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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
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第158話 「ユリアの研究結果報告」

 兵士に案内されて辿り着いた場所は、アギトもよく知っている謁見の前だった。

両サイドに騎士の鎧に身を包んだ兵士が立っていて、ユリアに向かって軽く会釈すると二人が扉を開ける。

アギトはユリアの後ろについて行く形で中へと入って行った。


(・・・相変わらず物々しい場所だな。

 やっぱオレこういうトコは苦手だ・・・、図書館みたく静かなトコだと笑いが込み上げてくるっつーか。)


 真面目な場所、真剣な場面、静寂な所だとアギトはその異様な雰囲気に思わずひくひくと笑いそうになるが

必死で堪えた。

こんな所でニヤニヤと笑ってしまえばどうなるか・・・、考えただけも面倒だった。


「ガルシア国王陛下、ユリアにございます。」


 横に控えていた側近らしき人物が、国王に向かってユリアを紹介する。

確かユリアの話だとオルフェの父親は国王の側近をしているということだったので、アギトはちらりと

男に目をやった。

しかし髪は金髪というより赤みがかった茶髪、確かに端正な顔立ちをした中年だったが・・・オルフェの

面影はどこにも見当たらない。

もしかしてオルフェは母親似なのだろうか?

そんな風に思いながら、アギトはまるでユリアの後ろに隠れるように立った。

髪を黒く染めているとはいえ、ユリアに付き添っていることをいちいち触れられるのが面倒臭かった。

だがそんな心配は無用であることはすぐに発覚する。

国王も側近も・・・誰一人としてアギトの存在を気にすることなく、ユリアの口から発せられる言葉だけ

待っているかのように完全に無視していたのである。


(なんつーか・・・、こっちにムチャぶりしてこないのはイイんだけど。 

 完全に無視されるっつーのも、これはこれでムカつくな・・・。)


 少しむすっとした表情になりながら、アギト自身もユリアの発言に少なからず興味があったので

気にしないように努めた。

ユリアは背筋をピンと伸ばしたまま、早速本題に入る。


「古代魔道器の研究の為に様々な支援をしてもらい、心から感謝いたします。

 そのおかげで・・・、例の魔道器の存在を確かなものに出来る確証が得られました。

 それに伴い新たな仮説も生まれましたが・・・、更なる研究を続けて行けば古代魔道器復活も夢では

 ないことが約束出来ます。」


(・・・古代魔道器? 復活!?

 一体何のことなんだ・・・、ユリアは一体何の研究をしてるってんだよ。

 それ以前に、その研究がヴォルトの試練と一体何の関係があるっつーんだ!?)


 情報が少なすぎる為、今のアギトにはユリアの言ってる言葉の意味が今ひとつ理解できずにいた。

とりあえずこのまま黙って話を聞いた方がいいと思ったアギトは、国王の手前もあるが・・・黙って聞き耳を立てる。

見ると、国王は興味深そうにユリアの言葉に耳を傾けていた。

その表情はまるで瞳をキラキラさせた子供のようであり、とてもアギトが知る暴君ガルシアのものとは思えなかった。


 こんな顔をする国王を、アギトは知らない。

あの残虐非道な国王が・・・、こんな顔をするんだと・・・アギトは意外に思えた。


「それは真か!?

 やはりこの研究をお前に任せたのは正解であった。

 他のどの宮廷魔術師ですら、アレの存在を否定し・・・現実不可能としたというのに。

 お前は存在肯定どころか・・・、この現代世界に復活させることが可能だと豪語する。

 ・・・詳しく話を聞こうではないか。」


 アギトはちらりと・・・、玉座の横にある椅子に座っている女性に目を向けた。

以前アギトが謁見の間に来た時、玉座の他に・・・後方の左右に1つずつ椅子があったのを覚えている。

向かって左側には国王の長男であるアシュレイが、そして向かって右側にはザナハが座っていた。

しかし今・・・ザナハが座っていた椅子には、見知らぬ女性が座っている。

髪は長く美しい黒髪・・・肌は白く端正な顔立ちだが、ユリアを蔑んだような表情が美しさを台無しにしていた。

両手には赤ん坊を抱えており、すぐ横には乳母だかベビーシッターだか・・・少し年のいった女性が付き添っている。


「7億年前の文明の殆どは、世界の改変に伴いほぼ失われた形になっていました。

 しかし・・・永久不変に朽ちることのない碑文や遺跡から、まだ復活させることが出来る技術があることも

 わかっております。

 陛下が私に課した研究・・・、古代魔道器の最高峰と言われた伝説の方舟はこぶね・・・。

 『古代航空母艦・フロンティア』・・・!

 この世界において唯一の飛行手段を用いた技術であり、魔法力増幅装置『ディアヴォロ』に唯一対抗出来た

 飛行型戦闘魔道器。

 学者の誰もがただの伝説だと・・・、不可能としか思えない高度な技術力の前に研究すらしようと

 しなかった。

 でも・・・、私はこのレムグランドで・・・フロンティアの存在を確定させる根拠を突きとめました。」


いつになく熱心な口調で説くユリアの言葉に、ただ一人・・・冷めた口調で嘲笑う声が聞こえて来た。


「おほほほ・・・っ! フロンティアなんて・・・おとぎ話に出て来るただの伝説ではありませんの!

 そんな物を真剣に研究するだなんて、よっぽどお暇なんですのね。

 ありもしない物の為に資金を提供するなんて・・・、とんだ税金泥棒ですわ。」


「エメライン・・・、お前は黙っておれ!」


 国王の強い言葉に、エメライン王妃は唇を噛みしめながら・・・国王ではなくユリアを睨みつける。

しばしユリアは口を閉ざしたが、国王が続きを促すと再び説明を続けた。


「実はフロンティア復活には・・・、更なる難題があることが判明しました。

 その昔、ディアヴォロの影響が全世界に及ぶ前に・・・世界を3分することでその危機を逃れたと・・・

 碑文にはあります。

 しかし世界が生まれ変わる為には・・・、その地に住む全ての生物の命に危険が及んでしまいます。

 初代神子アウラの導きにより、契約を交わした精霊達は一丸となって・・・世界改変に協力したのです。

 水の精霊ウンディーネ、火の精霊イフリート、雷の精霊ヴォルト、風の精霊シルフ、氷の精霊セルシウス、

 そして土の精霊ノーム。

 更に光の精霊ルナに、闇の精霊シャドウ・・・。

 彼等のマナを結集させて生み出されたものが・・・、フロンティアなのです。

 しかし当初・・・フロンティアを生み出した本来の目的は、猛威を奮っていたディアヴォロが空中要塞を造り、

 遥か上空から世界を破滅させようとしていた中・・・ディアヴォロ破棄の使命の元、対抗する為にフロンティアは

 生み出されたとあります。

 歴史では・・・結局アンフィニを宿していたにも関わらず、アウラはディアヴォロ破棄に失敗し・・・封印という

 形で戦争は終結しました。

 ディアヴォロ復活阻止の為、世界を3分割することで同意した3国間のトップ達は・・・世界改変に全てを捧げた

 アウラの希望により、精霊達の協力で・・・フロンティアを兵器としてではなく、生命の方舟としたのです。

 世界を改変するには一度・・・世界を壊す必要がありました。

 そこから新たな世界、次元の歪んだ3つの国を創世させている間・・・ラ=ヴァースに生息していた全ての生命を

 乗せて飛び立つ為に・・・フロンティアは使用されたのです。」


「なるほど・・・。

 確かに碑文には世界改変について記されているものが残されているが、その方法まではレムグランドにある

 碑文には記されていなかった・・・。

 つまりお前は・・・歴史の中で世界改変が実際に行なわれたものだったならば・・・、生命の方舟として

 フロンティアが実在していたと・・・、そう言いたいのだな?」


「はい、元々1つだった世界であるラ=ヴァースの次元を歪めて・・・全く新しい世界を作るのです。

 それが一体どれ程の年数を要するのか・・・、そんな中で生命が何の影響もなく生活出来るはずがありません。

 世界が改変されるまで全ての生物が安全に暮らせるように・・・、フロンティアが『方舟』という役割を

 担うようになったのです。

 それを裏付ける遺跡や遺物も、実際にこのレムグランドに遺されていました。

 ただ・・・、復活させるには計り知れない程の難題が立ちはだかっています。」


 ユリアの言葉に夢中になって聞き入る国王は、まるで身を乗り出すように真剣な様子だった。

しかしエメライン王妃だけは馬鹿らしいとでも言うように、話の途中から抱きかかえている子供をあやすことに

夢中になっていた。

そんな中・・・、アギトだけがただ一人・・・。

話のあまりの唐突さ、壮大さに・・・ただただ言葉を失っていた。


(航空母艦・・・!? ディアヴォロに対抗する手段の魔道兵器・・・!? 

 なんだよそりゃ・・・、オルフェ達の話からはそんなの・・・フロンティアのフの字も出て来なかったぞ!?

 ダメだ! さすがのオレでもわけわかんねぇじゃねぇか!

 そんなとてつもない兵器の話を聞かされたって、このオレにどうしろっつーんだよ。

 まさかヴォルトの試練って、このフロンティアを復活させろ・・・とか、そういうこと言ってんじゃ

 ねぇだろうな・・・!?)


 アギトがハラハラとユリアの話を頭の中で整理するが、なおもユリアの話が続くのでアギトは流すように

聞くことにした。

どうせここで理解出来なくても、謁見が終わった後にまた改めて質問すればいいや・・・と決めたのだ。

今この時点で全てを把握しようと思っても、わからないことが多すぎる。

国王を目の前にして、わからないことをユリアに質問することも出来ないからだ。


「難題とは・・・、一体何が問題になるのだ!?

 マナの総量か、それとも精霊か!?」


「端的にいえば精霊・・・、ですね。

 今現在観測されてるだけでも、レムとアビス両方の下級精霊。

 光、闇、時、元素、次元の上級精霊。

 私はこれまでの研究の中で・・・更なる精霊の存在があることを発見しました。」


国王は眉根を寄せて、アゴ髭を片手でいじりながら言葉の意味の理解に苦しんでいる様子だった。


「他に・・・、精霊が存在すると言うのか!?」


 信じられない・・・というように、今までユリアの話を真剣に聞いていた国王が初めて・・・

ユリアに対して疑いの眼差しを向けるような表情を見せる。


「この精霊は、初めてフロンティアが使用されてから・・・それ以後、完全に存在が消失しています。

 まるで存在を抹消されたかのように・・・。

 しかしこの精霊こそがフロンティア復活の唯一の鍵・・・、フロンティアの源となる特殊なマナ・・・。

 それが・・・、音の精霊ディーヴァ・・・。

 空気を振動させることでマナを発する特殊な力、・・・『歌』によってマナを発動させるのです。

 魔術を発動させる為には呪文の詠唱は絶対不可欠、それ自体も空気を振動させる『言葉の音』によって・・・

 マナを高めるもの。

 初代神子アウラは音の精霊ディーヴァがもつ力・・・、『歌』によってフロンティアを自在に操ったのでは

 ないかと思われます。」


「では・・・、そのディーヴァという精霊と契約を交わすことが出来れば・・・フロンティアを復活させる

 ことが可能になる、というのだな!?」


国王の言葉に、しかしユリアは静かに首を振った。


「いいえ・・・、困難なのはディーヴァとの契約ではありません。

 ディーヴァの存在が消失していることが問題なのです。

 理由は私にもわかりませんが、世界のどこにも・・・ディーヴァに関する情報が残されていないのです。

 実はこのディーヴァの存在自体が、最初に述べた仮説そのものなのですが・・・。

 私はこう考えております。

 もしかしたら音の精霊ディーヴァとは、アンフィニを宿した神子そのものではないかと・・・。

 神子が歌うことで・・・、その旋律がディーヴァの存在となりフロンティアを起動させる。

 私はそうとらえています。」


 身を乗り出していた国王が、椅子に深々と座り直すと・・・深く溜め息をつくように考えに耽っていた。

ユリアの言葉があまりに途方もなく・・・根拠すらないと捉えたエメライン王妃は、いじわるく笑みを浮かべている。

しばらくの間沈黙が続くと、国王がゆっくりと口を開いた。


「それが・・・、これまでの研究の途中結果か?

 これから先・・・いつ現れるのかもわからない、アンフィニを宿した神子が生まれるまで延々待ち続けろと?

 ・・・ではフロンティア復活は、夢のまま終わると決まったようなものではないか。

 次元の歪みもものともせずに世界を行き来出来る夢の舟、それが伝説の魔道兵器フロンティア・・・。

 結局は神子がいなければ何も出来ない、ということか。」


 肩を落としたように、国王はそれだけこぼすと・・・一切ユリアの方に視線を向けることはなかった。

それから再び沈黙が訪れたが、王妃が抱きかかえていた赤ん坊がぐずって泣き叫んだ時にようやく我に返って

言葉を切り出した。


「わかった・・・、報告することが終わったならばもうさがるがよい。

 これからも援助は続けよう・・・、夢を実現出来るだけの研究成果を見せてくれ。

 御苦労だったな、ユリアよ。」


「はい、失礼いたします。」


 ユリアが深々とお辞儀をすると、そのまま踵を返すように出入り口に向かってツカツカと歩き出した。

アギトも慌ててユリアについて行って謁見の間を後にする。

思わずちらりと後ろを振り返ったアギトは、泣き叫ぶ赤ん坊の方に目をやった。

王妃の横に控えていたベビーシッターらしき女性が抱きかかえると、赤ん坊をあやしている光景が目に入る。


「まぁまぁ・・・アシュレイ様ったら、お腹でもすいたのでしょうか。

 よしよし大丈夫ですよ、泣きやんでくださいませアシュレイ殿下。」


「早く泣きやませなさいな、耳が痛くて仕方ないわ。」


 それだけうっすら聞こえると、アギトは・・・あの赤ん坊があのアシュレイだとわかると、扉に控えていた

兵士にそのまま謁見の間の扉を閉められてしまった。

まだ生まれたばかりのように見えた赤ん坊が、あのアシュレイだとすれば・・・この世界が一体何年前なのか

計算が出来ると・・・アギトは思った。


・・・しかし。


「あ・・・、アシュレイの年齢もオレ知らねぇや・・・。」





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