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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
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第159話 「ヴォルトが伝えたかったこと」

 謁見の間を出ると、アギトとユリアは真っ直ぐに待合室へと向かって行った。

ユリアはゲダックとの約束で、謁見が終わったら城内にある中庭に来るように言われている。

・・・が、待合室にオルフェとミラを待たせているので、まずは二人を迎えに行ってから

中庭へと向かった。

オルフェ達と合流する前に、アギトは回りに誰もいないことを確認してからユリアに話しかける。


「あのさぁユリア・・・。

 ユリアはオレが光の戦士で、しかも今ヴォルトの試練真っ最中だって知ってんだよな!?

 それじゃあオレに聞かせたいことって一体何なのか、順を追って説明してくんないかな。

 さっきの話じゃ内容がさっぱりで、何を言ってんのかワケわかんなかったんだけど。」


質問するアギトに、ユリアは「ん〜〜」と目線を上にしながら考え込むと、さらりと言葉を返した。


「その様子だと、ヴォルトは君に何も言ってないみたいね。

 あたしはてっきりヴォルトがこの時代をセレクトして君をよこしたのは、あたしが今かかっている

 研究に関しての内容を、君に伝える為だとばかり思ってたんだけど・・・。

 本当に『フロンティア』とか、『音の精霊ディーヴァ』とかに聞き覚えはないの!?」


「全然。」


「それじゃ・・・、『双つ星』とか『コピー』に関しては?」


「あ・・・、『双つ星』なら聞いたことがある!

 確かオレが双つ星のオリジナルとか何とか言われたんだけど・・・、もしかしてそれかなぁ!?」


 アギトの何気ない言葉に、ユリアは顔色を変えると突然立ち止まった。

急に足を止めるのでアギトは危うくユリアにぶつかりそうになる。


「君が・・・、双つ星のオリジナル!?」


「え・・・、何!?」


 思わぬ反応に、アギトはちょっとビビる。

それもそのはず・・・、いつも余裕の笑顔でひょうひょうとしているユリアが・・・真剣な眼差しで

アギトを睨みつけるようにガン見してくるからだ。


「そう・・・、そういうことね。」


 確かめるように呟きながらユリアは、そのまま何かを考え込むように黙ってしまった。

『双つ星』が一体どうしたのか意味がわからないアギトは、真剣に考え込むユリアに向かって

言葉をかけていいものかどうか迷っている。

しかし、ここで何かしらの情報を得なければ永遠にヴォルトの試練は終わらないと察したアギトは

思い切って問いただした。


「なぁユリア! もったいぶってねぇで教えてくれよ、洗いざらい・・・何もかもさぁ!

 オルフェもミラもジャックも・・・、みんな肝心なことは何ひとつとして教えてくんないんだ!!

 『双つ星』って結局、何なんだよっ!?」


 アギトの必死の訴えに、ユリアは慌ててアギトの口元に手を押さえて回りを見渡す。

思わず叫んでしまったアギトは、回りに誰か聞いていないか・・・目線だけきょろきょろさせる。

有り難いことに誰も聞いていなかったことを確認すると、アギトの口を押さえた手をゆっくり離して

・・・それからユリアが小声でアギトに説明した。


「ここでその話はマズイわ、・・・とりあえず待合室に行く前に少し話をしましょうか。」


 ユリアの言葉に、アギトはこくんと頷くと・・・そのまま待合室の手前の角を曲がって

人気のない通路に出る。

再度誰もいないか確認すると、ユリアは小さく溜め息をついて・・・アギトの方に向き直った。


「それで!?

 双つ星について・・・、君はどこまで知ってるのかしら!?」


アギトは両手を組みながら、不機嫌そうな表情を作ると正直に答える。


「殆ど知らないって言ってもいい程度かな。

 この世界に伝わる伝説で・・・、最後の希望の星とか・・・。

 異世界からやって来る戦士のことを、双つ星の戦士って呼ばれるんだって聞いたけど!?

 オレの他にさぁ、オレの親友でリュートっているんだ。

 リュートはアビス属性で・・・オレと一緒にこのレムグランドに来たんだよ、二人一緒に来たから

 双つ星なのかな!?」


「親友・・・、そうなの・・・。

 君の言う通り、光の戦士と闇の戦士が共にやって来た場合・・・その二人は双つ星の戦士になるの。

 初代戦士のリューガとロギも・・・双つ星の戦士だって言われているわ。

 ・・・だから、君はヴェルグにそっくりなのね。」


「え!?」


「ううん、何でもないわ! 

 双つ星の戦士はアンフィニに近い能力の持ち主だから・・・。

 きっとその力があれば、不可能も可能に出来るわ! 自信持っていいわよ!?

 さて、と・・・本題といきましょうか。

 残念だけど双つ星に関してはまだ研究が途中だから、あたしから詳しく話をすることは出来ないの。

 ・・・ごめんね?

 それじゃヴォルトが、君をここによこした理由から説明した方がいいみたいね。

 ヴォルトに関して君がどこまで知ってるかわからないけど、・・・ヴォルトは他の精霊のように

 ただ自然の力を操れるだけじゃないの。

 自然系精霊の中ではとても特殊で、ヴォルトは人間の脳細胞に電気信号を送ることで、記憶を操作したり

 五感を刺激したりすることが出来るのよ。

 例えば今・・・君がこの世界に来てるのは、ヴォルトが君の脳神経に特殊な電気信号を送って見せている

 『記憶』に過ぎないの・・・。

 だから今ここにあるものの全ては、現実であって現実ではない・・・。

 君にとってこの世界は、『過去』でもなければ『未来』でもないの。

 あたしの記憶を主軸として見せてるってことは、これはあたしの『記憶』を君に見せているってことね。

 ・・・意味、わかる!?」


口を三角形にしながら、アギトは目が点になっている。


「う〜〜ん、なんと・・・なく!?

 でも・・・ユリアの『記憶』を基本にしてるって・・・、ヴォルトは他人の記憶を自在に操れるのか!?」


「ちょっと違うわね、ヴォルトが他人に見せられる『記憶』は・・・ヴォルトにとって、とても近しい

 人物のものでなければ操れないのよ。

 ヴォルトが実際に直接接触した人物・・・、あるいは契約を交わした者・・・とか。

 あたしの場合はヴォルトの元・マスターだから、それであたしの『記憶』を君に見せているのかもね。」


「そういやユリアって精霊と契約を交わしてたってこないだ言ってたけど、ヴォルトのことだったんだな。

 今考えてみれば神子の資格を放棄しても・・・、契約は交わせるんだ・・・。」


「まぁ・・・、堕ちた神子だけどね。

 世界を救済する為ではなく、自分の研究・・・私利私欲の為に精霊と契約を交わしてきたんだもの。

 偉そうなことは言えないわ。

 ともかく・・・ヴォルトは、あたしに会わせる為に君をここへよこしたことになる・・・と思うの。

 だからあたしは君がここへ来てから、これから起きる出来事を余すことなく君に見せようと思った。

 ・・・今は意味がわからなくても、いずれわかることになる。

 今聞いたことが・・・、これから起きる出来事に深い関わりがあるのかもしれない。」


「そんじゃ・・・、もしかしたら今日聞いた『フロンティア』とか『ディーヴァ』とか・・・。

 これからの旅に役立つ情報だったかもしれない・・・って、そういうことなのか!?」


 すると、ユリアはアギトの顔と同じ位の高さまで屈むと・・・耳打ちするように囁いた。

すぐ鼻先に淡いピンク色の髪の毛がかかって・・・、甘い香りがくすぐったい。


「国王陛下の前では話さなかったことだけど・・・、実はね。

 『フロンティア』に関する詳しい知識は全て、ヴォルトから得たものなのよ・・・。

 ヴォルトは初代神子の時代、『フロンティア』が生み出されて・・・方舟としての

 役割を果たして封印されてからずっと、守護者として守り続けているの。

 『フロンティア』に関しては、永久不変に朽ちない碑文や遺跡には記さず・・・

 ずっと口伝のみで伝えられてきた知識・・・。

 もしかしたら・・・、ヴォルトは『フロンティア』の復活を予期して君をここへ

 導いたのかもしれないわね。

 ・・・ディーヴァの存在に関して提唱したのは、後にも先にもきっと・・・あたしだけ

 だと思うから。」


 それだけ言うと、ユリアは立ち上がり・・・「話はもうおしまい」という風に笑みを作ると

待合室に行く素振りを見せた。

アギトは曖昧に返答すると黙ってユリアについて行くが・・・、先程の話にはひとつだけ。

付け加えるべき内容があると・・・、アギトは思った。



 『フロンティア』と『ディーヴァ』の存在を知る為に・・・、ユリアの記憶を使って

オレをここに導いた・・・。


・・・それだけじゃないと、思うな。


 少なくとも、もし本当にそれらの情報を得る為に・・・オレにこの世界を見せたのなら、

そんな回りくどいことをしなくても・・・オレ達の目の前にヴォルトが現れて、それらの知識を

話すとか・・・電気信号とやらで口伝するかすればいいだけの話じゃねぇか!?


 オレにはどうしても・・・、ヴォルトが伝えたかったことはそんなことじゃないような気がする。

なんとなく・・・、オレにユリアを会わせたかったみたいな・・・。

そんな風に思えてならねぇ・・・。


 もっと言うなら・・・、オルフェ達の過去にも触れさせたかったっていうか・・・。

まぁ、そこまで行ったらキリがねぇんだけど。

でも・・・、少なくとも・・・ユリアには・・・。



ユリアにだけは会わせたかったんだと・・・。


そんな風に思うな・・・、オレは。




 




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