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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 3
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第188話 「ホーリーランス」

 ここはネリウス地方、ラムエダの町。

雷の精霊ヴォルトと契約を交わした場所であり、新たに仲間に加わったカトル達の

出身地でもある。

アギト、オルフェ、ドルチェの3人は洋館からトランスポーターでこの町まで

やって来たのだ。

実はラムエダの町で設置したトランスポーターは時計塔の中だったので、馬車ごと

転送することが出来なかった。

・・・なので馬車と馬は、この町の駐屯所に預けている。

光の精霊ルナがいるとされているルルリア地方へ向かう為、アギト達は早速馬車を

引き取りに駐屯所へと向かった。

そんな中・・・、ずっと不機嫌な顔つきでオルフェの後ろをついて行くアギト。


「いくら急いでるからって他の奴らに挨拶する間もなく出て行くことねぇじゃねぇか。

 ここからルナん所まで何日かかるかわかったもんじゃねぇのに、今度他のみんなに

 会えるのはいつのことか・・・。」


 ぶつぶつ文句を言うが、当然オルフェもドルチェもアギトの独り言を無視している。

それが余計に気に食わないのか、一向にアギトの機嫌が直ることはなかった。

町の中は相変わらず商人達で賑わっていて、大通りは人々でごった返している。

そのまま人波とは全く逆方向に向かって歩いて行き、少し人気が無くなって

来た辺りでようやく駐屯所が見えて来た。


「君達はここで待っていてください、私が話をしてきますから。」


 アギトもドルチェも異論なく、そのままオルフェを見送った。

近くにあったベンチに座って待ちながら、アギトは返事を期待することなく

再び独り言を呟く。


「そういやリュートの修行って一体どんなのかなぁ!?

 秘奥義っつー位だから、やっぱものすごい技だったりするんだろうなぁ~。

 くっそ~リュートのやつ羨ましすぎるぜ!

 大体能力的に言って、やっぱ師事する人物間違ってると思うんだよな。

 どう見てもオレが戦士系のジャックに師事してもらうだろ、フツー。

 オルフェだってスゲーかもしんねぇけど、全っ然相性悪いと思うし。」


「長所を伸ばす方法もあるけど、アギトの場合は短所を補う必要性の方が

 高かった・・・。

 だから大佐はアギトを弟子にした、・・・不本意ながら。」


「わかってるっつーの! その不本意っつーのが未だに納得いかねぇけど!

 でも短所を補うだけなら誰に師事しても同じじゃん!

 オレもリュートみたく早く秘奥義ってのを習得したいんだよ!

 あの調子じゃオレに秘奥義教えてくんなさそうだし、大体オルフェの秘奥義って

 いったら絶対に上級魔法系だろ!?

 魔法の才能がないオレじゃ絶対に習得出来ねぇじゃん。

 だから、系統的にジャックに教えてもらった方が良かったって言ってんだよ。」

 

 アギトは両腕を組みながら、鼻を鳴らした。

機嫌の悪いままのアギトに何を言っても無駄だと思ったドルチェは、ぬいぐるみを

弄ぶフリをして無視する。

数分で戻って来たオルフェに手招きされてついて行くと、町の裏口に馬車が用意

されていた。

馬車の側にはこの町を担当する憲兵が敬礼しながら、アギト達を出迎えている。

洋館に滞在している兵士にもよく敬礼されたり、特別扱いされているのでアギトは

そんなに動揺することもなく普通に・・・軽く挨拶した。


「グリム大佐、旅の準備はすべて万全に整っております!

 それから・・・これは、ルルリア地方への道程が記されている地図です。

 では大佐、ご武運を!」


 憲兵が敬礼してオルフェが頷くと、全員馬車に乗り込んで早速馬を走らせた。

いつもなら御者を雇っているのだが、今回はそれ程危険な旅でもないということで

連れて来なかった。

魔物に襲われてもその場ですぐに撃退出来るから・・・、ということらしい。

そういうことでオルフェが手綱を握り、アンデューロへ向けて馬車を走らせる。

アギトは客車のソファに座って、ドルチェと勉強をしていた。


「ルルリア地方は光の精霊ルナの住まう地・・・。

 セレスティア信仰の総本山だから、この土地には巨大な結界が張られている。

 結界は町周辺だけではなく、巡礼する地それぞれにも施されていて殆ど魔物が

 出ないことになっている。

 アンデューロまでの道程で出現する魔物は、この程度・・・。

 殆ど無属性だから問題なく倒せるはず。」


 ドルチェは魔物図鑑を広げてルルリア地方に出現する魔物について、アギトに

教えていた。

光の精霊がいる場所だから、てっきり光属性の魔物が出現するものかと思って

いたが・・・そうでもないらしい。


 アギト達が向かっている場所・・・ルルリア地方、アンデューロ。

ここではレムグランドで一番信仰されている宗教、『セレスティア信仰』と

いうものがある。

この国で最もポピュラーであり、アギト達の世界でいうところのキリスト教の

ようなものだ。


当然、祀っているのは光の精霊ルナ。


 光の精霊ルナが姿を現すとされている『光の塔』・・・。

この『光の塔』がアンデューロの近辺に存在しているところから総本山とされており、

アンデューロには熱心な信者が大勢住んでいる。


 今回の旅が少人数に決定したのは、ルルリア地方に入るということはすなわち

巨大な結界の中に入るということになるので、魔物が一切出現せず・・・

戦闘になることがない為だった。

恐らく今までの中で最も安全な旅になるだろうと、想定してのことだ。

それでもルルリア地方に入るまでの間は当然魔物が出現する。

しかしそれもネリウス地方に比べれば、大したレベルではない。

リュートが秘奥義習得の為に集中的に修行する中、アギトもそれに見合う位の

修行をしなければいけないこともあった。

そこでオルフェは旅のメンバーを厳選したのである。


 アギトはドルチェから魔物の特徴などを読んでもらいながら、頭の中でイメージ

トレーニングをしている。


「なんかヴォルトがいた地方に比べたら、だいぶレベルが落ちてんのな。

 それでも平均レベル50前後ってとこだけど・・・。

 まぁ、オレ達3人で連携すれば勝てないこともないか。

 そんで? 結界の中に入ればもう魔物と戦わなくて済むんだよな?

 あとはアンデューロへ向けて馬車をただひたすら走らせて、その宗教都市に

 到着すれば旅は終わり・・・っと。

 トランスポーター設置して洋館に戻って、全員回収して光の精霊ルナとの契約を

 交わす為の試練を受けて・・・ザナハが合格すれば、レムとアビスとの間に道が

 出来て・・・お互い行き来することが出来るようになるってことだよな!?

 そんじゃこの夏休みの間に全部片付くじゃねぇか!」


 アギトが能天気にはしゃいでいると、ドルチェはいつものポーカーフェイスで

異論を唱えた。


「そう簡単にはいかないと思うけど・・・。

 仮にあたし達の任務がすぐに終了して洋館へ戻れたとしても、ザナハ姫の心の

 準備が出来ていなければ元も子もない。

 光の精霊ルナと契約を交わすことが出来るのは、光の神子のザナハ姫だけ・・・。

 大佐が前に言ったように、ザナハ姫が心から決意しなければ試練に合格する

 ことは出来ない。

 試練に失格すれば・・・、例えアンフィニでも永遠に契約を交わすことが

 出来なくなる。

 チャンスは一度だけだから・・・。」


「げ・・・、そうなのか!?

 リセットして、もっかい再チャレンジってのはないわけ!?」


「試練に失格するということは死ぬということ・・・、二度はない。」


 一瞬だけ沈黙が流れる。

先程ドルチェが言った言葉を、アギトは必死になって理解しようとしている様子だ。


「は・・・? 死ぬ・・・!?」


オウム返しのように言葉を繰り返すアギトに、ドルチェも同じように繰り返す。


「もしくは再起不能・・・。

 心が完全に壊れて廃人となるか・・・、試練の内容によっては死ぬこともある。」


 平然と答えるドルチェとは逆に、アギトは完全に言葉を失っていた。

ルナの試練に失格することが、そのままイコール『死』に繋がるとは

思っていなかったからだ。

そしてなんとなく・・・アギトはドルチェに尋ねてみる。


「えと・・・、それって当然ルナに限ってだよな!?

 まさか今までの精霊も、試練に失格してたら命を落としてた・・・なんてことは?」


何を今更・・・という顔で、ドルチェは魔物図鑑から顔を覗かせた。


「勿論、全て例外じゃない。

 どの精霊も契約を交わす為のリスクは大きいから、精霊に認められなかった者は

 みんな・・・、結果は全て・・・さっき言った通り。」


「ちょっと待てよっ!

 そんじゃ今までの契約の旅って・・・、全部命がけだったってことじゃねぇか! 

 ウンディーネん時はオレは立ち会ってなかったからわかんねぇけど、イフリート!

 イフリートの時はたまたまオレがブチギレて、結果オーライだったってだけで!

 もしあのままねじ伏せることが出来なかったら・・・。

 あ、やべ・・・鳥肌立ってきた。

 ん!? でもヴォルトん時はどうなんだよ?

 あん時はたまたまオレが試練に合格したようなもんだったけど、ザナハは試練に

 失格してたぜ。」


「でも精神的ダメージは大きかった。

 もしも試練の対象が一人だけだったら、危なかったかも。」


「・・・・・・そんじゃ、生半可な覚悟じゃダメじゃん。

 今のザナハ、ものすげぇ中途半端な感じがしないでもねぇからマジヤバじゃん。

 つーかオレ・・・もうどの精霊とも契約なんか交わしたくねぇ。

 怖すぎ!」


 すっかり怖気づいたアギトは、薄い笑いを浮かべながら客車の窓から外を眺める。

外は広大な草原が広がっており・・・、一見すればとても平和な光景だった。


・・・・・・と。


「アギト、ドルチェ。

 早速働いてもらいますよ!」


 御者台の方からオルフェの声がして、アギトは反射的に武器を手に外へ飛び出す。

見ると馬車の行く手を遮るように、かなり大きな熊が威嚇している。


「あ、ベア・ブックじゃん。」


 アギトの悪ふざけに、ドルチェは少しムッとしながらベア・ブックを片手に

客車から降りて来る。


「あれはエッグベア、レムグランドでも凶暴な魔物。

 高いHPと攻撃力が特徴、繁殖期には特に凶暴性が増して積極的に人を襲う。」



 [LV62 HP540000  MP12]



「おいおい、HP高過ぎだろ・・・。」


 アギトは片手剣を構えてエッグベアとの距離を測っていると、ふと後方の様子が

気になった。

馬車の御者台から一向に降りて来る気配のない陰険メガネの方を横目で見て、

アギトは呆れた顔で律儀に問いただす。


「おい・・・、何を観客気取りで見守ってんだよ。

 今回はパーティーメンバーが少ないんだから、オルフェも戦闘に参加するに

 決まってんだろうがよ!

 つーかあんたがマトモに戦ってるとこ、一回も見てない気がすんぞっ!?

 この道中位はちゃんと戦闘に参加してみたらどうなんだよっ!!」


 アギトが苛立ちを見せながら怒鳴ると、オルフェはものすごく面倒臭そうに

わざとゆっくり御者台から降りて行く。

全くやる気のない態度に、アギトのイライラは更に増していった・・・。


「そういやオルフェって専用の武器とかないのかよ?

 考えてみればいっつもどこからともなく色んな武器を出してるけど、得意な

 武器とかあんのか?」


「まぁ、ある・・・と言えば一応ありますけどね。」


 そんなやり取りをしている間に、エッグベアは4本足で突進してくると3人とも

軽やかなフットワークで回避し・・・敵に注意を払いながら、会話を続ける。


「あ、オルフェっていつ頃からちゃんと武器を使うようになったんだ?

 ヴォルトの試練で過去を見せられた時、子供時代のオルフェって魔法に頼りきりで

 武器なんて持ってなかったろ。

 やっぱ軍に入ってから武器の必要性に気付いたのか?」


 アギトが余計なことを思い出したことに、オルフェは少しムッとした様子だった。

メガネの位置を直しながら無愛想全開に答える。


「む・・・、そういえば君は21年前の時代を体験してきたんでしたね。

 全くヴォルトも余計なものを見せてくれます。

 確かに幼い頃の私は自分の魔術を過信していたので、近接武器に対する必要性を

 全く感じていませんでした。

 しかしレッサーデーモンが首都を襲った辺りから、私にも武器が必要だと

 ようやく感じ始めましたよ。

 ジャックに武器の特徴などを聞きながら、そこそこ使い慣らしてみました。」


 ドルチェがエッグベアに対抗して、くまのぬいぐるみのベア・ブックでちくちくと

敵にダメージを与えている。

最後にベア・ブックの放った魔神拳が、エッグベアの右後ろ足に直撃して

よろけた瞬間を狙って、アギトはすかさず剣で斬りかかって左前足を傷付けた。

咆哮をあげながら手負いとなったエッグベアは、ますます凶暴性を増していく。

口からダラダラとヨダレを垂れ流しながら、牙を剥き出しにしている。


「んで!? 結局オルフェの愛用の武器って一体何なんだよっ!?」


 それを聞かないことには戦闘に集中出来ない・・・とばかりに、アギトは

オルフェを急かしながらエッグベアに向かってファイアーボールを放った。

それなりに戦闘に対して慣れて来たアギトの姿を見て、オルフェは背筋を伸ばし

うっすらと笑みを浮かべた。


「いいでしょう、では私の愛用の武器を君にお見せします。」


 オルフェはいつものように・・・右手を高々と振りかざすと、光が手の平に収束

していって・・・何かの形を成していく。


 そして一瞬の光と共に、オルフェの右手には1本の槍が現れていた。

槍はまるで光り輝くような光沢を放っており、長さにしておよそ3メートル程。

刃部分は綺麗な装飾が施されており、まるで儀礼用にも見える。


 オルフェはその槍を片手にエッグベアに狙いを定めて、構えた。

ぐっと力を込めると同時に、まるでオルフェのマナを槍自身が吸収しているかの

ようにオルフェの手から槍の方へ向けて、マナがどんどん流れ込んで行くのが

アギトの目からもハッキリとわかった。


「我が師より授かりし伝説の槍・・・。

 闇をも貫く聖なる武器『ホーリーランス』・・・っ!!」


 その掛け声と共に、オルフェはホーリーランスを投げ放つ!

人間の手で放ったとは思えない程の早さで、真っ直ぐとエッグベアめがけて飛んで行き

・・・ホーリーランス全体を包み込む程のマナが軌跡を描く・・・。

その光景はまるで流れ星のようにも見えた。

真っ直ぐと目標へ飛んで行ったホーリーランスは、二本足で立って威嚇真っ最中だった

エッグベアの心臓に突き刺さる。

突き刺さった瞬間、まるでその衝撃でスイッチが入ったように・・・一気にマナが

弾け飛んで小規模な爆発を起こした。

エッグベアの体内から爆発し・・・、辺り一面に肉片と血が飛び散る。

割とエッグベアの近くにいたアギトはモロに、飛び散ったエッグベアの血を全身に

浴びてしまった。

びちゃ・・・っと、ほっぺたにエッグベアの肉片がくっつく。

あまりに悲惨な結末に、アギトは虚ろな眼差しのまま・・・呆然と立ち尽くしている。

ぽたぽた・・・っと全身に浴びた血が地面に滴り、アギトはゆっくりと今の自分の

有様を目で確認してみた。


生臭い・・・。


 その途端・・・。

アギトは一気に我に返って、思い切り吸い込んでしまった血と肉の匂いに

気持ちが悪くなって・・・その場で胃の中身を全部吐き出してしまった。


 ひとしきり吐いて、アギトはエッグベアがいた場所を見ないようにしながら

馬車へと走って戻って行く。

すぐさま水瓶の蓋を開けて、タオルに水を含ませると全身を必死で拭った。


「信じらんねぇ・・・っ!

 有り得ねぇ、こんなのっ!」


 そう呟きながら着ていた服もその場で脱いで、新しい服を取り出す。

そんなアギトの必死な姿にオルフェは悪びれた様子もなく、ゆっくりとした

足取りで馬車に戻って来た。


「いや~すみません、こうなる前に言っておけばよかったですね。

 私のホーリーランスは流し込んだマナの系統によって、攻撃した時の

 アクションが様々な形で変化するんですよ。

 さっき流し込んだマナは火系統を強めに与えたので、攻撃がヒットした

 瞬間に対象が・・・。」


「説明せんでいいっ! 結果はさっき見たからっ! つか思い出させんなっ!」


 生物が目の前で木っ端微塵に爆発したのを思い出す度に、また胃の内容物が

込み上がって来そうになるので・・・必死に堪える。

それからアギトはようやく落ち着くと、静かな口調でオルフェに釘を刺した。


「もうあの武器使うんじゃねぇ・・・、少なくともオレの前で使うなよ!?

 オレとドルチェで前衛担当するから・・・っ!

 オルフェは魔法メインでいってくれたらいいから・・・っ!

 頼むからもうアレは出さないでください・・・。」


「そうですか? 残念ですが仕方ありませんね。

 では私はこれから先、ラクな後衛担当をさせていただきます。」



ハメラレタ・・・。


口の中が酸っぱいまま、アギトは涙目でオルフェを睨みつけた・・・。





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