表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
194/302

第192話 「現れた人物」

 セレスティア教会の大司祭が持っていた鍵によって、アギト達は光の塔の扉を開け

中に入ることが出来た。

しかし一度入れば中から扉を開けることが出来ないという言葉を聞いて、アギトは

閉じ込められたような気分になってくる。

中に入った直後に教えられたので、即座にOKサインを出したオルフェを睨みつけた

後・・・文句を言っても無駄だとわかっていたアギトは、すぐに視線を塔の内部へと

移した。


 大理石のような素材で出来た塔の中は、かなり広かった。

大司祭が言ったように円形の塔の外周には、幅にしておよそ10メートル程の

大きな螺旋階段が延々と塔の最上階まで続いている。

そして吹き抜けとなっている中央部分には、下から風が吹いていた。

奈落と呼ばれる・・・まるで底なしのような穴を覗くと、下は真っ暗になっている。

オオオオッと風音がするだけであり、何も見えなかった。

確かに落ちれば助かりそうにない・・・、そんな巨大な穴だ。


「まぁ・・・、こんだけ階段が大きけりゃ足を踏み外して奈落に落ちるなんてこと

 ないか。」


そう独り言を呟いた時、後方から突然奇妙な音が聞こえてきて即座に振り向く。


ギチギチギチギチ・・・。


「なっ・・・、何よこれっ!?」


 ザナハが声を荒らげて、その物体の攻撃を間一髪で回避した。

全員武器を取り出して構えながら、その物体から間合いを取る。

4メートルはありそうな巨大な機械・・・。

戦車に両手を付けたような不格好さではあるが、右手には鋭い刃物を・・・。

そして左手には巨大なドリルを振りかざしアギト達、侵入者を威嚇している様子だ。


「どうやらこれが先程大司祭が言っていた、侵入者避けの仕掛けのようですね。」


落ち着き払った口調で呟くオルフェに、ザナハが驚愕している。


「これがっ!?

 仕掛けっていうから、トラップ系かと思ってたのに・・・。

 まさか機械人形が出て来るなんて・・・っ!」


 動揺しているザナハの横で、ミラが2~3発発砲した。

すると機械人形の装甲で銃弾が跳ね返り、傷一つ付いていない。


「装甲板はかなり防御面が高いようですね、これだと物理攻撃では殆どダメージを

 与えられないでしょう。」


 ミラがそう全員に告げると、一斉に戦闘態勢を変更させる。

アギトとミラが前衛に立ち塞がると、後方に位置しているオルフェが攻撃魔法の

詠唱に入り、その隣ではドルチェが援護系のねこのぬいぐるみ『ケット・シー』を

装備する。

そしてその更に後方では、ザナハが水属性の攻撃魔法と回復魔法を使い分けられる

ように待機した。


「大佐、機械人形の殆どは水属性を弱点としています。

 使用するなら水属性、あるいは氷属性の魔法でいってください。

 私の雷属性だと機械系をパワーアップさせてしまう恐れがありますので、

 ドルチェと共に援護に回ります!」


 即座にドルチェはアギトとミラに、物理攻撃へのダメージを軽減させる防御魔法

『バリアー』をかけた。

オルフェが魔法の詠唱に入っている間、アギトは片手剣を手に機械人形へと

斬りかかる!

距離を保ちつつミラが注意を引き付ける為、機械人形に乱射すると左手のドリルを

突き上げて攻撃してきた。

バックステップで後方に回避してドリルをやり過ごすが、そのすぐ後に胴体部分の

一部から砲口が姿を現しミラめがけて砲撃する。


ドォーン!


「・・・くっ!」


さすがに避けきれないミラは、無駄だとわかりつつ両手でガードする。


「フィールドバリアー!」


ギィィィン!


 ザナハが放ったウンディーネによる結界魔法『フィールドバリアー』がミラを

包み込むように展開して、なんとか砲撃からミラを守った。

すぐさま体勢を立て直して、機械人形から距離を取る。


「スプラッシュ!」


 オルフェの攻撃魔法が機械人形を襲う。

大量の水が発生し、水流に飲まれて行く機械人形に向かって行ったアギトは剣で

ちょうど接続部分になる場所を斬りつけて、ドリルが取り付けてある左腕をもぎ取った。

床に転がり落ちたドリルは、もげてもなおしばらくの間は回転をやめなかったが

そのままゆっくりと動力部分を失って、・・・やがて静かに静止した。

アギトはもげた左腕からドリル部分を剣で切り離すと、腕だけを回収する。

オルフェの『スプラッシュ』によって内部に大量の水が侵入した機械人形は、

制御盤に支障をきたしたのか・・・、コントロールを失ったように暴れ回った。

誰もが心の中でそのまま自ら奈落に落ちてくれないかと祈ったが、さすがにそこまで

都合良く行かない。


「誰か! こいつの足止め出来る魔法か何かねぇのかっ!?」


機械人形の腕を持ったままのアギトが叫ぶ。


「私がやりましょう!」


 オルフェが返事をすると、右手からホーリーランスを出現させて機械人形の側面に

向かって走り出す。

暴れ回る機械人形は片手になった刃物を振り回しながら、ザナハ達の方へと走る。

ホーリーランスに土属性のマナを注ぎ込んで、機械人形のキャタピラ部分に投げると

片側の走行が利かなくなり・・・機械人形はそのままガシャーーンと大きな音を立て

ながら横転してしまう。

すぐさまアギトが駆けて行って剥き出しになったままの砲口に、先程手に入れた

機械人形の腕を押しこんだ。

即座に距離を取って離れると、アギトは唯一得意となった『ファイアーボール』を

唱えて機械人形の胴体部分に命中させる。

目の前にいるターゲット、アギトに狙いを定めた機械人形はガガガッと音を立てて

砲口を向けた。


「オラ! 撃ってみろよ!」


 機械人形相手に挑発するアギトに、ザナハが大声で「バカッ!」と叫んだのが

聞こえた気がした。

するとオルフェはミラとドルチェに向かって、機械人形から離れるように指示する。

砲口をアギトに向けて、機械人形が砲撃した。


・・・瞬間。


ガゴォォーーーーーーーン!!


 一瞬にして爆発した機械人形の破片が、辺り一面に散らばる。

粉々に飛び散り・・・残骸となった機械人形を見つめながら、ザナハは何が起こった

のか理解出来ていなかった。

アギトは片手剣を鞘にしまうと、オルフェ達に向かってピースサインをする。

ふっ・・・と笑みをこぼしながらアギトの方に駆け寄り、オルフェが珍しく褒めた。


「君にしては上出来でしたね。

 砲口部分に異物を詰め込むことによって、相手の暴発を誘うとは・・・。

 外部の防御面が高ければ内部から攻撃する、戦闘に関する知識がそれなりに

 身に付いているようで安心しましたよ。」


「へへーっ! マンガやゲームをする人間にとったら当然の知識だぜ!」


「しかし周囲にいる仲間にその意図が伝わっていなければ、暴発の巻き添えで

 怪我人が出ていたところです。

 魔術と違って物理的な爆発は、味方にマーキングされないのですから・・・。」


 アメからすぐさまムチを打たれて、アギトは機嫌を損ねてしまう。

全員回りに注意を払いながら武器をしまうと、ひとまず安心して歩み寄った。


「まぁ・・・、それでも全員これといった怪我もなく機械人形を倒せたのですから

 良しとしませんか。

 この先も同じような仕掛けが待ち構えていると思われますから、今のような戦法も

 ある・・・ということで。」


「ま、敵が何度も同じ手に引っ掛かってくれるとは思えないけどね。」


 肩を竦めながら、ザナハがダメ出しをする。

ミラの励ましが今の言葉で台無しにされてしまい、アギトは拗ねたままみんなに背を

向けて先を進んだ。


「けっ! 助け甲斐のない奴等め・・・。」


 アギトはふてくされながら捨て台詞を吐いて階段を上って行き・・・、しばらく

してからちゃんとみんなついて来てるかちらりと後方を確認しながら進んで行った。




 案の定、途中にも何度かさっきのような機械人形が姿を現し戦闘になった。

しかし一番最初に出て来た機械人形に比べると、一回り位小柄だったり装甲板がそれ程

厚くもなかったので、そんなに苦戦を強いられることはなかった。

それでもレベルが多少低くなった分、今度は数で攻めて来たので楽勝とまではいかない。

物理攻撃もそれなりに効果があったので、役割分担をしっかりしながらそれぞれ協力

し合って敵を一掃していく。


 延々と螺旋階段が続いているので、階数というものが存在しない為・・・今地上から

どれ位の高さまで来ているのか把握しづらかった。

時折見かける小窓から下を覗いては、大体の位置を把握しつつ・・・歩を進める。

戦闘しながら上って行くので、光の塔に入ってからかれこれ5時間は経過していた。

それでも上を見上げると・・・まだまだてっぺんが見えず、目まいがしてくる。


「大司祭のやつ・・・、外に出たくなったら合図すりゃいいって言ってたけど。

 ここまで上って来たら戻ろうっていう気がなくなるのは、当然の摂理じゃねぇか!」


 アギトがぶつぶつ文句を言うが、皆少しばかり疲労が溜まって来ているのか・・・

誰一人として相手をしなかった。

シカトされたことにアギトは再び腹を立てながら、黙って階段を上って行く。

そんな中・・・、道中の疲れとはまた違った緊張感を抱きながら・・・ザナハは

どこか落ち着きのない表情でみんなの後をついて行っていた。

時々後方を振り向いたり、塔の上部を見上げたりと・・・何かを探すように。

仲間がザナハのそんな挙動を目にしても単に、『機械人形に対する警戒』という程度に

しか認識していなかった。


 ・・・と、機械人形が現れていない間は静寂に包まれたこの塔の最下層部分から何か

騒音が聞こえて来た。

不審に思ったアギト達は、階段から下を覗く。

耳を澄ませると・・・入口付近で、何者かが騒いでいる声や音が聞こえる。


「・・・下で何かあったのでしょうか?」


 眉根を寄せながらオルフェが言った。

その言葉にアギトが異論を唱えようとした時、下から魔獣のような咆哮がして全員

身構える。

一体何があったのか、見当がつかない中・・・全員武器を構えて耳を澄ませる。


ズン・・・、ズン・・・、ズン・・・、ズン・・・。


 何か大きなものが、駆けるような音・・・。

先程の咆哮と共に・・・明らかに下層から、何かがこちらへ向かって上って来ていた!


「ちょっと待てよ・・・、あの鳴き声・・・魔物の鳴き声じゃねぇのか!?

 ここには巨大で強力な結界が張ってあって、魔物は侵入出来ないはずだろっ!

 それがどうして光の塔の中にいるんだよっ、おかしいじゃねぇかっ!!」


 慌てふためいたアギトの言葉に、オルフェは口元に手を当てながら何かを推測した

様子だった。


「・・・・・・まさか。」


そう呟いた瞬間、再び魔物の咆哮が聞こえて来た・・・ずっと近くから。


「クォオオオォォーーーーーッ!」


 甲高い鳴き声が塔内部に反響して、全員両手で耳を塞ぐ。

そしてすぐ目の前を巨大な物体が通り過ぎて行った。

全員その姿を追って上を見上げると、やはり・・・目の前に現れたのは巨大な魔物。


 曲がったくちばしに大きな翼、上半身は鷹そのものであり・・・下半身はライオン。

アギト達の世界リ・ヴァースでは伝説上の生物とされている、グリフィンだった。

そしてそのグリフィンの背に乗っているのは・・・。


「・・・・・・ルイドっ!」


 叫んだのは、ザナハだった。

全員が驚いて振り向く、それもそのはず・・・。

ザナハの叫んだ声色は敵意のこもったものではなく・・・、悲喜交々(ひきこもごも)とした

切ない口調だったからだ。

震えるように、一歩・・・また一歩歩み寄る。

グリフィンの背にまたがったままのルイドが、ザナハを見下ろし・・・そして口を開いた。


「何て顔をしている・・・、伝言は届いているはずだろう?

 『光の塔で会おう、待っている』と・・・。」


 ルイドの言葉に、真っ直ぐと見据えるザナハは動揺する心を必死で隠すように

気丈に声を荒らげるが・・・、それでもどこか震えは止まらなかった。


「それじゃ・・・っ、やっぱり・・・。」


 そう言いかけた瞬間、アギトとミラが炎の魔法と雷の魔法を一斉にルイドめがけて

放った!

寸での所でグリフィンが斜め上の階段へ駆け上がって回避すると、アギト達の前に

ザナハが両手を広げて立ち塞がった。


「やめてっ! 彼を攻撃しないでっ!!」


 

・・・刹那。



 階段の端に背を向けて立ち塞がったザナハは、これまでの疲労と緊張感がピークに

達していたこともあり・・・立ちくらみを起こして足元がふらついた。

そしてそのまま・・・、階段から足を踏み外すとザナハの体はゆっくりと奈落に

吸い込まれるように宙を舞う。


「ザナハぁーーーっ!!」


 アギトがすかさず手を伸ばすが、指先が微かに触れただけだった。

なおも身を乗り出してもう一度手を伸ばそうとするが、オルフェに制止される。


「ザナハぁあーーーーっ!!」


 暗い奈落の底へ落ちて行くザナハがだんだんと小さくなっていく時、上の方から

何かが落ちて行った気がした。

見るとグリフィンにまたがっていたはずのルイドが、まるでザナハの後を追うように

飛び降りて行く姿を・・・アギトは確かにその目で見た。



そして二人は暗闇に閉ざされた奈落の底へと・・・、闇に飲まれるように消えて行った。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ