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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
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第157話 「意外な再会」

 ジャックを一人残したまま・・・、アギト達が乗る馬車は首都の中心である王城へと辿り着いた。

アギトは客車の中にいたので細かいところまでは見ることが出来なかったが、どうやら御者台に乗っているユリアは

門番をしている兵士に向かって登城する為の手続きなどを行なっているようだ。

何も問題はなかったのか・・・再び馬車が走りだして、アギトはこっそりと窓から外を覗く。


「なんか・・・、オレが前に来た時と比べたら随分と物々しい雰囲気だな。」


 城の兵士は二人一組で行動しているようで、城門だけでも3組の兵士が守りを固めていた。

更に中へ入って行くと騎士団のような格好をした兵士が数人・・・、厳戒態勢とでも言うように城内を巡回している。

だが警備が厳重の割に、中には軽装をした文官のような人間がヘラヘラと笑いながら歩いていたり・・・古文書のような

物を眺めながら歩いている学者のような人間もいた。

城の回りさえ厳重にしていれば、中はどうでもよさそうだな・・・とアギトは思った。


「そういやユリアって、一体・・・城に何の用事で来たんだろ?

 こんだけ厳重な警備を抜けられる程の人物なら、相当な身分か・・・重要人物ってことじゃねぇの!?」


 誰ともなくアギトは声に出して質問した。

聞こえてさえいればオルフェかミラか・・・、どちらかが答えてくれるだろうと勝手に思ったからだ。


「姉さんはこの国の研究者として有名なのよ。

 今日は多分・・・研究成果の発表をする為に来たんじゃないかな!?」


「あ〜・・・、そういや昨夜は何かの資料だか書類だかを一生懸命整理したり書き込んだりしてたな・・・。

 んで? 何の研究だ?」


「そんなの一般人に教えられるわけがないだろう。

 てゆうより、研究内容を聞いたところでお前に理解出来るとは思えないけどね・・・。」


「・・・お前はホンッット、腹立つ性格だよな・・・。」


 子供の頃からこんな性格だったのかと・・・、アギトはオルフェに対する憎らしさを消せなかった。

オルフェのあの・・・人を馬鹿にしたような物言いや態度は、長い年月をかけてつちかわれたものだと思っていた。

しかしそれが生まれつきのものだったんだとわかると、余計に腹が立って仕方がない。

憎しみをこめた眼差しでオルフェを睨みつけていると馬車が突然止まって、アギトは舌を噛みそうになった。


「着いたわよ、みんな必要な荷物だけ持って・・・ついて来て!」


 ユリアが小窓から顔を出して声をかけると、オルフェは朝に合流した時から肌身離さず持っていた辞典入りバッグを

手に客車を降りる。

ミラは特別持っていくものがなかったのか、手ぶらで降りて行った。

かくいうアギトも殆ど着の身着のままでこの世界にやって来たので、これといって持っていく物はなかった。

全員が客車から降りると、使用人であろう男性がユリアの代わりに御者台に乗ると馬車を走らせてどこかへ行ってしまった。

ユリアがとくに気に留める様子がないところを見ると、恐らく馬車を停める停留所か何かがあるんだろうと推察する。

回りを見渡すと特に広い大通りという場所ではなかったので、こんな所に馬車を停めたままにはしておけないのだろう。

どこに行くのか見当もつかないアギトだったが、今はとにかくユリアについて行くしかなかったので後を追った。

背筋をピンと伸ばして、まるで軍人さながらに威風堂々とした態度で歩いて行くユリアの姿に・・・通り過ぎる誰もが

目を奪われていた。

しばらく城の横手を歩いて行くと、騎士の格好をした・・・階級がそれなりに高そうな男がユリアに向かって敬礼する。

頭は白髪、イギリスの紳士の如くたっぷりと口髭をたくわえた男は、ユリアの後ろにいる子供三人にちらりと視線を

落とすが・・・そのまま何も見なかったかのように、再びユリアの方へと視線を戻すと声をかけた。


「これはユリア殿、王に謁見ですかな?」


「えぇ、研究の中間報告をしにね。

 すまないけど出来るだけ早く謁見出来るように配慮してもらえるかしら? ちょっと急いでるのよね。」


ユリアの申し出に、少し怪訝な顔になったが・・・すぐに表情を消して、男が答える。


「わかりました。 

 では取り急ぎ謁見の手続きをして参りますので、ユリア殿は待合室にて待機していてください。

 使いの者に謁見時間を伝えさせます故・・・。」


「ありがと、助かるわ。」


 それだけ言葉を交わすと、ユリアは軽く会釈して・・・そのまま再び歩き出した。

アギトは横目で騎士の男を見つめていると、いかつい顔が不機嫌そうにしている所で目が合ってしまって慌てて前を向く。

「フン・・・」と、小さく鼻を鳴らしているのが聞こえて・・・男はそのままガチャガチャと音を立てながら

歩いて行ってしまった。


「今のはルミナス将軍って言って、代々王家に仕える家柄なのよ。

 確か今・・・長男が騎士団に入団したばかりだって話よ!? エリート貴族の家柄に生まれると期待がそれだけ

 大きいから、あの人も相当プレッシャーの中で育ってきたんでしょうね。

 ああいう態度は仕方ないことだから、気にする必要はないわよ? アギト。」


 アギトが心の中で思っていたことを見透かされていたように感じて、ドキンとした。

それからユリアは城の中について色々と教えてくれながら、待合室へ向かう。

以前リュートと一緒に出入り自由な場所は殆ど探検済みだった為、知っている場所が多々あったが・・・それでも

数年前の城は、やはり探検した時とは作りが多少異なっていた。

本質的に変わりはないのだが、恐らくアギトが以前探検した時の城は・・・今この城と比べたら結構増築されている

箇所がある。

城なのだから大きいことは大きいのだが、やはり以前の城と比べたら少し小さく感じてしまう。


「あった・・・、ここよ。」


そう言ってユリアが白いドアを開けて中に入ると・・・、そこには数人イスに座ったり、立って他の人と喋ったり

している村人か・・・貴族か、とにかく一般人らしい人々が自由にくつろいでいた。

多分ここにいるのは、国王との謁見を待っている人達だろう。

ユリアが適当に空いてるイスに座ると、アギト達もすぐ近くに座る。


「なぁユリア、国王との謁見って・・・みんなで行くのか!?」


「ん? そうね〜・・・とりあえずミラとオルフェには残ってもらおうと思ってるけど。」


 そう聞いて、勿論オルフェが黙っているわけがない。

表情自体には感情がそれ程こもっていなかったのだが、まるで憤慨したような勢いで立ち上がり・・・反論する。


「どうしてですか、先生!?

 僕だって先生と一緒に研究に参加しているじゃないですか、僕も同行する権利があります。」


「そうは言ってもね・・・、あんたのお父様・・・国王陛下の側近なんだけど!?

 あんたも一緒に謁見の間に連れて行ったら、無断で首都に連れて来たことがバレちゃうからさぁ・・・。

 あたしとしては穏便に事を済ませたいんだけど・・・!?

 ま、オルフェがど〜〜〜してもお父様に会いたいって言うんなら・・・。」


「はぁ・・・、もういいです。

 そういうことなら我慢して従いますよ、厄介事は僕だって避けたいですから。」


「そ! オルフェはホント、物わかりが良くって助かるわぁ〜!!」


 ユリアは大袈裟にオルフェを抱きしめると、小さな子供をあやすように頭をなでなでする。

当然オルフェは迷惑そうに・・・、しかし少し照れながら嫌がっている様子だ。

冷めた表情でその光景を眺めていると・・・、突然ユリアの言葉を思い出す。


「・・・って、え!?

 つーことは・・・、オレは一緒に連れて行かれるってことなのか!? なんで!?」


 アギトは走馬灯のように、以前体験した謁見を思い出して背筋が凍った。

ガチガチに緊張しただけではなく・・・、あの・・・とても無愛想で、感じが悪くて、嫌味な国王と再び顔を合わせな

ければいけないと思うと、胸がむかむかしてくるようだった。

何より・・・、あんなイヤな思いは二度としたくないと思っていた位だ。

この時代が一体何年前の出来事なのかはよくわからないが、あの国王の年齢からして・・・多分この時代でも国王を

している可能性が高い。

アギトが一人で冷や汗を流しているのを見たユリアは、あっけらかんとした顔で普通に答える。


「だって、その為にここに来たんでしょ?」


「・・・は?」


 ユリアの言ってる意味が、いまいちよくわからなかった。

『その為』とは、どの為なのだろう?

国王謁見と聞いて頭の回転が鈍くなっているアギトは、フル回転で思考を巡らせる。

そもそもアギトがここに来た目的・・・って?


「あ・・・、もしかしてヴォルトの試練のこと言ってんのか!?

 つーか・・・、なんでオレがヴォルトの試練を受けてる最中だってユリアが知ってんだよっ!?

 オレは試練に関して一言も漏らしてねぇんだけどっ!?」


 慌てふためいたように次々質問を投げかけるアギトに対して、ユリアは両手で耳を塞ぎながら・・・どことなく

ひょうひょうとした態度で誤魔化そうとしているようにも見える仕草で、アギトの質問を途中で遮った。


「あ〜あ〜っ! そんな慌てないの!!

 とにかく事情は後で説明したげるから、今はあたしの言う通りについて来てちょうだい・・・いいわね!?

 それからオルフェ、ミラ。

 あたしとアギトが謁見の間に行ってる間、大人しくここで待ってるのよ!?」


話を逸らすように・・・ユリアがオルフェ達に注意を促していると、後ろから急に老人が声をかけて来た。


「おぉ、ユリアではないか!

 首都に来たのなら来たと、なぜ真っ先にワシに告げんのじゃ!!」


突然話しかけてきて、妙に馴れ馴れしいなとアギトが怪訝な顔になりながら後ろを振り向いた時だった。


「あぁ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」


 アギトは大声を張り上げて、老人に向かって指をさす。

突然の奇声に老人が両手で耳を塞ぎながら眉間に更にシワを寄せる。


「何じゃこのクソガキは・・・っ!!」


「何じゃじゃねぇだろ・・・っ、お前・・・っ!! ゲ・・・、ゲ・・・? あれ、なんだっけ・・・。

 あっ、そうそう・・・ケロッグだっけ!?」


「ゲダック様じゃ、このバカタレがっ!!」


 乱暴に、唾を飛ばしながらゲダックが訂正する。

アギトは「そうそう!」と右手でポンっと叩くと、言葉を続けようとしたが・・・ゲダックの姿を見て絶句した。


(・・・って、今も昔も全っ然どこも変わんねぇじゃんか、このジジイ!

 一体何歳なんだよ、今この瞬間でも80歳位に見えるじゃねぇか・・・っ。)


 アギトがまじまじとゲダックのことをガン見していると、ゲダックはアギトのことを怪訝に思いながらも無視をして

ユリアの方に向き直ると話を続けた。


「それで? 待合室にいるということは国王との謁見待ちか?」


「えぇ、でもゲダック先生は一体どうしたんです?

 確か・・・宮廷魔術師は性に合わん! とか言って、こないだ退職したばかりじゃありませんでした?」


「まぁな、ここにある資料には殆ど目を通したが・・・ワシの追い求めるものは殆ど手に入らんかったからな。

 今日は龍神族の里への通行許可をもらいに、ここに来ただけじゃ。

 里に入りさえすれば・・・、アビスへも行きやすいからな。

 あとはアビスの資料を調べることさえ出来れば・・・、答えが見つかるかもしれんと思ってのう。」


「あら先生・・・、先生がレムグランドを離れてしまったら・・・あたしとの共同研究はどうするつもりなんです?

 もうすぐ研究が完成するかもしれない・・・というところまで来ているというのに。」


 まるでゲダックをからかうような口調で、ユリアが不敵に微笑む。

しかしそんな態度が余計好ましいのか・・・、ゲダックは満足そうな顔をするとちらりとミラの方へ視線を移した。


「ほっほっほっ・・・、それは問題ない。

 ワシが新たに開発した錬金術があれば、異空間の距離など・・・取るに足らんことじゃて。

 それより・・・、以前ユリアが話していたミラという娘はお前のことか?」


 話題が突然ミラの方へと移って、アギトは二人の話について行けず・・・黙ってやり取りを聞いていた。

どこか自分達に関連がありそうな話題になったら、耳ざとく盗み聞いてやろうという魂胆だ。


「マリィミラベルです、初めまして!」


 ミラがかしこまって挨拶をする、するとゲダックは「うんうん」と・・・今まで見たことがないような笑顔を

見せるとシワシワの手でミラの頭を優しくなでる。

こんなゲダックは見たことがない・・・という風に、アギトはまるで「キモイものを見た」という感じで顔をしかめた。


「機械工学に詳しいと聞いたが・・・、なるほどのう。

 運良く雷属性か。

 いいかミラよ、お前のその生まれ持った才能と・・・能力はな?

 お前が愛してやまない姉・・・ユリアの為にあるようなものなのじゃ、それを決して忘れるでないぞ!?」


「はい、ゲダック先生!」


 元気よくミラが返事をすると、ゲダックは満足そうに微笑んだ。

そしてミラとの会話が終わると・・・和やかな場面は終わりと言わんばかりに、すぐに険しい表情へと早変わりする。


「ではユリア、謁見が終わったら話がある。

 王城の中庭で待っているから、終わったらすぐに来るんじゃぞ!?」


「・・・わかったわ、先生。」


 それだけ言葉を交わすと、ゲダックはコツコツと自分の身長と同じ位の長さがある杖をついて・・・待合室を出て行った。

ゲダックが出て行くまでユリアはずっと背中を見送っている様子で、ドアがバタンと閉まると・・・ようやく我に返ったように

オルフェ達に向き直った。


「今のはあたしの先生で、ゲダックっていうの。

 機械工学、魔術学、錬金術・・・あたしが持てる知識の殆どは、ゲダック先生から教わったようなものなのよ。

 オルフェもミラも・・・、これから先あたしと同じ研究を手伝ってくれると言うなら必ず付き合っていく人だから。

 粗相のないようにね? 礼儀作法や態度にとても厳しい人だから。」


「・・・の割に、ユリアは許容範囲なんだな。」


アギトが白い目でつっこんだ。


「あははは〜っ、バレた!?

 前に言ったでしょ!? あたしは経歴詐称が得意だって!!」


「先生・・・、自慢出来ることじゃありませんから。」


そんな風に漫才のようなやり取りをしていると、奥の方のドアから兵士が一人入って来て真っ直ぐこちらに向かって来る。


「ユリア様、国王陛下との謁見ですが・・・今すぐお会いになるそうです。

 準備の方はよろしいですか!?」


 兵士の言葉に、待合室にいた人々が一斉にこちらを睨みつけているのがわかった。

無理もないだろう・・・アギト達よりも先に来て、謁見を今か今かと待っていた人達なのだから。

それを後から来た人物が先に国王に会うことになるなんて・・・、順番抜かしをしているようなものである。

刺すような視線に気分を害しながらも、それでもユリアは全く気にも留めないように返事をして・・・奥のドアへと向かった。

オルフェとミラだけ待合室に残し、アギトはユリアについて行く。

兵士が先頭に立って謁見の間に案内する間、アギトは心臓の鼓動がだんだん早くなっているのに気付いている。


 ゲームだと、用事もないのに何かミニイベントが起こらないか・・・。

何かのフラグが立たないかと・・・適当に謁見の間に出たり入ったりを繰り返していたものだが、実際にはそんな余裕は

皆無に等しかった。

それよりも謁見の間へ行くこと自体が、億劫になっている。

何かのミニイベントがあろうが・・・、特殊なフラグが用意されていようが・・・。

あんな国王がいる場所へ行く位なら、プラマイゼロなノーマルエンドを選んだほうがマシだと、アギトは本気で思った。




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