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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
165/302

第163話 「雷の精霊・ヴォルト」

 ユリアの安否を確認することが出来て、不安要素の7割は除かれたアギトは

いつもの余裕の笑みを浮かべながら立ち上がって・・・宙に浮かんでいるヴォルトと対面する。

アギトは今、試練の中で見せられた『記憶の世界』について質問を受けていた。

21年前のレムグランド・・・、アギトにとってその世界がどう映ったのか・・・。

その意見を聞かせてほしいと尋ねて来たのだ。

恐らくそれも試練の一つだと直感したアギトは、当然包み隠すことなく・・・正直に

答える。


「あ・・・、あとさ!

 身分差別っつーか、種族差別っつーの!? あれはめっさ気分悪かった!

 何なんだよ・・・あれ、国全体が奴隷制度を認めるってワケわかんねぇって。

 前にオレが首都に行った時はそうでもなかったのにさ・・・、もしかして今は

 法律が変わって・・・もう奴隷制度はなくなったってことなのかな?」


 最初はヴォルトへの感想として喋っていたが、後半に至っては殆どオルフェやジャックに

向かって質問していた。


「いえ、完全に廃止されたわけではありませんよ。

 龍神族の介入による平和条約が為された後は、確かに法律が改訂かいていされて

 アビス人に対する迫害・奴隷制度は、表向きは撤廃てっぱいされていますが・・・。

 今でも在国アビス人を奴隷扱いしている貴族も、少なくありません。

 勿論それは今となっては犯罪ですから見つけ次第即刻捕らえることになっていますが、

 残念ながら・・・王族・貴族絶対主義な面がある首都では、見逃される方が多いですね。

 そのままうやむやにしてしまうか・・・、最初から騎士団や軍部の上官に賄賂わいろ

 渡しておくことで罪を免れています。

 アビス人差別がひどくなり始めたのは・・・、今から約100年前あたりからですね。」


『元ハ同ジ種デアッタ人間同士ガ・・・、武器ヲ手ニ取リ本格的ニ対立シ始メタ時代。

 憎シミハ憎シミヲ呼ブ・・・。

 シカシソレハ100年前カラ起コリ始メタワケデハナイ・・・、モウ遥カ昔カラ・・・

 レム人トアビス人ノ抗争ハ続イテイル。

 人類ヲ救ワント分割サレタ世界ノヨウニ・・・、人々ノ心サエモ遠ク離レテシマッタノカ。』


 バチバチと・・・、ヴォルトの丸い体に電気が走る音しか聞こえなくなる。

全員が黙した、特に・・・実際に被害を受けていたであろうジャックは過去の記憶を思い出すか

のように表情を歪めながら、まるで苦痛に耐えるような苦渋が現れていた。

そんな中・・・。


「でもこれからはそんな時代、終わるけどな!」


沈黙の中、突然能天気な言葉がフロア内を響かせた。


「終わる・・・っつーか、終わらせる?

 オルフェも言ってたじゃん、この世に光と闇の戦士と神子が同時に揃うなんて稀だって!!

 それってさ・・・初代神子の時のように、この世界が変わる時だって意味じゃね?

 オレ達にどこまで出来るか正直わかんねぇけどさ・・・、そんな暗い時代を終わらせる為に

 こうして旅を続けてんじゃないの!?

 つーかオレの知ってるパターンだと、そんな感じ!?

 選ばれた勇者が現れたことによってそれまでの常識を覆して、世界を平和に導きました・・・

 っていう黄金パターン!!

 てゆうかオレはそっち系のが好きだし、・・・オレ達が世界を救う為に旅をしてるっていうんなら

 そういう方向で旅を続けていきたいんだ、オレは。

 特に・・・あの『記憶の世界』を見せられてから、そう強く感じるようになった。

 あんな陰気な世界を救って、何が嬉しいんだっつーんだ。

 ちっとも『めでたしめでたし』って気分にはなんねぇよ・・・、オレ・・・アビス人がどんな

 ヤツらか知ってるわけじゃないけどさ、少なくともジャックのことはすごくいいヤツだって

 思ってるし・・・差別受けたり酷い扱い受けてんの考えただけで、ものすご気分最悪なんだ。

 勿論それはジャックに限ったことじゃない・・・、どんなヤツでも!

 人間が人間を差別するような国なんて、絶対に栄えさせちゃいけねぇんだ・・・っ!

 そんな世界が幸福なワケねぇよ・・・、少なくとも・・・あの世界を見てオレはそう感じた。」


 アギトの率直な気持ちに・・・、ジャックは笑みを浮かべてアギトの頭をぐゎしぐゎしと

撫でつける。

ツンツン頭の髪が更にぐしゃぐしゃになったが、アギトは悪い気はしなかった。

それからジィ〜ッと、黙ってアギトの方を見つめ続けるヴォルトに対し・・・ぎこちない顔で

尋ねる。


「ダメ・・・かな?」


 感極まって・・・、思っていたことや感じていたことを勢いで吐きだしてから・・・アギトは

ちょっとマズかったかな、と思った。

そういえば今の質問はヴォルトからの二次試験だったかもしれない。

にも関わらず、世界にとって最も重要な存在であった『フロンティア』や『ディーヴァ』に関する

情報を思い切り無視して、自分が気分悪く感じた出来事を熱く語ってしまったのだ。


・・・今ので、試練に失格したかもしんない。


ドキドキしながらヴォルトの様子を窺っていたが、表情が全く読めないので余計に緊張が走る。


『オ前ハ、トテモ素直ナ人間ノヨウダ。

 計算セズ・・・聞カレタ質問ニ対シテ、アリノママニ感ジタ事ヲ述ベタ。』


「計算しない・・・というより、計算出来ない性格でしょうからね。」


「ぐっ・・・! ま・・・まぁ今はその言葉、褒め言葉として受け取ってやるよ!」


 オルフェのイヤミに、アギトは大人の対応を試みた。

しかし横目で睨んだらオルフェがまるで「褒めたつもりなんですが・・・」と、肩を竦めていたので

とことん性格の悪い奴だなと思う。


『イイダロウ・・・、私ハオ前ヲ主トシテ認メル・・・私ハソレヲ望ム。』


突然の合格通知に、アギトは飛び上がるようにビックリしていた。


「え・・・っ!? ち・・・ちょっと待った!!

 合格は嬉しいんだけどさ・・・、オレ実はまだイフリートとの融合済んでないんだけど!?

 そんな状態でヴォルトと契約交わしちまったら、オレ・・・正気を保つ自信ねぇよっ!!」


『大丈夫ダ・・・、オ前ト契約ヲ交ワシテモ・・・私ハ召喚サレルマデ存在ヲ潜メテオク。

 イズレ融合ヲ果タセバ精神世界面アストラル・サイドヘト還ルガ、イフリートノ時ト扱イハ

 変ワラナイ。』


「ま・・・まぁそれなら問題ねぇかもしんねぇけど、そもそもお前と契約を交わすことになってんのは

 ザナハなんだけどな・・・。」


『アンフィニ・・・、ザナハ姫・・・。

 残念ナガラ彼女ハ試練ヲ乗リ越エルコトガ出来ナカッタ、真実ヲ目ノ当タリニシ・・・ヒドク動揺

 シテシマッタカラダ。

 モシカシタラ彼女ノ旅ハ、ココデ終ワルカモシレナイ・・・。』


「えと・・・、それってもしかして・・・オレと同じものを見たから、か!?」


 アギトはオルフェとジャックの存在を気にしながら、挙動不審な態度で遠回しに聞いた。

察しの良いオルフェのことだからアギトが21年前に何を聞いたのか、見たのかをすでに知っているかも

しれないが・・・。

それでも・・・、アギトは『コピー』に関することを今ここで話すつもりはなかった。


『イヤ、私ガ彼女ニ見セタ記憶ハ・・・オ前ノモノトハ異ナルモノダ。

 彼女ニ見セタ記憶ハ、彼女ノ記憶ソノモノ・・・。

 コノ先・・・光ノ精霊ルナノ元ヘ行クニハ、トテモ重要ナ記憶トナル。

 ルナハ深層意識ノ中ニマデ・・・、深イ深イ本心マデ問イ詰メル・・・。

 嘘ハ決シテ通用シナイ・・・、過去ノ些細ナ出来事スラ見逃サナイ。

 ソノ中デ、ルナハ問ウダロウ・・・。

 私ハ彼女ノ中ニ、失ワレタ記憶ヲ発見シタ・・・。

 ルナトノ面会ヲ前ニ、ソノ記憶ハ足枷あしかせニナルト判断シタ為ダ。

 ソノ記憶ヲ乗リ越エルコトガ出来ナケレバ、ルナトノ契約・・・必ズ失敗スルコトニ

 ナルダロウ。』


 ザナハが見た『記憶』は、自分の『記憶』そのもの・・・。

一体何があったのか、どんな記憶を思い出したのか。

アギトにはわからない、わからないが・・・今のザナハが窮地に陥っていることだけは

なんとなく理解出来た。


光の精霊と契約を交わすことが出来るのは、光の神子だけ・・・。


 そのザナハがルナとの契約の前に心が折れてしまったら、そこで旅は終わってしまうのだ。

旅が続けられなければ、暴君ガルシアによって・・・レムグランドに住む国民の命がどうなるか

・・・考えただけで胃が痛くなってくる。

最悪の事態だけはどうしても回避しなければいけない・・・!


 しかし、アギトにはどうしても信じられないことがあった。

光の神子としての責任感が強く、使命感に燃えたあのザナハが・・・あれ程までに心を乱される

『記憶』というものが一体何なのか。

あの強情な性格の持ち主が、そんな簡単に旅を諦めるとは思えない。

むしろ・・・少なくとも自分より、芯の強い少女だと思っていた。


 ヴォルトの言葉に動揺していると、後ろの方から突然声を掛けられて慌てて振り向く。

すると全員が神妙になりながら目線で訴えかけていた。


 そう・・・、ザナハが試練に落ちたということは・・・今からアギトが雷の精霊ヴォルトと

契約を交わさなければいけないのだ。

それを急に思い出して、ドキンドキン・・・っと緊張が高まる。

祭壇のすぐ目の前にまで歩み寄って、契約の儀式が行われた。

以前イフリートと契約を交わした時・・・右手に焼印を押されたような激痛が走ったのを思い出す。

あの時の属性は『火』・・・。

ということは、今度は全身に何万ボルトの電流を流されるんだろうと・・・恐怖が駆け巡る。


『・・・・・・汝ヲ、我ガ主トスル!』


 アギトが恐怖の想像をしている間に、契約の儀式は淡々と行なわれていて心の準備が中途半端な

まま・・・半融合の場面にまで事が進んでいた。

激痛を我慢する為に奥歯を噛みしめて、両目を閉じる!


・・・と。


 アギトはゆっくりと両目を開けた。

特に痛みはなかった、むしろ・・・頭が冴え渡るようにスッキリとした爽快感がして呆気にとられる。


「え・・・、なに? 終わり!?」


 無意識に右手の甲に目をやると、イフリートの紋のすぐ横にイナズマ形の・・・ヴォルトの紋が

刻まれていた。

どうやら契約は完了したようだ。


「なんか・・・、最後の最後まで唐突な展開だったな。

 何の前触れもなく試練が始まるわ・・・、突然合格して戻されるわ・・・。

 契約の瞬間も拍子抜けだし。」


 しかしだからといって、全身に電流を流されたかったわけではない。

むしろ何の痛みもなく契約を交わすことが出来て、内心はほっとしていたのだ。

アギトが安堵の息を漏らしているところへ、再び後方から急かす声が聞こえて来る。


「用事が済んだのなら、早く戻りましょう・・・。 今はとにかくザナハ姫が心配です。」


「あ・・・、あぁ。 そうだな。」


 ヴォルトの言葉が気になった。

そして・・・、これからの旅が一体どうなるのか・・・考えただけでも億劫になる。

アギト達は平静を装ってはいたが、恐らく全員が今後の行く末を気にしていることだろう。


あの・・・、何に対しても無関心だったオルフェの様子を見れば・・・そう思わずにはいられなかった。 





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