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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 2
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第167話 「蘇るアビスでの日々」

 会議も終わり、アギト達は真っ直ぐに部屋へ戻った。

部屋の明かりをすぐに消すと、ベッドに横になって・・・互いに

なんとなく声をかける。


「ザナハ・・・、何か他に言ってなかった?」


その場にいなかったリュートが、アギトに尋ねた。


「何か・・・、自分は神子失格だとか言ってたけど。

 それ以上のことは何も言わねぇから、実際何があったのか

 誰も知らねぇんだよな・・・。」


「でも、一刻も早くザナハには立ち直ってもらわないと・・・。

 そもそも僕達がアビスと龍神族を敵に回してまで、契約の旅を

 続けている理由が何なのか・・・。

 それを考えたらこんな所で立ち止まっているわけには

 いかないよ。

 僕達に・・・、何かしてあげられることがあればいいんだけど。」


 心配そうに話すリュートに、アギトは寝返りを打って背中を向けると

ぶっきらぼうに言葉を投げた。


「オレ達に出来ることがあれば、とっくにしてるけど・・・これは

 ザナハの問題だ。

 あいつが何を思い出したのか話してくんねぇ以上、オレ達から

 何かしてやれることなんて・・・ねぇよ。

 ほら、もう寝ようぜ。」


「・・・うん。」


 そう言うと、5分も経たずアギトのイビキが聞こえてくる。

リュートは天井を見つめながら、思い返した。


「僕の存在理由・・・、僕の居場所・・・。

 ・・・生まれる為に誓った約束・・・、か。」


 ルイドの言葉が、頭の中に何度も蘇る。

あの日・・・、あの時・・・。

リュートがゲダックに連れられてアビスグランドに再び戻った、その理由。

自分の決意を固めさせる為に、仕組まれた日々・・・。


再びそれが・・・、頭の中に蘇ってきた。




 今いる世界とは全く異なる世界・・・、闇の国アビスグランド。

空には常に闇が広がっており暗雲と雷雲がうずまいて、光すら差し込まぬ死の世界。

ルイド達が根城にしているであろう、石造りの建物の中にある簡素な一室をあてがわれた

リュートは、ベッドを抜け出し・・・窓の外を眺める。

以前に見たことがある空・・・、ここは間違いなくアビスグランドだ。


「ジョゼから聞いてたけど・・・、やっぱり実際にこの目で確かめないと実感なかったな。

 暗い空・・・、荒野が広がる世界・・・。

 どうしてまた僕をここに連れて来たんだろう・・・。

 やっぱり僕を闇の戦士として必要としているから、まだ勧誘を諦めていないのかな。」


 リュートは部屋を一通り見回して、やがて外へと続くドアに釘付けになる。

どうせ・・・と思いつつ、ドアの方へ歩いて行って・・・ドアノブを回してみた。


ガチャガチャ・・・。


少なからず期待していた自分にガッカリする。


「当然・・・か。」


 それから再び辺りを見渡して、どこか抜けられるような所はないか探してみた。

しかしドアには鍵がかかっており・・・窓は壁に埋め込まれたかのように、押しても

引いても開くようなものではなかった。

ここは大人しく誰かが来るのを待つしかない、そう思ったリュートはまたゆっくりと

ベッドに戻る。

するとすぐにドアの向こうから足音が聞こえてきて、部屋の向こうに誰かがいることが

わかって内心ドキドキした。


「まさか・・・、協力しないと拷問する・・・なんてことにはならないよね!?」


 どうせ隠れてもすぐにバレてしまうとわかっていたリュートは、小賢しい真似はせずに

黙ってベッドに座ったままで・・・誰かが入って来るのを待つ。

カチャッと鍵が開く音がして、ゆっくりとドアが開いていく。

ドキドキしながらドアを凝視していると、現れたのはゲダックだった。

魔道士ルックに身を包み、片手には身の丈ほどもある木の杖・・・。

真っ白くて長いヒゲをもう片方の手で弄びながら、リュートを見るなり無愛想に

声をかける。


「小僧、ルイドが呼んでるからついて来い。」


「え・・・っ!?」


 いきなり敵の首領のお呼びとあって、驚きは隠せないが・・・全く予想外ということもない。

驚き戸惑っているリュートに、ゲダックはすでにイラついているせいか・・・口調が荒々しくなる。


「早くせんか、気が長いワシでもそう長くは待ってやれんぞ!」


 怒鳴られて、リュートは慌ててベッドから降りると駆け足でゲダックについて行った。

うすら寒い石の廊下を歩いて行って、二人の靴音だけが響く。

どうやってアビスに連れて来られたのか全く記憶がないリュートは、恐らく自分を連れて来た

張本人であろうゲダックに恐る恐る話しかけた。


「あ・・・あの、僕をここに連れて来たのは・・・あなたですか?」


「そうじゃ、それがどうした。」


 意外にも答えはすぐに・・・素直に返って来た。

龍神族の力もなしにここへ来れたということは、何か別の方法があるのかもしれない。

もしかしたらその方法が分かれば、自分もそれを使ってレムグランドに帰ることが

出来るかもしれない。

瞬時にそう悟ったリュートは、先程の即答に期待して・・・更に質問してみた。


「えっと・・・、どうやって・・・ですか?」


「そんなことを聞いてもお前に使えやせん、無駄口を叩くでないわ。」


 ギロリと睨まれて、リュートは完全に萎縮いしゅくしてしまった。

やっぱり聞かなければ良かったと後悔したが、敵の言うことに黙ってハイハイと聞く

わけにはいかないと自分に言い聞かせて・・・さっきのショックを和らげようと努める。

老人の割にかなりの早足で、結局それ以上何かを聞き出すことは出来なかった。

ルイドが呼んでいる・・・という目的地には、10分も経たずに到着する。

大きな木製のドアについている鉄の取っ手を掴んで、ゴンゴン・・・とノックした。


「ルイド、闇の戦士を連れて来たぞ。」


「わかった、入ってくれ。」


 中から聞き覚えのある声がした。

間違いなくこの木製の大きな扉の向こうには、アビスグランドの首領・・・ルイドがいる!

ギギィッと鈍い音をたてながら扉を開けると・・・そこは大きな謁見の間のようだった。

広々とした空間だが、人気はなく・・・まるで廃墟のような光景に余計寒々しくなる。

広間の奥にはぽつんと玉座があるが誰も座っていなかった。

壁際には真っ赤なカーテンが風でなびいて、大きな窓が開け放されていることに気が付く。

そしてゲダックは迷わず、テラスのある方へ向かって歩いて行った。

真っ赤なカーテンの向こうに・・・、風でなびく青い髪が目に入る。

振り向くと左頬には痛々しく深く刻まれた傷痕、軽装だったが一応簡素な鎧に身を包んだ

ルイドが・・・孤独を思わせるような眼差しでリュートを見つめると、わずかに

微笑んだようにも見えた。


「ゲダック、よく闇の戦士を連れて来てくれた。

 お前の空間転移の術でなければ、こんな芸当・・・龍神族にも出来ないからな。」


「ワシをなめるでないわ、戦いに乗じて小僧のゴーレムを作成しすり替える。

 奴等に悟られずに連れて来ることなど、ワシにとっては造作もないことじゃ。

 それじゃワシの仕事はひとまずこれで終わりじゃな?」


「あぁ、また何かあったら使いをよこす。

 それまでは自由にしていてくれ。」


「ワシはいつものラボにおる、早々に呼び出しがかからんことを祈るばかりじゃな。」


 それだけ言うと、ゲダックはリュートに目をくれることもなく去ってしまった。

彼の物言いに慣れているのか、ルイドは苦笑しながら・・・ゲダックの背中を見送る。

姿が見えなくなるとすぐさまリュートに視線を戻して、静かな口調で話しかけた。


「久しぶりだな、リュート。

 そんなに固くならなくても、お前を取って食おうとしているわけじゃない。

 気楽にしてくれ・・・、と言っても無理な話だな。 こんな状況では・・・。」


 優しげな口調に、リュートは思わず心を許してしまいそうになる。

だが忘れてはいけない・・・。

今世界が戦争に発展したのも、それを仕向けたのも・・・全て目の前にいるルイドの

仕業なのだ。

警戒心を解かないリュートの態度に、ルイドはすっと片手で促すと・・・玉座の真後ろにある

扉の方へ案内して・・・その先にある部屋へと導いた。


「ここで話すより、もっと落ち着く場所へ行こう。

 玉座の後ろにある部屋は、元はこの城の城主の私室だったそうだ。

 今はオレの部屋になっているがな・・・。」


 中に入ると、きらびやかという言葉とは無縁な・・・変わらず質素な光景があった。

と言ってもリュートがいた部屋と全く同じように閑散かんさんとまではいかないが、それでも

敵の首領の部屋にしてはあまりに質素だった。


「その椅子にかけてくれ、お茶は・・・麦茶でいいか?」


 リュートは唖然とした。

どう見てもヨーロッパ形式の世界なのに、そんな世界で・・・この部屋で『麦茶』という

言葉を聞くとは思ってもいなかった。

しかも麦茶は、リュートが一番大好きな飲み物だ。

返事をするのも忘れてぽかんとしていたら、ルイドは苦笑しながらコップに麦茶を注ぐ。


「この世界で、麦茶はさすがにおかしかったか?

 オレがこの異世界に初めて来た時、最初に降り立ったのが龍神族の里だったからな。

 ここにある物の殆どはサイロンに頼んで仕入れたものだ。

 だからアビスやレムでは似つかわしくない物が多々あるが、気にしないでくれ。」


「そう・・・だったんですか。」


 なんとなく謎が解けてスッキリしたリュートは、ルイドに入れられたお茶を一口飲む。

懐かしい味・・・。

思えばレムにいた時は、出されるお茶は全て紅茶やハーブティーばかりだったので

あんまり慣れることがなかったのだ。

どちらかといえばハーブティーが苦手だったリュートは、いつも水ばかり飲んでいた。

ここに来て大好きな麦茶を出されて、すっかり気がゆるんでしまう。


(・・・ハッ!

 もしかしてこれも敵の策の内っ!?

 僕の好きな麦茶を出して油断させておいて、この中に何か毒が入ってたりとか!?

 どうしよう・・・っ! 思い切り美味しくいただいちゃったよっ!!)


 そんな慌てふためいている様子が顔に出ていたのか、ルイドは向かいの席に座ると

笑みを浮かべながら教えてやる。


「安心しろ、毒なんて入っていない。

 この世界を救う闇の戦士に、そんなことをするはずがないだろう?」


 そう諭されて、リュートは真っ赤になって恥ずかしくなった。

大体敵の首領を前に、自分は何をくつろいでいるんだろうと・・・自分で自分を責める。

しかしルイドを相手にすると、なぜか憎めない自分がいたのは確かだった。

どうしても憎みきれない・・・、レムグランドを・・・ザナハを苦しめるこの男のことを。


自分と同じ、青い髪・・・。


 そして青い瞳を見つめていると・・・、まるで鏡に映った自分か・・・アギトでも相手に

しているような感覚になってしまうのだ。

リュートがそんな複雑な心境に戸惑っている時、ようやくルイドの方から本題に入って来た。


 再びリュートがこのアビスグランドに連れて来られた理由・・・。

そして、自分の存在について・・・。




 


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