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第183話 「フォルキスの落とし穴」

 アギトとリュートが長期間の異世界生活から戻って来た頃・・・。

なぜか二人はリュートの家の居間で、リュートの両親を前に正座させられている。

両親共に・・・、懸命に怒りを抑えている様子だった。


(な・・・、なんでおじさんもおばさんもこんなに怒ってんだ!?

 つーか・・・、なんでオレまで一緒に怒られモードに突入してんだよ!?

 わけわかんねぇぞ・・・。

 だからって二人の目の前で、リュートに耳打ちなんて出来ねぇし・・・。)


 アギト達はいつものように、レムグランドのトランスポーターから異世界間

移動を行なって・・・リ=ヴァースの廃工場へと戻って来た。

そして本来ならそのまま自分のマンションに帰るところだったのだが、

『せっかくだし晩御飯だけでも一緒に食べよう!』・・・と、リュートに

誘われて・・・そのまま一緒にやって来たのだ。

結果、家に入った途端リュートと共に居間に呼ばれて・・・こうして正座を

させられている。


二人が沈黙していると、ようやくリュートの父親が重たい口を開いた。


「お前達がどうして怒られているのか・・・理由はちゃんとわかっているな?」


全然わかりません。


 しかし、正直にそんな台詞を吐けるような雰囲気ではなかった。

いつもは温厚なおじさんが、これ程までに怒りを抑えている姿をアギトは

見たことがない。

故に、ヘタなことを口にする勇気がなかった。

リュートと一緒に押し黙っていたら、今度はおばさんの方が我慢ならないと

いう風に・・・二人を睨みつけながら低い声で説明し出す。


「バレていないと思ったら大きな間違いだよ!?

 あんた達・・・、一体どこで何をしていたのか知らないけど・・・

 もうずっと長いこと、学校に登校していないそうじゃないか!

 お父さんもお母さんも仕事に出てるから、あんた達の面倒をきちんと

 見ることが出来ていない私たちにも非があるさ。

 今までずっと・・・、何があろうと毎日真面目に登校していたリュートの

 ことだから信用していたっていうのもある。

 でもさすがに・・・、これを見たら私達だって黙っちゃいないよ!?」


 そう言ってテーブルの上に差し出された物・・・。

アギトとリュートは一体何だろう? と、首を伸ばして差し出された紙切れに

目をやった。

それが何なのか理解した途端、石のように硬直する。


それは・・・、名前すら書かれていないテスト用紙だった。


「3日前のテスト・・・、白紙は白紙でも名前すら書かれていない!

 先生がこのテスト用紙を持って来た時、首を傾げながら聞いてきたんだよ!?

 『これはかがり君のテスト用紙のはずですよね?

  ずっと欠席しているから、病気だと思っていました。

  ご両親の方から連絡がないので、とりあえずテスト用紙だけでも

  お返しします』だって・・・。

 今までが今までだったから、とやかく言うのも何だと思ってずっと

 見過ごしてきたけど・・・これはさすがにないんじゃないかい!?」


怒り狂うおばさんに、温厚なおじさんが口を挟んだ。


「まぁお前も落ち着きなさい。

 大体リュート達だけを責めるのも間違っているぞ?

 二人がずっと学校に行っていないことに全く気付かず、それどころか

 何事もなかったかのようにこの数週間過ごしてきたことにも問題が

 あるじゃないか・・・。」


(うっ・・・!

 それはまさしく魔法薬のせいです、お父さんっ!)


 アギトとリュートが姿を消している間、こちらの世界で問題が起きない

ように二人の記憶を抹消するように強力な暗示をかけていた。

リュートの家族を始め、学校の担任など・・・。

いつもなら毎週末のみというサイクルだったが、今回は長過ぎたせいで

さすがに言い逃れできない問題にまで発展してしまったようだ。


(くそ・・・っ!

 いつもならオレ達の存在なんて思い切りスルーしやがるくせに、今回に限って

 わざわざリュートん家まで押し掛けやがって!

 大体『病気だと思って』なんて・・・、嘘に決まってんだろうが!

 存在自体抹消されてんのに、そんな風に思うわけがねぇ・・・。

 一応自分の生徒のことだし『完全に存在を忘れていた』って、おじさん達に

 言うことが出来ねぇから、そんな風に言い繕ってるだけじゃねぇか。)


 担任のその場しのぎの嘘にはすぐに気付いたが、それ以上に両親の問題の方が

大きかった。

明らかに数週間もの間、実の息子の存在を忘れ去っていたことに疑問を持ち始めて

いる様子だ。

アギト達が色々と、この場を言い繕う為の都合の良い理由がないかどうか考えを

巡らせていた時・・・おばさんが再び話し出す。


「確かにお父さんの言う通り・・・、私達も悪かったけど・・・。

 これからはもうこんなこと見過ごしたりしませんからね!?

 明日学校に行ったら、まず先生に謝ること!

 それから再テストを受けさせてもらいなさい! いいわねっ!?」


 最後に口調が荒々しくなったと同時に、テーブルをバンッと激しく叩きつけた。

アギトとリュートはその音に全身が飛び上がる程驚いていると、同じように

おじさんもビックリしていた所を目撃してしまい・・・思わず吹き出しそうになる。


 ともかく、両親からのお説教は約2時間で幕を閉じた。

ずっと正座をさせられていたので、アギト達は足の感覚がなくなったまま裏庭へと

出て行く。


「アギト・・・、マズイよね。」


「あぁ・・・、まさか暗示薬の効力がこんな形で仇になるとはな・・・。」


こっそり持ってきたカバンの中から、まだ少し残っているフォルキスを眺める。


「フォルキスを飲ませた人間には確実に誤魔化しが効くけど、物的証拠を

 持ち出されたらどうしようもないんだよね・・・。

 ちなみに僕達、かなり長い間授業を受けてないから明日再テストを受けさせて

 もらっても・・・結果は今日見たテスト用紙とさほど変わらないと思うよ?」


二人は大きな溜め息をつく・・・。


「ともかく・・・今の状態のままで、もっかいレムグランドへ戻るのはかなり

 危険だと見た!

 ただでさえオレ達の存在を忘れていることに疑問を感じ始めてんのに、

 そんな中でまた明日の夕方にレムグランドへ戻ってみろ!?

 おじさんとおばさん、二人して脳の精密検査を受けに行っちまうぞマジで!」


「それはマズ過ぎるって!

 さすがにそこまで行ったら、僕としても罪悪感どころの騒ぎじゃないよ。

 レムグランドの方もものすごく大事な時期だけどさ、ここはひとつ・・・

 他の解決策を見つけるまでレムグランドへ戻るのは控えた方が良くない?

 ほら・・・大佐は今、首都へ行ってるはずだから・・・。

 少なくとも往復分の日数を考えれば来週になっても、ルナのいる地域へ出発

 出来そうな段取りにはなってないはずでしょ?

 だから向こうの段取りが整うまでの間、僕達は僕達でこっちの生活の安全の

 保証を確立させておいた方がいいと思うんだ。」


 アギトは両手を組んで考え込んだ。

確かにリュートの言うことはもっともだし・・・、むしろそうした方がいいかも

しれない。

フォルキスの副作用のことを考えたら、これ以上暗示の上書きをするわけにも

いかないし・・・何よりおじさん達の違和感を解消させないことには、何も解決

しないのだ。


「そう・・・だな、しばらくの間はおじさん達のケアも含めてオレ達の生活を

 優先させるべきかもしんねぇ・・・。

 学校じゃここよりもっと違和感バリバリかもしんねぇし・・・。

 フォルキス飲ませたのって、リュート一家と担任だけじゃん?

 他のクラスメイトとかが不思議に思って、何かしてこないとも限らないねぇ。

 何より、今すぐレムグランドへ戻ったとしてもそれといった発展とかも

 なさそうだしな。

 向こうの奴らには悪いが、明日学校帰りにちょっとだけレムグランドへ 

 寄ってさ・・・しばらく来れないってことだけ伝えてこようか!?

 まさか何も言わずに放ったらかしにするわけにいかねぇだろ。」


 二人の結論は決まった。

ともかく、レムグランドでの進展がない今・・・しばらくの間はリ=ヴァースでの

違和感解消法へと全力を注ぐことに決めた二人であった。


 翌日、学校に久しぶりに登校した二人は・・・案の定クラスメイトから

ものすごく奇異な目で見られたことは言うまでもない。

『青い髪』という理由で敬遠されていた目とは、少し異なるものだった。

一応担任には適当に言い繕って、再テストを受けさせてもらう。

リュートの予想通り、半分以上の問題が意味不明だったので二人とも結局

赤点を取ってしまい・・・、再テストの意味は殆どなくなってしまった。

さっさとつまらない授業を終えて、二人は下校時間になった途端に廃工場へと

ダッシュする。

そして急いでレムグランドへと戻り、駆け足で地下室から出て・・・適当に

見つけた使用人に伝言を頼み・・・またすぐリ=ヴァースへと戻った。


 アギトとリュートはそれから約2週間程・・・、家族サービスに時間を費やす

ことになる・・・。



 アギト達の伝言を承った使用人は、急いでミラを探した。

ミラは洋館に慣れていないカトル達の面倒を、ドルチェと共に見ている。


「ミラ中尉、先程アギト様とリュート様がお見えになって・・・。

 その・・・伝言を預かったんですが。」


「伝言・・・? 一体何ですか?」


「はい・・・、それが・・・。」


使用人は、アギトに言われた言葉をそのままミラに告げる。



『みんな悪い!

 リ=ヴァースの方で問題が発生したから、しばらくの間そっちに

 行けねぇわ!

 大体10日位でこっちの問題を片付けとくから、その間にルナの所へ

 行く段取りとか頼んだ。 ・・・それじゃ!』







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