・・・、自ら地面に背を向けてザナハをかばった。

そして・・・。


ドォォーーーーーーンっ!!


「・・・ぐぅっ!!」


 ルイドは短い呻き声を上げながら、それでもザナハを抱き締める腕の力を緩める

ことなく・・・衝撃を全て自分一人で受け止めた。

空気を含んだ地面がクッションとなり、着地の衝撃でもうもうと土煙が舞う。


「ごほっごほっ!」


 ルイドとザナハが土煙を吸って、むせるように咳き込んだ。

ようやく腕の力を緩めてザナハを解放すると、そのまま地面に横たわったままルイドは

全身の激痛に必死で耐えている。

両手足を地面について咳き込むザナハは、両目を開けて回りの状況に目を走らせた。

周囲は真っ暗だが、うっすらとここが洞窟の奥深くであることが確認出来る。

そしてザナハのすぐ横には、苦痛に顔を歪めたルイドが倒れていた。


「・・・ルイドっ!」


 ザナハはすかさず治癒魔法をかける。

だんだんと全身の痛みが引いて行き、ルイドの顔から苦痛が消えて行った。

なんとかダメージ分の回復を済ませると、ザナハは戸惑いながら・・・そっと右手で

ルイドの頬に触れる。

左頬の十字傷をなぞるように、・・・そっと指先を走らせると突然がしっと腕を

掴まれた。

一瞬驚いたが、目の前で倒れているルイドと目が合うと・・・また心を落ち着かせる。


「ルイド・・・、他に痛い所はない?」


 かすれた声で、ザナハが尋ねる。

ルイドは視線を逸らしながら、腕や足を動かし・・・異常がないことを確認してから

上半身を起こして地面に座った。


「いや、大丈夫だ。

 ザナハ姫の方こそ、どこか怪我をしていないか。」


「あたしは平気・・・、ルイドがかばってくれたおかげで・・・。」


「そうか、ならいい。」


 短い言葉を交わすと、ルイドは立ち上がり・・・回りを見渡す。

上を・・・、そして周囲を。


「ノーム、いるか?」


 ルイドの呼びかけに反応して、先程ルイドが激突した地面の辺りから巨大な

モグラが姿を現す。

もこもこっと地面の土を掘り返しながら、頭だけを突き出して話しかけて来た。


「の~~~ん、いるぞぉ~~。」


のんびりとした口調で、土の精霊であろうノームがルイドとザナハを交互に見る。


「続け様悪いが、上階へ続く道を見つけられそうか?」


「土の質が異なる場所があるぞぉ~、人工的に掘り返して何千年も経ってる

 場所だぁ~~。

 ここから北東の方向へ真っ直ぐ行けばぁ~、ここから出られるぞぉ~。」


 ノームが言った方向に目をやると、暗くてわかりづらかったが確かに小さな抜け穴の

ような場所を見つけた。


「あれだな。

 ・・・よし、何とかここから抜け出ることが出来そうだ。

 礼を言うぞノーム、もう還って構わない。」


「それじゃあ~なぁ~~!」


 そう返事をすると、ノームはそのまま再び地面の中に潜って行ってしまった。

ルイドとノームの会話を不思議そうに眺めるザナハに、ルイドは微かに微笑んだ。

呆けてた顔を見られて、ザナハは急に恥ずかしくなってくる。


「精霊との会話は珍しくもないだろ、お前にだってウンディーネがいるんだ。

 それとも・・・、ノームの姿と喋り方がおかしかったのか?」


「うん・・・それもあるけど、土の精霊自体見るのは初めてだったし・・・。」


「そうか、それは貴重な体験が出来て良かったな。

 さぁ・・・無駄話はこれ位にして、早くここから出るぞ。」


 ルイドがそう言葉を締めくくると、地面に座り込んだままのザナハの方へ歩み寄り

手を差し伸べる。

ザナハはルイドを見上げ・・・、少し躊躇いがちにその手を取って立ち上がった。

先を急ぐように・・・抜け穴の方に向かって歩いて行くルイドの背を見つめながら、

ザナハは思い切って声をかけた。


「待ってルイド・・・っ!」


 その声に、ルイドは足を止めて・・・振り向く。

ザナハは鼓動が速くなるのを感じながら、勇気を出して全てを打ち明けようと決心した。

今までずっと聞きたかったこと、確かめたかったこと、抱いていた思いを・・・。


「・・・話が、あるの。

 とても大事な話・・・、今ここで・・・聞いて欲しい。」


「そんな時間があるのか?

 アギト達がお前の心配をしているだろう、それに上に残したフィアナのことも

 気がかりだ・・・。

 今はさっさとここから抜け出ることだけを考えるんだな。」


 まるでわざと遠ざけるように・・・、ルイドは興味がないという口調で遮ろうとする。

しかしザナハは食い下がらなかった。

声を荒らげて、・・・殆ど悲鳴に近い声でルイドに訴える。


「今ここで話さないと意味がないのよっ!

 その為にここへ来たんでしょう!? あたしと会って話をする為にここまで

 来たんでしょっ!?」


 殆どヒステリックになりながら叫ぶザナハ・・・。

ルイドはザナハの方に向き直ると、冷たい視線を投げかける。


「オレがお前を助けたからと言って、勘違いするんじゃない・・・。

 光の神子であるお前には、まだ利用価値があるから生かしているだけだ。 

 敵であるこのオレが・・・、お前に興味があるとでも言いたいのか?」


 突き放すように・・・、棘のある口調で言い放つルイドに向かってザナハは

大粒の涙をこぼしながら想いの全てを吐きだした。


「だったら・・・っ!

 だったらどうしてあたしのことを見守ったりなんかしたのよっ!

 あの青い鳥の主はルイド・・・、あなたなんでしょう!?

 ヴォルトに記憶を取り戻されて・・・、あたし思い出したんだから・・・っ!


 あたしが辛かった時、悲しかった時・・・苦しくて苦しくて

 どうしようもなかった時、いつもあたしの側に飛んで来て慰めてくれた・・・。

 いつだってあたしを励ましてくれた・・・!

 だからあたしはこれまで『光の神子』としての、使命の重さにも耐えられた!


 あなたがいつも側にいてくれたから・・・。

 だからあたしは・・・っ、あなたの為ならって思えた!


 ルイド・・・っ!

 あたしはあなたの為に、光の神子になる道を選んだの!

 愚かだって言われてもいい・・・、自分だって思ってるもの。

 みんなの笑顔を守りたい、この世界を救いたいって気持ちは・・・結局は

 あなたを救う道の平行線上にあるだけなんだって、気付いてしまったから!」


 ぽろぽろと流れる涙を堪えることが出来ず、溢れだす衝動を抑えることが出来ず。

ザナハは閉じ込めていた感情を爆発させたかのように、想いの全てを吐き出す。

そして気がついた時には、ザナハはルイドに駆け寄り・・・細い体を抱き締めた。


 強く・・・、強くルイドを抱き締めて・・・そのままルイドの唇に自分の唇を

触れさせた。


 一瞬だけ触れた唇は、とても柔らかく・・・温かい。

それ以上は恥ずかしすぎて、顔を見るのも瞳を見つめるのも恥ずかしすぎて。

ザナハは全身が熱くなるのを感じながら、今にも心臓が飛び出しそうな位に激しく

鼓動しているのを感じながら・・・。

ただひたすら、ルイドを強く抱きしめて離さなかった。



「・・・好きなの!

 ずっと、ずっと・・・っ! ルイドのことが好きだった!

 許されないってわかってる、でも・・・この気持ちだけは譲れない。

 あたしは・・・ずっとルイドのことを、愛していたのっ!」


 

離したくなかった・・・。

出来ることなら、このまま時が止まってしまえばいいのに・・・。


そしたらずっとこのまま・・・、大好きな人と一緒にいられるのに・・・。

 

 



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