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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 2
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第165話 「帰って来たリュート」

 雷の精霊ヴォルトとの契約も終了し、アギト達は真っ直ぐに宿屋へと戻った。

宿屋が見えるとアギトは走る速度を上げて、思い切り・・・力一杯勢いよく宿屋のドアを

開け放つ。


ばぁーーんっ!


 この町にある宿屋は、一階が食堂になっていた。

すでに何人かの客が入って食事に酒にと・・・出来上がっている所、アギトの視界に

真っ先に映った光景は・・・。


「あ、アギト! おかえりなさ〜い!」


ばっきぃーーっ!!


 いきなりアギトに殴り飛ばされて、リュートは食堂の椅子から転げ落ちる。

突然の出来事にわけがわからない様子で、殴られた頬をさすりながら文句を言った。


「い・・・、いきなり何すんのさっ!! 痛いだろっ!」


「やっかましいわ!!」


 そう叫んだアギトの顔には、喜びやら怒りやら悲しみやら・・・。

どう表現したらいいかわからない表情で・・・、アギトは必死になって涙を堪えていた。

アギトの心情を察したリュートがゆっくり立ち上がると、肩を震わせるアギトに

向かって・・・柔らかく微笑む。


「お前なぁ・・・っ! 一体どんだけ心配したと思ってんだよ・・・っ。

 オレ達の気も知らないで呑気に食堂でメシ食いやがって、何が『おかえりなさい』だ

 バカヤローっ!

 それは・・・、こっちの台詞だっつーんだ!」


 懸命に・・・気丈に振る舞うアギト。

リュートは、そんなアギトの両手を握って・・・謝った。


「ただいま・・・、アギト。

 それと本当にゴメン・・・、アギト達がものすごく大変だった時に・・・不謹慎

 だったよね。

 ブレアさんから聞いて、ある程度のことは知ってるよ。

 この町で酷い事件があったことも・・・。

 アギト、・・・辛かったんだよね。」


「いやぁ〜、美しい友情ですねぇ。」


後ろの方から神経を逆なでする台詞が聞こえてきて、アギトは慌てて両目をこすった。


「・・・人の感動の再会に水差しやがってっ!」


 憎まれ口を叩きながらも、アギトはリュートが戻ったという喜びの方が強くて・・・

すっかり大事なことを忘れていた。

今は感動の再会を延々と繰り広げている場合ではない。


「とりあえずザナハ姫のことは中尉に任せて、今夜一晩は休息を取ることにします。

 その間私達で今後の旅に関して話し合いをしたいと思うのですが・・・。

 リュート、向こうから戻ったばかりですが・・・いけますか?」


 久しぶりの再会だというのに、オルフェは2〜3日会ってない程度のノリで

リュートに話しかけて来た。

オルフェの性格からいっても、ハグしまくりの感動は有り得ないと・・・リュートには

わかっていたが、それでもほんの少しだけ寂しいものがあった。


(仮に大佐と感動の再会果たしたとしても、全く想像つかないんだけどね・・・。)


むしろこの程度の淡白な再会が丁度いいと思った時だった。


「リューーートォォオオーーーーーッッ!!」


「あがぁぁああーーーっ!!」


突然現れたジャックに力一杯ハグされて、リュートの体がミシミシと悲鳴を上げる。


「心配したんだぞリュートっ!!

 どこも怪我はないか!? 酷い目に遭っていないか!? 辛くなかったかぁっ!?」


 両目にたくさん涙を浮かべながら自分の愛弟子を心配するジャックに、アギトが

虚ろな眼差しで注意する。


「あの〜、ジャック!?

 リュートなら今まさに酷い目に遭ってんだけど? きっと内心辛いと思うけど?

 てゆうか何本か骨イッてんじゃね!?」


 ぐったりとしたリュートに、ジャックが悲鳴を上げる。

強く抱きしめられたせいでリュートは半分窒息しかけていたのか、口から魂が抜けて

いくようなエフェクトが見えた・・・ような気がした。

よく見ると全身内出血したように青あざが出来ていて、ジャックは怒りを露わにする。


「くっ、なんて酷い拷問の後なんだっ!!」


「いやだから、さっきのが原因だろっ!!」


 少しやり過ぎた・・・と反省しながら、ジャックはドルチェに治癒を頼む。

ドルチェは小さくため息を漏らすとぬいぐるみを装備して、リュートの治癒を始めた。

リュートの意識が回復するのを黙って見守っていると、ジャックが奇妙な微笑みで

アギトを見つめていることに気が付き・・・頬を赤らめながら文句を言った。


「な・・・、なんだよジャック! なんかおかしいかよ。」


「いや、・・・随分見てなかったと思ってな? アギト節。」


「はぁ!? 何だよそれ。」


「リュートがずっといない間・・・、お前は気付いてなかったのかもしれんけどな。

 結構落ち込んでたろ? 鋭いボケツッコミもなかったし・・・ずっとキレが

 悪かったっていうかな・・・。

 ようやくお前本来の明るさが戻ったって感じがして、ほっとしてんだよ。」


 ジャックの言葉に、きょとんとする。

リュートがいなくて心配だったのは確かだし、それなりに明るく振る舞っていたつもり

だったが・・・わかる人にはわかってしまうんだと、アギトは少し恥ずかしくなった。

照れくささを隠す為にそっぽを向いた時、特に重傷でもなかった為・・・リュートがすぐに

意識を取り戻す。

ゆっくりと両目を開けて・・・、目の前の光景が映し出される。


・・・途端。


「あああぁああーーーーーっっ!!」


 目覚めた途端に突然の絶叫で、アギトとジャックが驚いた。

リュートは驚愕したようにドルチェを指さして、口をぱくぱくさせている。

何が言いたいのか、アギトにはすぐにわかった。


「ド・・・、ドルチェっ!? 髪切ったのっ!? なんで?」


「あ〜・・・、オレのせいなんだ。

 この町に来た途端、ドジ踏んじまって・・・その時に、な。」


 バツが悪そうに頭をぼりぼり掻きながら、アギトは弁解するように事情説明した。

その時・・・あの日の悪夢が蘇る。


 カトル達に騙されて身ぐるみ剥がされた時、ドルチェの金髪が高値で売れるということで

髪を切り取られてしまった・・・。

本人は特に気にしている様子でもなかったが、カトルと和解して宿に帰った時・・・。

ドルチェの無残な姿に、オルフェの静かな怒りが炸裂。

当然お仕置きを食らったアギト・・・。

ドルチェの髪は、ミラが綺麗に切りそろえてくれたのだ。

今は肩より少し短くなっており、随分と印象が変わっている。

そういった経緯いきさつや事情を知らない人間なら、ドルチェの今の姿を見て

驚かないはずがない。

そう考えたら洋館に戻った時に、兵士達に説明するのが面倒だとアギトはゾッとした。


「そっか・・・、そんなことが・・・。 ドルチェの髪すごく綺麗だったのに・・・。

 僕・・・、今まで金髪の外人さんに会ったことがなかったから。

 ドルチェの髪、すごく好きだったんだよね。

 でも髪なら・・・またすぐに生えて来るんだし、アギトも・・・そんなに落ち込まないでよ。

 ドルチェも、そう思うでしょ?」


聞かれて、ドルチェはいつものように感情なく・・・すました顔で答える。


「正直・・・、いつまでも引きずられると鬱陶うっとうしい。」


「何っだよそれぇっ!! 人が責任感じて落ち込んでんのに・・・、死者にムチ打つ必要

 ねぇだろぉ!?

 ったく・・・落ち込んで損したぁーっ! 損したと思ったら腹減ったーっ!」


 悔しそうに叫びながら、アギトはテーブルに着くと食堂のウェイトレスを呼んで料理を注文する。

アギト達がヴォルトの祭壇へ向かってから数時間経っていたが、それでも夕食には早い時間だ。

だが全員疲れていたのか、同じようにテーブルに着くと料理を注文して・・・

すっかり夕食気分である。


「ミラ・・・、今日はつきっきりでザナハんとこにいんのかな?」


料理が運ばれて来るのを待っている間、アギトは先に出された冷水を一気飲みして呟いた。


「そういえばザナハ、気分悪そうにしてたけど・・・何かあったの!?」


 心配そうに尋ねるリュート。

どうやらザナハの身に何があったのか、それは聞かされていないらしい。


「ザナハはヴォルトの試練に失格したんだよ、何を見せられたのかは知らねぇけど・・・。

 でも・・・失くした記憶を取り戻したとか何とか、ヴォルトは言ってたな。」


「失くした・・・って、記憶操作!? それとも記憶障害かな・・・。」


う〜んと、首をひねりながら考えていると・・・唐突にオルフェが囁いた。


「フォルキス・・・、の可能性もなくはないですね。」


思いもよらなかった推測に、アギトは眉根を寄せて反論した。


「はぁ!? あれって超強力な暗示薬だろ!?

 そんなもん自分のところの姫さんに飲ませてどうすんだよ!?

 つーか、あれってそんな簡単に調合したらダメな薬じゃなかったか・・・?

 発明したのもオルフェだし・・・、まさかオルフェが飲ませたとかっ!?」


「そんなわけがないでしょう・・・。

 それに調合レシピさえわかっていれば、誰にだって容疑がかかります。

 少なくとも私達でないことは確かですが・・・、ザナハ姫の従順ぶりを見ていると

 正直疑いたくなる人物がいるんですよねぇ・・・、残念なことに。」


全然困っていない様子で注文していたワインが来ると、オルフェは早速口に含んで味を楽しむ。


「まさか・・・とは思うが、それって・・・。」


 ジャックは大ジョッキになみなみと注がれたビールを飲んで、不審そうな顔で聞く。

回りに注意を払いながら・・・、聞こえるか聞こえないかという小声で囁いた。


「・・・ガルシア国王です。

 いくら国民全てを人質に取られたからといって、神子の使命に命を懸ける姫の姿には

 少々度が過ぎる点が見られます。」


それからオルフェは、普通のトーンに戻って・・・続きを話す。


「まぁ、あくまで憶測の域を出ませんが・・・。

 可能性の一つとして考えるには、こういったパターンがあるかもしれない・・・

 というだけです。

 とにかく今はザナハ姫が何を思い出したか・・・ということよりも、今後の旅が

 続けられるかどうかという問題の方が大きいと思いますけどね。」


 オルフェの言葉で、全員に重い空気がのしかかる。

そんな時、注文していた料理が一気に運ばれてくるとそれまでの重い空気から一転。

まずは腹ごしらえしてから・・・とでも言うように、全員が食事に夢中になった。


「空腹になるとマイナス思考に陥りやすいからな。

 とりあえず今はたらふく食って、たっぷり寝て・・・相談はそれからにしようや!」


大きな骨付き肉にかぶりつきながら・・・、ジャックがそう締めくくった。




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