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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 2
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第177話 「意識」

 静寂だけが支配する一室・・・、聞こえて来るのは外の喧騒と鳥のさえずりだけ。

昨夜から何も食べようとしないザナハを心配しながら、ミラは今朝も食事を部屋まで

持っていくが・・・手をつける気配すらなかった。


「ザナハ姫、せめて少しだけでも・・・何か食べないとお体の方がもちませんよ。

 睡眠もあまり取られていないようですし、このままでは・・・。」


「・・・あたしのことは放っておいて。

 今は何も食べたくないの・・・、何も考えたくないの。」


 ベッドのシーツの中から声がする。

頭までしっかりとシーツをかぶって、完全に外界から閉ざされた空間を自分で作るザナハ。

全てを拒絶するかのように閉じこもってしまったザナハ相手に、ミラはただ心配そうに

見つめながら・・・声をかけた。


「では・・・、朝食はテーブルの上に置いておきますから後で必ず食べてください。

 失礼します。」


 ザナハから見えるはずもないが、ミラは礼儀正しく会釈してから部屋を出た。

ぱたん・・・とドアを閉めて、深い溜め息を漏らす。

昨夜からずっと拒絶されながらも側についていたが、結局何か話すことも聞き出す

ことも出来ずにいる。

今まで『神子』としての使命ゆえ、ツライことや悲しいことはたくさんあった。

しかし今まではその使命感と責任感・・・、持ち前の明るさで決して落ち込んだり

引きずったりすることはなかったはずだ。

ザナハの精神面を何とかしなければ、このままでは本当に契約の旅を続けられなく

なる恐れだってある。

勿論ミラは契約の旅を中断してしまったらどうなるのか、ザナハに言って聞かせた。

しかし・・・、ザナハはまるで聞く耳がないのか・・・。


『自分に神子の資格はない。』


『自分はこれ以上、神子の務めを果たすことは出来ない。』


 それの一点張りだった。

ザナハのことを一任されている以上、何とかしなければ・・・とミラが思いつめて

いた時だ。

廊下の隅から、陰気なオーラを感じる。

どす黒い・・・悪寒が走るような、そんな負の感情が漂っていた。


(・・・これは、ディアヴォロの負の感情っ!?)


 不穏な空気を察知したミラは腰のホルスターから拳銃を取り出して構え、壁に

背を付けながら注意を払う。

ごくりと生唾を飲み込みながら、ゆっくりと・・・異様な空気を発している廊下の

隅へとにじり寄った。

今はまだ朝・・・、小窓から朝日が差し込むはずなのに・・・なぜかその場所だけは

暗く・・・よどんでいる。

そしてミラは目で確認出来る位にまで近付くと、呆れた顔で拳銃をしまった。


「・・・アギト君、驚かさないでください。

 危うく撃ち殺してしまうところでしたよ・・・。」


 陰気でよどんだ空気を発していたのは、いじけて・・・縮こまったように三角座りを

しながらぶつぶつと何かを呟いているアギトであった。


「んだよ・・・、ちっとは相談とかしてくれてもいいじゃねぇかよ・・・。

 何も言わねぇから腹が立っただけなのに・・・。

 ・・・でも、あそこまで言うことなかったかな・・・?

 あれはちょっと言い過ぎたかも・・・、でも悪いのはリュートなんだし・・・。

 でもオレが先に外へ散歩しに行ったから、話すタイミング外しただけかも・・・、

 いやいや・・・、それなら昨夜の内に話してくれたらよかったじゃん!

 あれ・・・そういや昨夜は知らない内に寝てたっけ・・・?

 でもでも・・・っ!!」


「アギト君!? 何をそんな隅っこでこそこそしてるんですか!?」


「おおおうっ!! なななな・・・何もしてねぇよっ!?

 拗ねてなんかいねぇっつーのっ! 別にリュートに向かって勢いで文句言ったからって

 今になって後悔してるとかじゃ全然ねぇしっ!?」


 飛び上がる位ビックリしたアギトは、必死で言い繕っている。

しかし突然話しかけてきた相手がミラだとわかって、絶句してしまった。

先程カトルを交えて話していた場面に、ミラは参加していない。

つまり何があったのか全く知らないのだ。

疲弊した顔で首を傾げるミラに、アギトはふいに思い出した。


「そういやミラ・・・、ザナハの様子はどうなんだよ!?

 あれからずっと部屋から出てきてねぇみたいだけど、あいつちゃんとメシとか

 食ってんのか!?」


 アギトの質問に、ミラは悲しそうな表情を浮かべながら首を横に振る。

ザナハの状態が思わしくないことは、今のミラの疲れ切った顔を見れば一目瞭然であった。

するとミラは、気を紛らわせる為なのか・・・、無理に笑みを作りながら話しかける。


「そういえば、今日は魔法陣を描く場所を探すって聞いてましたけど・・・。

 アギト君は探しに行かないんですか?」


 ミラの言う通り、今日はミラとザナハ以外のメンバーは全員総出で探索する予定だった。

しかし今朝早くから大事件があったこともあり、リュートと口論・・・と言うより一方的に

責め立てた挙句、自分が言い過ぎたことに後悔して部屋の隅っこで落ち込んでいた。

・・・なんて、言えるはずもない。

アギトは冷や汗を大量に流しながら、別の言い訳を探していた。


「あ~・・・、っと。

 まぁ他の奴らは行ったみたい、だけどさ・・・?

 オレは・・・その、何だ。 ザナハの護衛がミラだけじゃ不安だからオレも一緒に

 護衛してやろっかなぁ~・・・みたいな!?」


「ザナハ姫の今の状態はすでにアビスグランドでも周知されていることですから、

 契約の旅を続けられないだろうと・・・今頃はそう判断されていると思いますよ。

 ザナハ姫が復帰しない限り、向こうも無為に妨害工作して来ないはずです。

 今は私一人でも十分、事足りていますから心配いりませんよ。」


「・・・あっそ。」


 適当に言った言葉に対して、真正面からマトモな言葉が返ってきた為にアギトはかえって

恥をかいたような気になった。

頭をぼりぼりとかきながら、一向にミラが余所に行かないので変な空気が流れる。

両手を組んで、ミラが見透かしたような笑みをこぼした。


「アギト君?

 さっきの独り言・・・、かなり大きかったので全部丸聞こえでしたよ!?」


「あう・・・。」


 言い逃れ出来ない状態に持ち込まれたアギト。

唇を尖らせながら、精一杯強がってる風に見せるが・・・大人の女性相手ではかなり

苦しかった。


「ホント・・・、何でもねぇし。

 そんなことよりミラの方が今は一番大変なんだからよ・・・、ちっとは休んだ方が

 いいって。

 めちゃくちゃしんどそうな顔してるし・・・。

 マジ、オレのことは大丈夫だからさ!」


 アギトはミラに気遣うフリをして、何とかその場をごまかそうと必死になる。

まさかリュートと喧嘩したから、仲直りする方法を教えてくれ・・・なんて。

そんな恥ずかしいことを相談出来るはずがない。

みっともない!

一生懸命笑顔を作りながら、アギトは何とか気丈に振る舞う。

必死で本心を隠そうとする姿を見て、ミラはそれすらもすでに見通していたかのように

アギトの言葉に素直に乗るフリをした。


「そうですか、そんなに疲れた顔をしていますか?

 考えてみれば昨夜は姫のことが心配で、あまり睡眠を取っていませんでしたからね。

 アギト君の言う通り、少し休みますね。

 ・・・心配してくれてありがとう。」


笑顔でそう切り返されて、内心がっかりしながら・・・返事をする。


「お・・・おう、その方がいいって。」


 これで一人で考え事が出来る・・・、そう思った時。

ミラが踵を返して一階の食堂へ行こうとして、・・・突然ぴたりと足を止める。

こちらを振り向くこともなく、ミラは背中越しにアギトにアドバイスを与えた。


「リュート君は、アギト君のことを頼っていないわけではないと思いますよ。

 話す必要がない・・・、そう考えた結果じゃないですか?

 ただでさえ精霊との契約で大変な時期に、自分のことでアギト君を

 振り回したり・・・余計な心配をかけたりしたくなかった・・・。 

 私なら、そう取りますけどね。」


「でも・・・っ!」


ミラの背中に向かって、たまらず・・・我慢出来ずにアギトが反論した。


「でも・・・、やっぱ友達なら・・・さ。

 何でも話すのが本当じゃねぇの!?

 どんな小さいことでも、相談してくれるのが・・・親友ってモンじゃねぇの!?

 話してくれなきゃ・・・リュートが何考えてるのかなんて、オレ・・・わかんねぇよ。

 リュートのこと信じてるけどさ・・・、それでもオレ・・・。

 やっぱ・・・、隠し事とかされんの嫌なんだ。

 だから・・・・・・。」


 言って・・・、アギトは気付いた。

自分がどれだけ自分のことしか考えていなかったのか・・・。


「・・・アギト君も本当は、もう気付いているんでしょう?

 何で隠し事をするのか・・・。

 どうして何も話してくれないのか・・・。

 それを話せば、きっとわかってもらえるんじゃないかしら・・・?」


 ミラはそれだけ言うと、再び歩を進めて階段を下りて行ってしまった。

一人廊下に残されたアギトは、ミラに言われたことを何度も考えながら立ちすくむ。


「そうだ・・・、オレ・・・自分のことばっかじゃん。

 オレだって親のこととか隠してたくせに・・・!

 話せばリュートの奴が心配すると思って、自分のことみたいに何とかしようとすると

 思って。

 あの時、わかってたはずなのに・・・。 

 なんでオレってば、すぐ感情的になって・・・ムキになっちまうんだろ。

 ホント・・・みっともねぇよな。 」


 自嘲気味に笑いながら、アギトは自分がしたことを・・・ようやく心の底から

反省した。

さっきまでこの世の終わりみたいなオーラを垂れ流していたのが一変、アギトは

顔を上げ・・・「よしっ!」と気合いを入れながら光を取り戻す。

思い立ったら即行動、アギトは急いで階段を下りるとカウンターで料理を注文して

待っているミラにお礼を叫ぶとそのまま外へ駆けだした。

その姿を見送ったミラは、笑みをこぼしながらコップの水を飲み干す。


「どうやら迷いは晴れたみたいですね・・・。

 正直なところ何を悩んでいたのか、わからないけど。」


 アギトは猛ダッシュで駐留所へと向かった。

あれからそれ程時間は経っていないが、まだ駐留所にいるとも限らない。

全力疾走で駆け抜けて行き、すぐ目の前に憲兵が立っているのに気付く。


「何て書いてあるかわかんねぇけど、多分あれが交番だなっ!?」


 人々の間を器用にすり抜けて、交番らしき所に到着したアギトは早速制服を着た

憲兵に向かって大声を張り上げた。


「はぁ・・・、はぁ・・・っ! あのさ・・・、ここにオル・・・じゃない。

 ・・・大佐来てないかっ!?

 カトルのやつの身柄を引き取りに来てたはずなんだけどさ・・・っ!」


息を切らしながら問うアギトに、憲兵の男は真面目な顔で答えた。

 

「グリム大佐のことか・・・!?

 それなら書面による手続きを済ませて、ついさっき他の二人を引き取りに病院へ

 向かったが・・・。」



「そうだったぁーーーっ!!

 最初っから病院行っとけばよかったぜ、くそぉーーっ!!

 ・・・あ、おっちゃんサンキュ!」


 右手をちゃっと挙げて軽くお礼をすると、アギトは再び全力疾走で駆けて行く。

取り残された感じがする憲兵は、一体何事だ? と言う風に唖然としていた。

交番から病院まではそれ程離れていないこともあり、猛ダッシュ3分で到着する。

これでこの町の病院に来るのは、二度目だった。

あまりイイ感じがしないが、恐らくリヒターを迎えに行っているんだろうと思い

リュートが刺された病室へと走って行く。

途中で看護婦さんに「病院内で走らないで!」と注意され、競歩のような奇妙な急ぎ足で

病室へと向かった。

すると入口の辺りに、見たことのある少年を発見する。


「おう、弱虫少年! オルフェとカトルはそこにいるかぁーーっ!?」


 大声を張り上げて、回りの看護婦や患者からじろりと注目を浴びる。

しかしそんなことはお構いなしに、アギトはレイヴンの背中をバンバン叩きながら

返事を待たずに病室の中を覗いた。


「オルフェ! 探したじゃねぇかよ!」


 病室の中にはオルフェ、カトル・・・そして医師とベッドで寝ているリヒターなどがいた。

何やら難しい顔をして話しこんでいる様子で、オルフェは声の主をすぐに把握したのか

振り向きもせずに思い切りシカトして医師と話を続けている。

今更オルフェに無視されるのは、今に始まったことではないので痛くもかゆくもないアギトは、

静かに近寄ってカトルに話しかける。


「なぁ、今何してんだ!?

 特に大事な用事じゃねぇんならさ、今すぐオレと付き合ってほしいんだけど!?」


 アギトが小声でカトルに耳打ちすると、それまで暗い表情で蒼白していたカトルの顔に

赤みが差した。

腕を掴まれながら、話しかけて来るアギトから視線を逸らせずに顔を真っ赤にして固まる。


「え・・・、えっ!?」


反応が鈍いカトルに、せっかちなアギトはちょっとだけイラッとしてもう一度耳打ちした。


「だからぁっ! お前に案内して欲しい所があるって言ってんだよ!

 お前この町に詳しいんだろ、だからオレと一緒について来てくれって言ってんだよ!」


言い直されて、カトルはキラキラと輝いていた眼差しが一気によどんで虚ろになる。


「あぁ・・・、そういう意味かよ。

 紛らわしいんだよ、お前わ・・・。」


「・・・あ? 何が?」


「いや、何でもない。 オレが馬鹿だっただけだから・・・。

 大体お前の親友刺した相手つかまえて、んなこと言うはずないんだよな・・・。」


いまいち会話が成立せず、噛み合わない感じがしたアギトは首を傾げる。


「何かよくわかんねぇけど・・・、とにかく今すぐ出れるか!?」


 急かすアギトに、カトルはちらりとオルフェの顔を覗き込んだ。

医師と話しながらもアギトとのやり取りを把握していたオルフェは、カトルに向かって

極上の微笑みを浮かべると優しく返答する。


「行ってきても構いませんよ、あとのことは私の方で済ませておきますから。

 リヒター君のことは心配いりません。」


「すみません・・・、ありがとうございます。」


 オルフェと医師に向かって深々とお辞儀をすると、カトルはアギトに腕を強く

引っ張られて・・・殆ど引きずられるように病室を出て行った。


「カ・・・、カトル! どこ行くんだよっ!?」


「悪いレイヴン! オレちょっとアギトと出て来るから・・・リヒターのことは

 引き続き任せたよっ!!」


 風にあおられる凧のように引っ張られながら、カトルが拉致されていく姿を

見送るレイヴン。

遠くから泣き声で「置いてかないでぇ~~っ!」と、聞こえた気がした。

大急ぎで病院から出て来たアギトは、とりあえず広場にある噴水前で立ち止まる。

肩で息をしながら、ベンチに座ってしばし休憩をする二人。


「全く・・・、一体何だって言うんだよ・・・!?」


「いやさぁ・・・、お前は聞いてないかもしんないけどな・・・。

 オレ達は今、トランスポーターの設置場所を探してんだよ。 

 でもオレ達って、この町の土地勘ないじゃん?

 だからお前の協力を借りればすぐに見つかるんじゃねぇかと思ってさ。」


アギトの言ってる話の内容が見えて来ない様子で、カトルは首を傾げるばかりだった。


「トランスポーター・・・!?

 それって確か、遠距離感を一瞬で移動する魔法陣のこと・・・だったよな!?」


「そうそう、それ!

 オルフェが言うにはさ、レイラインのマナが最も濃くて・・・なおかつ不特定多数の

 人間が入り込まないような場所! っていうのが条件らしいんだよな。

 でもここって商業で発展した町ってだけあって、人通りが激しいし・・・。

 そんなんで誰も入り込まないような場所なんてすぐには見つかんねぇじゃん?

 人混みかき分けるので体力の殆ど持ってかれるし、だからオススメのスポットとか

 思い浮かばねぇかな!?」


 ようやくアギトが何を言いたいのか、目的がハッキリしたのでカトルは腕を組みながら

町の地図を頭の中に思い浮かべる。

しかし問題がひとつだけあった。


「町の人間が立ち入らない場所とかなら、いくつか心当たりがあるけど・・・。

 オレはマナの濃さとか、そういうのわからないよ・・・!?

 マナの濃さってどうやって計るんだ?」


 沈黙が流れる・・・。

アギトはにっこりと微笑みながら、盲点を突かれたことに誤魔化している様子だ。


「・・・当てが外れたな。」


「いやっ!!

 まだだ・・・、オレ達はまだ終わっちゃいねぇぜっ!!」


 カトルの冷たい眼差しに、アギトは慌てて記憶を揺さぶった。

喉の・・・すぐそこまで来ている何かが、なかなか思い出せない。

口に出そうにも、ものすごく曖昧になっていて・・・だんだん気持ち悪くなってきた。

いくら待っても何も出て来なさそうだったので、カトルが溜め息をついて諦めた時だ。


「やっぱり、レイラインのマナを調べる方法なんて・・・そんな都合の良い物なんて

 あるわけないんだな・・・。」


 今のがヒントになった。

アギトはなかなか思い出せなかった記憶が蘇って、突然ベンチから立ち上がる。

両目をキラキラと輝かせて、満面の笑みを浮かべながらカトルの両手を握って勝手に喜ぶ。

しっかりとアギトに両手を握られたカトルは、途端に発熱したように体中が熱くなった。


「思い出したぁーーっ!!

 マナマテリアルだよ、マナマテリアル!

 確かオレとリュートがこっちの世界に来て間もない頃に、オルフェから指輪とボールを

 一緒にもらったんだった!!

 指輪は異世界間を移動する時に、必ずもう一つの指輪と引き合うようにするやつで。

 もうひとつが、リ=ヴァースで他のレイラインを探す為にってもらったやつがあったんだ!

 結局、廃工場以外になかなか見つからなくて、そのままカバンの中に入れっ放しに

 してたんだよっ!!

 あ~~~、思い出したおかげでスッキリしたぜっ!!

 スッキリーーーっ!!」


 無邪気に喜びまくるアギトに、広場にいる人達の何人かがアギトを見て笑っていた。

それでもはしゃぐのをやめないアギトの姿を見ていると、カトルもなぜか嬉しくなる。


「思い出せてよかったな・・・。

 それじゃそのアイテムがあれば、今オレが心当たりのある場所へ行ってマナの濃さが

 どれ位あるのかわかるから・・・、そのトランスポーターの設置場所が見つかるって

 わけだな!?」


「そうそう! そうと決まれば荷物置いてる宿屋へ向かうぞ!」


「・・・また走んのか!?」


 元気一杯のアギトとは正反対に、カトルは嫌そうな顔になって肩を落とした。

しかしもう誰にも止められないアギトに諦めたカトルは、言われるがままついて行く。

異常にテンションの高いアギトに、カトルは呆れながらも・・・不思議に感じていた。


(・・・こいつ、どうしてこんなに明るくなってんだ!?

 オレはアギトの友達である闇の戦士を、ナイフで刺して大怪我させた張本人なのに。

 普通ならオレに対して、怒りを露わにしてもいい位だ。

 ううん・・・それだけじゃない、逆にオレのことを蔑んで・・・嫌ってもいいはずなのに。

 嫌うどころか、軽蔑するどころか・・・。

 トランスポーターの設置場所を探す為に、このオレに協力を頼むなんて・・・。)


 どうしても不思議で仕方がなかった。

しかし、聞く勇気もない。

今は・・・、今だけは何も聞かれないまま・・・罪に触れないまま・・・。

アギトと一緒に共通の目的を達成させたいと、心から願った。

そんな自分の心を・・・、ズルイと感じながら・・・。


 


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